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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
163/194

中堅戦②

『説明させて頂くと、国際硬すぎて加工なんてムリムリ素材というのは国際的に硬すぎて加工なんて無理だとされている素材のことです』

『説明する必要がないほどわかり易いネーミングですが……そのちょっとアレな名前に反してこれにカテゴライズされた素材の丈夫さは本物!当然武器に使えば強力無比です!』

「確かにそれは十把一絡げの相手に使うには上等過ぎるな……」

「そうだ。これを抜いたということは、あんた一流の戦士と認めた証……誇るといい」

『イレールカスタム!構えを取った!遂に天才剣士の本気が見れるのか!!』

『ヴラドレン選手がどう対応するのかも見ものですね』

「再スタートだ。まぁ、あんた次第じゃ、すぐに終わることになるかもだけど!!」

 新たな得物で放たれる神速の突き!それは……。


ザシュ!!


「――ッ!?」

 タルウィの肩口を抉り取った!さらに……。

「こ……の!?」

「はっ!!」

 間髪入れずに第二撃!


ザシュ!!


「ぐっ!?」

 今度は太腿の外側の装甲が弾け飛ぶ!さらにさらに……。

「はっ!!」


ザシュ!!


「――ぐあっ!!?」

 三撃目!脇腹に命中!さらにさらにさらに!

「はっ!はっ!はあっ!!」


ザシュ!ザシュ!ザシュッ!!


「ぐうぅ……!!」

 突く!突く!突く!タルウィはそれをどうすることもできずに身体中に傷を刻まれてしまう!

『これが天才イレールの本気……圧倒的じゃないですかあぁッ!!』

『ええ、これはちょっと……タルウィはきついですね』

『率直な疑問なんですけど、先ほどのようにワイヤーで軌道を逸らすことはできないんでしょうか?』

『無理ですね。理由としては二つ、まずは武器が違う』

『あぁ、エタンセルは国際硬すぎて加工なんてムリムリ素材ですもんね。ちょっと触れただけでワイヤーが切れて、軌道を変えることなんてできないかも……』

『はい、かもです。当て方によっては可能かもしれませんが、ここで二つ目、イレール選手は先ほどと違い狙いをバラけさせているんです』

『それはタルウィのあの無残な姿を見ていればわかりますね』

『とてもじゃないが、ピンポイントであの速度の突きの来る場所を予測し、それにワイヤーを最適な角度で当てるなんて、人間には無理な話です』

『しかもその攻撃のスピード自体さっきよりもかなり速くなってますもんね』

『いえ、実は突きの速度に関しては今までと変わってないんですよ』

『え!?そう何ですか!?』

『速くなったのは“引く”スピードです。次の攻撃態勢に移るスピードが凄まじく速くなっているのです。一撃必殺が代名詞といいましたが、本来のイレール選手のスタイルは一撃目で体勢を崩し、立て直す前に二撃、三撃……つまり手数で押すタイプなんですよ』

『引いて突く、突いて引く……その二つが最速の状態で合わさることでイレール・コルネイユの剣は完成というわけですか』

『彼の加減していた五割というのはエタンセルではなく、そっちのことを指していたんでしょう』

『なるほど……もう一つ疑問があるのですが……』

『はい、何でしょうか?』

『今の話だけ聞いていると、対戦相手はとてもじゃないがもう蜂の巣の穴だらけになっていないとおかしいと思うのですが……』

 目の前にいるタルウィは確かに無残としか形容できない姿をしていて、現在進行形でさらに傷を増やしている体たらくだった……だったが、それでも今も元気に飛び跳ねていた。

『なんでタルウィは今も戦闘を続行できているのでしょう?』

『それは……』

『それは?』

『私にもさっぱり』

『え?』

『いや、解説としてお恥ずかしい限りなんですが、どうして耐えられているのか……あえて無理矢理答えると、“経験則”でしょうか』

『これまた曖昧な』

『すいません。でもそうとしか……ヴラドレン選手は私達、下手したら彼自身気づいていない情報を無意識でキャッチしていて、また無意識にそれを元に攻撃の軌道を予測、かろうじて致命傷だけは避けるように動けているんでしょう……多分』

