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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
64/194

天からの贈り物

「さぁ、第二ラウンド……いや、ファイナルラウンドといこうか、シュヴァンツの力持ち君」

「ラニエロ・ピザーヌ……!!」


ピキピキ……


「!!?」

 リキは拳を強く握りしめると、ルシャットⅢが音を立てて、更なる亀裂が入った。

「前言撤回だ。もうすでに勝負は終わっていた!まともにナックルを握ることさえできないお前に勝ち目は万に一つもない!!」

「くっ!?なら、ルシャットピストル!!」

 こちらに突進して来るパシアンに、リキルシャットは拳銃を向けた……無駄なことは重々理解しているがそうするしかなかったのだ。

「わかってるだろ!?その豆鉄砲じゃオレの愛機の薄皮も貫けないぜ!!」

「だとしても無抵抗にやられるわけには!!」

「ならばその気概を免じて、こっちも本気を出してやるよ!!シールド!!」

 パシアンの両腕に盾が装着される。それは発射された弾丸を……。


キンキンキン!!


 いとも簡単に弾き飛ばした!しかし、ラニエロは防御のためにそれを呼び出したわけではない。そもそも先ほども述べたようにルシャットピストル程度ならば、パシアンの装甲で十分なのだから。なのになぜ盾を召喚したのかというと……。

「知ってるか?盾で殴られると痛いんだぞ!!」

 それでリキを撲殺するためだ!


ガギィン!!


「――くっ!?」

 一撃目はかろうじて回避……できずに、胴体の装甲をさらに抉られた。

「逃げるなよ!!」

「このぉ!!」


ガギィィィィィン!!


「……があっ!!?」

「バカが」

 二撃目は全力で拳で迎え撃った……が、あっさりと打ち負け、リキの悲痛な声をBGMに黄色の装甲が闇夜に乱れ舞った。

「全力を出したら、内部から崩壊、全力を出さなかったら、オレにボコボコ……詰みだぜ、力自慢」

「くっ……!!」



「はっ!!」

 大栄寺クラウスから受け継いだルシャットⅠ改は今の主、我那覇空也の意志に応え、手首からワイヤー付きのアンカーを射出した!向かう先は不愉快に黒光りしたピースプレイヤー、ルードゥハウンド!

「ふん」


バシッ!!


「ッ!?」

 しかし、ワイヤーはあっさりと敵に掴まれてしまった。

「機動力じゃルードゥハウンドに勝てないから、それを封じるためにワイヤーでぐるぐる巻きにしてやろうってか?ベタ過ぎてバレバレなんだよ!!」


ブゥン!!


「――ッ!?」

 ハウンドはワイヤーを力任せに引っ張り、クウヤルシャットを地面から空中へ強制的に移動させた!

「パワーもあちらが上か……!!」

 絶望的なスペック差に歯噛みするクウヤ。そんな彼に更なる追い打ちが……。

「――なっ!?」

 視線を下に、自分を勝手に空に飛ばした憎きハウンドの方に向けると、更に憎らしいことに彼はワイヤーから手を離し、ライフルの銃口をこちらに突きつけていた。

「空中でド派手に血液ぶちまけてくれや」


バン!!


 発射された弾丸は空気の壁を突き破りながら、空中で身動きの取れないクウヤルシャットに……。

「当たるかよ!!」

 クウヤルシャットは先ほどとは逆の手首からワイヤー付きアンカーを射出!地面に突き差し、それを一気に巻き取ることで移動!弾丸を回避し、ハウンドから離れたところに着地した。

「そう言えばさっきもそんな風にワイヤー使って器用に移動していたな。すっかり失念していたよ」

「記憶力はよくないみたいだな……」

「いやいやお言葉ですけど、必要なことはばっちり覚えてますよ」

「つまり……俺とルシャットの挙動などお前にとっては覚えておく価値がないと……?」

「イエス」


バン!バン!バァン!!


