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No Name's Fake  作者: 大道福丸
本編
50/194

姫竜結戦 その①

 神代藤美とザッハークは猛然と非常階段を駆け上がった。振り返ることもせず、ただただ上を目指して足を動かす。そして……。

「はぁ……はぁ……ここが最上階か……」

 本来想定されているベルミヤタワーの一番上の階にたどり着いたのだ。

「ここまで妨害がなかったけど……」

「そんなことをする余裕がないのか、それとも逆に余裕の表れか……」

「多分、後者ね。傲慢で他人を見下すことしかできないあいつの場合は……!」

「だろうな」

 二人は背中合わせになって、ゆっくりと回りながら、このフロアを注意深く観察した。

「ここも罠みたいなものは無さそうね」

「だが、我那覇空也の言っていたさらに上にあるという隠し部屋への道も見当たらない」

 忙しなく眼球を動かして、目的のものを探すが、特に変わった様子は見受けられない。

「じゃあ、時間もないことだし、ちょっと強引な手を使いましょうか……」

「貴様……まさか……?」

「そのまさかよ。このタワーを汗水垂らして作ってくれた人達には悪いけどね」

 フジミは愛機を懐から取り出し、顔の横に翳した。

「紡げ!シェヘラザード!!」

 光と共に白と藤色の装甲が現れ、フジミの身体を覆っていく。そして、再び冠を被った女性的なフォルムが特徴的なピースプレイヤーがタワーに見参した。

「マロン、千夜を」

「はい」

「そしたら、チャージを始めて」

「もう既に開始しています」

「話が早くて助かるわ」

 召喚された拳銃にエネルギーが集まっていく。それをザッハークは横で眺めていた。

「いや、ぼーっとしてないで、あんたも」

「はぁ……こんな野蛮なやり方しか思いつかないとは……」

「そう言うなら、あんたは他にいい方法が思いついたっていうの?」

「ないから、嫌気がさしているんだ、自分にな……!」

 フジミに促され、ザッハークも気合を入れ直す。全神経を研ぎ澄まし、意識を集中する。

「ふぅ……蛇王降臨」

 深呼吸を一度してから、彼自身が決めた若干痛々しい変身の合図を呟くと、ザッハークの全身がおどろおどろしい紫色に染まっていき、穏やかな顔が見る者全てに恐怖を与える恐ろしいものに変わる。そして、最後の仕上げに彼の代名詞とも言える二匹の蛇が両肩から生えてきた。

「で、どこを狙えばいい?」

「あそこらへんでいいんじゃない?」

「了解した」

「「シャアァァァァァッ!!」」

 シェヘラザードが指差した天井の部分に向けて、ザッハークの二匹の蛇は大口を開けた。すると、蛇の口に光の粒子が集まっていく。彼もエネルギーを溜めているのだ。

「んじゃ、321で。まぁ、カウントはマロンにやってもらうんだけど」

 シェヘラザードも自分で指定した地点に千夜の銃口を向ける。

「それじゃあ、マロンお願い!」

「はい。カウント3……2……1……0!」

「千夜!フルパワーシュート!!」

「双蛇剛弾撃!」

「「シャアァァァァァッ!!」」


ドゴオォォォォォォォォォォォン!!!


