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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
165/194

副将戦①

 仲間の気持ちなど露知らず、エシェックは堂々とした態度でレフェリーの側まで近寄り、指定の場所で立ち止まった。

『エシェック選手、とりあえず気合は十分なようですね』

『はい、一勝二敗と負け越していますが、プリニオ軍は素晴らしい選手揃いでした。そこに名を連ねているということは、彼もかなりの実力者であることは間違いないかと。どんな戦いを見せてくれるか、楽しみです』

『それでは、そんな彼と戦う対戦相手の入場!アレッシオ軍の副将も資料にはデータがない謎の存在!はたしてどんな戦いを見せてくれるのか?そしてこの戦いを終わらせてしまうのか?運命はこの男の手の中に!!仇考(きゅうこう)ッ!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 地鳴りを起こすような大歓声とスモークを浴びながら、その男は出て来た……出て来たが。

「ひひっ……!!」

「「「う……!!?」」」

 その姿が見えた瞬間、あれだけ盛り上がっていた会場は静まり返った……。

 手足が長い細身の身体に、不気味なメイクが施された顔、目には遠目から見てもわかるほど狂気をはらんでおり、その異様な姿から放たれる威圧感に会場全体が気圧され、息を飲んだのである。

 そしてそれはVIP席で見ている二人も同様……。



「こんな仕事していると、鼻が利くようになる……マジで関わるべきじゃない人間は一目でわかる」

「あいつは今までのアスリート然としていたリンジーやイレールとは別物……生粋の闇の世界の住人だ」

「あぁ、妙に爽やかでストイックな連中の多い、ランビリズマでは珍しい選手だ。あんなもんを匿っていたなんて、クローチェの奴め……!!」

 プリニオは向かいのVIP席にいるアレッシオを睨み付ける。

 けれど、そのアレッシオはというと神経質そうに爪を噛んで、貧乏ゆすりをしながら、決して仇考から目を離そうとしなかった。

(できればこいつだけは出したくなかった……出したくなかったのに……!!)



「ひひっ……」

 こちらも雇い主の気持ちなど意に介さず、観客の冷たい視線もお構い無しにマイペースにレフェリーと対戦相手の下までたどり着いた。

『さぁ、両陣営の副将が出揃いました……が、仇考選手には驚きましたね』

『今までのアレッシオ軍と毛色が違い過ぎますからね。私を含めて観客の皆さんが戸惑いのあまり黙ってしまいました』

『わたしもです。実況失格の謗りを受けても仕方ない大失態ですが、彼を形容する言葉が出て来ませんでした……』

『人は見た目じゃわからないと言いますが、少なくとも外見の迫力勝負では仇考選手に軍配が上がった……ということですね』

『実際の勝負は見た目通りにいくのか?バリアを展開して、着々とゴングが近づく!!』

「実況や解説の言葉なんて気にしないでいいよ」

「ん?」

 突然、今から戦う目の前の不気味な男に話しかけられ、エシェックは眉を潜めた。

「おれを元気づけているのか?」

「うん……君には全力で戦って欲しいから、余計なことでモチベーションを下げて欲しくないんだ」

「ほう……見た目に反して、貴様も極限のバトルを望む求道者か」

 その言葉を聞いた瞬間、仇考の口が裂けんばかりにつり上がった。

「そうだ!私は求道者!!誰よりも死を側で感じたいと願い、求める者!!」

「死を感じたいだと……!!」

 エシェックの眉がひくつき、額に血管が盛り上がった。仇考の言葉は彼の地雷を見事に踏み抜いたのだ。

「あれ?どうやら私の発言で気分を害してしまったようだね。やる気を削ぎたくないと言っておきながら、なんという体たらく」

「安心しろ……むしろ貴様はおれの心に火を点けた……!適当にあしらうつもりだったが、もう二度とそんな戯れ言を吐けないように徹底的に痛めつけてやるよ……!!」

「それはそれは重畳!私が望んだ最高の展開だ!!」

「はっ!その言葉、すぐに後悔することになるぞ!!」

 そう啖呵を切りながら、エシェックは指輪を着けた手を突き出した。

「吹き荒れろ……サルワ!!」

 指輪は光に、光は機械鎧に変わり、エシェックの全身を覆った。

『細身で装飾もシンプル、だがそれ故に研ぎ澄まされた刃のような迫力を持つ!これが噂の!かつてアンラ・マンユをギリギリまで追い詰めたという暴風の化身!その名もサルワ!まさかのランビリズマに再臨だぁぁぁッ!!』

「「「…………」」」

『あれ?』

 渾身の実況が繰り出したと思ったエミリアだったが、会場の反応は著しくない……というか、水を打ったように静まり返ってしまった。

『わたし何か放送禁止用語でも口走ってしまいましたか?』

『いえ、ただここにいるアルティーリョや佐利羽の皆さんはそれこそサルワの暴れっぷりを目の前で見て、軽いトラウマになっている人が思っているより多かったってだけです』

『な、なるほど……できればもう二度とお目にかかりたくないものを見てしまってフリーズしてしまっているのに、わたしだけ空気を読めずにはしゃいでいたってことですね……なんかすいませ――』

