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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
67/194

寝起きが悪い眠り姫

「そ、そんな……!?う、嘘だ!!?」

 木真沙彰彦は夜の闇に絶叫した。完璧だと思っていた計画、実際あと一歩のところまでいったというのに、あっという間に逆転、窮地に陥ってしまったのだから当然だ。

 シュヴァンツの三人もそう思いながら、彼を囲んだ。

「さぁ、次の一手はあるかい?組長さんよ」

「今の自分たちには通用しないと思いますけど」

「ないなら大人しくお縄につけ」

「ぐうぅ……!!」

 自分を取り囲む三色の竜を順番に睨み付けた。だが、それだけ。

 彰彦には自分の身を危険に晒したり、部下の仇を取ってやろうなんて気概はない。

「ここまでか……」

「そうだ、ここまでだ」

「ようやくあのザカライアを超えられるチャンスだと思ったのに……」

「残念でしたね」

「ここまで大きくした組織も壊滅……」

「その労力を別のところに使うべきだったな」

「また一からやり直しか……」

「またって……」

「自分たちがそんなことを許すとお思いですか?」

「お前は終わったんだ、木真沙彰彦」

「いいや!まだわたしは終わってなどいない!!」

 彰彦はシャツを開くと、首から下げていた下品な金ぴかのネックレスを露出した。それこそが彼の最後の希望だ。

「ダーティピジョン・ゴージャス!!」

 ネックレスは強烈な光を放つと共に、光の粒子に分解、それがまたまた下品な金ぴかの機械鎧になって彰彦の身体を覆った。

「金ぴかのピースプレイヤーって、もしかしてザカライアを意識してんのか?」

「ここまで来ると、ただのファンなんじゃ……」

「憎しみが行き過ぎて、憧れに反転したか」

 シュヴァンツの三人はそれを見て、呆れはしても恐れはしなかった。ザカライアはもちろんさっきまで戦っていた彰彦の部下たちから発せられていたプレッシャーの類いをその下品な成金マシンからは一切感じなかったからだ。

「ぐ、ぐうぅ……!どこまでもわたしをバカにしおって……!」

「尊敬されたいなら、ヤクザなんかになるなよな」

「マルさんの言う通りです」

「この計画どうこうじゃなく、お前は最初から間違っているんだよ、木真沙彰彦」

「う、うるさい!!」

 金ぴかのピジョンが翼を展開!羽ばたきと共に小さな光の球を地面に叩きつけた!すると……。


ドゴオォォォォォォォォォォン!!


 光の球は爆発!ピジョンを、シュヴァンツの三人を爆煙が包み込んだ!

「覚えていろシュヴァンツ!!必ずわたしは再びお前たちの目の前に帰ってくるぞ!!」

 その爆煙の中から金ぴかのマシンが飛び出した!定番の捨て台詞を吐きながら、夜の闇に消えて……。


バァン!!


「……え?」

 煙の中から新たに光が一筋飛び出した!そしてそれは夜空に真っ直ぐと線を描くと、ピジョンの翼を撃ち抜いた。

 その光の発射地点、発射の余波で爆煙が薄まったそこにはスコープを覗き、ライフルを構える青い竜の姿があった。

「そのマシンとは戦ったことがある。どんな手を使うか、動きをするかはお見通しだ。ましてや前の装着者よりも弱いお前相手なら……目を瞑っていても当てられるさ」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」


ドスゥゥゥゥン!!


 片翼に穴を開けられたダーティピジョンは、中身の木真沙彰彦の人生のように急転直下、病院の前に落下した。

「まったく……大人しくしてればこれ以上痛い思いをしなくても済んだのに」

「二度と舐めた真似をできないように、腕と足を折っておきましょう」

「そうだな。他のところでは非難されそうだが、それがシュヴァンツ流だ」

「ひっ!?」

 肩を回す赤い竜、拳を鳴らす黄色の竜、そしてモデルのように悠然と歩く青い竜……。

 三匹の竜がこちらに向かって来る姿を見て、黄金のマスクの下で彰彦は顔をひきつらせた。

(ヤバいヤバいヤバいヤバい!めっちゃ怒ってる!数々の修羅場をくぐり抜けてきたわたしにはわかる……今さら謝っても許してくれる雰囲気じゃない!)

 頭の中で一足先に自分が受ける苦痛を想像してしまい、全身が震え上がる。

(どうする!?翼が破壊されたから、もう飛べないし、わたしは腕っぷしはからっきしだし……あぁ!女隊長を倒した時は、完全に勝ったと思ったのに!女隊長を倒したから、奴らをマジギレさせてしまった!女隊長が……ん?)

 天啓が降りた。目の前に迫る三匹の竜を黙らせる方法が一つだけあったのだ!人道に反する卑怯極まりない方法が!

「そうだ!あの女隊長を人質にすれば!!」

 藁にもすがる思いで、ピジョンは竜から背を向けると一目散に病院に走り出した!しかし……。

「ここまで予想通りだと、笑えてくる……いや、やっぱり笑えないか……!」

「ええ……不快なだけです。我那覇副長」

「土下座の一つでもすれば、許してやるつもりだったが……お前は最初から最後まで判断を間違えた……!」

 ターボドレイクは慌てることなく再びライフルを召喚すると、銃口を遠ざかるピジョンの背中に向けた。追い詰められた悪党のする行動など彼らにはお見通しだったのだ。

「お前の走るスピードよりも、俺の弾丸……が……」

 しかし、すぐにターボはライフルを下ろした。スコープ越しに見た光景が引き金を引く必要がないことを教えてくれたからだ。

「どうした?」

「トラブルですか?」

「違う……朗報だ、お前たち。眠り姫のお目覚めだ」

「はっ!!」

「じゃあ!!」

「本当にお前は何もかも間違えた……うちの大将は俺達ほど優しくはないぞ」

 歓喜に沸くシュヴァンツを尻目に、ピジョンはついに病院のドアの前までやって来ていた。

「神代!神代藤美!!どこに!どこにいる!!」

 ドアに手をかけ、開いたその瞬間!