 マロンの声を合図にして二人は溜めていた力を同時に解き放った。

 三本の光の奔流が天井の一点で交わり、そのまま貫くと、人が余裕で通れるほどの穴がぽっかりと空いた。

「よし!ザッハーク!」

「あぁ」

 破壊の余波で埃が舞う中、二人はお互いに目を見つめ、意志を確認し合うと、これまた同時に頷いた。

「行くぞ!!」

「おう!!」

 シェヘラザードとザッハークは地面を蹴り上げ、いましがた自分達が開けた穴に向かって跳躍した。

 穴を通り抜けると、そこには大きな空間が広がっており、二人はそこに着地をした。

「よっと!」

「神代藤美!」

「ええ!」

 着地と同時に、再度背中合わせになった二人はまた周囲を見渡した。ただし今度は二匹の蛇も一緒だ。

「ここがクウヤの言っていた隠し部屋……でいいんだよね?」

「さぁな……オレにわかるわけないだろう……」


「いや、正しいよ」


「「!!?」」

 突如として聞こえてきた声に二人の身体は即座に反応!一斉に声のした方向を向いた。

「この声は……」

「聞き間違えるわけない……オレ達のターゲットの声だ!!」

 彼女達が心の底から再会を待ち望んだ男、その男が漆黒の暗闇の中から姿を現した。

「ずいぶんとダイナミックな登場だね、“華麗なるフジミ”」

「桐江局長……!」

 偽物の桐江颯真はこの国でトップクラスの二人の強者に睨まれていても、飄々とした態度を崩さなかった。

 なぜなら彼自身がこの国のトップに立つ実力者だと自負しているから、フジミ達のの上にいると……。

「まさか私の元までたどり着くとは……君には驚かされてばっかりだよ」

「で、自分の予想を越えるから始末すると……」

「昨日も言ったが、優秀すぎるというのは手駒としては不適格なんだよ」

「なら、分を弁えて、向上心もなくあんたの指示に従っていればいいって言うの?」

「その通りだ」

「ワタシとは流儀が違うわね……上司としての流儀が!!」

 フジミは声を荒げた。シュヴァンツの隊長として今まで悪戦苦闘しながらも自分の信じた道を歩いてきた彼女には、偽物の今の言葉は見過ごせなかったのである。

「上に立つ者っていうのは、部下の才能を極限まで!いや、それ以上に伸ばしてやるのが一番の使命でしょ!!」

「組織とは代替可能な手足を、代替不可能な優秀な頭脳が扱うことが理想的な形なのだよ。下の者は何も考えず、言われるがまま上司の命令を遂行していればいい」

「そんなものはチームじゃない!みんながみんなそれぞれの意志を持ちながらも一つの目標に向かう!それがいい組織だ!信頼や絆がない組織などいずれ崩壊するだけよ!!」

 ヒートアップしていくフジミ。

 一方、彼女とは対照的に偽桐江は冷めていき、やれやれと首を横に振った。

「ふぅ……どうやら君とはこれ以上議論しても無駄なようだね」

「ええ……あんたとワタシは永遠に平行線、決して交わらない……!」

「ならば、このまま私の目の前から消えてくれないか?君達の頑張りに敬意を表して、二度と私に関わらないと誓ってくれるなら、見逃してあげよう」

「そんな提案……オレ達が飲むと思っているのか……!!」

 ザッハークは今にも飛び出しそうだったが、必死に堪えていた。誰よりも実力を認めていた大栄寺クラウスが敗れたことが、彼を慎重にさせていた。

 そんなザッハークの、本物の桐江颯真の想いを偽物は踏みにじる。

「フッ……そうは言っても、君達もこうはなりたくないだろう?」


カランカラン……


「ッ!?」

「なんだ!?」

 偽物が懐から何かを取り出し、投げ捨てた。

 フジミとザッハークは得体のしれないそれに身構える。しかし、一向に何も起こらない。

「何のつもり……?」

「よく見てみろ……少なくともザッハーク、君は知っているはずだろ?それが何か……」

「なんだと……?」

 偽物野郎の指示に従うのは癪だったが、胸騒ぎのしたザッハークは目を凝らして、彼が投げ捨てたものを見つめた。

「これ……は!!?」

「気がついたか」

「シームルグ……!」

「えっ!?」

 驚愕するザッハークにつられて、フジミも落ちているものを凝視した。それは二の腕に嵌めるタイプの腕輪だった。

「あれが……シームルグなの?」

「あぁ……待機状態のな……!!」

 二人は示し合わせたわけではないが、同時に顔を上げ、再び偽桐江に目を向けた。

 その彼女達の視線を一身に受けた偽物野郎は……ニヤリと醜悪な笑みを浮かべる。

「嫌だろ?大栄寺クラウスのように……無駄死にするのは……!!」

「!!?」

 ザッハークは自分の身体の奥から音が鳴るのを聞いた。

 それは何かがキレる音なのか、スイッチが入る音なのか、それとも決壊する音か……。

 ただ確かなのは、その音を聞いた瞬間、ザッハークは……。

「キサマァァァァァッ!!!」

 咆哮を上げ、駆け出していた!

