最高傑作お披露目
「キィィィィィッ!!」
ババババババババッ!!ビシュゥッ!!
「うあっと!?」
シェヘラザードもまたターボと同じくメタルビトントの猛攻の前に逃げ回るので精一杯だった。
「嫌になるわ……こんなの実質五対一じゃない……!」
「わたくしをお忘れなく。五対二です、マスター」
淡々としているが、言葉の端々に抗議の意志がにじみ出ている電子音声が流れると、思わず白いマスクの下のフジミの顔が緩んだ。
「そうだったわね……ワタシにはあなたがいるのよね、マロン」
「はい。わたくしはいつでもあなたのお側に」
「頼りにしてるわ」
「頼りにしてください」
「じゃあ早速……頼れる相棒のマロンちゃんはどこまで回復したの?」
「85%といったところです。システム・ヤザタ以外の能力は問題なく使用可能。ヤザタも短時間なら。ですけど……」
「そうね……今のワタシのコンディションじゃちょっと……いや、かなりきついわね」
一見するといつもと変わらないように見えるが、フジミ自身は動く度に微かな痛みと、大きな違和感を感じていた。
「でしたら、わたくしがシェヘラザードの各部に適切にエネルギーを配分し、マスターの負担を最小限にしてみせましょう」
「それだとあなたの負担が大きくならない?」
「はい。だから無駄な動きをしないように。短期決戦で」
「……なんか逆に疲れそうな気がしてきたけど……まぁ、いいわ!マロン!」
「千夜、ホーミングモードですね」
「グッド!」
シェヘラザードの手の内に拳銃が現れると、そのまま分離した小型メカへと向けた。
バン!バン!バァン!!
「キィィィィィッ!!」
放たれた弾丸を避けろと言っているのだろうかメタルビトントがまた鳴いた!そしてその指示に従うように小型メカは回避運動を取った……が。
グイン!!ドゴォン!!
光の弾丸は急激に方向転換!メカに追いすがり、そのまま貫いて爆散させる。
「まずは一つ!」
「続いて二つ目、ジャンジャンいきましょう」
「おうよ!!」
バン!バン!バァン!!
シェヘラザードは再び弾丸を発射した!しかし今回は……。
「キィィィィィッ!!」
ババババババババッ!!ビシュゥッ!!
メタルビトントと残りのメカの一斉射撃で相殺されてしまう。
「さすがに学習能力が早いわね。でも戦いに勝つためには、その先を読まないとね」
「キィィッ!?」
一瞬、ほんの一瞬だけ目を離した隙に、シェヘラザードは壁に向かって全力疾走していた。何のために?高く跳ぶためだ!
「脚部にエネルギー集中。姿勢制御はわたくしが完璧にフォローしてみせますから、心配せずにやっちゃってください」
「心配なんてしてないわよ!!」
ガゴン!!
壁を蹴り、大きく跳躍!所謂三角跳びだ!一気に高度を上げた女王様は小型メカの頭上を取り……。
バゴォォォン!!
「二つ目!!」
踏みつける!メカはバラバラと分解されながら、床へと猛スピードで落下!
対してシェヘラザードはその反動を利用して、高度を維持!息つく暇もなく次のメカへ……。
「千夜!バーストモード!」
バババババババババッ!!ドゴォン!!
「三つ目!!」
次のメカに飛び移る途中で、通り過ぎ様に三体目のメカを散弾で粉砕!そして……。
「四つ目!!」
バゴォォォン!!
四体目も踏みつけで撃破!眷属のいなくなった本体へと突っ込む!
「キィィィィィッ!!」
ビシュウゥゥゥゥッ!!
そうはさせるかとメタルビトントはビームで迎撃を試みるが……。
「一夜!!」
バシュン!!
銃の代わりに、新たに召喚された華奢なシェヘラザードには一見似つかわしくない無骨な鉈によって軽々と切り払われてしまう!
「キィィッ……!!」
ならばと一旦距離を取ろうと、鋼の鳥はスラスターを吹かして、暴力的な女王様から逃げる!けれど……。
「あんたほど自由自在とはいかないけど……」
「シェヘラザードも空中機動くらいできます!」
「キィッ!!?」
女王様からは逃げられない!同じくスラスターで高速移動したシェヘラザードに退避先に回り込まれてしまった。
「仮面で覆われた方じゃなくて、生身の方なら!!」
そして勢いそのままにシェヘラザードは鉈を鋼の鳥の本来の部分に振り下ろす!
