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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の落花狼藉
192/194

名も無き花への鎮魂歌①

「………」

「………」

 アンラ・マンユと悪路王、両陣営の最強戦力同士の戦いは一向に始まらないでいた。このレベルの相手に迂闊に手を出すことは即敗北、そして死を意味することを二人とも知っているのである。

(奴の力はヤクザーンと同等、ヤクザーンと私も同等だから、奴と私の力はほぼイコールと言っていいだろう。けれど、私は先ほどの思念波を受けながらの戦いで消耗している)

(疲労が残っている今のアーリマン相手なら、十中八九、俺が勝つ。この日のために何度もイメトレをしてきたしな)

(それに奴は私の情報を知って、シミュレーションを重ねていたのに対し、私はついさっき奴が攻撃を無効化できることを知ったばかり。きっとこの情報の有無でヤクザーンもやられたのだろう)

(情報アドバンテージが大きい。チャンピオンに勝てたのもそれが一番大きい要因だ)

(状況は私が不利だ。それを打開するにはもっと奴の情報が欲しい。だから……)

(あいつは悪路王の能力について、もっと知りたいはず。だから……)

(私から仕掛ける!!)

(奴から仕掛けてくる!!)

 両者の思考はほぼ同時に結論を出し、身体に指令を送る!

 アンラ・マンユは指の先を向けながら、猛然と突進!

 対照的に悪路王はその場にとどまり、迎撃の体勢を取る!

「フィンガービーム」


ビシュウッ!ビシュウッ!!


 悪魔の指から光線発射!計十本のビームが闇を切り裂き、襲いかかる!

「フン」


ヒュッ!ヒュッ!バシャン!バシャン!!


 けれど黒い鎧武者は時には回避し、時に刀で切り払い、全ての光線を捌いた。

(やはり防御行動を取るか。では、お次は!)

 ファーストアタックが易々と防がれたアンラ・マンユだったが、臆することなく、さらに加速!悪路王の懐に……。

「はあッ!!」

 カウンターの斬撃!横に薙ぐように放たれた刀がアンラ・マンユの腰に……。


チッ!グルン!!


 腰に触れた瞬間、大回転!ご存知反重力浮遊装置による受け流しだ!

「残念だったな」

 着地と同時にこれ見よがしに拳を引くアンラ・マンユ。

「何がだ」

 悪路王はこのタイミングなら避けられると余裕を崩さない……が。

「でやぁッ!!」

「!!?」

 パンチを打つ素振りはフェイント!紫の悪魔の本命は頭突き!ヘッドバットだ!両足で地面を押し出し、頭から突っ込む!

 悪路王の意識外の攻撃、完全に虚を突いた……はずだったのだが。


グワン……


「!!?」

 悪路王の特殊能力発動!頭突きの衝撃はどこかに飛ばされ、ターゲットに決して届くことなく、無効化されてしまった!

「ちっ!!」

 渾身の頭突きを防がれたアンラ・マンユは慌てて頭を上げた……ちょうど殴り易い位置に。

「少し驚いたが……それだけだ!!」

 それを見た悪路王は反射的にパンチを繰り出していた。アンラ・マンユの顔面に向かって。

「いや……!」

 けれど、すぐに考えを改める。ジョナスから聞かされたアンラ・マンユの武装のことが脳裏に過ったからだ。

「ちっ!」

「はあッ!!」

 悪路王がパンチから蹴りに切り替えると、ほぼ同時にアンラ・マンユもまた前蹴りを放っていた。


ガッガァン!!


「「――ッ!!?」」

 両者ヒット!お互いに胴体を蹴り合い、再び距離を取り、睨み合う形に。

(……これはミスったかもな)

 マスクの下で苦々しく顔を歪めるのは、叶道彦。

 両者痛み分けに見える攻防だったが、実際は得るものがなかった叶に対して……。

(いい感じに見えてきたぞ、悪路王の力)

 アーリマンこと木原史生は欲しかったものを得て、仮面の下で口角を上げていた。

(あらゆる攻撃を無効化できるなら、防御行動は取る必要はないはず。なのに奴はフィンガービームを避け、切り払った。どうしてそんなことをしたのか?

