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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
63/194

早すぎる再戦

 そこは典型的な地域に密着した町医者で、昼は暇をもて余した老人達があれやこれや理由をつけて遊びに来て、夜はごくたまに、年に一度か二度、高熱を出した子供が運び込まれるだけだった。

 なので院長は今、目の前にいる珍妙な急患に対しては何もできず、ただ立ち尽くすしかできなかった。

「……とにかくピースプレイヤーを脱いでもらわんことには、わしにはどうにも……」

「ですよね……」

 白いベッドに横たわっているのは、白い機械鎧シェヘラザード。イーヴィルドレイクのコンピューターウイルス攻撃によって機能が停止し、脱がすことができなくなっていた。

「……まぁ、呼吸はちゃんとしているし、心拍も安定しているようだから、すぐにどうこうはならんと思う……多分だがな」

「その言葉を聞けただけで十分です……」

 不安は完全に取り除けたわけではないが、その一言でぐちゃぐちゃだったマルの心は安定を取り戻し、険しい顔がほんの少し和らいだ。

「今はとりあえず安静に。設備のいいところに運べるように連絡を……」

「それはここに来る途中にしたんで……」

「そうか……なら君も休みなさい。この人ほどじゃないが、ボロボロじゃないか」

 院長が心配そうな顔をして優しい提案をするが、マルは首を横に振って拒絶した。

「おれは大丈夫です。それに……やらなければいけないことがあるので」

 心の奥で決意を固めると、マルはシェヘラザードと院長に頭を下げて、部屋から出て行った。



「……お前ら……逃げられたんだな……」

 待合室に戻るとソファーにリキが、その横でクウヤが腕を組んで壁にもたれかかっていた。

「なんとか我那覇副長が乗るナーキッドに回収してもらって……」

「逃げることは難しくなかった……勝つことよりはな……!」

「我那覇……」

 普段は冷静だがこういう時、シュヴァンツで一番感情を露にするクウヤの姿を見て、改めて自分達の敗北を認識させられ、マルとリキは心が締めつけられた。

「……まぁ、今は俺達のプライドなんかはどうでもいい」

「あっ、姐さんは……」

「無事なんですよね?途中からですけど、話に聞き耳立てていました」

「そうか……この病院はもっとプライバシーに気をつけた方がいいな」

「安心しろ。ピースプレイヤーの聴覚センサーを全開にして盗聴する奴なんて俺らぐらいしかいない、いてたまるか」

「まぁ、病院のセキュリティよりも今はシェヘラザードのセキュリティだ。どこから聞いていたかわからないから、改めてとりあえずおれが見たことを話すよ」

 マルはできるだけ簡潔に、正確に目の前で起きた惨劇について説明した。

「……フジミとシェヘラザードがやられるなどあり得ないと思っていたが……」

「そこまで徹底的に研究、対策されていたなら納得……したくないですけど、するしかないですよね……」

 待合室の空気はさらに重くなった。まるで深い海の底にいるように息ができなくなったようだった。

「……さっき連絡をしたと言っていたが、栗田女子にか?」

「あぁ、色々と準備したらこちらに来るって」

「製作者なら遠隔操作でどうにかできるじゃないんですか?」

「おれもそう言ったが、接続が完全に切れているから、駄目らしい」

「ならこっちからナーキッドで運ぶのは……やめておいた方がいいよな」

「とにかく中の姐さんがどれだけダメージを負っているか不明だからな。安定している今の状況を維持した方がいいと思う」

「ですけど奴らにここを見つけられる可能性も……」

「あるだろうな。だからおれ達に落ち込んでいる暇はない……すぐにどうこうって話ではないだろうけど、もしもの時には姐さんを守れるようにシャンとしねぇと……!」

 マルの言葉に二人は強く頷いた。その時!


カッ!!


「――ッ!?」

 暗い待合室が強烈な光に照らされた。

「なんですか!?」

「車のヘッドライトだ。車がこちらに……」

「つーか……あれ木真沙組の奴らが乗ってた奴じゃねぇか!?」

 三人が目にしたのは看板の裏に息を潜めて、ドライブインシアターにやって来るのをシュヴァンツみんなで見ていた車の群れの中でも一際大きな車であった。

 その車がかなりのスピードでこちらに向かって来ている!