ドゴッ!!
「――ッ!?」
鉈、正確には鉈の背の部分が仮面の頭部を叩くと、メタルビトントは機能を停止……いや、意識を失った。
「ごめんなさいね。こんな乱暴な方法が取れなくて……」
「マスターが謝る必要はありません。本当に懺悔すべきなのは……」
「ええ……あなたよ、松田輝喜与……!!」
墜落したメタルビトントの横に着地すると、シェヘラザードは再びエスカレーターの上にいる松田を睨み付けた。さっきよりも強い憤りを込めて……。
「本調子じゃないと聞いていたが、ザカライアを倒した君には大したハンデではないようだな。実にいいものを見せてもらった」
称賛の証としてパチパチと拍手をしてみせるが、当然フジミが喜ぶわけもなく、むしろさらに怒りの炎にガソリンを注ぐことになった。
「あくまで上から目線の観客気取り……いいわ、それならその身体を徹底的に痛めつけて自分が当事者だってこと教えてあげる。半年は自分の手でケツを拭けないと思いなさい」
「おお~!怖い怖い!そうならないように、こちらも張り切らなくては」
「……まだ何かあるの?」
「もちろんさ!!」
ガゴン!!
「え!?」
またまたパチンと指を鳴らすと、今度は床が開いて、下から巨大な何かがせり上がって来た。
「マスター、これは、このオリジンズは……」
「マロン、これはワタシも知ってるわ。色々とお世話になったからね……こいつは……!」
「そう!『ラリゴーザ』!!それを素体にしたメタルオリジンズ最高傑作『メタルラリゴーザ』だ!!」
ラリゴーザとは人間を拡大、強化したような四肢を持つ筋力の塊のようなオリジンズである。
フジミは先の戦いでコーダファミリーがアーティファクト獣封瓶を使って操っていたラリゴーザ、“剛烈なるアクラヴァズ”の新たな主人となり、その力を借りている。だからそれがさらに機械によってパワーアップされているとしたら……。
フジミは思わず唾を飲み込んだ。
「ラリゴーザ……ワタシ的できればお手合わせしたくないオリジンズ上位ね」
「君の感性は正しいよ。ラリゴーザのパワーとスピード、そして二足歩行の汎用性はメタルオリジンズにするにはぴったりだった。我ながら素晴らしい商品ができたと思う。どこに出しても恥ずかしくない」
「そう思う自分を恥じなさい。あなたのやったことは人として最低よ」
「下らん倫理や道徳にすがることで、自らの無能さを誤魔化す凡人である君には理解できないだけさ。それにこのラリゴーザもきっと更なる科学の発展の礎になれたことを喜んでいる。いや、もっと単純に強くなれたことにかな?」
「あなたはどこまで命を……!」
フジミは松田という男を心の底から嫌悪し、軽蔑した。この男には必ず報いを受けさせなければいけないと、彼女の心の奥底にある正義が強く訴えている。
「言葉でなく力で私が間違っていると教えてくれるんだろ?だったら君の正しさをこいつを倒して証明してみせろ。少しいじった程度のピースプレイヤーでどうにかできる相手じゃないがな」
「やってやるわよ……こいつをなんとかしないとあなたをいじめられないならね……!!」
「フッ……無様にいじめられるのは君の方だろ!神代藤美!!」
「ウホオォォォォォォォォッ!!」
松田は手を勢いよく手を振り下ろすと、メタルラリゴーザもまた全速力でシェヘラザードに突……。
「パワーDガトリング!!」
バババババババババババババババッ!!
「ウホォォッ!?」
「何!?」
鋼の獣が突撃しようとした瞬間、眼前に弾丸の嵐が吹き荒れた!出鼻を挫かれたメタルラリゴーザはその場にとどまると、ターゲットの華奢な白い奴の前に、黄色いゴツい奴が降り立った。
「リキ……」
「ボス、こいつの相手は自分が!パワードレイクがします!!」