①発動に必要なエネルギーの消耗が激しい。

②無効にできる攻撃の威力に制限がある。

③発動に関して、時間的制約がある。

④それらの複合要因。

……って、ところだろうな)

 木原は答えを導き出すために、改めて今まで目にした悪路王の行動を脳内で再放送しながら、考えを取りまとめる。

(①だった場合、今の私的にきつい。エネルギー切れを狙うにも、消耗しているこっちの方が先にへばるに決まっているからな

②はない。ヒートアイを無力化できた時点で上限はないと私は考える。芝辺りなら悪の華の威力なら無効できない可能性にかけて、一か八かぶっ放すんだろうが、私はやらん。やはり無駄撃ちできるほどのエネルギーがないから。だから、我が最大火力も無効にできると想定して動く。無力化の下限があって、弱過ぎる攻撃は通じる可能性もあるが、これも持久戦ができない今の私にはだからどうした案件。

一連の流れから考えて正解の可能性が一番高いのは③だ。ヒートアイや頭突きに咄嗟に対応できたことから、溜めは必要ない。だが一回発動するとインターバルを挟まないといけない。連続発動できるはずなら、あんだけ殴り易い位置に顔を置いてやったのに、殴りにこないわけない。けれど奴は拳を引っ込めた。あの時、奴はフリブレを怖がったんだ。頭突きを無効化した直後だったから、能力を使えなかったんだろう。冷気だけ例外的に無力化できない可能性もなくはないが、その後の蹴りを食らったことから、発動に間隔が必要なのはまぁ、間違いない。

それなら……やりようがある!!)

(どうやら……見破られたくさいな……)

 希望を見出だしたアンラ・マンユの雰囲気が僅かに強まったのを、悪路王は見逃さなかった。

(自分のハンドスピードを信じて、殴りにいくべきだったか。仮に片腕を凍らされることになっても、奴なら俺が焦って凡ミスした可能性も捨て切れず、まだ勝ち筋を見つけられていなかったはず。だが、現実は俺の躊躇いと、蹴りを食らってしまったことで、奴は能力発動にインターバルが必要なことに気付いてしまった。多分、今のあいつは……)

(連続攻撃だ。回避不可能の高火力攻撃を立て続けにぶちこめば、悪路王に勝てる……!)

(……とか、内心息巻いてるんだろうな。だが、そう簡単にはいかんぞ。能力が解明されることは今までも何度もあった。けれど俺は、悪路王はその全てを上回って、こうして生きている!!)

「!!?」

 悪路王の持つ刀の刀身が、おぞましい黒いオーラに覆われた。

「今貴様の頭の中にあるプラン……実行できるならしてみせろ!」


ザンッ!


 刀を振り抜くと、黒いオーラが三日月状になって射出された!斬撃をエネルギーに変換し、飛ばしたのだ!

「遠距離攻撃手段くらい当然持っているよな。だが……」

 アンラ・マンユは動じることもなく、淡々と射線上から退避する。

「くっきり見えている分、サルワの風の刃より対処しやすい。まさか夜の闇に紛れて私が見失うとか――」

「曲がれ」


グンッ!!


「――な!?」

 黒い斬撃はエネルギーを放出、僅かに体積を小さくすると軌道を曲げた!

「回避……いや、フィンガービーム!!」


ビシュウッ!ドゴォォォン!!


 アンラ・マンユは避けることは不可能と判断し、迎撃相殺を選択。そしてそれは見事成功、黒い斬撃を撃ち落とした。

「攻撃を曲げるなど、小賢しい真似――」


ザンッ!!


「――を!?」

 一息つく間もなく、追撃の一太刀!真新しく大きな斬撃が無防備なアンラ・マンユに襲いかかる!

(このタイミング、その体勢では避けられんし、今回は指鉄砲で相殺できる威力ではない。貴様が生き残るためには)

「ヴェノムブースト!!」

(だよな)

 アンラ・マンユは自らの胴体に拳を押し当て、薬の染み込んだ針を撃ち込んだ!投与された薬剤により、木原の反射神経、筋力が一気に増強する。

「はあッ!!」


ガリッ!!


「――ッ!?」

 それでも黒い斬撃は完全に回避し切れず。紫の装甲に傷が刻まれてしまった。

(ブーストして対処し切れない斬撃……いや、問題は俺自身だ。俺の疲労とダメージが、ブーストでもどうにかできないレベルまで達してしまっているんだ!)

(あれを掠めたってことは、やはり平気なふりをしているが、蓄積したダメージが大きいんだろう。そしてそんな身体ならドーピング状態も長くもたんし、反動もヤバいはず)

(仕方ないとはいえ、ここでヴェノムブーストを使わされたのは痛い。さらに戦える時間が短くなってしまった)

(こうなったら奴は形振り構わず攻めるしかない)

(四の五の言ってられない!一気に決めなくては!!)

