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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
66/194

似ている二人

「……なんだよ、もっと驚けよ」

 アサルトドレイクの赤い仮面の下で、マルは不満げに口を尖らせる。目の前にいる幼竜のリアクションは彼の求めるものではなかった。

「いやいや……結構、驚いていますよ。もう後は退屈な作業だと思っていたのに……ここに来て、こんな楽しいサプライズ起きるなんてね……!」

 そう言うジンの声は、僅かに上擦っていた。言葉の通り、彼の胸は恋するティーンエイジャーのように高鳴っている。

「そうか……じゃあ、期待を裏切らないように、頑張らないと……」

「バーストモード!!」


ババババババババババッ!!


「と!」

 マルの話の途中で、イーヴィルドレイクが身の丈もあろうかという巨大な銃から大量の弾丸を同時に発射した!点ではなく、面での攻撃!しかし、アサルトはそれをいとも容易く軽々と避ける。

「人の話は最後まで聞きなさいよ」

「それは戦闘の時以外の場合……って、教えてくれたのはあなたでしょ?」

「……優秀な生徒だこと。これは……教え甲斐があるな!」

 アサルトが両手を開くと、そこに銃が二丁生成される!当然ただ見せびらかすために呼び出したわけではない。反撃、いや圧倒するためにだ!

「数でくるなら、こちらも数だ!アサルトDマシンガン!!」


ババババババババババッ!!


 宣言通りアサルトは更なる弾丸の雨で、イーヴィルの弾幕を打ち消していく。いや、それだけじゃなく……。


ババババババババババッ!!


「なっ!?」

 散弾のカーテンを掻い潜り、赤い竜の放った無数の銃弾が銀色の幼竜に迫る!

「ちいっ!?」

 けれど、イーヴィルは地面を転がりながら、それを全てかろうじて回避する。だが、その先には……。

「よお」

「――ッ!?」

 アサルトドレイクがすでに回り込んでいた!

「イーヴィルに……接近戦を挑むつもりか!!」

 幼竜はランチャーを投げ捨て、バチバチと手のひらから放電、そして帯電させたそれを目の前で余裕ぶっている赤い竜に伸ばした!

「そのつもりだよ!!」


バシッ!!


「なっ!?」

 それをあっさりと払いのけるアサルトドレイク。さらに……。

「でりゃあ!!」


ゴォン!!


「……がはっ!!?」

 姿勢を低くし回転、肘鉄をイーヴィルの腹に叩き込んだ!さらにさらに……。

「よいしょ!!」


ブゥン!!


「――ッ!?」

 腕を掴んで、イーヴィルを投げ飛ばす!

「この……野郎!!」

 幼竜は空中でなんとか体勢を立て直し、足からきちんと着地する。

「よくもやってくれたな……!!」

「まだこれからもっとやるんだよ」

「うっ!?」

 一息つく暇も与えないと、アサルトは再び眼前まで接近!そして……。

「これでも……楽しいって言えるか!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 アサルトドレイクの腕が、脚が唸りを上げる!上下左右、四方八方からイーヴィルを滅多打ちにした!

「ぐ、ぐうぅ……!?」

 幼竜は小さな身体をさらに小さく丸めて被弾面積を減らすことしかできない……シェヘラザード戦の時のように。

「このパワーとスピード……女隊長さんと同等……!?」

「姐さんと同じとは、嬉しいことを言ってくれるな。だけど、パワーはともかくスピードはシェヘラザードの方が上だ」

「なら、なんで……!?」

「お前の予想以上に連戦が堪えてるんだよ、そのイーヴィルドレイクとやらは!!」


ドゴッ!!


「……ぐはっ!?」

 アサルトの拳がイーヴィルの腹に深々と突き刺さり、ジンの身体から酸素を強制的に追い出した。痛みで思考が停止し、そうするつもりがなくとも、よろよろと足が勝手に動き、後退していく。

 それをアサルトドレイクはただじっと見つめていた。

「自信がある奴は嫌いじゃないが、もうちょっと客観的に自分を見ることも覚えるべきだったな」

 追撃ができるはずだというのに、この期に及んでお説教。その舐め腐った態度がジンの折れかけた心と身体をかろうじて繋ぎ止めた。

「……そうに」

「ん?」

「偉そうに講釈垂れてんじゃねぇよ!!」

 激昂する幼竜は言葉に反して、アサルトドレイクに背を向けた。逃げるため?否、必殺の一撃を繰り出すためだ!

「イーヴィルテイル!!」

 再び姿を現した猛毒の刃を持つ竜の尻尾!シェヘラザードを、チャンピオンをダウンさせたフィニッシュブロー!それが今度は赤い竜の首を斬り……。

「迂闊だな」


ガシッ!!