 二匹の蛇を含めた計六個の眼は全て自分から家族を、仲間を、名前を奪った外道を睨み付け、一刻も早く目の前にいる男を殺したいと血走っている。

「マロン!ワタシ達も行くよ!」

「はい」

「一夜を!」

「了解」

 僅かに遅れてシェヘラザードも鉈を呼び出しながら、かつての敵、今は最高に頼れる仲間の後に続く。

「蛇王刀!!」

 ザッハークは肩の蛇の口から湾曲した刃を持つ刀を引き出し、頭上に掲げた。

 その隣で追い付いたシェヘラザードも鉈を振りかぶる。そして……。

「でりゃあぁぁぁっ!!」

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

 三本の刃を一斉に偽桐江颯真に振り下ろした。

「支配しろ、アジ・ダハーカ」

 偽桐江は本物の桐江から奪ったピースプレイヤーの名前を呼ぶと、指輪が光を放ち、紫色の鱗と冠、そして左右三つずつ計六つの眼を持つ紫の竜を身に纏った。

 その手には杖が握られていて、それで……。


ガァン!!


「くっ!?」

「ちいっ!?」

 三つの刃を受け止めた。ギリギリと杖の柄と刃が触れ合っている部分が不快な音を鳴らす。

「この……!!」

 シェヘラザードが両腕に力を込めるが、一向に刃は先に進まない。

 そんな懸命に無駄な努力を続けるお姫様の姿をアジ・ダハーカの六つの眼が捉える。

「残念だよ、神代君。本当ならピースプレイヤーではなく、お洒落をして、ここでワインを飲むはずだったのに」

「知らないみたいだから、教えてあげる……竜の家紋を持つ家の人間はお酒を飲まないんだって!そうでしょ!ザッハーク!!」

「そうだ!そんなことも知らないで!桐江の名を語るなぁ!!」

 ザッハークもさらに二本の刀に力と体重、そして怒りを乗せる。

 すると徐々にだが、刃を受け止めていた杖が下がっていった。

「ぐうぅ……さすがに二人がかりはきついか……!」

「このままこの棒切れごと叩き斬ってやる!!」

「それは勘弁だな……今、桐江颯真を演じる上で重要な情報も知れたことだしね……」

「まだ言うか!!」

「私を黙らせたいのなら、頑張って我が命を断ってみせるんだな……君達には無理だろうが!イグニス・アプト!!」

「「!!?」」


ボォウ!!


 杖から炎が噴き出した!咄嗟にシェヘラザードもザッハークも後ろに跳躍し、間合いを取る。

「反応速度も素晴らしいな」

「あんたに褒められても!!」

「では、代わりにこれを……」

 アジ・ダハーカは杖を横に振るうと、その通り過ぎた空間にいくつもの火の玉が出現した。

「私からのプレゼントだ」

 火の玉は次々と発射され、二人に襲いかかった。

「そんなもの!!」


バン!バン!バァン!!


 シェヘラザードは時に避け、時に千夜で火の玉を撃ち落としながら、再び紫の竜に向かって行った。

「なめるなッ!!オレがその程度で怯むと思うてか!!」


ザンッ!ザンッ!ボォン!!


 ザッハークは刀で火の玉を切り払うが、数が多くて全ては仕留め切れない。しかし、身体に着弾しても彼の足が止まることはなかった。

 そして、再びアジ・ダハーカを刃の射程に捉える。

「今度こそ!」

「斬り裂く!!」


バギン!!!


