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No Name's Fake  作者: 大道福丸
本編
51/194

姫竜結戦 その②

「オースペクルム」

 偽の桐江颯真が愛しい人の耳元で囁くように優しく呟くと、それとは真逆の禍々しい巨大な竜の骸骨が二つ現れた。

 骸骨は一つはザッハークを、もう一つはシェヘラザードの方を向いた。

 ザッハークを向いた骸骨は大きな口を開ける。そこには闇よりも黒い漆黒の空間が広がっている。そこに……。


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥ……


 ザッハーク、最強の一撃が撃ち込まれた!

 眩いという言葉では足りないほどの輝きを持っていた光の奔流は漆黒の空間の中に入っていき、ついには全て飲み込まれてしまった。

 蛇王超究逆鱗弾を飲み込んだ骸骨は口を閉じる。代わりにシェヘラザードの方を向いていた骸骨が口を開けると……。

「リフレクション」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


 光の奔流が飛び出した!骸骨に飲み込まれたはずの蛇王超究逆鱗弾が再び発射されたのだ!シェヘラザードに向かって!

「……な」

 シェヘラザードは突然のことに一歩も動けない。何が起きているか理解する前に光は彼女の眼前に……。


ドゴオォォォォォォォォォォォン!!!


 光の奔流はベルミヤタワーの外壁を貫き、まるで竜のように夜空に昇っていった。

 タワーの内部はその余波で白煙に包まれた。

「神代藤美!!?」

 ザッハークが叫んだ!まだ事態は把握していないが、タッグパートナーが自分の必殺技に飲み込まれたのを目にして、反射的に彼女の名前を叫んだのだ!

(ふざけるなよ……!今のは確かにオレの蛇王超究逆鱗弾だった……!それが、神代藤美に……オレの技であいつを殺してしまったら、我那覇空也にどう償えばいいんだ……神代藤美のことを頼まれたのに、自らの手で殺してしまったと、頭を垂れて謝るのか!?そんなことできるわけない!!お願いだ……もう一度だけ生きたあいつに会わせてくれ……神よ……今度こそオレの願いを聞いてくれ……!)

 ザッハークは神に祈った。父と母を失って以来、彼は自分を救ってくれる者など自分以外いないと祈ることをやめた彼が祈ったのだ。今の彼にはかつて見切りをつけた神にすがりつくしかできなかったのである。

「神代……」

 皮肉にもアジ・ダハーカと同じ数になってしまった六つの眼に意識を集中し、白煙のベールの奥に彼女の姿を探す。だが、一向に見つからない。

「まさか……本当に……」

 ザッハークの心にひびが入り、今にも折れそうに……その時。

「な、情けない声を出してんじゃないよ……!!」

「――!?神代藤美!!?」

 彼が今、何よりも聞きたかった声のした方向を向くと、装甲を展開し、肩の先や頬を溶かしながらも、健在のシェヘラザードが腹を抑えて、膝立ちになっていた。

「無事だったか!?」

「そうでも……ないさ……」

 フジミは絞り出すように声を出した。その様子を見ただけで、彼女が深刻なダメージを受けていることがわかる。

「やはりオレの攻撃が……」

「違います。わたくしのせいです」

「AIの……?」

「システム・ヤザタを咄嗟に最大レベルで稼働させました。これは装着者の生命さえ、保証できない代物なので、封印していたのですが……」

 マロンの電子音声には申し訳ないという気持ちがにじみ出ていた。彼女としても苦肉の策だったのだろう。

「き、気にするな……あのままじゃ、あんたもワタシも骨の一欠片も残らず、この世界から消滅していたんだから……それに比べれば……ぐっ!?」

「マスター!?」

「はぁ……だ、大丈夫だって……!!」

 息も絶え絶え、足もふらつきながらもシェヘラザードは立ち上がった……が。

「感動的な再会劇は終わったようだね。ならば今度は、今度こそは別れのシーンといこうか」

「アジ・ダハーカ!?」

 今まで黙ってフジミ達の会話を見守っていた紫竜が再び動き出す。持っている槍の切っ先を自らの力の反動で弱りきった姫様に向ける。そこから……。

「イグニス・アプト」


ボォン!ボォン!ボオォン!!


 火の玉が発射された!立ち上がることで精一杯のシェヘラザードは回避運動が取れない。


ドゴオォォォォォォン!!


 火球が着弾し、部屋中に熱風が吹き荒れる。

「ワタシ……死んじゃった?」

 咄嗟に目を瞑ってしまったフジミは爆音を聞いて、恐る恐るその目を開ける。すると、視界が高速で動いていた。

「これって……」

「バカなことを言うな。貴様を無事に帰すとオレは約束したんだ」

「ザッハーク!?」

 シェヘラザードはザッハークの腕にへの字の形で担がれ、移動していた。彼女は首だけ動かし、自分を助けてくれた者の顔を見上げた。

「あんたが助けてくれたの……!?ありがとう……」

「礼などいらん。オレには貴様が必要だからな」

「あんた……そんなにワタシのこと……」

「下らないことを言っていると投げ捨てるぞ」

「ごめんごめん……つい、こういうこと言っちゃう性格なのよね」

「こんな奴に頼らなければいけない……とは!!」


ドゴオォォォォォォォン!!


