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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
172/194

本当の大将戦

「あ、あり得ない……ヤクザーンが負けるなどそんなこと……」

 アレッシオの矮小な精神は目の前の光景を拒絶していた。

 良くも悪くも妙なところポジティブな彼は本当の意味で自身の敗北、そしてその後どういう処遇を受けるかなど考えもしてなかったのだ。

「これは何かの間違いだ……間違いなんだぁぁぁッ!!」

 半狂乱になった敗北者はVIP席から飛び出した……何の考えもなく。



「そろそろ起きたらどうだ?チャンピオン」

 アンラ・マンユは倒れる王者に、淡々と語りかけた。

「チャンピオンって……嫌味ったらしいな」

「これが嫌味だと判別できるなら、まだ戦えたんじゃないか?」

「いや……身体が言うことを聞かない。つーか、お前の足音で起きただけで、それまでぐっすりだったし」

「そうか……起きたなら、とっとと立ち上がれ」

「できることなら、このまま担架で運んで欲しいんだけどな。オレ、絶対王者だったから、負けた後にどう振る舞えばいいのかわからんのよ」

「別にありのままでいいだろ。それに……観客達の中ではお前はまだチャンピオンのままだ」

 アンラ・マンユが視線を上げると、アエーシュマも釣られた。そこで目にしたのは……。

「最高だったぞ!ヤクザーン!!」

「負けたけど前より好きになったよ!!」

「これをバネにもっと強くなろうぜ!!」


パチパチパチパチパチパチパチパチ!!


 全身全霊で自らを称賛する観客の姿であった。

「お前は地に伏しても尚、みんなから愛される本物のチャンピオンだ。ここはお前の居場所なんだ。こんなものを見せられたらむしろ俺の方が……敗北感を感じるな」

 マスクの下で木原は悲しげに自嘲した。

「だから早く立ち上がって、チャンピオンは健在だと知らせてやれ」

「あぁ、そうだな」

 勝者であるアンラ・マンユが手を差しのべると、敗者であるアエーシュマはその手をがっしりと掴んだ。

『最後にして最高の戦いを締め括る感動的な光景です!!』

『ええ、これからもヤクザーン選手、ひいてはこのランビリズマで戦う戦士達には今日のような刺激的な試合を見せて欲しいですね』

『はい!切に願います!!そして名残惜しいですが、今日の試合は全て終了しましたので、お開きに……』

「認めんぞぉぉぉッ!!」

『え?支配人?』

 感動に水を差す空気の読めない男、アレッシオがずかずかとバトルフィールドに入ってきた。

「わたしは認めんぞ!こんな結末!!」

「支配人……この状況を引き起こしたワタシが言うのもなんだが、わめき散らしても結果は覆らんし、あなたの品位を落とすだけだ」

「うるさい!うるさい!うるさい!!お前だったら絶対に勝てると思ったのに!!思ったから、こんな無茶苦茶な勝負を持ちかけたのに!!」

「支配人……」

「良くわからんが……見苦しくてたまらん。少し眠ってろ」

「ひっ!?」

 苛立ちが限界に達したアンラ・マンユは拳をアレッシオに向けた。

「ヴェノム……」

「ストップ!ストップ!!」

「……プリニオ」

 それを制止したのは新たなアルティーリョのボス、この戦いの本当の勝者プリニオ。彼もまた慌ててフィールドに入ってきた。

「なんだ、こんな奴に情けをかけて、ボスの器であると見せつけたいのか?」

「違うよ。単純に……こいつをどうにかするのはオレの役目だと思ってね……!!」

「ひぃっ!?」

 ちょっと凄まれただけでアレッシオはたじろいだ。この時点でどちらがボスに相応しいかは誰の目からも明らかだ。

「そもそもこの話は本来こいつとオレの問題」

「そ、そうだ!!これはわたし達の問題なんだよ!!外野は黙ってろ!!」

「言ったな?」

「……え?」

「だったらオレ達の手で決着をつけようぜ。本当の大将戦だ……カモン」

 プリニオは手のひらを上に向け、手招きした。

『なんと!!まさかの第六試合!!本当の大将戦が急遽決定だぁぁぁッ!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

「え?え?違っ!?わたしはそんなつもりじゃ……!!」

「支配人様ならわかるだろ?冷めることすんなよ」

「いや、そのわたしは……」

 助けを求め、青赤の戦士の方を振り返ったが……。

「こうなっては誰も止められん。あなたがそういう場所にしたんだ」

 首を横に振り、否定された。

「むうぅ……!!」

「諦めろ、アレッシオ。それに悪い話じゃないぜ。ピースプレイヤーは使わんし、オレに勝ったらボスの座をくれてやるよ」

「く、くそぉ!!わかったよ!やればいいんだろ!やれば!!」

 アレッシオは上着を投げ捨てると、不恰好な構えを取った。

『支配人が了承しました!つまり、この正真正銘、両大将によるラストバトルで、アルティーリョのボスが決まります』

 二人の間にレフェリーが入ると、高々と腕を上げた。

「両者……本当によろしいか?」

「もちろん!!」

「あぁ!やってやんよ!!」

「では試合……始めえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


カーン!!


「うおりゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 審判が腕を振り下ろすと同時に、ゴングが鳴ると同時に飛び出したのはアレッシオ・クローチェ!半ば自棄になった彼は目を血走らせながら、殴りかか……。

「よっ!!」


ドゴッ!!


「――がっ!!?」

 カウンター一閃!プリニオが逆にアレッシオを思い切りぶん殴り、地面に叩きつけた。

「お前の支配人としての力は買っている。半ば強制的に追い込まれ、自暴自棄になったからだとしても、最後は自分も身体を張れる度胸も認めてやる。だからこれからもアルティーリョのために働いてくれ。この新しいボスであるプリニオ・オルバネスの下でな」

「……ふぁい」

『決着ーーッ!!本当の本当の本当に決着ーッ!!プリニオがボスの器を見せつけるように支配人アレッシオを一蹴したぁぁぁッ!!やはりアルティーリョのトップに立つのはこの男しかいないプリニオ・オルバネス!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ っ!!!」」」

『色々ありましたが……雨降って地固まるってことでいいんですよね?』

『いいんじゃないでしょうか』

「プリニオ」

「ん?」

「なるようになったな」

「まぁ、あんたを始め、皆さんのおかげでね」

「フッ……謙遜はいいから、最後の仕事をしろ」

 アンラ・マンユは顎をしゃくり上げ、プリニオに拳を突き上げ、勝者として振る舞えと促す。

「ったく……こういうのは柄じゃないんだけどな……よっと!!」

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 高々と拳を天に掲げる新たなボスを観客は最高の歓声を持って祝福した。


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