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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の落花狼藉
193/194

名も無き花への鎮魂歌②

「爆ぜろ!鎧よ!!」

「!!?」

 号令と共に悪路王の漆黒の鎧が凄まじい勢いで周囲に弾け飛んだ!そのいくつかは向かって来る悪の華にぶつかり……。


バッゴオォォォォォォォォン!!


「ぐうぅ!!?」

 旧クイントン邸に紫色の大輪の花が咲く!

 妖しく、艶やかで、そして美しい……紫の爆炎の花が鎧によって、本体に到達する前に爆発させられてしまった。

(や、やられた……!!まさかあんな原始的な、あんなびっくり箱のようなギミックで悪の華を防がれるとは!!もう一発撃てる力は俺に残っているのか!?そもそも奴ほどの強者が撃たせてくれるのか!?もしかしたら俺は最初で最後の奴に勝てるチャンスを逃してしまったのでは……)

 完璧なタイミングで勝負を決める最強のカードを切れたと思っていた木原にとって、それはショックという言葉では全く足りない絶望の結果だった。

「はぁ……はぁ……最後の手段を……悪路王が鎧を犠牲にしなくてはならないとは……」

 生き延びるために、全身を守る装甲を失い、もう鎧武者と形容するのは相応しくない何の装飾もないシンプルでスマートな姿になってしまった悪路王。その黒いマスクの下で……。

「……面白い!」

 叶道彦と呼ばれている男は醜悪な笑みを浮かべた。

「そんなに俺の必殺技を防げたのが、嬉しいか……?」

「確かにそれもあるが、それ以上に俺の、俺達のあるべき姿を確認できたことが嬉しいのだよ」

「俺達の……?」

「俺達には何もない。他の奴が最初から持っているものさえ持っていなかった。そう名前さえ!!」

「……それがどうした?今さら泣き言を言うつもりか?まさか同情して欲しいのか?」

「フン!そんな下らない情けという名のマウンティングをしてきた奴は、みんなぶちのめしてきた。貴様もそうだろ?」

「……あぁ」

「そうだ!それこそが本質だ!他者を信じてもいい環境にいなかった俺達は、他人との間に絆など紡げない!いや、絆だけではない!俺達に作れるものなんてないんだ!壊すことはできても、作ることなどな!!」

「それは……お前だけだろ」

「否!断じて否!!貴様も一緒だ!アーリマン!何を考えてヒーローぶっているのか、そしてマフィアなんかと仲良しごっこしてるのかわからんが、最終的には貴様の手には何も残らない!いずれ全部壊れる!!」

「違う……俺は……」

「認めろアーリマン!俺達ができるのは殺し合いだけだ!俺達が作れるのは血の河と死肉の山だけなんだ!!」

「俺はそこから!!」

「抜け出せないさ。ギリギリの命のやり取りの刹那、俺を殺すことしか考えていなかった貴様は漆黒の闇の中、誰よりもおぞましく、禍々しく輝いていた。お前がどんなに否定しようと、俺達はここから抜け出せない」

「黙れぇッ!!」


ビシュウッ!ビシュウッ!ビシュウッ!!


 アンラ・マンユは行き場のない激情を光線に変えて、指から発射した。

「そうだ!黙らせたいなら、殺せばいい!!それが俺達の生き方だ!!」

 しかし、軽装になった悪路王は難なく全ての光線を回避する。

(鎧がなくなった分、軽くなったか!今までよりも速い!!こいつを倒すには……)

「また俺をどう殺そうか考えているな?」

「!!?」

「恥じることはない!それでいいんだ!効率的に人を殺す方法を考えている時だけが、俺達にとっての“救い”!煩いことなど、考えずに目の前の奴への殺意を燃やしている時だけが、俺達の“幸せ”だあぁぁぁッ!!」


ザンッ!!


「ちっ!!」

 放たれる黒い斬撃!アンラ・マンユは

地面を蹴り押し、跳躍!斬撃の軌道上から離脱するが……。


グインッ!!


 この斬撃は曲がるのだ!逃がさないぞと言わんばかりに、しつこく追って来るのだ!

