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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
61/194

邪悪なる幼竜

「そうか……お前も……!!」

 少年の発した言葉と、その全身から漂う異様な空気感にマルは彼を“敵”だと認識を改め、警戒を強めた。

「マスクで見えないけど、なんか怒ってる、おじさん?」

「あぁ、こんな夜中に子供が一人で出歩くんじゃない」

「そっち?てっきりおじさん呼びに腹を立てているのかと」

「おれは単純な方だが、そんなあからさまな挑発に乗るほどバカじゃない」

「へぇ~、それはそれはボクの方が単純だったみたいだね」

「あとおじさんからのアドバイスだが、年上への侮蔑はいずれ自分に返ってくることになるから、控えておいた方がいいぜ」

「経験談?」

「今まさにブーメラン食らったからな」

「やっぱちょっと傷ついてんじゃん」

 先の宣言通り少年はとても楽しそうに、レジ横から降りた。真っ直ぐと立つと、その華奢で、成長の余地を残している未成熟な身体がより幼さを際立たせた。

「悪かったよ。ちょっとからかっただけ。あとなんて呼んだら、わからなかったから」

「素直にお兄さんで良かったんじゃないか?」

「確かにそれが無難だけど、味気なくない?ここは勅使河原さんか、マルさんか……」

 名前を呼ばれた瞬間、眉尻がピクピクとひくついた。それはマスク越しでも少年にもわかったようだ。

「もしかしてボクが名前を知っていることに驚いた」

「少しな。でも、おれもそれなりに活躍しているから、熱心なファンがいても不思議じゃない。サインが欲しくて会いにきたなら、いくらでも書いてやるから、とっとと帰りな」

「ファンと言えばファンだけど、できることならサインよりも……手合わせして欲しいな」

「――な!?」

 少年がポケットから取り出したものを目にした瞬間、マルは言葉を失った。それは彼らシュヴァンツがずっと探していたもの!彼らが生み出したもの!

「ドレイク……!!」

「正解」

 少年はこれ見よがしに待機状態、手帳型のドレイクをフリフリと揺らした。

「まさか最後の一体をお前みたいな子供が持っていたとはな……」

「まぁ、普通は思わないよね。でも木真沙組が手に入れたこいつを一番うまく扱えたのが、ボクだったから」

「お前が?」

「うん!ボクは『仙川仁 (せんかわじん)』。みんなからは“ジン”って呼ばれている木真沙組最強の戦士!そしてこれがそのボクに相応しい形に改造した……」

 ジンと名乗った少年は高々とかつて“ただの”ドレイクだったものを掲げた!

「イーヴィルドレイクだ!!」

 眩い光が彼を包み込むと、銀色に黒いラインが入った装甲が装着されていく!そして光が収まると、そこにはよく見知った姿とは、少しだけ違うドレイクが降臨していた。

「……どう?カッコいいでしょ?」

 イーヴィルは両手を広げ、首を傾げ、感想を求めた。

「デザインは悪くないな。だけど名前が駄目だ。イーヴィルって……悪ぶりたいガキがつけましたって感じで、あんまりだ。昔の自分を思い出して、聞くに堪えない」

 マルは見た目は褒めたが、名前について酷評した……自戒を込めて。

「それはボクが実際に子供だってことで許してよ」

「そうだな……まず良識ある大人として叱るべきは、そんな物騒なもんをおもちゃ扱いしていることか……!」

 マルルシャットは構えを取った。そこに油断はない。中身はともかく外を覆っているのはあのドレイクだ。舐めていたら痛い目を見るのは、誰よりも理解している。

「いいね……こうして対峙すると迫力が違う……!ただの前菜のつもりだったけど、思ったより楽しめそう……」

「ウラァ!!」


ブゥン!!


「――だ!?」

「ちっ!?」

 ジンの話の途中、マルが先に仕掛けた!一気に懐に踏み込むと、強烈なパンチを躊躇うことなく、顔面に放つ!しかし、それはギリギリの紙一重で避けられてしまった。

「人の話は最後まで聞けって教わらなかった?」

「覚えておけ、それは戦闘の時以外の場合だ」

「一つ……勉強になったよ!」


ブゥン!!


 イーヴィルの反撃!マルルシャットの顎に向けて蹴り上げた!けれどこれもまた不発、マルルシャットの眼前を銀色の爪先が通過する。

「一気に決着をつけようって気概は嫌いじゃないが、大振りが過ぎるぜ!」

 続いてマルルシャットのターン!無防備な軸足にローキックを放つ!