『まぁ、熟練の戦士がたどり着いた至高の領域ってことですね』

『はい!そういうことにしておいてください!』

『ですが、そんな無茶苦茶な理屈で攻撃を防がれているんだったら、イレール選手は内心穏やかじゃありませんね』

『いえ、彼のことだから喜んでいると思いますよ』

 解説の言葉通り、イレールは……。

(僕の本気のラッシュにここまで耐えるなんて……最高だぜ、あんた!!)

 心の底から笑っていた。



 普通よりちょっとだけ裕福な家庭に生まれた。基本的に特筆すべきはそれくらいで、変わったところはない面白みのない家庭だと自分では思っている。

 あることだけを除いて。

 我が家に生まれた者は物心ついた時からサーベルを握らされ、フェンシングを習わされる。先祖がなんかそこそこ高名な騎士で、その頃からの習わしだった。正直、いまだにそんなものにすがっていると思うと、情けなくも感じるが……フェンシングに関しては好きだった。

 元から才能があったから好きになったのか、好きこそものの上手なれで強くなったのか自分でも判断しかねるが、地元じゃ負け知らずだった。

 勝つのはもちろん嬉しかった。けれど、たまに敗者が言う言葉が昔から引っかかった。

「強いな、コルネイユ……もし本物の剣だったら、死んでいたよ」

「やられたやられた!もしサーベルがモノホンなら、今頃オレは天国……いや地獄行きか?」

 別に命の危険のない安心安全のスポーツとしてのフェンシングを否定するつもりはない。自分の家族がやるっていうなら、そうであって欲しいし、他の競技でも殊更危険なプレーを望んだり、誇ったりする無責任なファンやサポーターには眉を潜める。

 だが、自分でやるとしたら……ぬるいと思ってしまう。

 フェンシングは好きだ。誰よりも強くなりたい。けれど僕の求める強さは競技ではなく、命のやり取りの中にあるんだと自覚するのは、あっという間だった。

 僕は家を出て、世界を巡った。そしてたどり着いたのがエルザシティ、Barランビリズマ。

 最初はただの反社の興行だと思っていたが、チャンピオンのヤクザーンの影響か、僕のように強さを極めようとする求道者が思ったより多かった。

 僕はここに根を下ろすことにした。戦いに明け暮れる生活は充実していた……最初だけは。

 すぐに僕を満足させてくれる、強さを押し上げてくれるような強敵はいなくなった。一撃必殺が代名詞など褒め称えるが、僕が求めるのは、そんなあっさり終わる戦いじゃない。

 僕が求めるのは……。



「こういう計り知れない強者との戦いだぁぁぁ!!」


ザシュ!ザシュ!ザシュッ!!


「――ッ!?」

『止まらない止められないイレールカスタム!!突いて引く、引いて突くという単純動作がここまでの脅威に仕上げるとは、とんでもない才能とスタイルへのこだわりです!!』

『そろそろ何か手を打たないと、ヴラドレン選手はまずいですよ』

(だよな……!!)

 ヴラドレンは身体中から感じる痛みと頭を切り離し、回避に最低限必要なエネルギー以外を思考能力に集中させた。

(何故致命傷を防げているかわからんが、このまま続けていたら見切れるようにならんかね?ならないよな。一か八か攻撃を受けてみるか?身体に刺さったあのエタンセルとかいう奴をさっきみたいに掴んで……無理だな、これも。あのスピードで引かれたら掴めない。あの武器を奪うにはドンピシャのタイミングで捉えないと……そのためには!!)

「!!?」

 タルウィは両手からワイヤーを射出!それに熱を伝達させると、真っ赤に輝いた!

