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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の落花狼藉
188/194

飛散する悪意②

「そうか……お前がイレール・コルネイユか……!!」

 無様を晒していたバルナビだったが、イレールの名前を聞いた途端、表情が引き締まり、発する重圧も強くなった。

「切り替えが早いな」

「あの若き天才剣士が相手となると、それはね」

「僕のことをよく知っているみたいだが……ファンってわけじゃないよな?」

「わたしの能力に対抗できる可能性があるアルティーリョの戦力はあなたしかいないですから……一応、念のために警戒していました」

「なら、ここまで引っ張った甲斐があったね」

「やはりずっとわたしが感知できない状況に追いやられるまで、息を潜めていたんですね……小賢しい」

「お前にだけは言われたくないな。隠れてこそこそデバフを撒き散らすだけが脳の臆病者にだけは」

「確実に勝つためですよ。まぁ、こうして自ら戦うことになっても結果は変わりませんが」

 バルナビは腕に付着した血を振り払うと、今日初めて構えを取った。

「無理をするな。腕は完全に破壊した。まともに動けるはずがない」

「それは何の力もない人間の話だろ。わたしは人を超えた者、神に選ばれし者、君の小針の一突きのような攻撃をいくら食らっても問題ないよ」

「なるほど……真っ先に貫くべきは、不愉快なほどよく動くその舌だったな!!」

 地面が震わせんばかりの踏み込みからの、神速の突き!多くの戦士を一撃で葬って来たイレールカスタムの通常攻撃にして、必殺技が放たれた!


ヒュッ!


 しかし、バルナビはそれを紙一重で回避!耳の横で風切り音を聞きながら、反撃のキック!

「キエィ!!」


ヒュッ!!


 突くのも神速なら、退くのも神速!イレールはすでに蹴りの射程外に離脱していた。そして……。

「はっ!!」

 追撃もまた神速!間髪入れずに第二撃を繰り出した!


ヒュッ!!


 でも、それもバルナビは回避して……。

「キエィ!!」

 前蹴り!最短距離でイレールの腹を撃ち抜こうとするが……。


ヒュッ!!


 それもやっぱり回避!

 この攻撃、回避、また攻撃のサイクルを二人は延々と続ける。

(僕の全力の突きに初撃から対応するとは。反射神経も素晴らしいが、それだけではここまで見事に避けられん。この部屋に充満している鱗粉で突きの起こりを感知しているな)

(鱗粉で動きの始まりを察知しても、こんなにギリギリとは……市販のピースプレイヤーを少し弄っただけのものでこれほどの速度を出せるなど、異常と言ってもいい。だが、それでもわたしの勝ちは揺らぎませんが)

(蹴りしか打ってこないのは、さっきの言葉は嘘で腕が使い物にならないからか?それとも僕にそう思わせて、ここぞという時に……)

(腕が最低限の動きができるようになるまでにはもう少し時間がかかる。それまで迷い続けていろ。完全復活したら、一気に終わらせる!!)

(回復の時間稼ぎをしている可能性もあるか。だとしたら手をこまねいていてはダメだな。何か仕掛けないと……揺さぶってみるか)

(ん?)

 イレールカスタムは流れるような連続攻撃をピタリと止める。そして目線をバルナビの後ろに向けて……。

「今だ!タローマティ!やれ!!」

 大嘘を高らかに叫んだ!しかし……。

「敵の気配は感知できるんですよ!!」

 それが嘘だとあっさり見破ったバルナビは左腕を振りかぶり、踏み込ん……。


ドン!!


「――ッ!?」

 足を上げようとしたその瞬間に、上から凄まじい速度とパワーでイレールカスタムに踏みつけられた!

「突きも神速、退くのも神速、それを支える踏み込みもまた……神速だ!!」


ザシュウッ!!


「ぐ、ぐきゃあぁぁぁぁっ!!?」

 超越者の左肩をエタンセルが貫いた!そして当然、すぐに剣を引き抜くと、もう一撃……。

「これで!!」

「この野郎が!!」


ドン!!


「――ッ!?しまった!?」

 踏みつけられた足に全エネルギーを集中させ、イレールカスタムを力任せに掬い上げた!さらに……。

「もういい!腕がどうなろうと構わん!!」

 まだ傷が塞がっていない右腕で空中を舞う剣士に追撃!


ドゴッ!!


「――ぐはっ!?くそッ!!」

 イレールカスタムは壁に叩きつけられるが、すぐに体勢を立て直し、いつもの構えを取る。

「この!!選ばれし者であるわたしをここまで傷つけるとは……絶対に許さんぞ!!」

 対するバルナビも強引にパンチを打ったことで再び傷口が開いた右腕と、肩の穴から滴る血液で真っ赤になった左腕を上げて臨戦態勢を維持する。

 二人はそのままゆっくりとお互いに回り込むように横に移動しながら、睨み合いを続けた。

(腐ってもエヴォリスト、パワーは僕のマシンとは比べものにならないか……!穴を開けてなかったら、今のパンチでやられていたな……くそが!!)

