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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の落花狼藉
184/194

勝算なき突入

「気分はどうかな?兄さん」

「最悪だ。目の前で不肖の弟がほくそ笑んでやがるからな。気色悪くて仕方ない」

 プリニオはできる限りの悪態をついた。

 ボロボロの身体で椅子に縛り付けられ、長いテーブルを挟んで強制的に兄弟で食卓を囲まされている彼の精一杯の抵抗だった。

「気持ちはまだ折れてないようだね。バルナビ、ワインおかわり」

「はい」

 傍らにいた小綺麗な格好をした男が空になったグラスにワインを注ぐ。波打つ真っ赤な液体を見て、昨晩のモロクの姿と、それを起動させるために父と弟のやった非道という言葉さえ生ぬるい悪辣極まりない所業のことを思い出し、プリニオはさらに不快感を強めた。

「兄さんも飲むかい?」

「この身体に酒は毒だろ。それとも酔い潰しでもしないと、オレの逆襲が怖くて眠れないか?」

「なんとまぁ次から次へと品のない言葉が出てくるもんだ」

「まだオレは何も諦めちゃいないからな」 「……アーリマンか?」

「……そうだ」

 プリニオはまた昨晩のことを思い出す。存在することさえ許しておけない弟との邂逅ではなく、油断はできないが頼りになるあのヴィランとの会話を……。

「奴は必ず来る。お前のような不愉快なゴミ虫が自分の縄張りを飛び回っているのを、あの男は決して許さない」

「だろうね。逆の立場だったら、ワタシも見過ごさないからな……あんなダークヒーロー気取りの痛い奴。ワタシの王国にはいらない」

「そう思うんなら、ワインに舌鼓を打っている場合じゃないんじゃないか?奴は……」

「今日にでも、ここに攻めて来るだろうからね」

「ちっ!やっぱわかっていたか……」

「わかるさ。あいつは思慮深く見えるが、本質はとても感情的な自信家。自分の能力に絶対の信頼があるから、良くも悪くも決断が速い。特にこういう情報不足な状況では、率先して動いて場をかき乱そうとする」

「オレや芝ちゃんが捕まっているなら尚更か?」

 プリニオはちらりと自分の背後で同じように縛られ、雑に地面を転がされている芝に視線をやる。そんなことはないのだろうが、気持ち良さそうに寝ているように見えて、ちょっとムカついた。

「奴は必ず今晩のうちに動く。つまり後数時間で、このエルザの裏社会は本来あるべき場所……我らクイントンのものになるのだ」

「そううまくいくかな?あいつは今までも不可能に思えるミッションを成し遂げてきた。今回も……」

「失敗しない人間などいない。うまくいってる時ほど簡単に躓いて、それが致命傷になるもんさ」

「お前の祖父や父のようにか?」

「兄さんのようにだよ」

「なら弟であるお前も」

「ワタシは違う。このエルザを手に入れるために万全の準備をしてきた。そして今の今までほぼ完璧に事が運んでいる。アーリマンがどれだけ強かろうと、今のワタシを躓かせるほどの大きな石にはなり得ない」

 そう言うと、ジョナスは微笑みながらワインに口をつけた。その時……。

「ジョナス様」

「……来たか」

 ジョナスの口角はさらにつり上がる。ついにクイントンの栄華を取り戻す時が来たのだ。

「一人か?」

「いいえ。特級ピースプレイヤーが四体、普通のピースプレイヤーが一体、計五体です」

(五?オレの想定より一人多いな。オレも知らない奴ってことはこいつらも対応できないんじゃ……)

「多分、タローマティとかいう新興宗教の教祖のマシンが混じっていますね」

(あっ、知ってたわ。でも、アーリマンのことだからわかってやってるよな、多分)

「厄介な相手だが能力さえ知っていれば恐るるに足らず。プランに変更はない」

「もう既に各員配置についております」 「ならばワタシも行こうか。お前も準備をしろ」

「はい」

 バルナビはそそくさと立ち去り、ジョナスはワインを一気に飲み干すと、ゆっくりと立ち上がった。

「兄さんの最後の希望を打ち砕きに行ってくるよ」

「違うな」

「ん?」

「オレだけじゃない……エルザの希望だよ、あいつらは」

 プリニオは優しく微笑みかけた。 目の前にいる弟ではない。自分を助けに来る悪友たちにだ。

(頼むぜ、みんな……!!)