『これは何だ!!?赤い糸は二人を繋ぐ絆か!?それとも終生の別れに導く、秘密兵器か!!?』

(……戦況は有利。焦ることはない)

 イレールカスタムは後ろに跳躍、距離を取った。

「憎らしいほど冷静だな。もっと若さを見せてくれればいいのに」

「それが強みになるなら、いくらでも」

「だったら見せようか……老骨に鞭打ち、はしゃぐ姿を!!」


ブゥン!!ジュウッ!!


「ふん」

 タルウィはワイヤーをイレールに向けて振り下ろした。攻撃は残念ながら命中しなかった……が。

「……これは」

『タルウィ、ワイヤーで攻撃!したけど、イレールカスタムにはあっさり避けられる!ただ代わりに命中した地面は白い煙を上げて真っ赤に光っているぞ!!』

『どうやらあの赤いワイヤーは強い熱がこもっているようですね。地面を赤熱化させるなんてよっぽどです』

『筆舌し難いまさに超火力!!当たったら一たまりもないぞ!!』

「なら、当たらなければいいだけだ」


ヒュッ!ヒュッ!キンキンキン!


『イレールカスタム、なんと迫り来るワイヤーを時には軽やかに避け、時にはエタンセルで斬り払う!タルウィの切り札はまた地面に炸裂ッ!!だからどうした!!』

『この戦法は前の戦い、ザリチュとソルティースペシャルが使用したものに似ていますが……正直ザリチュよりも数が少なく、ソルティーよりも精度が低い攻撃なんて……』

『イレール選手にとっては怖いのは威力だけで、どうにでもなるってことですね?』

『ええ、多分そろそろ……』

「見切った」


ザシュ!!


「――くっ!?」

『決まった!熱ワイヤーの間隙を縫って、一突き!!』

『いえ、彼が一回だけで終わるとは……』

「それそれ!!」


ザシュ!ザシュ!ザシュ!!


『さらに突くッ!!サーベルはターゲットにばっちり命中!対してワイヤーは悲しいかな空を切り、地面に虚しく叩いて、土埃と白煙を上げるだけ!!』

『もし手がないとしたら……このままタルウィの負けでしょうね』



「一見すると植物を操るザリチュとワイヤーを操るタルウィは似ている。閉鎖空間に強いのもそっくりだ。けれど、実際はかなり運用方法が異なる」

「そうなの?」

「ザリチュは蔦や根っこを生やし、積極的に自ら攻めていくタイプだが、タルウィは真逆で灼熱のワイヤーを張り巡らしたフィールドに引きずり込み、相手の機動力を奪いつつ、自分はそのワイヤーを特殊な手と足を使って移動し、翻弄するのが正しい運用法だ」

「待ち構え、迎え撃つ……本来は防衛戦とかで真価を発揮するタイプなのね」

「あぁ、そしてそのスタイルは……ランビリズマのルールとすこぶる相性が悪い」

「閉鎖空間は閉鎖空間だけど、囲っているのがバリアだもんね。アレにワイヤーを張れるかどうか……」

「仮にそれが可能だとしても、下手したら観客を危険に晒す行為だと、反則を取られる危険性がある。そして現実として、今回の我が軍で一番不利な戦いを強いられている」

「ぶっちゃけマシンの能力よりも、ヴラドレンの力でここまで持ったって感じだからな。実況や解説の言う通り、このまま打つ手無しで敗北なのかね?はぁ……」

「私はそうは思わん」

「根拠は?」

「このアーリマンと互角にやり合った男だからだ。やられっぱなしで終わるタマじゃない」



(潮時かね……)