(こいつだけは……こいつだけはわたしの手で殺す!!いや、ただ殺すだけでは気がすまん!わたしに歯向かったことを心の底から後悔するような屈辱的な殺し方をしてやる!!)

 迸る激情をおくびにも出さずに淡々とタイミングを待つ……敵を確実に殺せるタイミングを。

 そしてそれは唐突に、間抜けな声を合図に訪れる。

「あれ……?ずいぶん静かだけど終わっちゃった?」

「!!?」

(ここだ!!)

 状況も空気も読めてない安堂ヒナの間抜けな声が響くと、バルナビの注意がそちらに向き、その動揺を見逃さなかったイレールが一気に動く!

(まさに嘘から出た真!よくやったぞ!名も知らぬ女よ!この千載一遇のチャンスは逃さん!)

 イレールの視線ならびにエタンセルの切っ先がバルナビの頭部、正確に言うと触角へと向けられる!

(腕を潰したのは確実にあの触角を潰すため!思念を送っているのは、普通に考えたらあれだろ!違うかもしれないが、僕はあれだと信じる!というか、そのまま頭を貫ければ、それはそれでいい!!)

 覚悟を乗せて、エタンセルが闇夜に走る!まっすぐと異形の超越者の額に迫り……。

「残念、それは悪手だ」

「!!?」

 刹那、バルナビの触角が伸びる!そのまま向かって来たエタンセルに……。


グルゥン!!


 巻きつき、鼻先で動きを止めた!

「くっ!?この!?」

「惜しかったな。タイミングは完璧だった。わたしとしたことが完全にバカ女の声に意識を持っていかれていた。けれど、狙いがダメだ。君はこの触角が思念波を送る送信機だと予想したのだろう?」

「違うのか……!?」

「いや、実際その通りなのだが、そんな大事な器官を無防備に晒しておくわけないじゃないか。この触角はね、オートで攻撃に対して、反応するようにできているんだよ。仮にわたしが寝ていても、触角への攻撃だけには対処できるの……さ!!」


ブゥン!!カラン……


「くっ!?」

 触角はその細さには似合わぬ怪力でイレールカスタムからエタンセルを奪い取り、遠くに投げ捨てた。

「他の部位を狙っていたら君の勝ちだった。だが結果は武器を失い、絶体絶命の大ピンチだ」

「ピンチは乗り越えるもの……なんて強がりを言いたいところだけど」

「翅を失った虫が飛ぶことができないように、武器を失った君が勝利を手にすることなどでき――」

「うりゃあッ!!」


ドォン!!


「――な!?」

 横からの衝撃!だらだらと勝利の弁を述べていたバルナビにアカ・マナフが盾を構えて、タックルしたのだ!

「こいつ!?動けなかったはずじゃ……」

「でやぁ!!」

 さらにイレールのお株を奪うような突きで追撃を図る……が。

「負け犬がしゃしゃり出てくるな!!」

 その前にバルナビが前蹴りを放ち、距離を離そうと……。

「てえぃ!!」


ゴッ!!


「――ッ!?」

 突きを急遽取り止め、剣の柄で蹴りをはたき落とす!さらに……。

「はあっ!!」

 続けて盾で殴りつける!


ブゥン!


「こいつッ!!」

 しかし、これをバルナビは回避!そして体勢も崩れ、腕に激痛が走るが我慢して反撃のパンチ!


ヒュッ!!


 けれどアカ・マナフには当たらず。超反応で拳をいとも容易く回避した。

(この動き、この反応……まさか!!?)

 そしてこの動きを見て、バルナビは気づいた……アカ・マナフが完全適合していることを。

(あり得ない!!?わたしの思念波を受けながら完全適合などできるはずがない!!天地がひっくり返っても、それだけは絶対にあり得ない!!だが、こいつの動きは間違いなく悪しき思考と呼ばれる認知機能の強化……はっ!もしかしてこいつは暴走しているのか!?)

 最悪の考えが脳裏を過り、背筋が凍った。

 しかし、現実はさらにバルナビにとっては受け入れ難く、恐ろしいものだった。

「何で……」

「え?」

「何でそれだけの力がありながら、くそみたいなことのために使うんですか……!!その力で人を救うことだってできたはずなのに……あなたは、あなたは最悪のクズだ!!」

(こいつ、かなり取り乱しているが、意識がある!!まさか湧き出る怒りと憎悪で思念波を抑え込んでいるのか!!?そんな強い意志と感情を持っている人間なんて……人間じゃない!!?)

 バルナビには目の前のものが、押せば倒れそうな瀕死の存在ではなく、恐ろしく強大な悪魔に見えた。

「く、来るなぁ!!」


ブンブンブンブンブンブンブンブン!!


 恐慌状態になったバルナビは形振り構わず拳を振り回す!

