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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の落花狼藉
190/194

極限裏庭バトル

 蔦に捕まったマンティコアは大人しく宙を移動していた。彼もまた自らの手で因縁に終止符を打ちたいのだ。

「……見つけた」

 目下にこの鬱陶しい植物の発生源、ザリチュを見つけると全身に力を漲らせ……。

「んん……!はっ!!」

 力任せに、蔦を引き千切る!

 そして蔦の残骸と共に雑草が生い茂ったクイントン邸の裏庭に降臨した。

「よぉ、あんだけやられて、まだ懲りねぇのか?」

「いつまで昔の話をしているんだ?昨日はてめえが勝ったかもしんねぇが、今日も勝てるとは限んねぇだろうが」

「いやいや。たった一日でどうにもならないでしょ。っていうか、昨日のダメージもまだ回復してないのに」

「こんなもん佐利羽では、ダメージのうちに入らねぇんだよ!そして、一秒もあれば、成長できるのも佐利羽スタイルだ!!」

 ザリチュはそう言うと、構えを取った。

「やれやれ、これだから言葉がわからない原始人の相手は嫌だよ」

「男なら拳で語れ!!」

「だ~か~ら!そういうのが大嫌いなの!おれは!!」

 マンティコア突撃!月明かりを爪に反射させながら、一気に間合いに入った!

「そういうのが大嫌いなてめえのことが、俺は大嫌いだッ!!」

 発する言葉は子供みたいだったが、繰り出されたカウンターのタイミングは冴え渡っていた。きっと通常状態のマンティコアなら命中していただろう。


ブゥン!!


「ちっ!」

「悪いな、アーリマンのビームを食ったから、マンティコアは絶好調だぜ!!」


ガリッ!!


「――ッ!!?」

 カウンターのカウンター!野獣の爪がザリチュの装甲を削り取った。

「この!!」


ブゥン!!


「はっ!遅ぇよ」

 さらに反撃のパンチを返すが、マンティコアはすでに手の届かない場所へ離脱していた。

「パワーアップ状態のおれと傷だらけのお前、ぶつかり合えば、どっちが勝つかなんて、やらんでもわかるだろうに」

「やってみないとわからないだろ!何事も!!」

「バカだね~。だけど、おれみたいな賢ぶって何もしない奴より、そういう行動力がデカいバカがすげぇこと成し遂げんだよな⇒」

「……てめえ、急に何言ってんだ!?」

「いや、だからね……そういう奴を相手にする時は油断なんてしねぇって言ってんだよ!!」


ガリッガリッガリッガリッガリッ!!


「つぅ!!?は、はえぇ……!!」

 マンティコアは縦横無尽に飛び回り、ザリチュの死角から確実に爪で装甲を削り取る。反撃しようにも、まさに目にも止まらぬ速さなので、視界の端に捉えることさえできずにいた。

「この!ちょこまかと……!!」

(ちょこまかもしますよ。スピード差があるなら、ヒット&アウェイに徹するのが、一番安全で確実だ。植物を張り巡らされたら、また別のやり方を考えなきゃならんが、それはない。だっててめえは……)

 チャルレスは昨日の戦いを思い起こした。相手の渾身の必殺技を利用し、自らを強化し、圧倒的な勝利を掴んだあの戦いを。

(前回の戦闘のトラウマで、どうせお前は殴る蹴るしかできない。今のお前にやれることはとっとと諦めて、できる限り楽に死ぬことだけ。大人しく捕まっていれば、少なくともあと数日は生きられていたってのに……本当に愚かだねぇ!!)

 芝武昭という男の生き方を心の底から侮蔑しながら、マンティコア、背後から強襲!

「恨むんなら、自分の使えないオツムを恨むんだな」

(今だ!!)


ズズッ!!


 ザリチュの背後の地面を突き破り、赤い根っこが競りでる!エネルギーを吸収する赤い根っこがマンティコアの下から!

「オツムが足りないのはてめえの方だったな!精々吠え面かきやがれ!!」

「お前がな」


ヒュンッ!!


「……なに?」

 マンティコアは赤い根っこが突き刺さろうとした瞬間、くるりとバク転!あっさりと芝の秘策を回避した。

「期待を裏切らないというかなんというか……あんたに残された唯一の勝ち筋だもんな、それ」

「くっ!?」

「使えるかどうかは半信半疑だったが、可能性が僅かにでもあれば警戒するのが、おれの流儀。相手がおれじゃなかったら、大逆転勝利だったのに……とことんツイてないな!佐利羽の頭!!」

 改めて再突撃!対するザリチュは……。

「伸びろ!蔦よ!!奴を止めろ!!」

 両腕から出せる限りの蔦を伸ばし、迎撃を試みる……が。

「打つ手無しで自棄になったか……ったく!あんまがっかりさせんなよ!!」


ザシュ!ザシュ!ガブシュ!!


 マンティコアは向かって来る蔦を爪で切り裂き、大口で喰って糧にし、あっという間に攻略した。

「あんたは昨日、おれに敗れた時点で詰んでんだ!無駄な足掻きはやめて、さっさと大好きな組長のところに逝けぇ!!」

 ついに野獣の爪がザリチュの首を掻き切……。


ヒュッ!ドゴッ!!


「……がはっ」

 爪は届かず!さらにザリチュは回避するだけに飽き足らずボディーブローを叩き込んできた!

「な、何で……!?」

「わからねぇからって、すぐに人に訊くな。まずは自分で考えろよ。てめえのオツムは俺なんかと違って立派なんだろ?ええ?」

「てめえ!!」

 手が駄目なら足!マンティコアは身体中のバネを活用し、強力なハイキックを放った!しかし……。


ガギン!!


 ザリチュは片手でいとも容易くガード!さらに……。

「てやあっ!!」


ガッガァン!!


「――ぐぁ!?」

 速射砲のようなストレートを二発!野獣の頭に叩き込んだ!

(マ、マジで何をしやがった!?パワーアップ状態のマンティコアを上回るパワーとスピードを何故ズタボロのはずのあいつが出せるんだ……!?)

 顔を抑え、よろよろと後退しながらも、脳内ではこんな無様な結果になってしまった理由を考える。

 けれど、考える必要などなかった。

 答えはすぐ目の前に、自分の周りにわかり易く提示されていたのだから。

「どうやって奴は……ん?おかしい……おかしいぞ!?何で!?何でいつの間に……辺りの植物が枯れているんだよぉ!!?」

 鬱蒼と生い茂っていた名も無き雑草は色も水気も失い、触れば簡単に砕け散るほど、完全に枯れ果てていた。

「俺は確かに頭はそんな良くねぇかもしんねぇけどよ、空っぽってわけじゃねぇし、バカなりに考えてる。お前と再戦するにあたって、お土産の一つや二つ用意してくるさ」

「それがこの植物の生命力を吸収する力か……だが、そんな能力があるなんて、聞いていない!!」

「そりゃそうだろ。ランビリズマでの戦いでは周りに植物なんてなかったから使えなかったし、組長もこの能力は時間かかるわ、一定の場所からしばらく動けなくなるわ、何より罪もない植物を犠牲にするのは申し訳ないわって、嫌がってあんま使わなかったからな。あの人、喧嘩売ってきた奴と、借りた金を返さない奴以外には優しいから」

 組長が文句を垂れながら、ザリチュのことを話してくれたことを思い出し、思わず笑みがこぼれた。あの何気ない会話がなかったら、今のこの状況はない。

「そうか……どうりで知らないはずだ。だが、理由さえわかってしまえば恐れることなど何もない!!雑草使ってのパワーアップなどたかが知れている!!」

 対して怒りを全身から滲ませたマンティコアは爪に力を集中させ、輝かせた!

「殴り合いで分が悪いなら、遠距離戦だ!喰らいやがれ!!」


ザンッ!!


 それを振り抜くと、斬撃がエネルギーの塊となって飛んで行った!

「そんな大振りな攻撃!!」

 けれど、ザリチュはあっさりと回避。斬撃は夜空の向こうに飲み込まれた。

「そんなに俺に近づくのが怖いのか?つれないこと言わないで……こっちに来いよ!!」


ブワアァァァァァァァァッ!!


 ザリチュは両手から大量の蔦を発生させ、マンティコアを囲むように伸ばした。

 その視界一面が緑色になった光景を見て、チャルレス・コロナードは……嗤った。

「やっぱあんたは本物だ!本物のバカだ!!まんまと餌を出してくれたな!!」


ザンッ!ザシュ!ガブガブシュ!!


 マンティコアは回転しながら蔦を鋭く尖った爪で切り裂き、また同じく鋭利な牙で噛み千切り、飲み込んだ!

