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No Name's Fake  作者: 大道福丸
本編
36/194

因縁の相手 その①

 イヴォーとその背中に乗るシェヘラザードは一直線にザッハーク達の下に飛んで来ていた。何をしに来たかは彼女の全身から漏れ出る敵意から明らかだ。

「どうやらオレ達を始末しに来たようだな……」

「後藤を奪いに来ることを読んでいたか!小癪な女だ……!!」

「まぁ、政府の犬どもとはいずれ決着をつけねばならんと思っていた……その時がやって来たというだけだ!」

「シャアァァァッ!」「シャアッ!」

 ザッハークの肩から伸びる蛇が、イヴォーに向けて大口を開けた。すると、その口の周辺に光が集まっていく。

「双蛇剛弾撃」

「「シャアァァァッ!!」」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


 蛇の口から光の奔流が放たれた!光は大気を焼き尽くしながら、フジミとそのペットに襲いかかる!

「凄まじい威力に、弾速も申し分ない……だけど!あんたなら避けられるでしょ!イヴォー!!」

「キイィィィィィィッ!!」

 シェヘラザードがイヴォーの背中をギュッと掴むと、獣はきりもみ回転をしながら、光の間をくぐり抜け、怪人の攻撃を回避した。

「そうそう!それでこそ苦労して屈服させた甲斐があるってもんよ!」

「キイィッ!」

 フジミはこの時のために獣使いの深沢の従者でもある三匹のオリジンズを全て手懐けていた。彼女自身、少しでも手札を増やそうと考え、思いついた方法がこれだったのだが、思いのほか彼女には合っていたようで深沢と同等かそれ以上にイヴォーを操っている。

「マロン!千夜を!!」

「はい」

 続いてフジミは多機能拳銃を呼び出し、流れるように狙いをつけると、そのまま引き金を引いた。

「お返しよ!!」


バン!バン!バァン!!


「ちっ!?」

「鬱陶しい!!」

 狙いはザッハークとルシャットの間、彼らを引き離すためだ。そして、彼女の思惑通り、彼らは散開した。

「戻れ!妖艶なるイヴォー!!」

「キイィィィッ!」

 フジミは獣封瓶にイヴォーを戻すと、衝撃を吸収するために転がりながら、橋の上に着地した。

「よし!まずは……」

「おれだろ!!」

 着地直後に襲撃してきたのは灰色のルシャットだった。王冠を被ったような頭部に向かって、容赦なく蹴りを放つ。

「遅い」

 しかし、シェヘラザードはあっさりとバックステップで回避。

「まだ!まだァ!!」

 だが、それにルシャットは食い下がる!そのまま距離を詰め、拳のラッシュを繰り出した。


ガンガンガンガンガンガンガン!!


「くっ!?」

「だから遅いのよ」

 ルシャットの猛攻をシェヘラザードは全て捌いた。時に回避され、時にはたき落とされ、ルシャットの拳は彼女に触れることはかなわなかった。

「これが新型の力か……!!」

「そうよ……これがシェヘラザードよ!!」


ガァン!!


「……がはっ!?」

 シェヘラザードは逆に腹部に蹴りをお見舞いしてやった。吹っ飛ぶルシャット、それにさらに……。


バン!バン!バァン!!


 千夜で追撃する。弾丸は真っ直ぐとルシャットに向かっていく。

「くっ……!いつまでも!好き勝手にされてたまるかよ!!」

 ルシャットは足が地面に着くと同時に、力の限り蹴り上げ、橋の端に向かって、方向転換した。普通の拳銃の攻撃ならこれで回避は完了だ……普通の拳銃なら。

「ホーミング」

「なっ!?」

 あろうことか光の弾丸もルシャットの動きに合わせて、軌道を曲げた。そして……。


ガンガンガァン!!


「ぐっ!?」

 弾丸は全て灰色のボディーに命中した。ルシャットはそのまま橋の下に弾き出される。

「この………アンカー!!」

 けれど、ルシャットは手首に装備されたワイヤー付きアンカーを射出、柱に巻き付けることで、川に落ちるのを防いだ。

「よくも……やって……くれた……なっと!!」

 両足を動かし、ブランコのように反動をつける。そして、その勢いを利用して橋の上に戻ってきた。

「はぁ……はぁ……さっきの曲がる弾丸はなんだ……?その拳銃の機能か……?他にもあるのか……?」

「さぁ?試して見ればいいんじゃない?」

「フッ……それもそうだな!!」

「やめろ!クラウス!!」

「!?」

 フジミのあからさまな挑発に乗って、第二ラウンドを開始しようとしたクラウスをザッハークが制止した。二人の視線が紫の怪人に集中する。

「ザッハーク……!」

 神代藤美は拳をギュッと握りしめ、必死に感情を抑え込んだ。我慢するのは今だけ……敵意も憎しみも怒りも全てぶつける時はすぐに来るのだから。

「おい!止めてくれるな!!おれはまだやれる!!」

 対照的に頭に血が昇り、普段よりも感情的になっている大栄寺クラウスは不満をそのまま口にした。一流の戦士だと自負している彼としては深沢の時に続いて、同じ敵に二度も遅れを取るわけにはいかないのだ。