(少しのエネルギーも消費したくないんだが……やるしかない!)

「フィンガービーム!!」


ビシュウッ!ドゴォォォン!!


 こんなことには慣れたくもないが、いつもの作業の如く淡々と光線で相殺。

 そしてすぐに悪路王の次の行動を予測するために肉体も思考回路もショート寸前まで限界稼働させる。

(この斬撃は陽動なのはわかりきっている。本命は次……さっきみたいに斬撃を飛ばしてくるか?いや、今の奴の精神状態なら……)

「存分に死合おうぞ、同胞よ」

(直接来るよな!!くそ!!)

 背後に回り込む悪路王!彼の方に指から光の刃を形成しながら勢い良く振り返るアンラ・マンユ!

「はあぁぁぁッ!!」

「フィンガービームソード!!」


ガッ!バギィン!!


 ぶつかり合う両者の刃!そして一方的に破壊される悪魔の剣!

(パワーも上がっている!?これも鎧を脱いだ……違う!単純にテンションが上がっただけだ!!バカみたいな理由だが、特級使い相手には……)

「でりゃあっ!!」

(バカにできない!最大のパワーアップ!!)


ザンッ!!


「くっ!?」

 返す刀で切りつけられる!回避運動が間に合わず、紫の装甲にまた深々と傷が刻まれた!

「この!!」

 それでもアンラ・マンユは怯まず光の刃を再生成し、間髪入れずに突きを放つ!

「はっ!!」


ヒュッ!!


 悪路王をそれを軽々と回避!しかし、その攻撃は本命を当てるための布石でしかない。

「ウラァ!!」

 もう一方の手から刃を形成し、回避軌道上をなぞるように斬り払う!さっきまで自分がやられていたことをやり返した形だ!


グワン……


「甘い」

「くそ!」

 けれど、それは無情にも悪路王の能力によって阻まれる。刃の切っ先はあと少しで憎き相手の腹を突き破れるように見えるのに、決して届くことはない。

「頼むからこの程度で諦めるなよ。考え続けろ……俺を殺す方法をな!得意だろ!それしかできないんだから、貴様は!!」

「もう喋るな!お前は!!」


ザンッ!ヒュッ!ザンザン!グワン!!


 至近距離での高速の斬り合い!両者一歩も退かず、一進一退の攻防……と、言いたいところだが、傷が増えるのは紫色の方ばかり……。

(最適なタイミングで無効化能力を発動してくる。今までのように防御のためだけではなく、次の攻撃に繋げるため、俺の不意を突くために最悪なタイミングで!)

(苛立っているな……そうなるように立ち振舞っているからな!貴様の動きは見切った!どのタイミングで攻撃を無効化すれば一番嫌か……手に取るようにわかるぞ!!)

(この判断力が奴の強さの肝だ。奴の思考を超える攻撃を繰り出さなければ、俺の勝ちはない!鎧がなくなって防御力は落ちているはずなんだ!一発でも攻撃を当てさえすれば勝機は……だが、一体どうやって……!?)

 不安、迷い、焦り……木原の心の隅に生まれたほんの小さなネガティブな感情が、ほんの一瞬、本当に一瞬だけ動きを鈍らせた。

 それを悪路王は見逃さない。

「もらったぁ!!」

「しまっ――」


ザァァァンッ!!


「――た!!?」

 防御の隙間を縫い、下から上に切り上げられ、アンラ・マンユは鮮血を飛び散らせた!

 自らの血を見て、木原史生と呼ばれた男の脳内にかつての敗北の記憶が甦る。

(彼女には俺もこういう風に見えていたのだろうか?自らの虚無感を誤魔化すために、憎悪と狂気に身を委ねるこの男のように……結局、俺は変われなかったのか?こいつの言う通り、流血の中でしか生きられないのか?俺はあの時のまま……)


「ありがとうアーリマン。そして……もしもの時はエルザを頼んだぞ」


「!!!」

 敗北の記憶を塗り潰し、プリニオの言葉が再生されると、自然と身体が動いていた。

 拳を胴体に押し当てていた!

「ヴェノムブースト!ダブル!!」


バシュ!バシュ!!