「な……」

「にぃッ!?」

 一夜と蛇王刀をありったけの力を込めて紫竜の身体に叩きつけた……が、砕けたのは攻撃を受けたアジ・ダハーカではなく、攻撃をした刃の方だった。二人の前に自分の得物の欠片がキラキラと舞い散る。

「大栄寺クラウスにも言ったが、君達にも言おうか……アジ・ダハーカの防御力はこの国、いやこの世界のピースプレイヤーの中でも最硬だと私は自負している」

「くっ!?」

「ダハーカ・クロス、ブレード展開」


ザンッ!!


「――ッ!?」

「くそッ!?」

 刃を展開し槍へと姿を変えた杖を横に凪ぎ払う。シェヘラザードとザッハークは回避しようとしたが、僅かに反応が遅く、胸元に傷をつけてしまった。

「浅かったな……ならば質より量でいこうか」

 アジ・ダハーカは火の玉と槍の突きでシェヘラザード達を翻弄する。

 渾身の一撃を防がれた二人は反撃の手立てを見出せず、回避に専念するしかなかった。

「この……!?」

「ほらほら!どうした!もうギブアップか!?」

「ふざけるな!!」

「粋がったところで、君達にアジ・ダハーカの防御を打ち破る術はない。この身体に傷をつけられるとしたら、我那覇君達三人の合体技だけだろうね」

「なっ!?」

 フジミの中でバラバラだった点と点が一本の線で繋がった。

「だから、ワタシ達を始末しようと……」

「昨日も言ったが、優秀過ぎたんだよ、君達は」

「だったら、“無敵のティモシー”なんかと戦わせるんじゃない!!あの技はあいつを倒すために……!」

「フッ、後藤の情報では彼の能力の肝は水分……そこら辺にあるスーパー、コンビニで適当な粉を拝借して、彼にぶち撒ければ、水分を失い無敵は無効化できたんだよ。それをあんな力業で無理矢理突破するなんて……」

「なっ……それならそうと最初に言っておきなさいよ!!」


キン!キン!キィン!!


「それは悪いことをしたね」

「ちっ!?」

 魂の叫びと共に引き金を立て続けに引いた。フジミからしたらティモシー戦はかなり苦しんだ最悪の戦いだったからだ。

 けれど、例えどんなに激しい怒りが込められていてもノーマルモードの千夜の弾丸では紫竜の鱗は貫けない。

「この!!」


ジュウ……


「無駄だ」

 ザッハークも蛇から強酸性の液体を吐きかけるが、これまた通じない、

「くそ!?やっぱりマル達を連れて来た方が良かったのかしら!?」

「いえ、今の彼らのコンディションならば、完璧なギードライブは撃てないでしょう。そもそも撃つ前に始末されてしまうかと」

「そうね……確か……」

「神代藤美!!」

「――!?」

 ザッハークに名前を呼ばれ、そちらを向くと二人の視線が一瞬だけ交差した。

 彼らにはそれだけで十分だった。

「マロン!行くわよ!!」

「はい」


バン!バン!バァン!!


「学習能力がないな」

 縦横無尽に移動しながら、シェヘラザードはアジ・ダハーカを銃撃した。しかし、結果は先ほどと同じ……。

 そんなことは彼女もわかっている。

(少しでいい……少しの時間だけザッハークから注意を逸らせれば……!!)

 フジミはザッハークと目が合った時、彼の意図を察した。

 集中する時間を作って欲しいと願う彼の心を。

「はあぁぁっ……」

 狙い通りフリーになったザッハークは足を肩幅に開き、新鮮な空気を吸い込んで、意識を二匹の蛇に集中させた。

 二匹の蛇は大きな口を開き、そこにまた光の粒子が集まる……いや、先ほどよりもずっと多い!

「これが……オレの……ザッハークの!最強の技だ!!“蛇王超究逆鱗弾ッ”!!!」

「「シャアァァァァァッ!!!」」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


 蛇の口から圧倒的な輝きと熱量を放つ光の奔流が発射された。

 奔流は大気中の水分を蒸発させながら、真っ直ぐとアジ・ダハーカに向かう。

 それを見て偽の桐江颯真はマスクの下で口角を上げた……あの時のように。


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