「少し頭を冷やせ」

「おれはクールだぜ……!」

「どの口が言っているんだ。貴様なら今の攻防で理解したはずだ。カスタマイズしてあるとはいえルシャットⅠでは、その新型には敵わないと……マシンパワーの差で圧倒されるだけだとな」

「くっ!?……そうだな……その通りだ」

 クラウスは何も言い返せなかった。怪人に指摘された通り彼自身、頭では愛機と得体の知れない新型との間にはテクニックやメンタルでは埋められない絶望的な差があることを痛感している。

「口惜しいが……あとは任せる」

「あぁ、任された」

 ルシャットはそうぶっきらぼうに言うとその場から離れた。

 残ったザッハークとシェヘラザードは正面から向き合い、目の前の仇敵を真っ直ぐ睨み付ける。

「さてと……」

 ザッハークはゆっくりとシェヘラザードに向かって歩き出した。それに呼応するかのようにシェヘラザードの方もザッハークの下へと歩みを進める。

「今日はお供はいないのか?」

「あいつらは先の戦いでちょっとね……」

 会話を交わしながらも、両者いつでも動けるように神経を研ぎ澄ませる。

「ザカライアを倒したのは、やはり貴様か……そのニューマシンのおかげか?」

「あぁ、このシェヘラザードがなかったら、ワタシはここにはいなかっただろうな」

 ジリジリと少しずつ二人の距離が縮まっていく。

「そう言えば、名前を訊いていなかったな……良かったら教えてくれるか?」

「神代藤美だ。ザッハーク」

「神代……藤美か。いい名前だ。親に感謝するんだな」

「ええ……」

 遂に手の届く場所まで近づき、両者の足は止まる。代わりに……。

「あんたを倒して伝えるよ!!」

「できるものなら!!」

 拳を出す!


ゴツゥゥゥゥゥゥン!!!


 二人のナックルがぶつかり合うと、衝撃が大気を揺らし、橋の下の川が波立った。

「でやぁっ!!」

「ウラァッ!!」


ガンガンガンガンガンガンガァン!!


 至近距離での凄まじい撃ち合い。腕を、脚を、身体の全てを使って、相手に上下左右から攻撃を叩き込む。どちらも一歩も退かず、一見すると拮抗した戦い……いや、違う。

「シャアァァァッ!!」

「ぐっ!?」

 手数では肩から蛇を生やしているザッハークの方が分があった。

「くそ!」


バン!バァン!!


「ふん!無駄なことを!!」

 たまらずシェヘラザードは銃撃しながら、後退した。弾丸はザッハークのボディを貫いたが、すぐに傷口は塞がってしまう。

「やはり強い……!」

「出し惜しみしている暇はなさそうですね」

「あぁ!マロン!システム・ヤザタをドライブ!一夜も出してくれ!」

「了解しました」

 シェヘラザードの装甲が展開し、手には分厚い刃を持った鉈が召喚される。

「変形に刀……いや、鉈か。ならば!!」

「シャアァァァッ!」「シャアァッ!」

 ザッハークは腕をクロスして、蛇の口に手を突っ込んだ。

「蛇王刀」

 そして、口から手を引き抜くと、その中には湾曲した刃を持つ刀が握られていた。銀色の刃とその表面についた体液が太陽を反射し、不気味に輝いている。

「あいつも武器を……!」

「ですが、所詮はただの刀です。たかが知れています」

「言うじゃないの……なら、こっちは千夜、バーストモードだ!」

「了解」

 シェヘラザードは銃口をザッハークに向け、突進した。そして、バーストモードの射程に入ると……。

「たらふく喰らいなさい!!」


バァン!!


 引き金を引いた。銃口から無数の弾丸が同時に発射され、ザッハークに襲いかかる。しかし……。

「ふん」

「なっ!?」

 紫の怪人は一歩も動かなかった。微動だにせず、全ての散弾をその身に受けた。全てはその驚異的な再生能力に絶対の自信があってのことだ。

「この程度の攻撃、瞬時に再生することなど造作もない……が、痛いものは痛いんだぞ!!」

 ザッハークは向かって来るシェヘラザードにカウンター気味に刀を振り下ろした。


ザンッ!!


「――ッ!?」

「なん……だと?」

 完全に両断したかに思われたタイミング……しかし、シェヘラザードは刀を避け、衝撃波がアスファルトに溝を彫っただけに終わった。

「何故、あれを避けられる!?そのマシンの力か!?」

「そうだ!これが天才科学者の作ったシェヘラザードの力だ!!」

「天才……まさか、プロフェッサー飛田の開発したあのシステムか!?」

「何を……訳わかんないことを言っている!!」

「くっ!?」

 気になることを聞いた気がするが、シェヘラザードは一夜で攻撃することを優先した。話ならボコした後で聞けばいいのだから。

 ザッハークは向かって来る鉈を刀で叩き落とそうと試みる……が。

「甘い!!」


ザンッ!!