 それに対し、アカ・マナフは……。

「くっ……!!」

 避けるので精一杯。あくまで驚異的な精神力で抑え込んでいるだけで、思念波の影響自体は消えていないのだ。

 そんな必死な二人を尻目に……。

(ありがとう、アカ・マナフ……おかげでエタンセルを回収できた)

 イレールカスタムはしれっと愛剣を拾い上げていた。

 そしてまたいつもの構えを取り、ターゲットを視界に捉える。狙いはもちろん……。

(ここで懲りずに触角を狙うのはバカのすることなのだろうが、生憎僕はフェンシングバカなのでね。必ずこの剣で切り落としてみせる。ちょうどいい新技もあることだしね)

 イレールカスタムは精神を研ぎ澄まし、全身から力を……抜いた。

(完全なリラックス状態にならないと、神速を超えるスピードは出せない。脱力からの全力、その差が僕を更なる剣とスピードの世界に連れて行ってくれる。どこに攻撃が来るかわかっていようがいまいが防御できる者は皆無。あの虫野郎も、ヴラドレンでも、我が究極の突きを防ぐことは不可能……これこそ我が至高の剣)

「ビヨンド・ザ・ゴッドスピード」

 イレールは音も光さえも置き去りにし た……。


ザシュウッ!!


「……え?」

 あまりの速さにバルナビは自らの身に何が起きたのか一瞬わからなかった。

 彼が全てを理解したのは、無情にも目の前を上から下に通過する触角と、いつの間にか自分を通過していたイレールの姿を確認してからだ。

「て、てめえ!!?よくもやってくれたなあぁぁぁぁッ!!」


ガシッ!!


「ちっ!?」

 自身の能力の要を失ったバルナビは当然、怒り心頭!イレールをこのまま逃がすまいと手を伸ばし、真っ白い足をがっちりと掴んだ。

「イレールさん!?」

(推進力に全て注ぎ込んだせいで、攻撃後に無防備になるのは覚悟していたが、速すぎて、相手に痛みを感じさせることすら振り切ってしまうとは、さすがに予想外!というか、そんなことを考えている場合では……)

「キエェェェェェィッ!!」


ドゴッ!!


「――がっ!!?」「ぐあっ!?」

 イレールを彼の心配をして集中を切らしてしまったアカ・マナフに叩きつけた!二人は折り重なるように地面に這いつくばる!

「貴様ら!もういい!!全部まとめて吹き飛ばしてくれるわッ!!」

 バルナビは口を開くと、そこに全てのエネルギーを集中させた。それは先ほどタローマティを吹き飛ばした手からの攻撃とは比べものにならない圧倒的で無慈悲な力の塊……。

「消えろ!ゴミども!!わたしの視界から!!この世界から!!」


ボシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


「ヤバ!?」

「これは無理……」

 発射されてしまった光の奔流!飲み込まれれば、イレールカスタムもアカ・マナフもこの世に骨の一欠片も残さず消滅していただろう。

 飲み込まれれば……。

「背教の盾」


ボシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……


 異形の超越者が吐き出したエネルギー波は、突然割って入って来たタローマティの盾にきれいさっぱり吸収されてしまった。

「……へ?」

 バルナビは信じられない、信じたくない光景を目の当たりにし、茫然自失になってしまう。

「はっはー!美味しいところも~らい!!」

「その能力は完全適合しないと使えないはずじゃ……?」

「だからしたんだよ、完全適合。イレちゃんが思念波の送信機である触角を切ってくれたおかげでできるようになった」

「いや、さっきまだ自分はそこまでいってないって……」

「え?敵の言うこと、鵜呑みにしたの?人が良すぎない?マフィア向いてないんじゃない?」

「でも、思念波食らってもなんか平気そうだったし……」

「あれも嘘。やせ我慢してただけだよ。しんどい時は平気な顔して、元気な時は苦しい顔する……ゲームに勝つためのコツって奴だね」

「バ、バカな……」

「自分のこと言ってる?本当にバカだよね。生まれ変わったら、もっと賢く強く、そして真面目に生きられるように祈るといいよ」

「このくそアマがあぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」


ボシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


「――!!?」

 自らの攻撃をそっくりそのまま反射され、バルナビ・プランタンは光の奔流と共に、夜の闇に飲み込まれて消えた。

「ふぅ……終わった終わった。ゴミが消えてスッキリいい気分」

「一言一句同意する」

「ひどいですね、二人とも……ぼくも同意見ですけど」

「まぁ、とにかくこれで」

「ミッションコンプリート!イェイ!!」

 三人はお互いを称え合うように拳を突き合わせた。

「ぼくらの役目はこれでおしまい」

「というか、もう限界。早く帰って寝たい」

「それも一言一句同意する。ただもう一仕事だけ残っているぞ」

「ええ、それが終わったら後は他の皆さんに任せましょう。彼らなら、アーリマンならなんとかしてくれると信じて……!!」


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