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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
170/194

大将戦③

 絶対王者の言葉に、会場にいるもの全てが呆気にとられ、言葉を失った。

『えーと……わたしの聞き間違いでしょうか……今、チャンピオンは酔っぱらっていると、そしてそれが自分の本気だとおっしゃったように聞こえたのですが』

『私の耳にもそう聞こえました。どうやらあの姿はアーリマンの攻撃による影響ではないようですね……』

『では、本当にこんな……こんなみっともない姿がみんなが見たかったチャンピオンの本気だというのか!?わたし正直がっかりしています!!』

「おれもだ!!」

「凛としていて格好よかったチャンピオンが好きだったのに!!」

「それじゃあ嫁さんに白い目で見られる時の俺じゃないか!!」

「辛辣だね~」

 マスクの下で苦笑いを浮かべながら失望されたチャンピオンはふらふらと一回転し、さらに観客のテンションを下げる。

 一方、アンラ・マンユはその姿にがっかりするどころか不気味さを感じ、恐怖さえ覚えていた。

(ヴェノムニードルは確実に当たったはず……なのになぜ?一体奴に何が起こった?)

「不思議かい?アーリマン」

「!!?」

「まぁ、そうだわな。逆の立場だとオレもそう思うもん」

「お前は一体……?」

「オレか?オレは……チャンピオンだよ」

「そうか……そんな風になっても王者のプライドは健在……ならば手加減する必要はないな!!」

 アンラ・マンユは両手を広げて、指の先をアエーシュマに向けた。

「フィンガービーム」


ビシュウ!ビシュウ!ビシュン!!


 計十本の光線が一斉に放たれる!大抵の相手なら避けることなどできず、防御を固めるので精一杯だ。しかし……。

「ほいっと!!」

「な!!?」

『避けたぁッ!!チャンピオン、アーリマンの攻撃をスルスルとまるで人混みを避けるように、難なく避ける!!』

『避けているだけではありません!そのままアーリマンに接近して……』

「よっ!久しぶり!」

「ッ!?」

 ビームの雨を掻い潜り、アエーシュマはあっという間に悪魔の懐まで踏み込んだ。

「ならばもう一発拳を叩き込んでやるわ!!」

 カウンターを放つアンラ・マンユ!けれども……。

「よっと」


ヒュッ!!


 当たらず。拳は何もないところに炸裂した。

「どこに打ってんだ?もしかして酔ってる?」

「くっ!貴様!!」

 挑発にまんまと乗り、アンラ・マンユは次々と攻撃を繰り出した。だが、それも全て……。


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ブゥン!!


「――ッ!?」

「へへ……やっぱオレってチャンピオン」

 パンチもキックもチョップも肘鉄も全て!押せば倒れるようなアエーシュマを捉えることはできなかった!

『凄い……凄いぞこれは!!酔っぱらいの無軌道な動きにアーリマン、対応できない!!完全に翻弄されている!!』

「本当だ……これ、凄いんじゃねぇの?」

「ふざけてるわけじゃなかったんだ……これが本当にチャンピオンの本気なんだ!!」

「行け!ヤクザーン!!もっとお前の力をおれ達に見せてくれ!!」

 冷めていた客席に再び熱がこもり、そこから発せられる興奮した声に、ヤクザーンは酔いしれた。

「あぁ……この声が聞きたかったんだ。オレの本気を見て、熱狂する観客の声が……」

「だったら最初から本気を出せば良かっただろ!!」

「それが無理なんだよ。アエーシュマはのんびり屋でめんどくさがり屋だから、並みの相手じゃ、オレを酔わせてくれない」

「やはりこれは特級の能力か……!!」

「イエス。アエーシュマはウォーミングアップを終えると、内部から酒を生成し、装着者に注入してくる。この酒はものによるがある程度の毒なんかは無効にできるし、痛みを和らげてくれる」

「ヴェノムニードルが効かなかったのは、そういうことか……!!」

 攻撃を続けるが、その全てを現在進行形で回避され続けているアンラ・マンユ。更なる悔しい事実を突きつけられ、思わず歯噛みした。

「まぁ、そのデメリットとして、こうして酩酊状態になってしまうのだけどね」

「……デメリットだと?酔っぱらうのはデメリットなのか!?」

「そうだよ。オレ以外にはね」

 そう言いながら、アエーシュマはこの状態になってから、初めて拳を繰り出した!

(ここで仕掛けてきたか!!)

 アンラ・マンユはとっさに攻撃を止め、ガードを固める……が。

「残念」


ヒュッ!ガァン!!


「……な!?」

 拳が軌道を変え、ガードを避けると悪魔の側頭部に見事にヒットした。

「他の奴にとってはデメリットでも、オレにとってはメリットでしかない……このヤクザーン、酔拳の使い手だからね」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「――ッ!?」

『攻守逆転!!チャンピオンが攻めに回った!!』

『あの独特な、変幻自在の軌道の攻撃にアーリマンは対応できてないみたいですね。身体を丸めて、急所を守ることで精一杯のようです』

「そりゃそうだ!こんな強い酔っぱらい!世界中探してもオレしかいないもんね!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐうぅ……!!」

『さらに回転率を上げるチャンピオン!アーリマンはどうすることもできずに無抵抗なサンドバッグに成り下がっています!!』

「ほれほれ!言われてるぞ!!」

(くそ!!なぜ酩酊状態なのにパワーもスピードも上がっているんだ!?理屈に合わないだろ!!いや、理屈じゃないんだ!酔っぱらうことで強くなるヤクザーンと酒を作り、酔わせることができるアエーシュマ、この二つが揃ったら、とにかく強い!認めたくないがそれが現実なんだ!!だったら!!)