「どうやら敵さん、早くも気づいたらしいぜ」

 クイントン邸に向かって、疾走する極悪トレイン。その先頭を飛ぶサルワが異変をいち早く察知した。

「このまま行くか?」

「当然。予定に変更はない」

 次に続くはアンラ・マンユ。サルワの後ろにぴったりつきながら、第一撃の準備を進める。

「ってことで、お前らも準備はいいか?」

「OK!」

「はい!!」

「おおう!!」

 その後をタローマティ、アカ・マナフと続いて、最後尾を守るのはエクラタン・ソルダ改!こちらも各々武器を召喚して粛々と突入に備える。

「来たぞ!アーリマン一行だ!!」

「総員射撃準備!!」

「「「はっ!!」」」

 クイントン邸の正門に並び待ち構えるのは、もうお馴染みとなったヴァレンボロス・カンパニーの製品、ルードゥハウンド、ペリグロソアンギーラ、ダーティピジョンの集団。さらに無数のドローンがプカプカと浮いている。

「報告通りヴァレンボロスのマシン!加えてドローン!ってことは、P.P.ドロイドが混じっているかもしれない!」

「ふん!相手は誰だろうと、全部叩き潰すことには変わらん!!」

「やるのは私だけどな」

「初撃だけだろ」

「あぁ、一気に相手を減らす!そのために……」

「このサルワが守ってやるよ!アーリマン!!」

「撃てぇ!!」


ババババババババババババババババッ!!


 視界一面が明滅した。敵が一矢乱れぬ動きで一斉射撃を繰り出したのだ!

「シールドウインド!全開!!」


ブオォォォォォォォォォォォォッ!!


「な!?」

「なにぃ!!?」

 しかし、その全てをサルワが作り出した風の盾が弾き飛ばす。そして……。

「お膳立てはしといたぜ!」

「あぁ、驚き、呆けている雑魚は……まとめて焼き尽くす!!」

 攻撃を防いだサルワが上昇すると、その後ろから姿を現す……真っ赤な眼を爛々と輝かせる紫の悪魔の姿が!

「ヒートアイ」

「「「――な!!?」」」


バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 熱線は射線上にある大気も、敵も、正門も全て悪魔の宣言通り焼き尽くした。

 つまり極悪トレインの前にクイントン邸直通の真っ直ぐな道が開通したということだ!

「今だ!アーリマン!タローマティ!アカ・マナフ!!」

「「「おう!!」」」

 ヴラドレンの声に背中を押され、中盤を守っていた三体の特級がさらに加速!一気に邸内まで入って行った。

「しまった!?中に入られた!!」

「追え!奴らを逃がすな!!」

「それはこっちのセリフだ」


ドゴッ!!


「――がっ!?」

 アーリマン達を追跡しようと振り返ったハウンドが地面に頭をめり込ませた。頭上から強襲したサルワが踏みつけたのだ。

「運良く、いや運悪く生き残っちまったお前らはまとめておれが相手をしてやるよ。焼き殺された方がマシだったとか思っても、もう遅いぜ」

「くっ!?お前一人だけで!!」

「自分もいるぞ」

「!!?」


ザシュ!!


「――がっ!?」

 電磁鞭を振るおうとしたアンギーラの首をエクラタン改がすれ違い様にナイフで切りつける。さらに……。

「おまけだ、もらっとけ」


バン!バン!バァン!!


「――ッ!?」

 くるりと振り返り、ほぼゼロ距離で頭に銃弾を三発プレゼント!アンギーラは夜の闇に真っ赤な血のアーチを描きましたながら倒れ、二度と動かなくなった。

「こいつら……」

「強い……!!」

「今さらわかったのかよ、アホが」

 サルワとエクラタン改はクイントン邸を背にすると、構えを取り、敵の軍団に立ちはだかった……まるで門番のように。

「何を……!?」

「これではまるで我らの方が……」

「お前らがおれ達を中に入れないように守るんじゃない」

「自分達が貴様らを中に入れないように立ち塞がるんだ」

「大人しくそこで……」

「アーリマン達が貴様らのボスの首を取るところを……」

「「黙って見てろ!!」」



「でえぇい!!」

「威勢だけで私に勝てると思うな」


ドゴッ!!


「――がっ!?」

 カウンター一発!邸内に入ったアンラ・マンユは早速飛びかかって来たピジョンをパンチ一つでノックダウンする。

「くそ!?噂に尾ひれがついているだけかと思っていたが……」

「本当に強い!!」

「恐れるな!こいつを倒せばたんまりとボーナスが出るんだぞ!!」

「でも……」

 そしてその一撃は邸内警備を任されていた一団を尻込みさせるには十分だった。

「ふむ……てっきりかつてのこの街を牛耳っていたファミリーの構成員なら気概のある奴ばかりだと思っていたが……」

「てんでダメダメだね」

 背教の盾を地面に突き刺し、それに寄り掛かりながら、タローマティは無様な敵を鼻で笑った。

「ヤクザーンさんやリンジーさん、もしかしたらプリニオさんにやられたのか思ったより数も少ないですし……どうします?」

「取るに足らない羽虫とはいえ、周りをうろちょろされるのは不快だ。ウォーミングアップついでに倒せるだけ倒しておこうか」

「はい!!」

「いっ!?」

 アンラ・マンユとアカ・マナフの同時突撃!慌てて迎撃体勢を取るクイントン構成員だが……。

「はっ!!ほっ!!てやぁ!!」

「よいしょ!!」


ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ザシュ!!