 いつの間にか煙と埃が充満しているバトルフィールド、その中で突然タルウィは両手の間にワイヤーを張りながら、動きを止め仁王立ちになった。

「……ふん」

 一方的に攻めていたが、空中に漂う土埃が付着し、純白のボディーを汚してしまっているイレールもまたその行動に不信感を持ち、攻撃を止め、改めて距離を取った。

『おおっと!両者足を止めた!これは……そういうことなのでしょうか?』

『そういうことなのでしょう。ヴラドレン選手、勝負に出るようです。そしてそれをイレール選手は真正面から打ち破るつもりなのでしょう』

「そろそろお客さんも決着を見たいだろう」

「つまり観念したのか?じいさん」

「勝利を諦めたつもりはない」

「だろうな。だが、そのためにひねり出した策がこの鬱陶しい土煙か?それとも本命はこっちか?」

 イレールはトントンと足で地面を叩いた。モヤがかっていて目立たなかったが、フィールドはタルウィのワイヤー攻撃によって荒れに荒れている。

「視界を乱せば、狙いもずれると思ったか?足場を荒らせば、踏み込みが甘くなると思ったか?」

「あわよくば」

「僕の剣はそんな罠とも呼べない児戯でどうにかできるほどやわじゃない。その程度のことがわからんとは……がっかりだよ……!」

 イレールはぐっと腰を下ろし、最後の攻撃を放つ体勢を取った。

「自分も自分にがっかりしている……こんな手段しか取れない自分に心底ね」

 タルウィもまた精神を集中し、身体の前面にワイヤーを張り、どっしりと待ち構えた。

「逸らすどころか、ワイヤーに当てることもできんさ」

「何事もやってみないとわからんだろ?」

「わかるさ……僕の勝利は確定した!!」

 イレールカスタム動く!乱れた足場などものともせず、身体についた埃を振り払いながら、渾身の突きをタルウィに撃ち込む!

「今だ!」

 同時にタルウィも動く!ピンと張っていたワイヤーを……弛める!

(糸をたゆませ、輪を作り、その輪の中心にサーベルを……!!)

 ヴラドレンの狙い通り、エタンセルはワイヤーが作った“丸”の中を通過!そして……。

(自分にたどり着く前に……!)

「締める!!」

「何!?」

 力一杯ワイヤーを引っ張り、輪を縮め、エタンセルを締め上げる!このままサーベルは動きを止めると思いきや……。

「このぉ!!」


ギッ!ギギィッ!!


「くっ!?」

 それでも刃は火花を散らしながらも止まらず!タルウィの身体に迫る!

「止まれ!止まってくれ!!」


コン……


 エタンセルの切っ先はタルウィに届いた……届いたが、装甲の表面にコツンと触れるだけで、貫くことはできなかった。

「ちいっ!!」

 慌てて愛剣を引こうとするイレール!しかし……。

「逃がすか!!」


グイッ!!カァン!!


「なっ!?」

 ワイヤーによって絡め取られ、手から奪われ、遠くに投げ飛ばされてしまった!

「僕から剣を……!?」

「やっぱ最後は……殴り合いしろってことだろ!!」


シュル!!


「――!?しまった!?」

 得物を失った剣士の腕にタルウィはワイヤーを巻き付け、逃げられなくすると容赦なく襲いかかる!

「くっ!?くそぉ!!」

 それに半ば自棄になりながら、イレールは応じた。


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


『なんと!先ほどまでと打って変わって超接近戦の殴り合いです!!というかイレール選手が剣以外で戦うところを初めて見ました!!』

『彼はスタイルにこだわりのある選手ですから。そして、そんな選手がこだわりを崩した時点で……』

「白髪頭のジジイが……!!」

「戦場に身をおいている者にとって、この頭は勲章だ。こんなになるまで生き延びたってことなんだからな……まぁ、そんな風に思っているのは自分だけかもしれんが」

「僕は気が長くない。そうなる前に必ず……あんたを倒す……!!」

「長生きする楽しみができたな」


ゴォン!!


 強烈なストレートがひび割れた純白のマシンを撃ち抜いた!完全なるクリティカルヒット!そのまま剣を失った剣士は崩れ落ちる!

 同時にレフェリーが空中で手を動かした!

『大大大逆転!!老兵が若き剣士を下すッ!!ヴラドレン・ルベンチェンコ選手!プリニオ陣営の首の皮を繋げる大金星を上げたぁぁぁッ!!』


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