 アンラ・マンユはそっとガードを解いた。

『どうしたアーリマン!!まさか諦めたのか!?』

『いえ、これは……』

「はいよ!!」

 防御しようがしまいが、当然アエーシュマには関係無い。容赦なくボディーブローを撃ち込んだ!


ゴッ!!ブゥン!!


 アエーシュマの拳が少し触れただけで、勢いよくアーリマンは空中を回転する。

『これはさっきの!!』

『チャンピオンの攻撃を受け流した!!』

(これなら!!)

 受け流した勢いを利用し、アエーシュマの頭上に踵を落とすアンラ・マンユ!普通の相手ならこれが決まり、一気にKOだ!

 けれど悲しいかな相手は絶対王者、最強のチャンピオン、しかも本気バージョンだ。


ゴッ!ブゥン!!


「な!?」

 アエーシュマもまたアンラ・マンユと同じように空中を回転する!そう、全く同じように……。

「脱力して攻撃を受け流す……それ、オレが一番得意なこと」

 そう自慢気に言いながら、チャンピオンは踵を撃ち下ろした。


ドゴッ!!


「――ッ!?」

『カ、カウンターのカウンター!!踵落としを踵落としで返した!!』

『今の入り方はまずいですよ!!このままKOも……』

「舐めるなぁッ!!」

 高過ぎるプライドが肉体の限界を凌駕した!

 倒れそうになったアンラ・マンユだったが踏みとどまり、さらにあろうことか反撃の拳を繰り出した!


ゴッ!ブゥン!!


「……え?」

 パンチは肩に当たった……当たったが、またアエーシュマはそれを受け流し、まるでバレエダンサーのようにその場で回転した。そして……。

「言ったろ、得意だって。お前さんはどうだか知らんが、オレは連続で受け流せるのよ」

「く、くそ……!!」

「酔王暴流撃」


ドゴォッ!!


「――ッ!?」

 アンラ・マンユのパンチを利用した回転からのカウンターの裏拳!

 見事に紫のマスクに直撃し、木原の意識を混濁状態に陥れ……倒す。

『ダ、ダウーーーンッ!ダウンダウンダウーーン!!チャンピオンの華麗なるカウンターを食らい、アーリマン倒れたぁぁぁッ!!』

『自身の攻撃の威力を上乗せされた上に、完全に不意を突かれましたからね……これはちょっと無理かもしれませんね』

「ふぃ~」

「チャンピオン、下がって!」

「はいよ」

『両者を離して、カウントが始まるようです』

「1!2!」

(俺はどうなったんだ……?つーか、俺って誰だ……?)

 朦朧とする意識の中、自分が何者かも判別できなくなった木原史生。

(俺は……)


「なぁ安堂ヒナ?」

「なぁに?フミオちゃん」


「!!!」

 その脳裏にとある日の記憶が過ると、一気に覚醒し、全身に力が漲った。

「7!!」

「やめろ!!俺はまだ戦える!!」

『アーリマン立った!致命的な一撃を受けたかと思ったが、立ち上がった!!』

「ほう……」

「チャンピオン……!!」

 身体のバネだけで飛び起きるアンラ・マンユ。その真っ赤な眼はいまだにフラついている絶対王者を捉えると、キッと睨み付けた。

「アーリマン!本当に大丈夫か!?」

「貴様の目は節穴か!こんな簡単な判断もできないなら、審判なんてやめちまえ!!」

「ええ……」

「はははっ!!言われちまったな、古沢さん。そんだけ悪態つけるなら、平気だろ」

「むぅ……ならば……ファイッ!!」

『試合再開!!極限バトルは続行だぁぁぁッ!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 煽る実況、それに応え地鳴りのような歓声を上げる客席。

 対照的に主役である二人は静かに睨み合ったまま動かなかった。

「……来ないのか?」

「それ、お前が言う?まだダメージが抜けてなくて、まともに動けないのに」

「だからかかってこいって言ってんだよ!こっちから行けないから!!」

「今のオレは酔っぱらいだけど、そんな安い挑発には乗らないよ。それにチャンピオンとして追い詰められた奴が予想を超える力を発揮するのを何度も見てきたからね」

「ドーピングの酔っぱらいのくせに冷静じゃないか……!」

「お言葉だね。ここのルールでは試合中に酔っぱらうことは禁止されてないよ。それにさっきも言ったけど、オレ以外は飲んでも弱体化するだけだし」

「それでもドーピングはドーピングだ。卑怯な真似を」

「そう思うんなら、お前もやればいいじゃん、ドーピング」

「そうさせてもらおう」

「そうそう……え?」

「はあっ!!」


ガァン!!


 アンラ・マンユは両拳を叩き込んだ……自らの腹に。

「何を……!?」

「だからドーピングだよ……ヴェノムブースト……!!」


バシュ!バシュ!!


「ッ!?」

 そして拳から毒針を発射する。針は紫の装甲を貫通し、木原の体内に入り込んだ。

『これは血迷ったかアーリマン!!?自らに毒を撃つなど、正気の沙汰とは思えない!!』

『いえ、毒と薬の差は用法と用量を守っているかどうかだけなどと言われています。もしアーリマンがその用量を自由に操作できるなら……』

『まさか本当に……』

「……ふぅ」

 一息つくアンラ・マンユ。そしてその後すぐに……その場でピョンピョンと飛び跳ね始めた。

「動けるようになった……いや、動けるように無理矢理したか」

「あぁ、ドーピングにはドーピング。これでまた動ける……お前に勝てる!!」


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