終わる革命、始まる革命
桜心隊隊長の愛機の上級ピースプレイヤー桜虎は、冷静沈着、何事にも動じない鉄の精神を持っているように見える瀬文十三のイメージとは真逆の黄金の眩いボディーに滴る鮮血のような赤い縞模様が入っているド派手なものだった。
それでいて腰に差した刀を揺らしながら歩くその重厚な威容に見る者全ては息を呑み、下手に囃し立てることを許さない厳格さも持ち合わせているように思えた。
「あれが瀬文のピースプレイヤー……」
「例の如くデータベースに該当ありません。ここは不本意ですが情報収集のために、任せてみてはいかがですか?」
プタティスに対して行ったリキと同じ行動を提案するAI。それをフジミは首を縦に振って了承する。というより言われるまでもなく、そのつもりだったようだ。
「ええ……この際だから桜心隊のトップを張る者の実力とやらを見せてもらおうじゃないの」
(君には借りがある。これで返せるとは思わないが、好きなだけ私と桜虎の戦いを堪能してくれたまえ)
そしてそれは瀬文も望むところだったようで、フジミの視線を嬉しそうに背に受けながら、鹿角公の射程圏内にあと一歩といった所で足を止めた。
「やる気になったか瀬文……!!」
「はい。同じシュアリー陸軍出身の好で私自らあなたに引導を渡して上げましょう」
「本当お前はつくづく……癇に障るな!!」
先に動いたのは鹿角公!先ほどシェヘラザードに対して行ったように両手を広げ、その中心に設置された発射口からビームを繰り出した!
「はっ!!」
ヒュッ!ビシュウンッ!!ビシュウンッ!!
「ちいっ!!」
そしてあの時と同じく凝縮された熱とエネルギーの塊は簡単に避けられてしまう。
「私のことが気に食わないんでしょ?ならばもっと命を奪う感覚を強く感じられるように、刃でズタズタにしてみせるといい。あなたには到底無理でしょうが」
「やってやらぁ!!」
ついに目と鼻の先にまで接近して来た桜虎に、鹿角公は両腕に頭から生えた角と同じような枝分かれした刃を突き出した!
ヒュッ!ブォン!!
けれどこれも金色の虎にとって避けることなど何も難しくない攻撃。彼はそのまま側面に回り込むと……。
「今度はこちらの番だ!!」
腰の鞘から刀を引き抜き、装甲の継ぎ目に叩き込もうとした……が。
「お前の番は永遠に来ねえんだよ!!」
ブン!!
鹿角公は見た目に反したしなやかかつ素早い動きで距離を取り、こちらも攻撃を回避し……。
「でやあッ!!」
ドゴォッ!!
「――ぐあっ!!?何!!?」
動きを先読みした桜虎の蹴りが鹿角公の顔面に炸裂!足裏で押し出され、ドスドスと一歩二歩と後ずさりさせられる!
「あの女より速いだと!!?」
「あんたのことを彼女より少しだけ知っているだけだよ。きっとあのままシェヘラザードと戦っていてもいずれはこうなっていた」
「俺をまた見下しやがって……!!」
「あなたがいつも私の下に勝手に潜り込んで来るんじゃないですか」
「瀬文ィッ!!」
長年溜まっていた鬱憤が本人でもどうしようもない勢いで噴火する!鹿角公は蹴りで離された間合いを再び詰めると、ありったけの力を込めて連続で斬撃を放った!しかし……。
ギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギン!!
「な!!?」
その全てを桜虎は刀で捌いてしまう。上から撃ち下ろそうと、下から斬り上げようと、横から薙ぎ払おうと、斜めに袈裟斬りにしようと、線で駄目なら点でと突きを放とうと、その全てに顔色一つ変えずに対処する。
「俺の剣がこんな簡単に……!!?」
「いやいや、さすがに第三世代……受ける度に腕に電撃が走ってますよ」
「なら、二度と刀が握れなくなるまで打ち込んでやる!!」
「それは困るので……反転攻勢させてもらおう!!」
ガギィン!!
「――ッ!!?」
桜虎は目にも止まらぬスピードとコンパクトな動きで刀を振り抜き、鹿角公の左腕から伸びる刃を粉砕!二人の間に銀色の破片が舞い散り、両者の顔を映した。
「さぁ……ここからはあなたが私と桜虎の猛攻に耐える番です……よ!!」
ガギィ!ガギィ!ザンッ!ガギィ!ザンッ!ガチィンッ!!
「――ぐううっ!!?」
攻めに転じた桜虎の刃はさらなる冴えを見せ、鹿角公に一切の抵抗を許さなかった。
巨大な体躯に反して滑らかで気品さえ感じる趣ある全身の装甲が川津の心をいたぶるように徐々に徐々に少しずつ少しずつ表面を削られていき、自慢の角は折れこそしなかったが、刀身がぶつけられる度に稲妻のようなひびが数を増やしていく。
「何故俺がここまで一方的に!!?士官学校を首席で卒業した俺が!!?」
「いつまで学校の成績を誇っているんですか?そんなんだからあなたの周りにはプライドを拗らせたアホしか残らないんですよ!!?」
「そんなこと!!そんなことは……」
反論したかったができなかった。図星だったからだ。誰よりも川津自身が内心では自分の情けなさと、それに伴う現実に対して不満を持っていたから……。
「愚かな男だ。現実に折り合いをつけて軍に残っていれば、それなりのポジションに立っていたはずなのに。まぁ、分を弁えずに誇りのために行動を起こすあなたのそういう部分は……嫌いじゃなかったですけど」
「瀬文……」
「だがっ!!」
ザンッ!!
