エピローグ:百花繚乱
「いやぁ~伝説見ちゃったって感じだな」
「どれも歴史に残る一戦だった!今日は眠れねぇよ!!」
「だな!!」
熱い戦いが終わり、興奮冷めやらぬ観客達が帰路につくのを、紫色の悪魔、アンラ・マンユはランビリズマの屋上から見下ろしていた。
「何黄昏てるのさ」
そんな彼の元に今日の主役であるプリニオがやって来た。
「もういいのか?ボス」
「やめろよ。だからそういうの柄じゃないんだって。まぁ、それでもやりますけど」
「君しかいないからな。こんな大役が務まるのは」
「買いかぶり過ぎだろ」
「いいや、結果として全て君の描いた絵図の通りになった。ボスの座を手に入れ、敵対していた佐利羽とのパイプを作り、そして……この私の能力を探ることができた」
二人の間に冷たい風が吹くと、わずかにプリニオの顔が強張った。
「何を仰っているのやら……」
「この期に及んでまだしらを切るのか?ボスになるのに、こんなイベントは必要ないだろ?君ならいくらでももっと穏便に、そして冷酷にアレッシオを排除できたのだから」
「だとしても、それじゃあみんな納得しない」
「そんなもんどうにでもなる。だけど、君はこの茶番に付き合うことが、かねてより考えていた佐利羽との同盟に対して都合がいいと思い、あえて乗った」
「で、さらについでにあんたの力を計ろうと?」
「あぁ、同盟を結ぶことにもプラスになるしな。私の力をアルティーリョや佐利羽の組員に見せつけ、危機感を煽る……そもそもこの同盟自体、いざとなったら私に対抗するためのものだろ?」
「だとしたら大成功だね。ヤクザーンがあんたと同等にやり合えることがわかったのは、嬉しい誤算だ」
「正直、敗北を何度も覚悟したからな。ルール無用でやっていたら、負けていたのは私の方だったかもしれない」
「その時はあんたも今日見せてない切り札や、オレ達の知らないお仲間を出してくるんだろ?」
「どうだろうな?」
「フッ……」
二人はお互いの顔を見て、笑い合った。
「今が最大のチャンスだぞ。ヴェノムブーストの反動で、今の私は全身に激痛が走り、まともに動けない」
「さっきの騙しっぷりを見て、はいそうですか、とはならないつーの。っていうか、それが事実だとして、こんだけオレのためにボロボロになって戦ってくれたあんたに何かしたら、誰もついて来なくなる」
「ピースプレイヤーだけ奪って、別の誰かを二代目アーリマンを仕立て上げればいいじゃないか」
「それだけのマシンの適合者、そんな簡単に見つかんないよ」
「私が渡した特級の適合者は君を含めて簡単に見つかった」
「たまたまだよ、たまたま。つーか、自分がそこまで危険視されてるとわかっていながら、よく渡したよな」
「一度倒した敵に後れは取らん……まぁ、君のドゥルジとは戦ってないんだが」
「なんだよ、それ?まっ、いいや。で次、会う時は敵か味方か?」
「さぁ?私は優秀だが、全知全能ではない。未来がどうなるかなんて、何もわからんさ」
「できることなら味方であって欲しいね。これからもずっと……」
「私もそう願うよ。君とああだこうだ言いながら、試合を見るのは中々楽しかった」
「じゃあ、今度会う時はフットボールかバスケの試合会場だといいな」
「あぁ、本当にな……」
そう呟くと、アンラ・マンユは屋上から飛び降り、夜の闇に溶け込んで消えた。
「行ったか……本当に次は……どっちなんだろうね……」
闇を疾走していると、ふと夜風が頬を撫でると、喝采を浴びるプリニオとアエーシュマの姿が脳裏に鮮明に甦る。
(闇の中でも光り輝ける者がいる。絆と物語を紡げる者が……私にはきっと……)
寂しさと虚しさを振り切るように、アンラ・マンユは加速し、漆黒の世界に飲み込まれていった……。