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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
65/194

本調子

「参ったな、こりゃ……」

 ラニエロは思わずそう呟くと、青黒のマスクの下で額から頬へ一筋の汗を伝わせた。

 目の前に新たに現れた黄色いピースプレイヤーはカラーリング以外はルシャットとはものが違うと、彼の経験と本能が訴えているのだ。

(どうしたもんか……見た感じ、話に聞いていたドレイクのカスタム機、つーかドレイクって言ってたし。性能はルシャットよりも当然上として、問題はオレのパシアンよりも……)

「自分の嫌いなところってありますか?」

「ん!!?」

 なんとか次の一手を紡ぎ出そうと必死になってる最中に、突然話しかけられて、しかもかなり突拍子もない質問をされて、フル稼働していたラニエロの思考はフリーズした。

「自分で直したいと思っているのに、どうしても直せないところとかないですか?」

 リキは相手の動揺などお構い無しに話をさらに進める。その声はさっきまで必死に敵の猛攻に耐えていた感情的なものとは真逆で、とても落ち着いていて、とても淡々とした機械的なもので、聞いている者に不安を抱かせた。

 ラニエロもこれまた本能的に刺激するのはまずいと判断したのか、大人しく質問に答えることにした。

「あなたはありますか?」

「人間だからな……あるにはあるよ」

「そうですか……自分にもあります。どうしても直したいのに、直せない自分でも嫌になる部分が……」

「その話はオレに関係あるのか?」

「ありますよ。自分が嫌いなのは……めちゃくちゃ根に持つタイプだってところです!!」

 パワードレイクの背中から伸びた二本、円環状に砲口を無数に並べたそれが前方に向いた!そして……。

「パワーDガトリング……久しぶりに発射!!」


ババババババババババッ!!


 それはまるで数えきれない彗星が地面と平行になって飛んでいるようだった。回転する砲口から絶え間なく発射される光の弾は闇に包まれた世界を明るく照らした。

 だが、それが向かっている先、ラニエロにとってはそんないいものじゃない。小さな光があっという間に大きくなっていくのは恐怖でしかなかった。

「くそッ!!」

 パシアン・ソルダ改は両腕のシールドでがっつり防御を固めた!ルシャットピストルと違い、装甲だけで受け切ることはできないと判断したのだ。しかし……。


ガギィ!ガギィ!ガギィ!ガギィン!!


「――ッうぅ……!?」

 ルシャットの攻撃を全てシャットダウンしていた盾は弾丸を受ける度に不快な音を立てて、砕け散った。それだけでは飽き足らずそのまま本体の装甲も抉っていく。

「このままでは……!!」

 弾丸の衝撃で身動き取れなくなっていたラニエロの脳裏に“死”の文字が浮かぶ。その時!

「……ん?」

 突然、自分を苦しめていた弾丸の雨がピタリと止んだ。

「これは……」

「根に持つタイプって言ったでしょ」

「――ッ!?」

 声が聞こえたのは横!パワードレイクはパシアンの側面に回り込んでいた!

「こいつ!!」

 反射的にパシアンはボロボロになったシールドを装備した腕を捻り込むように撃ち出した!

「パワーDナックル!!」

 パワーも拳を一回り大きくして迎え撃つ!それは少し前に二人が行った構図と同じ!しかし結果は……。


バギィィィィン!!


「ッ!?ぐあぁぁぁぁぁっ!!?」

 パワーの巨大な拳骨に触れた瞬間、シールドはクッキーのようにいとも簡単に崩れ去り、さらにそれを装備していたラニエロの腕も粉砕した!全てリキの狙い通りだ。

「ぐっ……!?わざわざ手間をかけてオレにやられたことをやり返すとは……お前、サディストだな……!」

「やり返されたくなければ、最初からやらなければいいんですよ」

「――うぐっ!?」

 パワーはナックルを装備していない方の手でパシアンの首ねっこを掴んだ。

「目には目を、歯には歯を……頭突きには頭突きを!パワーDホーン!!」


ガギィィィィィン!!


「――がっ!!?」

 頭部から生えた太くたくましい鈍器のような角をおもいっきり叩きつけた!衝撃で青黒のマスクに亀裂が入り、中身のラニエロの脳ミソをシェイクし、意識を飛ばした。

「もう一丁!!」


ガギィィィィィン!!


