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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
162/194

中堅戦①

(あいつら揃いも揃って自信満々だったから、あわよくば二連勝、最低でも一勝はしていて、自分が負けても終わることはないと踏んでいたのだが……見事に外れたな)

「ルベンチェンコ選手、どこへ行くつもりか?」

「え?」

 思案に耽っていたヴラドレンは危うくレフェリーを通り過ぎそうになった。

『新たな情報です!ヴラドレン選手はちょっとおっちょこちょいかもしれません!!』

「……不覚!!」

 シワだらけの顔は一気に真っ赤に染まった。

『今のボケがわざとなら大物ですね』

『そうは見えませんでしたけどね』

『とにかくザリチュの暴走のせいで張り詰めていた空気を和ませてもらったのは感謝です!!ですが、のほほんとしていられるのはここまで!!アレッシオ陣営の中堅!入場だぁぁぁ!!』

 反対側の入場口からスモークを肩で切って出て来たのは、腰にサーベルを下げた若い男だった。

『何の因果か経験豊富な熟練戦士に挑むのは、才気溢れる若き剣士!!アレッシオ陣営最年少!イレール・コルネイユ!!』

 イレールはどっかの誰かさんと違いピタリと所定の位置に停止した。

「残念だよ」

「ん?」

「この僕の相手がよりにもよって耄碌したじいさんとはね。噂のアーリマンとやりたかった」

「開口一番ひどいな。だが、自分はアーリマンはもちろんさっき大活躍だったドゥルジやザリチュにも勝ってるぞ」

「……何?」

「「「ええぇぇぇぇッ!!?」」」

『おおっと!!凄い情報が飛び出した!!この謎の男はプリニオ陣営の秘密兵器にして、最強の戦士なのか!!?』



「あいつ……嘘八百にも程があるだろ……!!」

 アンラ・マンユは怒りでワナワナと震えた。

「まぁまぁ、相手を萎縮させるための戦略的ブラフかもしれないし……単純に意外とサービス精神が豊富だったってだけかもしれないけど」

「ふん!その程度の嘘で揺さぶられないのは、今までの相手を見ればわかるだろ。腹立たしいことに、奴らは我らの予想を超えて優秀だ」

「でも、それを選んだトップにはクリティカルだったみたいだよ」

 向かいのVIP席ではアレッシオがガラスに両手をつき、顎が外れんばかりに口を開けていた。

「君はそれで溜飲が下がるかもしれんが、私はな」

「あれ?てっきりオレはここで負けたら負けたで、自分が戦わないで済むからラッキーとか内心思っているのかと」

「今、言った通り思いの外、敵は強く優秀だったからな……興味が出て来た。今は私の出る大将戦までもつれ込んで欲しいと本気で思っているよ」

「今更感があるけど、やる気を出してくれて嬉しいよ。オレとしても当然こんなところで終わるのはごめんだ」

「我らの望みのため、勝てよヴラドレン。下らない嘘をついておいて、情けない戦いをしたら許さないