過去からの襲撃者②
(身体が……重い!?何をされた……?くそ……頭にモヤがかかったようで……上手く回らん……)
全身を襲う倦怠感、さらに頭もくらくら、まるでタチの悪い風邪を引いたようだった。
「さすがのチャンピオンも形無しだね、こりゃ」
「貴様……何を……!?」
「自分の身に何が起きたか気になる気持ちはわかるけどよ~……まず考える時は相棒と二人、どうやって生き残るかじゃねぇかな」
男は醜悪な笑みを浮かべると、顔の横まで手を上げた。そして……。
バチン!!
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」
指を鳴らすと、背後に控えていたピースプレイヤー軍団が一斉に飛び出して来た。
(ちっ!リンジーは戦えん……ワタシもなぜだか絶不調……凌げるか?いや、凌ぐしかない!!)
「ヒヤッハ~!!」
先陣を切ったのはハウンド!勢い良くナイフを撃ち下ろして来た!
(身体に負担をかけないように……最小限の動きで!!)
ブゥン!ゴッ!!
「――がっ!?」
アエーシュマはナイフを躱すと同時にショートアッパー!援軍一人目を撃破した。
シュル!ガシッ!!
「――!!?」
続いて第二陣のアンギーラ!ハウンドに夢中になっている隙を突いて、鞭を腕に絡ませて来た。
(くっ!?だが、これならさっきと同じように……!!)
アエーシュマは腕に力を込め、先ほどのようにアンギーラを引き寄せようとした……が。
グッ!!
「はっ!!」
(ッ!?微動だにしない!?)
今の状態では武装した人間一人を動かす力はなかった。鞭だけがピンと張って、虚しさを強調する。
「痺れちまいな」
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
「ぐあぁぁぁぁっ!!?」
そして放たれる電撃!アエーシュマの身体が暗闇の中、チカチカと明滅した!
「このまま終わらせてやるよ!チャンピオン!!」
「ぐっ……舐めるなぁ!!」
グイッ!!
「――なっ!?」
怒りが身体の不調を凌駕したのか、命の危機に細胞が残ったエネルギーを振り絞ったのか、アエーシュマは凄まじい膂力で今度こそアンギーラを引き寄せた!そして当然……。
「終わるのは貴様だ!雑魚が!!」
ドゴッ!!
「――げっ!?」
反撃のナックル炸裂!鳩尾を殴られたチンピラは空中で“く”の字になりながら、鞭から手を離し、すぐに逆方向に吹っ飛んだ!
「はぁ……なんとかまた……」
「一息ついてる暇はないぜ。つーか、お友達、ほっといていいのかよ?」
「!!?」
いまだに立てずにいるリンジーの頭上に二体のピジョンが翼を広げ、羽ばたいていた!その翼から小さな光の珠がこぼれ落ち、地上に降り注ぐ。
「害獣は焼却処分だ」
「リンジー!!」
ボボボボボボボボボボボボボボボッ!!
夜の公園に似つかわしくない爆撃音が響き渡る!さらに爆煙が充満し、ピジョンの視界を覆う。
「やったか?」
「だから何をだよ!!」
「!!?」
爆煙を突き抜けてリンジーを抱えたアエーシュマが飛び出す!チャンピオンは間一髪で同志を救出していたのだ!
「野郎!弱っている方を狙いやがって……!!」
「戦場ではそれがセオリーだろ?」
「だとしても……オレは気に食わん!」
アエーシュマはリンジーを抱えている方とは逆の腕を伸ばし、手を広げた。
「また焼き鳥にしてやる……!」
あの時のようにヤクザーンの憤怒の心がアエーシュマに浸透し、まるで新鮮な血液のような、もしくは上物のワインのような真っ赤な液体が手のひらから滲み出る……はずだった。
「――!!?酒血が出ない!?」
しかし、悲しいかな青赤の鎧からこの状況を打破する頼みの綱の液体は湧き出なかった。代わりに溢れ出る脂汗だけがじわりじわりと肌を濡らし、気分を害する……。
「ここまでひどい状態なのか、オレは……!!」
「だから!」
「諦めて爆死しろ!!」
ボボボボボボボボボボボボボボボッ!!
「くっ!!」
爆撃からただただ逃げるアエーシュマ。いや……。
「……万全の状態でなくても戦わなければいけない時もある。そんな時は……知恵を使い!周りを利用する!」
手に絡みついていた鞭を手に取り、それを……振るう!
シュル!ガシッ!!
「――なっ!?」
鞭は見事にピジョンの足首に巻き付いた!
「武器も使えるさ……チャンピオンだからな!!」
そしてまた力任せに鞭を振るい……。
ドゴッ!!
「――がっ!?」
「ぐあっ!?」
隣のピジョンにぶつける!二匹の鳩は衝撃で体勢を崩し、ぐるぐると回転しながら墜落した。
「く、くそ――」
ドゴッ!
「ぐわっ!?」
「――おっ!?」
ボロボロになりながらも起き上がったピジョンが見たのは、仲間を足蹴にして、こちらに向かって加速する恐ろしき鬼の姿であった。
「お前らは踏み台にされるのがお似合いなんだよ!!」
ゴォン!!
「――がっ!?」
まるでフリーキックを蹴るかの如く、助走からおもいっきり頭を蹴り飛ばされ、ピジョンは一撃で昏倒した。
「これで戦力は半減……次はどいつだ?」
「「ひっ!!?」」
敵を次々と撃破したとしても満身創痍、満身創痍のはずなのにアエーシュマに凄まれると、残ったハウンドとアンギーラは反射的に身体が強ばり、思わず後退りした。
「ブラボー」
パチパチパチパチ……
「!?」
突如として、敵の一団の後ろから、拍手の音が聞こえて来た。瞬間、ヤクザーンの脳裏に先ほどの会話がフラッシュバックする。
「……ようやく遅刻していたボスのお出ましか……」
「あぁ、そうだ。ワタシが彼らの雇い主。君達をそんな目に合わせた黒幕だよ」
「なっ!?」
月明かりと爆炎に照らされ、黒幕を名乗る男の顔を見た瞬間、ヤクザーンは言葉を失った。
彼が見た男の顔は、ここまで自分達を追い詰めた男の顔は……。
「お前は……プリニオ・オルバネス……!?」
彼らのボスとそっくりだったのである……。