「――ぐはっ!?」

 しかし、夢の世界に旅立つのは許さないと気付けのもう一発!マスクが半壊すると、ラニエロの焦点のあってない目が露出した。

 そして、パワーが首を離すと、酔っ払ったようによろよろと後退する。

「この……!!」

「さっき自分のことサディスト呼ばわりしましたけど、自分はそんなんじゃないですよ」

「今の状況を見たら、みんなオレの意見に賛成するだろうよ……」

「じゃあ、その意見が広がらないように……次で終わらせます!!」

 この不毛な戦いを終わらせるためにパワーは巨大な拳を振りかぶった!

「もう……十分だろ!!」


ブシュウゥゥゥゥゥッ!!


「なっ!?」

 瞬間、パシアンの全身から凄まじい勢いで煙が噴き出し、周囲を包み込んだ。瞬く間に一寸先も見えなくなってしまう。

「煙幕か!?この!!」


ブゥン!!


「ちっ!?」

 慌ててさっきまでパシアンが立っていた場所に拳を振り下ろしたが、手応えはなかった。ほんの少しの間だけ煙幕が拳の風圧で流され、薄まったが、すぐに周りから集まり、また視界を遮る。

「逃げるのか!?ラニエロ・ピザーヌ!!」

 頭を左右に動かしながら、必死な声で呼びかけるリキ。その姿は勝者には見えない。

「悪いな。オレは所詮雇われ傭兵、木真沙組は居心地が良かったが、命を懸ける義理はない」

 対してラニエロは敗者らしからぬ飄々とした声色でどこからか答えた。

「まっ、お互い詰めが甘かったってことで、痛み分けでいこうぜ、パワフルガイ」

「そんなこと!あなたが決めることじゃない!!」

 パワーは全力で両腕を振り、煙幕を吹き飛ばした。視界はクリアになったが、どこにも青黒のマシンの姿が見当たらなかった。

「……詰めが甘いか……反省させてもらうよ、傭兵」



「……いい感じだ」

 クウヤは久しぶりのターボドレイクの感触を確かめるように首と肩を回した。

「それが噂の改造ドレイク……だからどうした!!」

 不安を振り払うようにルードゥハウンドはライフルの引き金を引いた!


バン!バン!バァン!!


「なっ!?」

「うん……やはりいい」

 しかしターボは足に取り付けられたタイヤを起動させ、まるでフィギュアスケート選手のように地面を軽やかに滑り、弾丸を全て回避した。

「くっ!?速い……!!」

「ん?どうした?もっと撃って来いよ。さっきまでの威勢はどこへ行った?」

「――ッ!?」

 ターボは天に向けた人差し指をちょいちょいと動かし、ハウンドを挑発した。

「お望み通り蜂の巣にしてやるよ!!」

 今までの優勢が一瞬でひっくり返り、情緒不安定になってる根っからのチンピラはあっさりとその単純な煽りに乗って、引き金を引き続けた。しかし……。


ガァン!ガァン!!ブゥン……


 弾丸は全て地面に飲み込まれるか、夜空に吸い込まれて行った。

「こいつ……!?」

「狙撃の腕に自信があったんじゃないのか?」

「そうだ!おれは木真沙組一のスナイパー!銃の腕では誰にも……!」


バァン!!ガギャン!!


「――まっ!?ぐぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 手に持っていたライフルが突然爆発し、衝撃でハウンドの指があらぬ方向に曲がった。よく見ると二の腕にも穴が開いている……。

「い、いったい何が……」

「ターボDライフル」

「なっ!?」

 いつの間にかターボの手にも握られていた長銃の銃口から煙が立ち昇っているのを見て、ハウンドは自分の身に何が起きたのか理解した……したくなかったが、理解させられた。

「まさか……てめえおれのライフルの銃口にそいつで先に弾丸を……」

「まさかスナイパーを名乗る男が、これ位で驚くのか?やはりたかが知れているな、マフィアのレベルなんて」

「ぐっ!?この!!ふざけやがってぇぇぇッ!!」


バン!バン!バァン!!