「はははははははははははっ!!!」

『ん!!?』

 突如として響き渡る笑い声に実況の舌は止まり、その発生源を探すことに意識を割く。

 だが、探す必要などなかった。それは一番目立つところから発せられていたのだから。

「何がおかしい、仇考……?」

「うおっ!!?」

 エシェックの怒りはさらに強まり、それに呼応して、サルワが周囲に風を巻き起こした。

「エシェック選手ストップ!!まだ試合は開始していない!!」

「だったらとっとと始めろ。そうすれば問題ないだろ」

「あるわ!これは殺し合いではなく、試合なんだ!相手の準備ができるまで待つのが当然!!」

「私は殺し合いでも構わんないけどね」

「仇考!!せっかくのフォローを台無しにするな!!」

『一触即発とはこのことを言うのでしょうね……今にもおっぱじまりそうです』

「だからさっさと始めろって……言っているんだ……!!」

「エシェック!!?」

 サルワは腰を下ろし、構えを取った。

 それに対し、仇考は……。

「ふふ……すまないすまない。また君を不快にさせてしまったようだね。謝罪するよ」

 両手のひらを前後させて、落ち着けとジェスチャーをした……薄ら笑いを浮かべながら。

「謝罪する態度には見えないんだが……?」

「いや、本当にすまない……まさか二度と会うことがないと思っていた想い人、いや想いピースプレイヤーが目の前に現れたのでね、つい」

「……サルワを知っているのか?」

「知っているも何も私は元奏月だよ。すぐに追い出されたけどね」

「理由は?」

「初対面の相手にずけずけと来るね。だけど、君には嫌な思いをさせてしまったから答えよう……私は武斉を殺そうとしたんだ」

『な、何ぃぃぃぃぃッ!!?衝撃の事実発覚!仇考選手は元奏月で、ボスである武斉の命を狙っていたぁぁぁッ!!』

「実況さん、繰り返しありがとう」

「あんな情緒不安定な女どうでもいい」

『な!!?』

「なんで武斉とやらを殺そうとした?さっき言った死を感じるためか?」

「その通り。このエルザで最も強く、危険な男と耳にしたんでね。だけど残念なことに、彼は私の意図に気づいてね……部下を差し向けられた。せっかくなら自分でくれば良かったのに……私は彼以外には興味がなかったから、姿を隠し、彼と戦える機会を伺っていた」

「それであんなに喜んでいたのか……」

「そうだ!武斉は私の力を恐れ、逃げた!!そしてポッと出のアーリマンなんかに殺された!!もう二度と恋い焦がれたサルワとは会えないと思っていたのに!君が私の失われた夢を叶えてくれた!!笑うしかないじゃないか!!はははははははははははっ!!」

 仇考は長い手足を広げ、先ほど以上の高笑いを発した……が。

「………」

 また突然、それを止め、懐から小刀を取り出した。そして……。

「さぁ、待ちに待った時間だ……『相柳(そうりゅう)』……!!」

 小刀を抜くと、それは光の粒子に分解、機械鎧に再構成され、仇考の全身に装着された。

「「「うっ……!!?」」」

 それを視野に入れたものは一様に、顔をしかめた。

 全身に本来の頭に加え、各所に八つ、計九つの蛇の頭がついたおどろおどろしく、そして不気味なピースプレイヤー……相柳とは、装着者同様に他者の心をざわつかせる形をしていた。



「この感覚……ここに来て特級か」

「まぁ、ヤクザーンに加えて、もう一人ぐらいは出てくるだろうなと予想してたけど……よりによってこのタイミングで」

 プリニオは思わず「チッ!」と舌打ちをした。

「奴の異様な雰囲気に観客は飲まれた。ヴラドレンが作ってくれた勢いが完全に消えたな」

「勢いどうこうでどうにかできる相手とも思えないけどな。あれだけ大口叩いているんだ……完全適合まで至っているはず」

「この威圧感からして間違いないだろうな。それでこちらは?サルワからはそこまでのプレッシャーを感じないが」

「あいつのことはサルワを渡して、装着できるのを確認してから、それっきりだったからな。才能はあるし、根は真面目な奴だから、それなりに仕上げていると思うが……」

「それなりではダメだ。そこらの完全適合できていきがってるだけの奴ならいくらでも対処できるが、奴は違う。同じ土俵に、こちらも完全適合できないと、勝負にならんぞ」

「だね。でも今さらオレらグチグチ言ったところで……」

「意味はないか……」



『対照的!美しいルックスに、機能美を追及した引き算の美学を感じるサルワを纏うエシェック選手と、ゴテゴテとした装飾で相手を威圧する相柳に身を包む異形の仇考!何から何まで対照的な二人のマッチアップになりました!!』

『戦い方も見た目から受ける印象通りなのか……注目です』

「両者準備はよろしいか?」

「いいから早く始めろと言ってるだろうが」

「同意。待ちくたびれたよ」

「それでは……」

 レフェリーが高々と腕を上げると、会場はさらに静まり返り、無音となった……。

 無言の彼らの視線を一身に浴びる二人は、お互いから決して目を離さない。

「始めえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 試合開始を告げると共に腕を振り下ろすレフェリー。

 それと同時にサルワは審判とは真逆に、下から上に手刀を振り上げた。

「スラッシュウインド」


カーン!ザンッ!!


 ゴングと共に放たれたのは不可視の風の刃!

 先制はサルワ!


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