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No Name's Fake  作者: 大道福丸
本編
38/194

本物

「…………はい?」

 リキは桐江局長の言葉を何一つ理解できず、間抜けな声を上げた。いや、混乱しているのは彼だけではない。

「んん!?自分のことバカだと思ってたけど、予想以上だ!なにがなんだかさっぱりだ。それとも頭じゃなくて耳が悪いのか!?」

 マルは完全に頭が真っ白になっていた。

「お前に同調するなんてしたくはないが……俺も同じだ、勅使河原……」

 シュヴァンツの頭脳とも言えるクウヤも思考停止状態に陥った。

「今の話……ザッハークが本物の“桐江颯真”ってどういう意味ですか、局長……?」

 部下達の下に合流したフジミは桐江の言葉をそのまま聞き返した。というより、それ以外の言葉が思いつかなかったのだろう。

 桐江は戸惑い、精悍な仮面の下で目を点にしている彼らを見て笑みを浮かべた。いつもより不敵で、そして醜悪な笑みを。

「意味も何もそのまんまだよ。そこにいるザッハークが本物なんだよ。なぁ、そうだろ?君なんだろ?桐江颯真くん……」

「貴様ァ!!ぐっ!?」

 ザッハークは今にも喉元を噛みきってやろうと言わんばかりに激昂した!しかし、やはりダメージが大きく身体は動いてくれない。

「フフッ……さすがだな、シュヴァンツ。ここまでやるとは私も鼻が高いよ」

「ぐうぅぅぅッ!!?」

「局長……ザッハーク……」

 フジミはザッハークを見下し、嘲り笑う桐江を見て、不信感を募らせた。今の彼はこの国の平和を憂い、彼女の心を動かしたあの桐江颯真ではない。

「私が信じられないかね、フジミ君?」

「!!?」

 フジミの心を桐江は見透かしていた。思っていることを言い当てられ、蛇のような眼で見つめられると百戦錬磨の不死身のフジミも思わずたじろいだ。

「その感覚の鋭さ、本当に優秀だ。だがね、フジミ君、君も人の上に立つ人間なら覚えておくといい」

「な、何を……?」

「手駒が優秀なのは喜ばしいが、優秀過ぎるのは考えもの……邪魔で仕方ない」

「邪魔……ワタシが?」

「君だけじゃない、君のチーム全てがさ」

 桐江はきょとんとするフジミから視線を移し、彼女の周りの部下達を見渡した。

「おれ達も……」

「邪魔だというのですか!?」

「だとしたらどうするというのだ、あなたは!?」

 マル達も邪魔だと言われて、混乱モードからお怒りモードに移行する。ことと次第によっちゃ戦うのも辞さないといった感じだ。

 だが、桐江は動じない。最初から彼もそのつもりなのだから。

「いやいや邪魔になったものは始末するに決まってるだろ……シュヴァンツ……!」

「な……!?」

 桐江は今までで最も邪悪な顔で笑いかけた。この顔こそが彼の本性なのだ。

「君達は強い……強いが、私の予想を超えてしまうのはやり過ぎだ。その強さは私の十年来の計画に支障をきたすかもしれない」

「計画……?十年……?」

「そうだ、忘れもしない十年前だ……私の計画が、桐江颯真としての人生が始まったのは。君もよく覚えているだろ、本物くん?」

 桐江は再び地面を這うザッハークを見下し、嘲笑した。

「そうだ!オレはあの日全てを奪われたんだ!父と母の命を!名門桐江家の権力を!オレが受け継ぐはずだったピースプレイヤーも!名前も!全てだ!貴様がオレの家に火を放ったあの日からオレはこの世から居場所を奪われたんだ!!」

 それは魂の咆哮だった。どこか達観しているように見えたザッハークの、いや本物の桐江颯真の心の底からの叫びだ。

「十年前……火を……?」

「その時に始末したと思っていたんだが、紫色の怪人が現れたと聞いて、ピンと来たよ。あぁ、生きていたんだ、桐江家の家紋を模した力を手に入れ、私に復讐に来たんだ……と」

「じゃあ、本当にザッハークが本物の……加害者が被害者と入れ替わっていたのか……!?」

「その通りだ……空也」

「!?……クラウス……」

 大栄寺クラウスが足を引きずりながら皆に合流し、自分をこんな目に合わせたクウヤに話しかけた。

「こいつは桐江颯真のふりをしながら、この国を乗っ取る準備を虎視眈々と進めていたんだ」

「シュアリーを乗っ取る……?」

「あぁ、そしてそのために必要なシステムを開発し、技術開発局の局長の座を争うライバルであるプロフェッサー飛田を殺し、その罪を彼女と交流があり、密かに調査を進めていたおれに被せやがった……!!」

「なっ!?」

 クウヤは思わず膝から崩れ落ちそうになった。いや、彼の心は今まさに粉々に崩れ去ったのである。この三年間、テロリスト大栄寺クラウスを追って来た怒りの心が……。

「なんで……なんで、言ってくれなかったんですか……?」

「言えるわけないだろ……お前まで犯罪者の汚名を着せられることになっちまう……!あいつの権力なら、それぐらい朝飯前だ!」

「だから、あなたは俺の前から……」

 クウヤは情けなくて仕方なかった。尊敬する先輩を信じられなかった自分が、悪魔の手のひらの上で何も知らずに踊らされていた自分のことが……。

「お前がこいつ直属の部隊に配属されたのは、正直驚いたぜ……」

「俺は何も知らなくて……」

「だろうな。お前と久しぶりに会った時にマジでおれに対して怒り狂ってるのがわかった。部下達は何も知らされてないんだなと思ったよ。だが……まさか女隊長まで何も知らないとはな……」