 無事なもう一方の手に新たなライフルを召喚すると怒りに身を任せ、乱射した!反動を制御できずただ発射しただけの銃撃……だがそれゆえに避け辛い。

「ふん」

 しかし、これまたターボは華麗な動きで全て躱した。彼の経験則とマシンの敏捷性を持ってすれば、何ら問題なかった。

「情けない。片手になったくらいで、ここまで弾道がぶれるとは」

「うるさい!うるさい!!」

「聞く耳をもたんか……ならば、アジャストも終わったことだし……身体で真の狙撃手というものを理解しろ……!!」

 ターボは流れるような動きで、ライフルを構え……。


バン!バン!バァン!!


 あろうことかその無軌道な弾丸を弾丸で撃ち落とした!

「バカな!?全て迎撃するなんてあり得ない!!」

「自分の目を信じられなくなったら、スナイパーは終わりだ。引導を渡してやる」


バァン!!


 青い竜は微塵も躊躇することなく敵の目に向けて、弾丸を発射した!

「くっ!?」


ガリィン!!


 けれど、なんとかハウンドは顔をずらし、マスクを抉られるだけの被害で済ますことに成功する。ただそのせいで刹那の一瞬、竜から目を離してしまった。

「この!!……あれ?」

 再び反撃をしようと、目を向けた時にはターボは見る影もなく、忽然と姿を消していた。

「くそ!?どこだ!?どこにいる!?」

 その場に居続けてはまずいと判断したのか、ジグザグと回避運動を取りながら辺りを見回す黒光りしたピースプレイヤー。

「まさか逃げたのか……?」

「そんなわけないだろう」


バァン!ブシャアァァッ!!


「……え?ぐぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 突然のことで理解が追い付かなかった。

 音が聞こえたと思ったら、肩に衝撃を感じ、そのまま“何か”が腕を縦断、手の甲から鮮血と共に飛び出した。痛みで力を失った結果、ライフルから手を離し、両腕をだらんと垂れ下げる。

「う、上か!?」

 ハウンドは頭上を見上げたが、そこには漆黒の闇が広がっているだけだった。

「一手遅い」


バァン!!


「――ッ!?ぐあぁぁぁぁぁっ!?」

 今度は太腿!太腿の外側をいきなり抉られた!ハウンドはたまらずへたり込む!

「狙撃手というのは、本来敵に視認されてはダメなんだが……装甲の厚いピースプレイヤー相手にはある程度近づかないといけないのが、なんともな……まっ、なんにせよ、ミッションを成功させるのがプロフェッショナルというものか」

「ぐうぅ!?」

 太腿を抉った弾丸が来た方から声が聞こえた。恐る恐るそちらを見上げると、青い竜がスコープを覗き込み、こちらに狙いをつけていた。

「俺もプロとしてやるべきことをやる。貴様、ドライブインシアターで何か知っているような口振りだったが、あれはどういうことだ?」

 その言葉を聞いた瞬間、満身創痍のチンピラは密かに安堵した。

(こいつ、おれから情報を引き出そうとしている……!なら、うまく立ち回れば、逆転も……)


ビシュッ!!


「――ひっ!?」

 耳元で風を切る音が聞こえた。文字通り紙一重で、そこを弾丸が通過したのだ。

「交渉できるとか思ってないよな?俺が今したのは、お願いじゃなく命令だ。従うならもう引き金は引かない」

「し、従わないなら……?」

「血を流し過ぎたか?その程度、わざわざ聞かんでもわかるだろうに。情報なんて他にいくらでも手に入れる手立てはある」

「ひっ!?」

 その一言が、しゃべりながらも決して眉間から狙いを逸らすことないライフルの銃口が、ハウンドの中の根は小心者なチンピラの心を完全にへし折った。

「話します!話します!この『村上』、知っていることを全てお話しま……す」

 必死の弁明の結果、さらに血液は体外に流出し、村上とやらの意識を闇の底へと引きずり込んだ。全身から力の抜けたルードゥハウンドは仰向けに倒れ、ピクピクと痙攣した。

「……俺としたことが……柄にもなく少しはしゃぎ過ぎたか……」

 ライフルを担ぐと、クウヤは夜風で頭を冷やすように、深呼吸しながら天を仰いだ。


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