「何!?」

「ウラァァァァッ!!」

 薬の力でアンラ・マンユ再起動!全身を躍動させ、パンチを放つ!

「遮れ!」


グワン!


 しかし、それは悪路王の能力によって、無効……。

「だりゃあッ!!」


ドゴッ!!


「……がはっ!?」

 悪路王が次の防御行動に移る前に、アンラ・マンユは膝蹴りを放ち、見事に腹にヒットさせた!

(は、速い!?このスピードは俺でも対応し切れない……!!こいつ……)

「ウオラァッ!!」

(イカれてる!!)


ザンッ!ドゴッ!ザンッ!グワン!ドゴッ!ドゴッ!


 砕ける装甲!刻まれる傷!アンラ・マンユの拳が!悪路王の刀が!交互に!お互いに!今度こそ正真正銘の一進一退だ!

「ドーピングを重ねるとは、死ぬつもりか!?」

「生きるために決まってるだろ!!薬はそのために使うもんだ!!」

「はっ!敵を撲殺し、生き残るためか!!やはり貴様は俺と同類!戦場の中でこそ真価を発揮し、輝く存在!平和を祈る者ではなく、平和をもて遊ぶ者!PeacePlayerだ!!」

「もうお前と問答するつもりはない!!答えは……勝ってから考える!!」

「!!?」

 ボロボロになった悪路王は目を疑った。

 アンラ・マンユはまた拳を自らの身体に押し当てたのだ。

「まさか!!?」

「ヴェノムブースト……トリプル!!」


バシュ!バシュ!!


 更なる薬剤投与!木原の神経を、筋力を、限界を超えて超絶強化する!

「はあッ!!」

 そして放たれる拳!それは……。

「さえ――」


ドゴッ!!


「――ぎぃっ!!?」

 悪路王の能力発動さえ許さない神速のナックル!

「悪神フィストッ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐがあぁぁぁぁっ!!?」

 まさしく手も足も出ない悪路王!このまま殴り殺されてしまうのかと、叶道彦が考え始めるとほぼ同時に、それは訪れた。


ガクッ!!


「ぐっ!!?」

 アンラ・マンユの、木原史生の限界が。

 さっきまでの機敏な動きが嘘のようにピタリと止まり、倒れないように踏ん張るのでやっとの状態に陥ってしまった。

「あと少し……あとほんの一秒だけ続けていたら……悪路王の能力発動を許さないあの攻撃を続けていたら、貴様の勝ちだったのになぁッ!」

「く、くそ……!?」

「俺の勝ちだ!アーリマンッ!!!」

 叶道彦の胸の奥から湧き出る感情が悪路王を通し、どす黒いエネルギーへと変換、それを刀に全て集中し、刀身に纏わせた!

「悪路烈空!重ねの太刀!!」


ザァンッ!!


 撃ち込まれる悪路王最強の攻撃!身動きの取れないアンラ・マンユに横薙ぎの形で容赦なく撃ち込まれる!

(勝った!!)

(負け――)

「どけ、アーリマン」


グイッ!!


「「!!?」」

 動けないはずのアンラ・マンユが後ろに吹っ飛ぶ!

 そして入れ替わるように二人の間に入って来たのは、かつてこの両者と激闘を繰り広げた……青赤のピースプレイヤー!

「「チャンピオン!!?」」

「借りを返しに来た」

 地下格闘界の絶対王者緊急参戦!アンラ・マンユに代わり、悪路王最強の一太刀の前に立ち塞がる!

(これを狙っていたのか!?アーリマン!?いや、あいつの驚きようは知っていた者の反応ではなかった!だとしたらこいつは……!!)

 助けられた木原さえまだ理解が追いつかないというのだから、叶道彦の動揺もまた凄まじかった。

(違う!今はそんなことを考えている場合ではない!まずいんだ!ここでこいつが出て来るということは!俺の刀にその身を晒すということは!!)

 それでも必死に頭を動かし、今やるべき行動を導き出す……が、腕に力を込め、必殺技を中断しようしても止まらず。黒いエネルギーを纏った刀はアエーシュマの胴体に触れる、触れてしまった。


チッ!グルン!!