(ならば俺がやるべきことは、削るべきは……時間だ!!)


ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!!


 悪路王、黒い斬撃を連射!上から下から横から、アンラ・マンユを囲むように次々と放つ!

「ちいっ!!」


ビシュウッ!ドゴォォォン!ヒュッ!


 アンラ・マンユはフィンガービームによる相殺と、ドーピングによる超反射で対応する。しかし……。


ガリッ!ガリッ!!


 全てを防ぎ切れずに、全身に新たな傷を刻まれてしまう。

(攻めたいのに、攻められない……このままじゃじり貧だ!この状況を打破するためには……これしかない!!)

 何かを決意したアンラ・マンユは両腕で顔を隠すようにがっちりとガードを固めて、後退していく。

「下手に焦って行動しても、ろくなことにならんと思ったか。だが、そんな消極的な考えで悪路王は攻略できんぞ」

 刀に今まで以上のオーラを纏わせる。そして……。

「悪路烈空・連ねの太刀」


ザザザザザザザザザザザザザザンッ!!


 今までとは比べものにならない量の斬撃を一斉に繰り出した!

 それをアンラ・マンユはガード越しに見ていた。真っ赤に爛々と輝く眼で……。

「ヒートアイ!!」


ボシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 灼熱を帯びた光が、漆黒の斬撃をまとめてかき消した。

 そしてそのまま諸悪の根源である悪路王に……。

「!!?」

 悪路王がいない!斬撃の群れに紛れて、見る影もなく、消えていた!

(どこに……いや、わかりきっている!!)

「やはりセコい戦いは、性に合わん」

(くそが!!)

 悪路王はアンラ・マンユの側面まですでに回り込んでいた!刀を振りかぶり、すぐ側まで……。

(発動にインターバルがあるのは、貴様の最大火力も同じだろ!目から熱線さえ撃たせてしまえば、後は……)

(俺の情報を知りながら、ここで仕留めに来るということは、そういうことなんだろ!だとしても俺に選択肢は……!)

「フリーズブレス!!」


ブオォォォォォォォッ!!


 この先起こることを木原は理解していた。自分のやっていることが何の意味もないことだと。

 だがそれでもアンラ・マンユは冷気を吐き出さずにはいられなかった。

「遮れ、悪路王」


ボシュッ!!


 冷気は悪路王の能力によって、完全シャットアウト!黒の鎧に霜の一つもつけることはできない!

「これで貴様はこの一太刀を防ぐ術は……なくなった!!」

 勝利を確信した悪路王!容赦なく刀を撃ち下ろす!

「くっ!?」

 対するアンラ・マンユは腕を刀に向かって、振り上げる!

(腕を犠牲にするつもりか!だが、その程度で俺の剣は止まらない!!)

「フィンガービーム!」

(撃ちたければ、好きなだけ撃て!その貧弱な指鉄砲が我が鎧に傷をつける前に、貴様は真っ二つに――)

「ソード!!」


ガギィン!!


「……な!?」

 悪路王の刀は受け止められた……アンラ・マンユの指先から発生した光の刃によって。

「不安しかなかったが……なんとか受けられたな……!!」

「貴様……!!」

「初御披露目の新武装……カード切らせてもらったぞ!!」


ガァン!!ガァン!!


「――ッ!?」

 刀を弾き飛ばすだけには飽き足らず、離れながら悪路王の顎を蹴り上げる!

「ぐ……ぐうぅ!!」

 視界が強制的に夜空に向けられ、意識もそのまま吹っ飛んでいきそうになるが、叶道彦は意地と根性で踏みとどまる!

(問題ない!最大火力の熱線はまだ使えないはずだ!体勢を立て直せば、まだ俺の方が有利な……)


バチ……バチ……バチバチ!バチバチ!


「!!?」

 すっぽ抜けそうな頭を力任せに下げた悪路王の視界が捉えたのは、両手の間にエネルギーを集中させ、自分の身体と同じ色の小さな“珠”を作り出している紫色の悪魔の姿であった。

(凝縮された凄まじい力の塊!目からの熱線ではなかった!これが奴の、アーリマンの本当の最大火力!必殺技か!!?)

「悪の華」


バシュン!!


「――がっ!?」

 凄まじいスピードで射出された紫色の珠!向かう先は当然、悪路王!いまだに体勢を立て直せず、攻撃の無効化能力の再発動までのインターバルが終わっていない黒い鎧武者に容赦なく襲いかかる!


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