「シャァァッ!?」

「――ッ!?」

「ザッハーク!?」

 しゃべっている間も火の玉の雨は止んでいない。シェヘラザードを運搬している分動きが鈍くなったザッハークは肩から生えた蛇に攻撃を掠めてしまった。

「気にするな……オレの再生能力は知っているだろう?」

「それは……そうだけど……」

「人のことを心配する暇があったら、自分の回復に努めろ。オレ達が二人で力を合わせないと奴には勝てない……!!」

「――!?それって!?」

 ザッハークはアジ・ダハーカを視界に捉えながら、頷いた。

「あぁ、わかった……クラウスの最後のメッセージの意味が、奴の攻略法が……!!」

「本当に!?」

「奴が竜の骸骨を二つ出したのは見えたか?」

「ええ……一つがあんたの攻撃を飲み込んで、もう一つがそれをそのままワタシに撃ち返して来た……きっとあの骸骨でアンナを……!!」

 仮面の下でフジミは怒りから歯ぎしりをした。その僅かな声色の変化にザッハーク目敏く気づいた。

「憤る気持ちはわかるが、クールになれ……奴を仕留めるには冷静に状況を見極めなければ」

「……そうね……ふぅ……」

 ザッハークに説得され、フジミは自分の中の余計な熱を追い出すように息を吐き出した。

「話を戻すぞ。あの骸骨は見たところ、一つが攻撃エネルギーの吸収役になり、残った片割れがそのエネルギーを撃ち返す発射台になるようだ」

「なら、二つの骸骨を引き付けてる間に、本体に攻撃をすればいいってこと?」

「アジ・ダハーカの装甲を貫ける破壊力を持った者が三人いれば、それも正解、最善手だろうな。しかし、今奴と相対しているのは、オレと貴様の二人だけだ。そもそもそんな状況なら奴は戦闘という選択肢を取ってないだろう……奴は確実に勝てる相手としか戦わない……!」

「じゃあ、一体どうするのよ!?」

「だから落ち着け、神代藤美。もし三人必要なら、クラウスもそうメッセージを残しているはずだ……だが、そうではない!二人でいいと言った!二人で奴を倒せる術があるんだ……!!」

「勿体ぶってないで、早く教えてよ!!」

「二つの骸骨に同時に攻撃をぶち込むんだ」

「な!?」

「あの骸骨の口の中がどこに繋がっているのかは知らんが、今の行動、すぐに吐き出したのを見れば、きっと長い間エネルギーを留めておくことはできないのだろう……」

「じゃあ、あの骸骨に同時に攻撃をぶち込めれば……」

「あぁ、行き場を無くしたエネルギーが暴発する!その余波で本体にダメージを与えることができるかもしれん!いや、できるはずだ!!」

 ザッハークの目は確信に満ちていた。もしかしたらそう思い込みたかっただけなのかもしれないが。ただ、彼らに残された勝機がそれだけなのは、間違いなかった。

「わかった……正直、半信半疑だけど、それしか方法がないと言うなら、それに賭けるしかないわね……!!」

「あぁ、オレを信じてくれ……!!」

「あんたのことは……言われなくても信じてるわよ!!」

 特に合図をした訳ではないが、ザッハークはシェヘラザードを離し、両者は左右に広がった。

「マロン!話は聞いていたわね!」

「はい。すでに千夜のエネルギーチャージを始めています」

「グッド!」

 シェヘラザードは火の玉を避けながら、手に持った拳銃にエネルギーを溜め、それを解放するタイミングが来るのを待つ。

 ザッハークも同様だ。再び二匹の蛇の口に身体中から絞り出した力を集中させる。

 それを六つの眼で見つめているアジ・ダハーカは……。

「この動き……心はまだ折れていないか……どうやら何か企んでいるな」

 偽の桐江颯真は彼らが希望を抱いているのを感じ取っていた。ならば、それを摘み取る行動を取るのが道理というものだろう。

「そうはさせない。とりあえずちょこまかと動き回る足を止めさせて貰おうか……ニクス・カプト」

 アジ・ダハーカは槍の石突をトンと軽く床に叩きつける。すると……。


パキパキパキィン!!


「何!?」

 そこから氷が広がっていき、部屋がまるでスケート場のように床一面が氷で覆われてしまった。

「神代藤美!?」

「ワタシは大丈夫だ!!」

 フジミ達は氷が自分の足に届く寸前にジャンプして事なきを得た。しかし……。

「この一面、氷のフィールドで先ほどまでのスピードを出せるか?この光速の矢を避けられるか?フルメン・カプト……!」


バリン!バリン!バリリン!!


