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No Name's Fake  作者: 大道福丸
本編
52/194

姫竜結戦 その③

「シームルグ……?」

 フジミはそのまま聞き返した。あまりに予想外の提案に、言葉が見つからなかったのだ。

「はい。シームルグを装着してください。屈辱的なので、何度も言わせないで欲しいのですが」

「いや、でも……確かに実現したら、逆転の可能性もあるけど……そんなうまくいくとは……」

 少しだけ頭が冷え、頭が回り始めたフジミはマロンの提案の理屈は理解できたが、とても現実的な策には思えなかった。

「わたくしのメモリーにはかつてザッハークが選択肢は強者にあると言っていたそうですね?」

「ええ……そんなこと言っていたわ……それが?」

「今、この場で一番の強者は悔しいですがアジ・ダハーカです。マスターには選択の余地はありません。できるかどうかではなく、やるかやらないか……生きることを諦めないかどうかです……!」

「!?」

「無様でもカッコ悪くても最後まで諦めない……それがわたくしが、シュヴァンツのみんなが愛した“不死身のフジミ”です。やれることが残っているなら、やってみるべきです」

「……そうだ……最後まで諦めない……生きることに執着する……それがワタシ!不死身のフジミよ!!」

 冷たい闇の底に沈もうとしていたフジミの心に光が射し、熱が戻っていく!これこそが“不死身”の異名を持つ者の真骨頂だ!

「マロン!シームルグの場所は!?」

「すでにサーチ済みです」

 仮面の下のディスプレイにターゲットマーカーが表示され、ここまでの戦いの余波で元いた位置から移動し、埃を被っている腕輪がロックされる。

「見つけた!」

 へたり込んでいたシェヘラザードの足に力がみなぎり、立ち上がると、すぐさま腕輪の方へと跳躍した。すると……。

「よし!シームルグ、ゲットだよ!」

 あっさりとお目当てのものを、彼女にとって、シュアリーにとって最後の希望を手にすることができた。

「シェヘラザード、解除」

「了解」

 傷だらけの白と藤色の機械鎧が消え、生身の神代藤美が出てくる。そして、間髪入れずに彼女は腕輪を前に突き出し、名前を叫んだ!

「力を貸して!シームルグ!!」

「…………」

「――ッ!?」

 フジミの想いは、祈りはシームルグに通じなかった。

「くそ!出てこい!シームルグ!出てきてよ!?」

「無意味な努力はやめたまえ、神代藤美」

「偽桐江……!!」

 自分の頑張りを嘲る声のした方向に目を向けると紫の竜の六つの眼と視線が交差した。

「十年前、千人以上の人間が試して、装着できず、大栄寺クラウスがヘルヒネという劇薬の力で、命を対価に装着できたものが、都合よく君に力を貸すわけなかろう」

「くっ!?」

「追い詰められた君が最後にシームルグにすがる可能性も私は予想できていたが、予想した上で対策する必要ないと判断したのだよ。だから、君がそれを取りにいく時に邪魔をしなかった」

 アジ・ダハーカは手に持った槍の柄を、逆の手のひらにポンポンと叩きつけた。

「わかったろ、君にもうやれることはない……諦めて、自分の無力さに打ちひしがれていればいいんだよ」

「そんなみっともない真似!誰がするかよ!!」

 フジミは再びその手に持ったシームルグに視線を戻した。沈黙を貫く最後の希望に熱い眼差しを注ぐ。

「シームルグ!力を貸してちょうだい!ワタシには!シュアリーには!あんたの力が必要なのよ!!」

「無駄なことを……」

 必死に腕輪に呼びかけるフジミを、偽桐江は嘲り続けた。むしろ、ここまでくると憐れんでいると言った方が正しいかもしれない。

 だが、そんな視線など知ったことかとフジミは声を上げ続ける。

「シームルグ!あんた、昨日あいつに負けたんでしょ!?それでいいの!?負けっぱなしでムカつかないの!?」

「………」

「クスリの力があったとは言え、大栄寺クラウスと完全適合したんでしょ!?なら、あいつの想いを知ったはずよ!彼の怒り、無念さ……それを晴らしたいとか思わないわけ!?」

「………」

「腐ってもあんたPeacePrayerなんでしょ!平和を祈る者って言うなら、ここで立ち上がらないで、いつ立ち上がるのよ!!」

「………」

「この……!?薄情者!ビビり!頑固!アホ!バカ!」

「………」

「ポンコツッ!!!」


カッ!!