 クラウスとフジミの視線が交差する。

「あなた達との会話で度々感じていたズレみたいなものって、そういうことだったのね……でも、ワタシは何も知らされていないわ。何もね……!!」

 フジミとクラウスが再び桐江の方を向いたことによって、皆の視線が一点に集中した。

「フッ……秘密の計画とは知っている人間が少なければ少ない方がいい。だから私は誰にもこの計画を打ち開けていない。フジミ君、君だけじゃなくて、ザカライアにも言ってないよ」

「なっ!?」

「ザカライアだって!?」

「…………」

 予期せぬ名前の登場にシュヴァンツに再度激震が走る。

 一方、ザッハークとクラウスはそこまで驚かなかった。そのことを知っていた、知っていたからこその今までの行動なのである。

「彼は君達に負けず劣らず優秀だったよ。シュアリーに危機感を与え、新型ピースプレイヤー開発の気運を高め、さらに私の周りを鬱陶しく飛び回るハエどもをこうして私の前に引きずり出してくれたんだからね」

「そうか……だから、ザッハーク達は深沢や後藤と接触しようと……」

「あぁ、おれとザッハークはコーダファミリーと奴の繋がりを見つけ、白日の下に晒してやろうとしていたのさ……そうでもしねぇと、おれの汚名返上は叶わないからな……!」

「悲しいな……全て徒労に終わってしまったというわけだ……そこにいるシュヴァンツのせいでね」

「野郎!!」

「マッチポンプだったと言うんですか!?」

「そういうことになるな。君達には本当に感謝しているんだよ。君達のおかげで私の計画は最終段階に入ることができた。だが、ここまでだ。知っているかい?“コーダ”も“シュヴァンツ”も“尻尾”って意味なんだ」

「尻尾……」

「尻尾は切り捨てられるものなんだよ」

「「「!!?」」」

 今の一言で完全にマル達は限界を超えた。これまでザッハークやクラウスに向けられていた怒りの炎がさらに火力を増して、上司だった男に向けられる。

「やれるもんならやってみろよ!!」

「自分も……もう我慢できません!!」

「お前が切ったのは!俺達の堪忍袋の尾だ!!」

 三匹の竜が一斉にかつての上司、今はこの世で最も嫌悪すべき敵に飛びかか……。

「待ちな!!」

「「「!!?」」」

 彼らが動く直前、フジミがそれを制止した。

「姐さん!止めないでください!!」

「そんな必要ないでしょうに!?」

「空気を読め!隊長だろ!?」

「わかってる!!」

「――ッ!?」

「……ボス……?」

「わかってる……けど、少しだけ時間をちょうだい……」

 よく見るとシェヘラザードは小刻みに震えていた。フジミも彼らと同じなのだ。今すぐにでも殴りかかってやりたい。

 けれど、その前にそれを抑え込んで、やらなければ、聞かなければならないことがある。

「桐江局長……と呼ぶべきかしら……?」

「あぁ、今は私が桐江颯真だ」

「そう……それで、あなた……」

「ん?何かね?」

「…………あなたが栗田杏奈を殺したの……?」

 フジミが必死に声を振り絞って出した質問を受けて、桐江はまた口角を上げた。

「栗田杏奈か……彼女は特に優秀だったね。ドレイクを超えるシェヘラザードの開発に、我が計画の核心にまで迫っていた……私、自らの手で葬ったのは、最上級の敬意の表れだよ」

「――ッ!!!」

 この場にいるシュヴァンツはもちろん、ザッハークやクラウスも、桐江以外の全ての者の気持ちが一つになった。

「あんたは!あんただけは絶対に許さない!!!」

「そうだ!許しちゃいけないんだ!こんな奴!!」

「自分たちの全身全霊をかけて!」

「叩き潰してやる!!!」

「行くぞ!みんな!あいつのくそみたいな野望をシュヴァンツの手で終わらせる!!」

「うす!」「はい!」「おう!」

 今度こそシェヘラザードを加えたシュヴァンツの戦闘メンバー全員が生身の桐江に襲いかかる!……はずだった。

「愚かな……君達はいつまで経っても、私の手の中なのだよ。『ダエーワシステム』……発動」

 桐江はおもむろにポケットの中からスイッチを取り出し、押した。


ビリリッ!!


「「「!!?」」」

 突如としてマル、リキ、クウヤ三人の身体に電流が走ると、動きが止まった。いや、動きだけではない……。

「ど、どうしたの、あんた達……?」

 部下の異変に気付いたフジミも足を止め、彼らに呼びかける。

「ねぇ、マル!?」

「…………」

「リキ!?」

「…………」

「クウヤ!!」

「…………」

 しかし、誰も返事をしない。その場で立ち尽くし、ぼーっと下を向いているだけ。まるで糸の切れた操り人形のようだった。

「どうして……一体、何が……?」

「無駄だ。今の彼らの身体のコントロールは彼らにはないからね」

「……えっ?」

「そう……ピースプレイヤーから発せられる電気信号によって、装着者である人間を人形に変え、意のままに操る!これこそが『ダエーワシステム』!プロフェッサー飛田が生み出した、いや生み出してしまった狂気の発明にして、私の計画の要だ!!」


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