「あんたが取り込んだ植物の力!おれが食って横取りしてやるよ!今日だけマンティコアは……ベジタリアンだ!!」


ガブガブガブシュ!!


 蔦を喰い散らかしながら、再突撃!蔦を食った分だけ先ほどよりもさらにスピードが上がっている!

「これでまたマンティコアが上回った!」

「なら、その力をまた吸収し直せばいい!!レッドウッド!!」

 ザリチュはさらに地面から毒々しい赤色の根っこを生やし、向かって来る野獣に襲いかからせようとする……が。

「だからそいつのことはずっと警戒してるんだよ!!」


ザンザンッ!!


 赤い根っこは爪に引き裂かれ、スピードを僅かに落とすことさえできなかった。

 そしてついにまたマンティコアは手の届く位置まで……。

「さっきはよくも殴ってくれたな……お返しだ!!」


ガッガァン!!


「――ッ!?」

 ストレートを顔面に二連発!やられたことをそっくりそのまま同じ形でやり返した!

「根に持つタイプかよ……みみっちいな!!」

 反撃のナックル!しかし……。


ブゥン!!


 軽く身体を仰け反らせただけで回避され……。

「根を持ってるのはあんたの方だろ!植物マスター!!」


ドゴッ!!


「――がっ!!?」

 先ほど防がれた身体中のバネを活用した強力なハイキックが今度こそ炸裂!やはり根に持つタイプのようだ。

「このまま微塵切りにしてやる!!」

「ざけるな!ザリチュ緑鎧!!」

 ザリチュは全身から蔦を生やし、それを身体中に包帯のように巻き付けた!

「鎧つーより繭だな!そんなもんでおれの爪を防げると思ってのかよ!!」


ガリガリガリガリガリガリガリガリッ!!


 チャルレスの言葉が思い上がりでないことを証明するように青い野獣の爪は緑の鎧を削り、抉り、引き裂いた。

「ちっ!!」

「ほれほれ!もっと生やせよ!!そうしないと……ほら!!」


ガリッ!!


 緑色の鎧は一分ももたなかった。マンティコアによって引き剥がされ、再びザリチュの装甲が外気と野獣の視線に晒される。

「はっ!結局、無駄な足掻きだったな!リベンジは失敗!昨日に続いてあんたの二連敗だ!!」

 マンティコアはザリチュの喉元に貫手を打ち込んだ!


ヒュッ!!


「……え?」

 貫手はザリチュの頬の横を通過する……何故か。

 マンティコアは訳もわからず、混乱しながら、間合いを取り直した。

「何……!?極限までパワーアップしたマンティコアの攻撃が避けられただと……!?」

「何言ってんだ?俺は一歩も動いてないぜ」

「は?」

「だから俺は一ミリたりとも動いてない。てめえが勝手に外しただけだ」

「バカなことを言うな!あんな近距離で外すわけないだろ!!」

「そう思うならもう一回撃ってみろよ。動かないでいてやるから」

「ッ!!」

 ザリチュは人差し指を上に向けて、ちょいちょいと動かした。あからさまな挑発だったが、今のチャルレスは効果てきめん、感情のままに再アタックを敢行する。

「死に晒せぇ!!ザリチュ!!」


ヒュッ!!


「!!?」

 手応えはない。マンティコアの憤怒の再アタックはまたザリチュのマスクの横を通過して、虚しい風切り音を鳴らしただけで終わった。

「な、何で……うっ!!?」

 たじろぐ野獣にさらに追い打ち、視界の中のザリチュがゆらゆらとボヤけ、二体、三体と増えていく。

「あんたも……分身できるのか?」

「分身?もしかして俺の姿が何人にも見えてんのか?完全にラリってんな」

「ふざけるな!おれは正常だ!!」

「そんな単純な言い返ししかできない時点で、正常じゃないだろ。てめえがまともなら、もっとムカつく言葉を口にしてるし、今自分に何が起きているのか、その原因もとっくに突き止めているはずだ」