「えっ……?」

「何!?」

 突如として腕輪が強烈な輝きを放ち始める!光の中で腕輪は形を変えていく。緑色の鎧に……ではなく、別の形に。

 フジミが戸惑ったのは当然として、偽桐江も仮面の下で今日初めて顔を歪ませた。

「こ、これは……銃……?」

 光が消え、フジミの手に握られていたのは緑色の銃だった。フォアグリップのついた両手で構えるタイプの大型の銃だ。

「マロン!?特級ピースプレイヤーって銃にもなるの!?」

「わたくしのデータベースでもこんな事例は確認できません。ただそれが銃というなら撃ってみるべきじゃないでしょうか?」

「!?……そうね……それしか今のワタシ達に選択肢はないわね!!」

「はい、その通りです」

「もうなるようになれよ!シェヘラザード、再装着よ!!」

「了解」

 まだ傷が修復されていない白と藤色の装甲がフジミの全身に再び装着されていく。

 再度、顕現したシェヘラザードはシームルグが変形した銃のフォアグリップを左手を、右手でグリップを握り、銃口をアジ・ダハーカに向けた。

「さぁ……何が出るか何も出ないか……シームルグ砲!発射!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


「!!?」

「いいッ!?」

 引き金を引くと凄まじいエネルギーの奔流が撃ち出された。だが、あまりに凄まじ過ぎて、反動でシェヘラザードは吹っ飛び、せっかくの攻撃はアジ・ダハーカからかなり離れた空間を通過し、今までで一番大きな穴を開けて、そのままベルミヤタワーの外に飛び出していった。

「な、なんだこの威力は……」

 アジ・ダハーカの仮面の下の偽桐江の顔からは完全に余裕が失われていた。冷や汗をかき、表情筋がひきつる。

「くうぅ……すごい反動……」

「ですね」

「それに一発撃っただけで、すごい疲労感……今すぐベッドに横になりたい……」

「そうなんですか?」

「特級ピースプレイヤーらしく、人の感情や意志を力に変えてるのね……ワタシの精神力をごっそり吸い取られた……」

「ですが」

「ええ……これなら……!アジ・ダハーカも……!!」

 対照的にフジミの顔には活力が戻っていた。目には希望の火が灯り、青ざめていた皮膚が血色を取り戻す。

 完全に途絶えたと思っていた勝利への道が再び繋がったことが、彼女の闘志を震い立たせたのだ。

「連射はできない……これもチャージしない……」

「させるかぁ!!」

「!!?」

 今まで余裕をぶっこいて、ほとんど動かなかったアジ・ダハーカが目の色を変えて、突っ込んでくる!

「だりゃあぁぁぁっ!!」


ザンッ!!


「くっ!?」

 突進の勢いそのままに振り下ろされた刃が、シェヘラザードのマスクとボディーに一筋の傷を刻み込んだ。

 さらに紫竜は一撃で止まらずに、突きを連続で放つ。

「はあぁぁぁっ!!」

「この……!?」

 槍はシェヘラザードの装甲を抉っていく。けれど、紙一重のところでフジミは致命的なダメージを避け続ける。

「急に焦っちゃって……人間らしいところあるじゃない……!」

「あんなものを見せられてはな!まさか……こんなイレギュラーが起きるとは……!!」

「他人を見下すことしかできないからよ!敬意だとか尊敬だとか言うくせに、誰も敬ってないし、信じてもいない!だから、視野が狭くなるし、ちょっと自分の予想からはみ出たことが起こると取り乱す!あんたはやっぱり人の上に立つ器じゃないのよ!!」

「……その言葉、戒めとして深く我が心に刻みつけておこう……!」

「今さら学んだところで、あんたにそれを生かす場所はない!!」

「いや!私はお前を乗り越え、シュアリーの全てをこの手に収める!!だから、引っ込んでいろ!間男!!」

「ッ!?」


ボオゥッ!!!