「それは学習済みだよ!」

 だが、読んでいたイーヴィルは跳躍し、また回避!さらにそのまま空中で体勢を変えて、お返しのキック!


ガァン!!


 これをマルはガード!だがまだイーヴィルの攻撃は終わっていない!もう一度キック!


ガァン!!


 しかし、これもガードされる。イーヴィルはその反動を利用して後方に跳躍。両者に再び距離ができた。

「本当に予想以上だよ、マルさん」

「こっちもここまでやるとは思わなかった」

「子供の割にはやるでしょ?」

「子供の割にはな。その言葉以上でも以下でもない」

「今のセリフは……少しカチンときたよ。ドレイクダガー!」

 イーヴィルは手に刃物を召喚すると、曲芸師の如く、くるくると回した。

「手先は器用みたいだな。ルシャットナイフ!」

 対抗するためにマルルシャットもまたナイフを呼び出す。窓から差し込む月の光で刃先が煌めいた。

「さぁ、第二ラウンド……今度はこっちから行かせてもらう!」

「先攻後攻程度で結末は変わらない!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 刃物同士がぶつかり合う甲高い金属音が響き渡る!人によっては不快なメロディに包まれているが、マルの頭は今までで一番冷静に淡々と稼働していた。

(間違いない……このドレイク、大したことねぇ!正規にカスタマイズされたターボ以下のスピード、パワー以下の力、普通の量産型と代わり映えしない!)

 マルは今までの一連の攻防で、イーヴィルが見かけ倒しのマシンだと判断した。そして彼の判断の正しさを証明するように、今まさにイーヴィルの攻撃を難なく捌き続けている。

(さすがにスペックはルシャットⅡより上だが、中身はおれの方が分がある。ジンとか言ったか?反射神経は凄いが、身体ができていない。トータルではこっちが上回っている……なら!さっさと終わらせてやる)

「てやっ!!」

 イーヴィルがマルルシャットの顔面にダガーで突きを放つ!しかし……。

「当たるかよ!」


ブゥン!ガシッ!!


 マルルシャットは躱すと同時に、その手を掴む!そしてそのまま……。

「ウラァ!!」

 投げ飛ばした!イーヴィルは何もできずに天井に叩きつけられる!……はずだった。

「甘いよ」

「なっ!?」

 銀色の幼竜はあえて空中で勢いをつけて回転すると、天井に“着地”!そして直ぐ様その逆さまの大地に亀裂を入れて自らを発射!今通った軌跡を逆走……つまりマルルシャットに向かって、全速力で突っ込んだ!


ドッ!!ガシャアァァァァァァァン!!


「……がはっ!!?」

 銀色の砲弾となったイーヴィルドレイクの突進をもろに受けたマルルシャットはお菓子の自動販売機に叩きつけられた!赤い体躯が長方形の機械にめり込む!

「本当に甘いよ……子供だからとか、ヤクザが非合法に弄ったマシンだとか……そんな下らない情報に惑わされて。戦って見たら実際に大したことないなって油断したんでしょ?」

「……ぐっ!?」

 イーヴィルはマルの内心をズバズバと言い当てながら、未だ立てずにいるマルルシャットの顔をがっしり掴んだ。

「パワーやスピードが想定を下回っているなら、他のところに重点を置いていると思わないの?」

「何……!?」

「ボク自身が改造したイーヴィルドレイクの真骨頂……嫌というほど味わうといい!イーヴィルライトニング!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!


「――があぁぁぁぁぁっ!!?」

 雷光が夜の闇に迸る!イーヴィルドレイクの手のひらから放たれたそれは赤いルシャットⅡを!中にいるマルをそのまんまの意味で痺れさせる!

「このままマシンの回路も!中身の神経も焼き切ってやる!!」

「があぁぁぁぁぁっ!!?」

 さらにパワーを上げると、真紅の身体が弓なりに仰け反った!しかし、イーヴィルは怯むことなく電気を流し続け……。


バァン!!


「――ッ!?」

「………がっ……」

 突如の銃声!イーヴィルとマルルシャットの間を弾丸が通過した!これにはジンも反射的に反応してしまい、ボロボロの敵から手を離し、また距離を取る。

「無粋な人だね……あとから戦いに割って入るなんて」

 イーヴィルは弾丸が来た方向に視線を向けた。するとそこには銃を構えた美しい白と藤色のピースプレイヤーが立っていた。

「部下のピンチを黙って見過ごす方が、よっぽど無粋だと思うけど、ラストワン……!」

「姐さん……!」

 神代藤美、シェヘラザード参戦!


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