「ちっ!?いくらなんでも早すぎるだろ!!」

「というか、病院に車で突っ込もうなんて、あの人達に常識や良識はないんですか!?」

「あったらヤクザになってなんかいねぇだろうよ!!」

 三人は文句を言いながら、外に飛び出すと懐から今の愛機を取り出した。

「まだ修復も奴らに対抗する作戦できていないが……」

「やるしかないです!!」

「おう!姐さんならきっとこう言う……なるようになるって信じるしかねぇ!!」

「「「ルシャット!!」」」

 呼びかけに応じ、未だ傷が癒えていない赤、黄、灰の機械鎧が再度現世に現れる!主人の全身を包むと、その力を増幅し、向かって来る車へと全速力で突撃していった!

「不死身のフジミが寝息を立てている間に、天に召されるなど……神が許しても俺が許さん!!」

「必ず……止めてみせる!!」

「おれも頑張るからよ……お前も全力を出せ!ルシャットⅡ!!」


ガァン!ガリリィィィィィィィッ!!


「ぐうぅ……!!」

「この!!」

「絶対止めてやる!!」

 一番力のあるリキを中心に右にマル、左にクウヤのフォーメーションで正面からぶつかり合った瞬間、ただでさえボロボロのルシャットの装甲が砕け、更なる亀裂が走った。それでも怯むことなく全身を使って押し返す。人間ブレーキとなった三人の足裏は火花を散らし、アスファルトを抉る。その甲斐があって車の速度はみるみる落ちていき、病院に衝突することなく、完全に停止した。

「……なんとか止まりましたね……」

「あぁ、ひとまず安心……とはいかないみたいだな」

「まぁ、ここに来るのはお前だよな……ジン!!」

「当然」

 停止した車から銀、青黒、黒光りしたピースプレイヤーがぞろぞろと出てきた。そして彼らが降りた後、満を持して彼らの雇い主である木真沙組組長、木真沙彰彦が姿を現す。

「君達はよくやったよ、シュヴァンツ。でもここまでだ」

「大人しくお前のステップアップの礎になれと」

「そうだ」

「はっ!そんなのごめんに決まってるだろ!」

「右に同じ!」

「やる気満々だね」

 三人は各々構えを取った……が、後ろが気になって仕方ないので、いまいち集中できない。なので……。

「勅使河原、飯山」

「おう!」

「はい……!」

 クウヤが目配せすると、二人も同じ気持ちだと、わかっていますよと力強く頷いた。

「では……」

「来るか、シュヴァンツ……」

「散開!!」

「何!?」

 三人はそれぞれ別方向に、まるで木真沙彰彦を中心に広がっていくように移動した。

「別に驚くことないでしょ、組長。あの人達の一番の目的は女隊長を守ることなんだから。ボク達の気を引いて病院から引き離したいんだよ」

「あ、あぁ……そうか、そういうことか……」

 かなり年下のジンの説明を受けて、彰彦は状況を把握、納得し胸を撫で下ろした。

「では、奴らの策に乗らずに女隊長を……というのは、我が木真沙組の品位を落とすか」

「というか、そんな素振りを見せたらさっきの三人が戻って来て、死にもの狂いで抵抗すると思うよ。だから組長は大人しくしていてね。彼らは今もあなたの挙動にも目を光らせているから」

「お、おう……」

 せっかくジンのおかげで落ち着いたのに、そのジンのせいで背筋が凍り、小さく震えた。

「じゃあ、組長も納得してくれたみたいだし、ボク達もいきますか?」

「あぁ、とっとと終わらせよう」

「マッチアップはドライブインシアターの時と同じでいいよな?」

「正直、ボクは他の人と戦いたいけど……」

 ジンが二人の顔を見ると、「断る、あれは自分の獲物だ」と視線で訴えられた。

「ですよね。じゃあ、一番年下のボクが我慢しますよ」

「悪いな」

「つーか、女隊長をやったんだから文句言うな。手柄はぶっちぎりで一番なんだからよ」

「では、その手柄に……おまけをつけて来ます!」

 銀色の幼竜イーヴィルドレイクは赤いマルルシャットの下に……。

「オレ達も行くとするか?」

「待たせちゃ悪いからな」

 青黒のパシアン・ソルダ改は黄色のリキルシャット、黒光りしたルードゥハウンドは灰色のクウヤルシャットの下に向かって行った。

 こうしてまたドライブインシアターと同じマッチアップで、早すぎる再戦が始まった。


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