「ザッハーク!?」

 シェヘラザードに気を取られている隙にザッハークは死角から強襲しようと試みた。しかし、アジ・ダハーカには彼の行動は読まれており、槍を横に薙ぎ払うと同時に発生した業火によって迎撃されてしまう。

「ぐうぅ……!?」

 ザッハークは床に転がって、その身を焼く炎をもみ消そうとした。そして、その行動は成功する……が。

「くっ……はぁ……はぁ……」

 けれども、やはりダメージは甚大だった。全身が焼け爛れ、節々から煙が立ち昇っている。

 それでも膝立ちになり、呼吸を整えようとする。だが、身体が言うことを聞いてくれない。傷も再生する様子を見せなかった。

(限界なんだわ……昨日の戦いのダメージに加え、アジ・ダハーカの攻撃も受け続け、さらには最強の必殺技を二発も撃った……もう再生能力に回すエネルギーが残っていないのね……この分だともう一発撃つので精一杯……だとすれば!今がワタシの!ワタシ達の全てを賭けられる最後のタイミング!!)

 満身創痍のザッハークを見て、フジミは確信した……今がこの勝負の分かれ道だと!ここで決断しなければ、自分達に明日は来ないと!

「ザッハーク!!」

「神代……」

「あれを!『オペレーション・トリプルP』発動よ!!」

「!?」

 その名前を聞いた瞬間、ザッハークの脳裏にこのタワーに突入する前、アジトでフジミと交わした会話が甦った。



「一つ、作戦を決めておきましょう」

「策だと?急造のタッグが取って付けたような連携をしても痛い目を見るだけだぞ」

「そんなこと言われなくてもわかってるわよ。だから、すごく簡単なこと」

「簡単?」

「そう、とても簡単よ。ワタシが“オペレーション・トリプルP”って言ったら、あんたは……」



「今がその時なんだな!神代藤美!!」

「「シャアァァァァァッ!!」」


ブシュウゥゥゥゥゥゥッ!!


「何!?毒霧か!?」

 ザッハークの肩から生えた二匹の蛇の口から紫色のガスが吐き出される。かつて二度ほどシュヴァンツの前から去るために彼が使ったあの毒霧だ。

 ガスはすぐにフロア中に広がり、アジ・ダハーカの視界からザッハークはもちろんシェヘラザードの姿も隠したのだった。

(ふん!何をするかと思えば、ただの目眩ましか……)

 一瞬だけ驚いたが、偽桐江はすぐに冷静さを取り戻した。本能的にここからは一手の遅れが勝敗を決することを、それを制するためには余計な恐れや焦りは消さなければいけないことをわかっているのだ。

(こんなもの三下や雑魚ピースプレイヤー相手ならともかく、私とアジ・ダハーカには通用しない……!この六つの目はただのはったりじゃないんだよ!!)

 どんな些細なものも見逃すまいと、左右三つずつ、計六つの眼がそれぞれ独立して動き回る。そして……。

(……!?大気の揺らぎ!!)

 僅かな、本当に僅かな空気の変化をキャッチした!

「そこだ!!」

 アジ・ダハーカはありったけの力を込めて、捻り出すように槍でその揺らぎを突いた!


ガギィン!!


「…………」

 槍はシェヘラザードの胴体を貫通する。

 アジ・ダハーカの仮面の下で偽物の桐江颯真はニヤリと口角を上げた。


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