 ハウンドは後ろに凄まじい勢いで跳躍しながら、ライフルを連射した!彼の、そして本来の愛機でのクウヤの必殺戦法だ!

「ちいっ!?」

 必死に回避運動を取るが、弾丸を避け切ることはできずに、灰色の装甲はどんどんと抉られていった。

「このまま削り殺してやるよ!副長殿!!」



「ボクもうあなたには興味ないから、武装を解除して降伏してくれない?」

 ジンは気だるそうにマルにそう言い放った。

「わかりました……と言うと思ってんのか?」

 マルはそれをもちろん拒絶した。

「だよね……めんどくさいけど、やりますか……」

 ジンが、イーヴィルドレイクがこれまた気だるげに構えを取ろうとした。その瞬間!

「ウラァッ!!」

 マルルシャットが飛びかかった!先手必勝!というより、虚を突かないとこの銀色の幼竜には勝てないと先の戦いで嫌というほど理解させられた。だから、躊躇なく拳を撃ち込む!

「チャンピオンと、シェヘラザードの後に見ると……止まっているも同然だね」

 けれど、イーヴィルはいとも容易く躱す!パンチに合わせて身体を回転させる。

 その動きに回避以外の意図をマルは直感的に感じ取った。

(回転の勢いを乗せたパンチ、もしくは回し蹴り……いや、こいつは!こいつなら!!)

「イーヴィルテイル」


ザンッ!!


「――ヤバ!?」

「へえ……」

 限界まで仰け反ったマルルシャットの眼前を毒を持つ竜の尻尾が通過した。

「さすがに上司を倒した攻撃には警戒するか……雑魚の癖に生意気だな!!」

 必殺の一撃を躱されても動じることなく、イーヴィルは流れるように次の攻撃に移行する!

「イーヴィルライトニング!!」

 バチバチとけたたましい音を立てて帯電する手を伸ばす!

「そいつはもうごめんだ!!」


バシッ!!


「ちっ!」

 けれど、これもまた最初から注意していたマルには通じず、手刀ではたき落とされる。さらに……。

「ルシャットピストル!!」


ガンガンガァン!!


「――ッ!?」

 至近距離で弾丸を連続で撃ち込む!たまらずイーヴィルは後退り……マルもそれは予想外だった。

(効いてる!?正直ドレイクのカスタム機には通用しないと思っていたが……防御力はあんまり……いや!シェヘラザード戦でのダメージか!!)

 よく見ると自分が身に纏っている赤いルシャットと同じくらい目の前のイーヴィルドレイクも傷だらけだった。

(考えてみれば、あっちも連戦……修復が追い付いていないのは当然か。だったら……)

「遠距離戦に活路を見出だした?」

「――!!?」

「それはとんだ勘違いだよ、マルさん」

 マルの心を見透かしたジンは手から電撃を放出するのを止めると、高々と掲げた。

「イーヴィルランチャー。おっと!」

 その言葉を発した瞬間、巨大な銃が空中に生成される。重量も見た目に違わずかなりのようで、カッコつけて片手で受け止めようとしたら、落としそうになった。

「まったく……本当はもっとちっちゃくしたかったんだけどね。今のボクにはこれが限界」

 文句を言いながら、イーヴィルは両手でランチャーを構えた。

「そんなもんまであるのかよ……」

「インファイトはライトニングとテイルがあるから、武器は量産品と同じダガーを使っていたけど、銃撃戦はね……色々と凝ってみました!!」


バン!バン!バァン!!


 引き金を引くと、巨大な砲身から周囲に響き渡る音と周囲を照らす光と共に弾丸が立て続けに発射された!

 それに対し、マルルシャットは……。

「威力はドレイクガンより上みたいだが……速度は大したことねぇな!!」

 マルルシャットは全力で横っ飛びをして回避を試みる……が。


グンッ!!


