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No Name's Fake  作者: 大道福丸
後始末編
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プロローグ:後始末

 その日もいつも通りシュアリーは夜の優しい闇に包まれ、冷たく、けれど心地よい風が人々の頬を撫でる……はずだった。

 ベルミヤの一角だけは鮮やかなオレンジ色に染まり、熱風が吹き荒れていた。ビルが一棟メラメラと燃えているのだ。

「ヒヤッハー!!燃えろ!燃えろ!どんどん燃えろ!!」

 その元凶である紺色のピースプレイヤーはビルの中、炎の海の中心で手に持った道具から更に火を吹き出し、周囲に撒き散らしていた。

「そこまでだ!くそ放火犯!!」

 そんな彼の前に炎のような真っ赤な機体が姿を現す。細身なその姿は紺色の放火犯の目には弱々しく見えた。

「あぁ?今さらルシャットⅡかよ?そんな骨董品でオレの“ファイアードレイク”を止められると思ってるのか!!」


ボオゥ!!


 紺色の竜は火炎放射機を赤いルシャットに向けて炎を噴射した!しかし……。

「炙り焼きはごめんだ!!」

 赤いルシャットはあっさりと回避!そしてそのまま重力に逆らうように斜めになりながら、一面炎の床とは違い、煤で汚れただけの壁を走り、放火犯に向かった!

「何がファイアードレイクだ!!ただ火炎放射機持たしただけのノーマルじゃねぇか!!」

 壁を力強く踏み込み、ドレイクの頭上へ!脚を高々と上げたと思ったら、まるでギロチンの如く踵を一直線に振り下ろした!


ガァン!!


 甲高い金属音がビルに響き渡り、衝撃で炎が揺らめいた。けれど……。

「なら訂正してやる……ノーマルだろうが最新鋭のドレイク相手に、てめえの旧式のルシャットⅡが勝てると思ってんのか!?」

「――ッ!?」

 ルシャットの渾身の踵落としはドレイクに片腕でガードされてしまった!その紺色の装甲にはひびどころかかすり傷一つついていない。

「ちっ!やはりマシンスペックはいかんともし難いか……!」

 サーカスのように赤いルシャットはくるくると回転しながら、再び距離を取った。

「ルシャットナイフ!!」

 そして着地すると同時に手に刃を召喚する。

「殴り合いじゃ勝ち目がないと判断したか……だが残念!こっちにだって武器はある!ドレイクダガー!!」

 火炎放射機を投げ捨てたドレイクもまた刃物を手に呼び出した。ルシャットのものよりも大きく鋭い刃を……。

「さあ来いよ……!オレ様のドレイクが骨董品をスクラップに変えてやる!」

 片手で炎を反射し、妖しく煌めく刃を器用に回しながら、もう一方の手で手招きした。あからさまな挑発、こんなものに引っかかる奴など……。

「舐めた口訊いてんじゃねぇ!!」

 いた!頭に血を昇らせた赤いルシャットは今度は知ったことかと炎を突っ切り、真っ直ぐとドレイクに突撃する!

「はっ!熱い熱い炎の中では、冷静に行動しないと命取りだぜ!!」

 ドレイクは向かって来る赤い弾丸を抉るようにカウンターで刃を突き出した!


ブゥン!!


「……え?」

 再び衝撃で炎が揺らめいた。しかしそれに伴い聞こえた音は先ほどと違い、金属がぶつかる音ではなく、空気を裂く音だった。

「冷静にとか……現在進行形でハイにキマってるお前にだけは言われたくねぇな」

「――ッ!?」

 背後から淡々とした声が聞こえ、ドレイクは慌てて振り返ろうとする……が。

「確か……ここら辺!!」


ドォン!!


「――なっ!?」

 ルシャットはドレイクの背中……もっと正確に、わかりやすく言うと人間の身体でいう肋骨の下から一つ目と二つ目の部分の背中側のところを掌底でおもいっきり叩いた!すると中にいる放火犯の動きを増強していた鎧が機能を失い、ただの重しになり果てた。

「どういうことだ!?ドレイクが……機能停止だと!?」

「生憎、おれはお前よりもそいつと付き合い長いし、真剣に向き合って来たんだよ。いいところは勿論、悪いところも知っている」

「悪いところ……?」

「お前は知らなくていい」


ガァン!!


「………ッ!?」

 フック一閃!ドレイクの顎をルシャットの拳が目にも止まらぬスピードで撃ち抜いた!紺色のマスクが傾き膝から崩れ落ちると、饒舌だった中身は沈黙し、夢の世界へと旅立った。

「さてと一丁上がり。後はこいつを外に運べば、シュヴァンツの任務は……」

「よくも兄貴を!!」

「――ッ!?」

 気絶したドレイクを肩に担ごうとルシャットⅡが膝を着いた瞬間、炎の中からもう一匹紺色の竜が飛び出して来た!

(しまった!?もう一匹いたのか!?)

「兄貴の仇ぃ!!」

 両手は祈るように硬く握られ、底から刃が生えている。それを振りかぶると、躊躇なく赤いマシンの頭上に振り下ろし……。

「させるか!!」


ドォン!!


「――がはっ!?」

「リキ!!」

 刃が振り下ろされようとした刹那、今度は黄色いルシャットⅢが炎から現れ、もう一匹の竜にタックルをかました!その強烈な一撃をもろに受けたドレイクは壁に叩きつけられると、“兄貴”とやらと同じところに旅立って行った。

「大丈夫ですか、マルさん?」

「あぁ、助かったよ」

 差し出された黄色のリキルシャットⅢの手を取り、赤いマルルシャットⅡが立ち上がると、キョロキョロと周囲を見回した。

「……もういねぇよな?」

「多分。仮にいたとしてもボスと我那覇副長が倒していると思います」

「だよな。多分この話聞いたら、姐さんご立腹だろうな。久しぶりにがっつりお説教食らいそう……」

 マルは「はぁ……」とため息をつきながら、肩を落とした。

「ポジティブにいきましょうよ。二体もドレイクを回収できたんですから、きっとそんなことにはならないですよ」

「だといいが……残る行方不明は一体だけか……」

 マルは目の前に裂く火花を見つめながら、しみじみと呟いた。



「消防タイプのルシャットが突入した。つまりシュヴァンツの勝利のようだ」

 燃えるビルを更に大きなビルの上から見下ろし、高級そうなスーツに身を包んだ男が愉快そうに、隣で携帯ゲームをしている少年に話しかけた。

「まっ、ノーマル量産品のドレイク相手に苦戦するようじゃ、ヌルゲー過ぎてボクが出るまでもないから……ねっと!」

 ゲーム画面にClearの文字がデカデカと表示されると、少年もオレンジに揺らめくビルに視線を移した。

「頼むよ、シュヴァンツ……ボクと『イーヴィルドレイク』を最高に楽しませてくれ」

 そう言うと、少年は少年らしい無邪気な笑みを浮かべた……。


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