「な……!?」

 一夜の斬撃の軌道が変化し、刀は空振り、紫の胴体が鉈で抉られた。

(なんだ、このマシン……!?まさか本当にプロフェッサーのシステムが組み込まれているのか……!?)

 ザッハークは今までの経験では理解できないセオリー無視のシェヘラザードの動きに混乱した。戦いの最中に関わらず、戦いを一瞬忘れてしまった。

 その隙を不死身のフジミは見逃さない。

「まだまだァ!!」


ザン!ザン!ザンッ!!


「……しまった!?」

 紫の鱗に覆われた身体に無数の傷が刻まれていく。これがスーパーブラッドビースト、ザカライア金尾を倒した力。いや、あの時以上だ。

(やっぱり不必要に身体に力を入れて、強張らせなければ、システム・ヤザタの反動は軽減できる!それに普段から脱力した自然体を心がけた方がスタミナの消費も少なくて済む!!)

 フジミはシェヘラザードと共にザカライアとの激闘を乗り越えた結果、戦士として新たな領域へと足を踏み入れていた。

 今の彼女は生半可な相手では止められない!例えそれがザッハークであってもだ。

「でりゃあっ!!」


ザンッ!!


「シャアァァァッ!?」

 そして、遂に蛇の首を一本切断することに成功する。

「くそッ!?」

「このまま決めてやる!!」

 シェヘラザードが因縁に幕を下ろす為に、一夜を振る……。


グンッ!!


「!?」

 突然、腕が動かなくなった。フジミは理由はわからないがシステム・ヤザタが発動したのかと思った。けれど、それは違った。

 シェヘラザードの腕に切り落とした蛇が巻き付いていたのだ。

「こいつ!?」

「シャアァァァッ!!」

 蛇はさらにシェヘラザードの身体を這いずり上がり、彼女を羽交い締めにする。

「オレの再生能力を甘くみたな……!」

 蛇はさらに本体であるザッハークの肩に生えている首の切断面と自身の切断面をくっ付けると、みるみる傷口が消え、元通りになってしまった。

「肩から生えているこいつらは切り落とされても、しばらくは自由に操れるし、切断面同士をくっ付ければ、この通り。最悪、新しく生やすこともできる」

 文字通り手も足も出なくなったシェヘラザードを見下ろしながら、怪人は淡々と語りかける……彼女の敗因を!自分の勝因を!

「化け物め……!!」

「そうだ、化け物だ。全てを取り戻す為にオレは怪物になったんだ……!!」

「ぐうぅ……!?」

 ザッハークの覚悟を体現するかのように、蛇はシェヘラザードを力強く絞め上げ、白と藤色の装甲はミシミシと音を立てて、亀裂が入っていった。

「こうなってしまっては、あの奇妙な動きも関係ないな」

「まだ……!」

「恥じることはない。貴様は強かった……だが、オレとは相性が悪かったな」

「相性なんて……!ホーミング!」


バン!バン!バァン!!


「無駄だ」

 足下に放たれた弾丸は、アスファルトに衝突する寸前に急上昇し、ザッハークの身体に命中した。しかし、悲しいかな全て弾き飛ばされてしまう。

「追尾する弾の威力は据え置きだというのはさっきのルシャットを見ていればわかる」

「くっ……!?」

「そもそも大義のない力ではオレを倒せん」

「どの口が……言っている……!人を……殺しておいて!!」

「…………貴様は何を言って……」


ブロォォォォォォォォォォン!!


「「!?」」

 突如として二人の耳にけたたましいエンジン音が聞こえてくる。音のする方を向くと、太陽を背にバイクが、ナーキッドがこちらに飛びかかって来ていた。

「ハアァァァァッ!!」


ガァン!!


「ぐうっ!!?」

 ナーキッドはそのままザッハークにぶつかり、彼を吹き飛ばした。

 拘束から解放されたシェヘラザードはその場で膝をつく。

 そんな彼女の前にナーキッドは止まり、運転手が長い足を見せつけるように、高く上げ、地面に降り立った。

「はぁ……はぁ……クウヤ、あんた……」

「俺だけじゃない」

 クウヤがフジミの視線を誘導すると、こちらに向かって来る車が見えた。普段、フジミも使っているシュヴァンツ所有の車だ。

 車はシェヘラザードから少し離れた所に停車すると、中からよく見知った顔が二つ出てきた。

「つれないっすよ、姐さん」

「パーティーはみんなで楽しまないと……って、自分のキャラじゃないですね」

 マルとリキはそのままシェヘラザードを通り過ぎ、クウヤと横一列に並んで彼女の盾になるように集結した。

「あんた達……」

「ここからは……」

「自分達が……」

「引き受ける……隊長!!」


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