「――ッ!」

 斬り裂かなかった。アサルトドレイクは目にも止まらぬスピードで振るわれた尻尾を片手であっさりと掴み取ってしまった。

「さっき自分でこれは警戒されてるって言ってただろ。もう忘れたのか?」

「それは……」

「ましてや追い込まれたから、一発逆転に賭けて、必殺の一撃に頼る……定番の破滅するギャンブラー思考なんて読み易くて仕方ない」

「うっ!?」

 その一言で自分がかなり平常心を失っていることに、ジンはようやく気づいた……今さら気づいたところでだが。

「もう一度言うぜ……迂闊だ、軽率だ。焦った結果、お前は最後の希望を失った!アサルトDクロー!!」


ザンッ!!


「しまった!?」

 アサルトの腕から生えた三つの爪が尻尾を切り落とすと、猛毒の刃は力を失い、地面を転がる。

 勝負が決した瞬間であった。

「これで切り札はなくなった。つまりお前の勝ち目もなくなったことになる。だから大人しく投降しろ」

「誰が!!」

「これ以上意地を張ってもしょうがないだろうが。賢いお前なら本当はわかっているはずだ」

「わかってたまるか!!ボクは強くなきゃダメなんだ!誰よりも強くないと、ダメなんだよ!!」

「お前……」

 今までの余裕に溢れた声とは真逆の感情的で悲痛な叫び……。マルの目にはジンの姿が自分と重なって見えた。

「そうか……お前もおれと同じ……」

「このボクがお前と一緒?ふざけるな!!」

「ふざけてねえよ。誰かに褒められ、認められないと自分を肯定できない……だろ?」

「うっ!?」

 自分でも目を背け続けてきた心の奥底を言い当てられ、イーヴィルドレイクは、仙川仁は狼狽えた。

「おれも出来のいい兄と自分のことを勝手に比べて、負けないようにと必死に頑張った。その結果、手柄を焦り過ぎて大きなミスをしてしまった。その尻拭いをしてくれたのが、姐さんだ」

「あの女隊長……?」

「あぁ、あの人と一緒にいて、おれは色々と学んだ。お前が偉そうな講釈と言ったおれの説教も、全て訓練中に姐さんにおれ自身が注意されたものなんだよ。あの人の背中を追い続け、おれは薄くちっぽけで、世間知らずな人間だって嫌というほど思い知らされた」

「ボクもあんたと同じ薄っぺらい人間だって言いたいのか……!!」

「そうだ」

「――ッ!?」

「いいか、よく聞け。本当にやりたいこと、やるべきことをやっている人間は周りの声なんて気にならないんだよ。お前が称賛を欲しがるのは、自分のやっていることに夢中になっていないから、そして疑念を抱いているからだ」

「ううっ……!?」

「お前自身、今やっていることが間違っていることに気づいているんだろ!?それをまずは認めろ!それを認めて、反省し、這い上がるしか、お前が真に満たされることはない!!」

「そんなこと……!!」

 それ以上の言葉は口から出て来なかった。反論したくてもできない……そういう人間が我慢の限界を超えた時に取る行動は一つだ!

「そんなことは!!」

 イーヴィルは感情に身を任せ、アサルトに殴りかかった!


ガァン!!


「……なっ……!?」

「……同じだって言ったろ?わかるさ、お前のやることは……!」

 アサルトはイーヴィルの拳をあえて避けるのではなく、頭突きで受け止めた。衝撃で赤いマスクに小さな亀裂が入ったが、それ以上のひびが銀色の腕に稲妻のように刻まれた。

「今のパンチ、姐さんだったら、小癪なカウンターだとものともしないで、そのままおれをKOしていただろうな」

「ボクも……イーヴィルが万全だったら……!」

「いいや、お前にはできない。なぜだかわかるか?」

「わかるわけ……わかるわけないだろ!!」

 また怒りが身体を動かした。拳を引くと再びパンチを……。

「自分を信じられてない奴の拳は軽いんだよ!!」


ガギャアァァァァン!!


「――!!?」

 イーヴィルの拳が再びアサルトに届くことはなかった。

 クローを消し、銀色の幼竜よりも速く、小さく、洗練された動きで固く握り込まれた拳を引くと、間髪入れずそれ以上のスピードで撃ち込んだ。赤い拳が銀色のマスクにぶつかると、衝撃がジンの脳ミソを襲い、意識を夢の世界へと旅立たせた。

 前のめりに倒れ込むイーヴィルドレイクをアサルトドレイクは受け止め、軽く抱き締める。

「お前はおれよりも若く賢く強い。だからきっとやり直せる。これが偉そうなおじさんからの最後のメッセージだ」


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