「原因……?やっぱりあんた、何かしたんだな!?」

「したと言えばしたし、してないと言えばしてない」

「禅問答でもしてるつもりか!!何かしたんだろ!!このおれに!!」

「仕掛けはしたが、それにまんまと引っ掛かったのはお前自身のせいだ。得体の知れないものをそんなバクバク喰うから、体調を崩すんだよ」

「!!!」

 瞬間、チャルレスは自分の身体に起きた異変の原因をようやく理解する。

「毒か……蔦に毒を仕込んでいたのか……!!」

「言ったろ、お前と再戦するにあたって、お土産の一つや二つ用意してるって。周りの植物の生命力を吸収するのが一つ目で、この毒が二つ目だ」

「こんな卑劣な能力も隠し持っていたのか……!」

「卑劣とか、お前らだけには言われたくねぇよ。バルなんちゃらとかいうエヴォリストの能力で他の奴らを弱らせていたんだろ?セコい真似しやがって」

 芝は心の底から侮蔑した。

「俺だって本当はこの技は使いたくなかったんだ。組長も卑怯だって嫌っていたし、アーリマンの野郎と被るしよ」

「なら何故……!?」

「そんな些細なことを気にして負けた結果、てめえらクイントンに俺の故郷が、このエルザを蹂躙されると思ったら……そっちの方がきつい。俺個人の感情よりも、組長から受け継いだ大切な使命だ。俺は俺なりのやり方でこの街の秩序を守っていく……!!」

 芝の決意がザリチュに伝播し、威圧感となって放出された。これは!この現象は!

(こ、こいつ、完全適合してやがる!?いつの間に!?この土壇場で!?)

 チャルレスには全く理解できなかった。

 自分のためにしか戦わない彼には、追い詰められれば、平気な顔で仲間を見捨てて生き延びてきた薄情な彼には、芝とザリチュが何を原動力にして、これだけのパワーを発揮しているのか、全く一切理解できなかったのである。

(まずい!?今のおれじゃ奴に太刀打ちできない!!逃げるにしても、この身体じゃ多分無理だ!!おれはどうしたら……)

「教えてやろうか?」

「!!?」

「頭も回らねぇ、身体も動かねぇ、今のお前にやれることはとっとと諦めて、この俺に許しを乞うだけだ。自分のやったことを悔いて、心の底から懺悔しろ。そしたら命だけは助けてやってもいい」

 芝の言葉に嘘偽りはなかった。本当にチャルレスが命乞いをすれば助けるつもりだった。

 だが、悲しいかなその純粋な優しさこそが闇の中を這いつくばりながらも生き続け、それを開き直りに近い形で無理矢理肯定してきたチャルレスにとっては最も許せない行為だったのだ。

「弱者に手を差し伸べる……そんな下らない感性を持ったまま生きられるくらい恵まれた環境で育った奴が!!そういう世間知らずのお人好しが!!おれは一番嫌いなんだよ!!」

 マンティコアは怒りに身を任せて、爪を突き出した!

「結局はただの嫉妬か……見てらんねぇな」


ガシッ!!


「!!?」

 けれど、それはあっさりとザリチュに掴まれ……。

「はっ!」


ゴギャッ!!


 下から腕で肘関節をかち上げる!野獣の腕はあり得ない、あってはいけない曲がり方をした!!

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「痛いか?痛いよな?痛くなるようにやったからな」

「て、てめえ……!!」

「今のはてめえらが犠牲にしてきた奴らの分だ。そしてこれが……」


ゴスッ!!


「――がはっ!!?」

「セコい手で嵌められたヤクザーンとリンジーの分だ」

 ボディーを叩き込んだザリチュはすぐさま次の攻撃、いや最後の攻撃の準備を進める。両腕に蔦を巻き付け、そこから刺を生やした。

「そしてこれが……」

「お、おれはただ……」

「これが!てめえにスクラップにされた俺の愛車の分だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


ザクザクザクザクザクザクザクザクッ!!


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴る!殴るッ!

 ザリチュは刺付き蔦グローブでマンティコアを殴りに殴った!青い装甲は無惨にひび割れ、抉れ、砕け散る!

「仁義なき拳骨ラッシュッ!!」


ザグシャア!!


「――ぐばあぁっ!!?」

 とどめの一発をもらうと、ダメージ限界を迎えたマンティコアは腕輪に戻り、生身のチャルレスが地面に落下、枯れ草が夜空に舞った。

「俺もまだまだだな。こういう時、プリニオやアーリマンならいい感じのことを言って、カッコ良く締めるんだろうけど……何にも思いつかねぇ」

「が……ッ……」

「まっ、誰も聞いてねぇからいいか」

 敗北続きの芝武昭、執念の大勝利!クイントン三大特級ピースプレイヤーの一角を見事下す!


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