 アエーシュマは全ての受け流し回転!そして勢いそのままに……。

「病み上がり暴流脚!!」

 蹴りを放つ!青赤に彩られた脚は首を刎ね落とさんばかりに、唸りを上げて悪路王に迫る!

「遮れ!悪路王!!」


ボッ!!


 しかし、それは能力によって無効化。衝撃は誰も知らない場所に飛ばされる。

(防いだ!だが、この間とは違う!奴は、チャンピオンは悪路王の能力を知っている!)

「やはり攻撃を無力化できるのか。理屈はわからんが、ならばできなくなるまで蹴り続ければいいだけ!!」

 ヤクザーンはたゆまぬ訓練によって鍛え上げられた身体を繊細かつ大胆に動かし、空中で逆方向に横回転した!

「王者の技は二度煌めく!重連逆流蹴撃!!」


ドゴッ!!


「――がっ!?」

 無効化能力を発動した逆側の側頭部を蹴り飛ばされ、悪路王は吹っ飛ぶ。

 そして流れ行く景色の中で、再びあいつの姿を捉えた。


バチ……バチ……バチバチ!バチバチ!


「!!?」

 悪路王が見たのは、再び懲りずに両手の間にエネルギーを集中させ、自分の身体と同じ色の小さな“珠”を作り出している紫色の悪魔の姿であった。

「悪の華もまた……二度咲く」


バシュン!!


「――がっ!?」

 再度凄まじいスピードで射出された紫色の珠が悪路王へと向かう!

 体勢を立て直せず回避もできず、アエーシュマの攻撃を無効化したために能力の再発動までのインターバルが終わっていない!そして今回は盾代わりにできる鎧もない!つまり……。

「ちっ……そうか、お前はお前らは俺とは……」


バッゴオォォォォォォォォォォン!!


 紫色の大輪の花が咲き誇り、その爆炎の花弁で悪路王を包み込むと、この世から跡形もなく消し飛ばした。

 つまり、アンラ・マンユとアエーシュマの勝利である。

「勝ったのか……」


ぐらっ!!


「おっと!」

「ヤクザーン……」

 持てる力を全て使い果たし、倒れそうになったアンラ・マンユをアエーシュマが抱き止めた。

「勝者は堂々と立ってないと。カッコつかないぞ」

「勝ったと言っても、君と私の二人がかり……そもそもカッコいいものではない」

「違いない」

 青赤のマスクの下、ヤクザーンは無邪気に微笑んだ。

「だけど、奴らもなんか卑怯な手を使ったんだろ?なら、おあいこだ。恥じる必要はない」

「それはまぁそうかもしれんが……」

「何よりお前が喜ばないと、他の奴らが喜べない」

 アエーシュマは顎をしゃくり上げ、周囲を見回すように促した。こちらに向かって来ている者達に目を向けるように。

「ん?何でチャンピオンがここにいるんだ?というか、せっかく雑魚を片付けて、援軍に来たのに、全部終わってるっぽいぞ」

「それでいい……年寄りをこれ以上働かせるな」

 門の方からはサルワとタルウィ……。

「これはこれは……派手にやったね、アーリマン」

「てめえもな。なんか爆発させてただろ?」

「あの人……病院を抜け出したのか、本当どうしようもないな」

「何はともあれ……なるようになったみたいですね」

「っていうか、この戦いのMVPって、アタシじゃない?あのヤバい粉撒いてたエヴォリストにとどめ刺したアタシじゃない?」

 屋敷の方からはドゥルジ、ザリチュ、イレール、アカ・マナフ、タローマティ。

 戦いを終えた戦士達が、今はアーリマンと呼ばれる名も無き者の下に集った。

「お前の仲間のためにも胸を張れよ、アーリマン」

「私に仲間など……いや、ここは空気を読むべきか」

 木原は口から出そうになった否定の言葉を押し戻す。そして……。

「……勝ったぞ、みんな……私達の勝利だ!!」

「「「おう!!!」」」

 マスクの下で微笑みながら、クイントンファミリーとの戦いに勝利したと、高らかに宣言した!


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