「ッ!!?」
白刃一閃!金色の虎は右腕の刃も切断!さらに……。
「だが、私達の目の前に立ちはだかるなら斬り捨てるのみ!!」
ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!!
「――ぐわあぁぁぁぁッ!!?」
さらに刀を高速かつ剛力を込めて振るい、鹿角公の自慢の角を斬り落とし、さらに胴体にバツ印を刻みつける!
「ぐうッ!!?」
ガシャン!!
衝撃で無様に尻餅をつく見る影も無くなってしまった貧相な鹿角公。
「フン!!」
ガッ!ガシャン!!
「ぐあっ!!?」
それを遠慮なく踏みつけ、倒し、桜虎は万力のように静かに、それでいて確実に力を込めて巨体を地面に押しつけた。そして……。
ジャキ……
ゆっくりと手元が狂わないように慎重に首筋の装甲の隙間に刃を潜り込ませる。
「お、俺を殺すのか……!!?」
「これだけのことをしておいて刑務所に入るだけで済むはずがないでしょ。あなたの中身のない革命と共に、あなた自身の命も終わりを迎えるんです」
「いえ!終わるべきなのはあんたの蛮行よ!!」
「……神代藤美」
声のした方向に視線だけ向けるとシェヘラザードが多目的銃、千夜を召喚し、頭に狙いをつけていた。
「今までやったことを考えれば、どうせ死刑だ。ここで一時的に生き延びようが結末は変わらない」
「全然違うわよ!司法の判断を受けたかどうかは大きな違いよ!あんたほどの人ならわかるでしょ!!?」
「わからんな。明らかな悪人を処罰できない理由は私にはわからんし、わかりたくもない」
「だから処罰はされるんだって!正当な手続きを経てね!!」
「それが正当だと誰が決めた?それを続けた結果、犯罪は減ったか?法律が守っているのは無垢なる民ではなく、犯罪者や民を食い物にする役人達だとは思ったことはないのか!?」
「それは……」
「あるんだな。恥じることはない。みんな思っていることだ、この世界は間違っていると。それを私は桜心隊を使って正そうとしているだけだ!」
ジャキ……
「ひっ!!?」
さらに刃を奥に進める。感じるはずのない金属の冷たさを感じ、川津は全身を震わせた。
「やめなさい!!それ以上やると本当に撃つわよ!!」
「撃てばいい。君の信念に従い、私を排除するなら受け入れよう。だが、その弾丸よりも私の刃は速い。我が命を消すより先に川津の首は胴から離れる」
「わかってるわよ……だからこうして話しているんじゃない!!そいつにはまだ聞きたいことが……」
「私にはない」
ザンッ!!
「なっ!!?」
フジミの説得も虚しく凶刃は振るわれてしまった。
角を失った鹿角公の首は赤い水滴を垂らしながら宙を舞い、同じ色をした雫が桜虎の刀を伝う……悍ましくも艶めかしい、冷酷だが蠱惑的で美しい光景だった。
「あんた本当に……!!」
「法の番人を気取るなら銃を下げろ。武器を持った暴漢に対し、こちらも致し方なしに暴力で抵抗することはシュアリーのルールで認められているはずだ」
「既に川津は無力化できていた!あなたのやったことは過剰よ!!」
「では、司法に……いや、世論に意見を聞いてみるといい。きっとみんな口を揃えて言うはずだ……役立たずのシュヴァンツや警察の代わりに桜心隊が悪を退治してくれたと」
「くっ……!!」
「この件は君の判断ミスだ。民間人やまだ見ぬ援軍が隠れていることを考えたのだろうが、全力を出さずにいた。君が最初から本気を出していれば私達の出番はなかった」
「それは結果論です。マスターの判断は責められるべきものではないと反論させてもらいます」
「マロン……」
「フッ……そうだな。後からああすれば良かったなど誰でも言える。今の発言は撤回しよう」
そう言うと、桜虎は刀を振り、血を払うと鞘に納めた。
「では、我らはここで失礼させてもらう。まさか止めようなどと言わないよな?」
「水明亭の時より消耗してるのにあんたや取り巻きを相手にできる訳ないでしょ」
「意地悪が過ぎたな。今の発言についても謝罪しよう」
金色の虎は首無しになった鹿角公から降り、軽く頭を下げると、シェヘラザードに背を向ける。
「さらばだ神代隊長。桜心隊撤収!水明亭の時と同じく堂々と胸を張って戻るぞ!!」
「「「はっ!!」」」
「くっ……!」
一糸乱れぬ列を作りながら遠ざかる桜心隊の背中をフジミはまた屈辱に打ちひしがれながら見送ろうとしたが、さすがに堪えたのか顔を上げ続けることができずに、目線を落とした。
「…………ん?」
すると足元に何か光っているものが見えた。反射的にしゃがみ、それを手に取ると……。
「これは桜心隊の……もしかして花霞?」
それは桜心隊の徽章であり、待機状態の彼らの主力量産機、花霞であった。
フジミは唐突に天才メカニック、アンナが欲しがっていたものを手に入れたのだ。
「これがあれば……もしかしたら……!!」