「ここにいるよ!!」


ドゴオォォォォォン!!


「――ッ!!?」

 顔面に強烈な衝撃が走った!殴られたのだ!おもいっきり!

「何……が!!?」

 金色の破片をキラキラと撒き散らしながら吹き飛ぶピジョンは扉から出てくるそれを見て、驚愕した。

 それは最強の部下が徹底的に対策を取って倒したはずの相手。彼曰くシュアリーのチャンピオン。それは彼が誰よりも憎み、誰よりも憧れたザカライアから勝利をもぎ取った者。

 それはシュヴァンツの隊長のピースプレイヤー、シェヘラザードだ!

「マロン、大丈夫?」

「本調子とは言い難いですね。いつもの60%と言ったところでしょうか」

「そう……今はちょうどいいかもね」

「ええ、マスターが八つ当た……全力を出しても、相手を殺さずに済みます」

「じゃあ……眠気覚ましに一暴れといきますか!!」

 シェヘラザードは地面を力強く踏み込むと、一跳びでダーティピジョンの落下地点に先回りした。

「ま、待て!?」

「悪党の言葉は聞かない!!」


ドゴオォ!!


 ピジョンの腹部にアッパーカット炸裂!装甲がひび割れ、骨を軋ませながら、組長様は再び空中に!

「逃がすか!」

「に、逃げてな……」

 それをシェヘラザードも跳躍し、追う!あっという間に追い付いて、頭を掴むと……。

「でりゃあぁっ!!」


ガンガンガァン!!


「――がっ!?」

 膝蹴り連打!顔面に何度も何度も膝を叩きつける!それに満足すると……。

「よいしょ」

 ピジョンのお株を奪うようにスラスターを吹かし、空中を器用に泳いで上を取った!

「落ちろ!!」


ドゴッ!!


「――ギャッ!!?」

 自分で打ち上げておいて、踵落としでまた叩き落とす!理不尽極まりない所業!

「ぐ……」

「おねんねはまだ早いわよ」

「があっ!?」

 ピジョンが地面をバウンドしたところで、また追い付いてきたシェヘラザードが頭を掴み、彼を無理矢理立たせた。

「パーティーの主催者がゲストを差し置いて寝落ちなんて許されないわよ」

「も、もう許し……」

「ん?何か言った?」

「だから……もう許してくれ……」

「……ごめんなさい。どうやらまだ電撃の影響でちょっと耳が……」

「わたくしも聴覚センサーにノイズが入ってしまって、正確に認識できないです」

 シェヘラザードは人差し指を顎に当てて、小首を傾げる。

 そのあからさまな挑発の態度が満身創痍、心が折れている彰彦の口を勝手に動かした……やめておけばいいのに。

「この……!アバズレとポンコツが……!」

「誰がアバズレだ!!」

「わたくしはポンコツじゃありません!」

「聞こえてんじゃねぇか!!」

「うおりゃあぁぁぁぁっ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「――ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 パンチ!パンチ!パンチ!キック!キック!キック!暴力の嵐が下品な金ぴかマシンに容赦なく襲いかかる!

 一撃ごとに装甲の表面にコーティングされた金色は削られ、剥がされ、砕かれ、ほんの数秒で黄金のダーティピジョン・ゴージャスはくすんだ灰色に変色してしまった。

「これで!」

「ラスト!」

「だ!!(です!!)」


ガァン!!


「――ッ!?」

 上からぶん殴られ、ダーティピジョンは凄まじいスピードで地面に額を叩きつけた。大地に顔をめり込ませ、尻を突き上げ、気を失う珍妙なその姿は見ようによっては土下座をしているようだった。

「ふぅ……一件落着ってことで……いいのよね?」

「は、はい……」

「ボスが満足したなら……」

「……ったく、やり過ぎだ……」

 フジミが視線を部下に向けると、彼らは一様にドン引きしていて、呆然と彼女と、彼女の犠牲者を眺めていた。

「何よ、テンション低いわね。もっと喜びなさいよ」

「姐さんが寝起きからハイ過ぎなんですよ」

「まぁ、確かにボスの無事と木真沙組を潰せたことは喜ばしいことですけど……」

「違う違う、そうじゃない」

「ん?何が違うと言うんだ?」

 三人の部下はお互いに顔を見合せ、頭を傾けた。

 そんな三人の姿を見て、フジミはマスクの下でいとおしそうに笑みを浮かべ、彼らを指差した。

「ワタシが喜べって言ったのは、あんた達と愛機の再会よ」

「「「あっ」」」

 三人はこれまたシンクロしたように、胸に手を当てた。

「そうっすね。どたばたしていて、忘れていたけど……お帰り、おれのアサルトドレイク」

「これからもよろしく、パワー」

「また共にシュアリーを駆けよう、ターボドレイク」

「……やっぱりあんた達ほどドレイクが似合う男達はいないわね」

「完全に同意します、マスター」

 こうしてコーダファミリーに続いて、木真沙組もシュヴァンツの手によって壊滅した。


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