「ぐあっ!?」

「くッ!?」

 言葉通り、光の速さを誇る雷の矢が紫竜の槍から放たれ、シェヘラザードとザッハークの身体を貫いた。氷に足を取られ、回避しきれなかったのである。

「マスター」

「ワタシは平気よ……」

「ですが……」

「何個かもらっちゃったけど、致命傷になるような攻撃はしっかりと回避できた……!だから、ヤザタは使わない!マロン!あんたはエネルギーチャージに集中して!」

「……はい」

 マロンは渋々、主人の言葉に従った。正確には従わざるを得なかったと言うべきか。高性能AIである彼女でも、このチキンレースのような作戦以上のものを思いつかなかった。

 ザッハークもやはり同じで、多少のダメージには目を瞑り、急所を守ることと必殺技の準備にだけ神経を注いでいる。

 そこから暫く、二人は雷の矢で嬲られ続けた。

「マスター」

「――!?……できたの?」

「はい」

 必死に痛みに耐えながら待ち望んでいた言葉を聞くと、シェヘラザードは視線をタッグパートナーへと向けた。

 ザッハークもちょうど準備が整ったらしく、力強く頷いた。

「よし!行くわよ!!」

「はい」

「千夜フルパワーシュート!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 拳銃から一筋の眩い光が発射される。

「今度こそ!蛇王超究逆鱗弾ッ!!」

「「シャアァァァァァッ!!」」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 続けてザッハークも蛇の口から光の奔流を吐き出す。

 二人の溜めに溜めた渾身の一撃がアジ・ダハーカに左右から迫る。

「オースペクルム」

(よし!!)

(来た!!)

 二人の狙い通り、アジ・ダハーカは骸骨を二つ召喚した。

 一つは先ほどと同じくザッハークの方を向き、大きな口を開いた。

 もう一つはシェヘラザードを向いているが……口を開かなかった。

「何で!?」

「君の攻撃はオースペクルムで吸収する価値はないよ」

 骸骨は千夜のフルパワーシュートを避ける。光はそのままアジ・ダハーカの本体に……。


ジュウゥゥゥゥゥゥッ!!


「……ぐっ!?」

 光は直撃し、紫の竜は若干たじろいだ……それだけだった。シェヘラザードの最強の攻撃は紫のボディーに僅かに焦げ跡をつけただけで、弾かれてしまった。

「そんな……」

「神代藤美!!攻撃が来るぞ!!」

「!!?」

 絶望に沈むフジミに悲痛な声で指示を飛ばすザッハーク。彼の必殺技は以前同様、すでに吸収されていたのだった。

「リフレクション」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 千夜の銃撃を避けた骸骨の口が開き、蛇王超究逆鱗弾が吐き出された。

 虚を突かれたシェヘラザードは動けない!いや、動く必要などなかった。


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ……


「………な」

 彼女の横を光の奔流が通りすぎる。この光は再びタワーに穴を開け、漆黒の夜空の向こうに消えて行った。

「わざと……わざと外したな!!貴様!!!」

 本物の桐江颯真は自分の名を語る偽物の自分達の努力を嘲笑うかのような行為を激しく糾弾した。そのおかげで大事なパートナーが助かったにも関わらず……。頭ではわかっていても戦士としてのプライドと本能が声を上げさせたのだ。

「フフッ……そう怒るなよ。君達をバカにした訳ではない。君たちに心の底から尊敬しているからの行動だ」

「どこがだ!?」

「誰よりも気高い追跡者である君たちに完全勝利するには、肉体を破壊するのでは駄目なんだよ……心を闇に沈めなくては!」

「オレが!十年もの間、屈辱に耐えてきたオレがその程度で折れると思ったか!!」

「君は平気でも、彼女はどうかな?」

「な!?」

 ザッハークは視線を仇敵から相棒へと移動させた。

「神代……藤美……!?」

 シェヘラザードはペタリとへたり込んで、何もない空間を見下ろしていた。

「彼女は……駄目みたいだね」

「そんな……神代藤美!!!」

 ザッハークの声はフジミの耳に届いても、心には届かなかった。

「シェヘラザードの最大火力が通じない……これじゃあ、わざわざ骸骨で反射する必要なんて……ない……!」

 一人ぶつぶつと今、起きたことを振り返ると、自分の置かれている状況のどうしようもなさが再認識できてしまい、さらに彼女の心は闇に沈み込んでいった。

 フジミの心を救い上げる者はいないのだろうか……いや、すぐそばにいる!

「マスター」

「マロン……何?」

「申し訳ありません。あくまでシェヘラザードは市街地での、暴徒の相手をすることを想定していたので、過剰な火力は逆に使い勝手が悪くなると、あまり重要視していませんでした」

「いいのよ……こんな強くて硬い奴と会うことなんて、誰も思わないわよ……アンナの考えは正しい……」

「けれど、このままではシェヘラザードの、わたくしの開発された一番の目的であるシュアリーの平和の維持が不可能になります」

「そうね……」

「ですので、個人的にとても悔しいのですが、もっと火力のあるピースプレイヤーに乗り換えることを推奨します」

「…………え?」

「ですから、マスターはシェヘラザードではなく、新たなピースプレイヤーを装着するべきです」

「ちょっと待って?そんなものどこに……?」

「あります。わたくし達の敵がわざわざ持って来てくれたじゃないですか……シュアリー屈指の特級ピースプレイヤー、“シームルグ”を」


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