「――なっ!?」

「ホーミング」

 あろうことか弾丸は軌道を曲げ、マルルシャットを追ってきた!その姿はまるで……。

「シェヘラザードの千夜と同じ!?」

「言ったじゃないか、シュアリーのチャンピオンである彼女とその愛機をリスペクトしてるって。そしたら真似したくなるのが人情ってものだよ」

「ただパクっただけじゃないか!?」

「何事も最初は模倣から始まるものさ」

「くそ!?」

 マルルシャットは全力で逃げた!蛇のようにくねくねとうねりながらストーキングして来る弾丸から必死に!しかし……。

「忘れてない?千夜は追尾弾だけじゃないでしょ?」

「おま!?」

 いつの間にかイーヴィルの前に移動していたマルは横目で、幼竜がまたこちらに銃口を向けているのを確認した。そしてそれがまた輝くのを……。

「バースト」


ババババババババババッ!!ドゴォン!!


「――がっ!?」

 新たに発射された散弾と追尾弾に挟み撃ちされ、マルルシャットは赤い装甲を血飛沫のように撒き散らしながら吹き飛んだ。

「ぐっ!?ぐあっ!?」

 さらに赤い破片をばらまき、地面を転がる。その無惨な姿を見て、ここからの逆転劇を想像する者は少ないだろう。マル自身も頭ではもう打つ手はないと理解している。

「まだ……まだだ!!」

 けれどマルの心の方は折れていない。指一本動かしただけで、軋み、痛みが全身を駆け巡る満身創痍の身体に鞭を打ち、奮い立たせる。

「すごいね。まだやるつもりなんだ」

 ジンは半分呆れ混じりに感心した。マルの根性は認めるが、それだけではどうにもならないことはこの世にはある……メカに造詣が深い彼にはそれがわかっていた。

「やってやるさ……この身体が動くまで!!」

「あなたの身体はよくても、マシンの方は無理みたいだけどね」

「!!?」

 タイミングを見計らったようにルシャットⅡは待機状態の手帳型に戻り、マルの手のひらに収まった。

 時を同じくして……。

「そんな!?」

「ルシャット……!?」

 リキとクウヤのマシンにも限界が来た。彼らのマシンも主の意志を無視して、勝手に手のひらサイズへと形を変える。

「マジかよ……」

「よくやったよ、マルさんもそのルシャットⅡも。でも性能の差は絶対だ。イーヴィルドレイクには決して勝てない」

「くっ!?ここまでだってのかよ……!?」

 思わず辛すぎる現実から目を背けるように天を仰いだ。すると……。

「……ん?」

 頭上をライトをチカチカと点滅させたメカが飛んでいた。

「ドローン?何でこんなところに……」

『そんなのみんなに贈り物をするに決まっているじゃないか!!』

「なっ!?」

「この声は!?」

「栗田杏奈!?」

 リキやクウヤの下にもやって来ていたドローンから聞き慣れた妙にハイテンションな声が流れた!我らがシュヴァンツの天才メカニックの声だ!

「何でアンナが……」

『話は後!お説教を受けるも、始末書を書くのも、クビになるのも生きていたらの話でしょ!!』

「何を言っているんだ……?」

 理解できない単語の羅列に三人は思わず戦闘中だということを忘れて、小首を傾げた。

『とにかく!プレゼントフォーユー!!あたし達のクビを懸けた贈り物!受け取って!!』

「うおっと!?」

 メッセージがながれるとドローンから何かが落ちて来て、三人は慌ててキャッチした。そしてそれを目にした瞬間……。

「これは!?」

「そういうことですか……!」

「本当に勝手しやがって……ナイスだ!!」

 三人の身体に強い闘志と力が戻って来た!そして溢れ出す感情に身を任せ、その手帳型のプレゼントを突き出すと、久しぶりに本当の愛機の名前を呼んだ!

「アサルト!」

「パワー!」

「ターボ!」

「「「ドレイク!!」」」

 赤、黄、青……この国を、シュアリーを奪うために生まれた三匹の竜が、今この国の平穏を守るために降臨した!


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