 為す術なくやられていく。

「くそ……!!」

「群れた結果、仲間を巻き添えにするから安易に爆撃できんか?どこまでも愚かな」


ビシュウッ!!


「――ぐあっ!?」

 紫の悪魔が鳩を指から放った光線で撃ち落とすと。

「遅い!!」


ザンッ!ザンッ!!


「がっ!?」「ぎっ!?」

 アカ・マナフが猟犬と雑魚を切り捨てる。

 あっという間にクイントンの死骸で山ができた。

「うんうん。我が軍は屈強なりってか」

 それを満足そうに観戦しているだけのタローマティ。しかし、彼女にも魔の手が……。

「死ねぇ!!」

 後ろから迫るのはハウンド!ナイフを突き立てようと、飛びかかる……が。

「よっと!!」


ガァン!!


「――なっ!?」

 あっさりと振り向き様の盾でナイフを弾かれてしまう。

「このチームに混じるにはこれくらいできないとね」

「くそが!!」

 それでもハウンドは諦めずに首をへし折ろうと、手を伸ばす!

「ビーム発射」


ビシュビシュウッ!!


「――ッ!!?」

 けれど、その前に女神の目から放たれた光が逆に猟犬の首を貫いた。

「と言っても、素人に毛が生えた程度だからね……念には念を入れさせてもらうよ!!」


ザンッ!!


 さらにだめ押しの斧!横薙ぎに繰り出されたそれはかろうじて繋がっていた猟犬の頭を胴体から容赦なく分離させた。言うまでもなく、首を刎ねられ生きていられる人間などいない。

「これは……初キルだよ!初キル!!アタシ、初めて人を殺っちゃったよ!!」

 初めての行為の強烈過ぎる余韻に酔いしれながら、安堂ヒナはピョンピョンと飛び跳ね、喜びを全身で表現した。

「はしゃぐな、気持ち悪い。連れが二人が二人ともサイコとか勘弁してくれ」

(へぇ~、木原さんって自分がイカれてるって自覚、ちゃんとあったんだ。ん?でも今連れが二人って……)

「おりゃあッ!!」

「うおっと!!?」

 大きな勘違いをしているアカ・マナフをピジョンが強襲!しかし、驚異的な反射速度で紙一重で避け切った。

「ちっ!外したか……!!」

「アーリマンの言う通りだ……確かにエルザに巣食うゴミ虫が頭上を飛び回っているのは不愉快極まりない!!蔑まれて然るべき反社は地面を這いつくばってろ!!」


ブゥン!ザシュ!!


「――があっ!?」

 遠ざかる背中に剣の投擲、そして命中!ピジョンは血で線を描きながら墜落した。

「ぐっ!?」

「まだ息があるのか……ゴミ虫は本当にしぶといな」

「ひっ!?」

 なんとか一命をとりとめていたが、それは一瞬だけ寿命が伸びたに過ぎなかった。

 剣を回収しに来たアカ・マナフはまさしくゴミを見るような目で見下ろしてくる。

「ゆ、許してくれ……ちょっとお金が欲しかっただけなんだ……」

「ちょっとお金が欲しいだけで人を殺そうとする人間を“悪”と呼ぶんだよ。そしてぼくはそれを……絶対に許さない!!」


ザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!


 剣を手に取ると、そのまま滅多刺し!ピジョンは瞬く間に空いてはいけないところが穴だらけになる。

 その凄惨極まりない猟奇的な光景を見てタローマティこと安堂ヒナは……考えを改めた。

「うん、アーリマンの言う通り、踏み越えちゃいけないボーダーってあるよね。アタシは笑って許せるレベルのマッドサイエンティストで踏みとどまるよ」

「賢明な判断だ。そしてこれが……ラスト!!」


ドゴッ!!


「――がっ!!?」

 最後の一体であるアンギーラを殴り飛ばすと、アンラ・マンユは屋敷の方に目を向けた。

「さてと身体が暖まったところで、本格的にクイントン攻略に入るか……なんて思っていたら、そっちから来てくれるか」

 紫の悪魔の言葉が言い終わると同時に、屋敷のドアが開き、三人の男が出てきた。

 屈強な男に挟まれた真ん中の男の顔は、アンラ・マンユ達がよく知る男によく似ていた。

「貴様がプリニオの出来損ないの弟か?」

「あぁ、ワタシがジョナス・クイントンだ。出来損ないなのは兄の方だけどね」


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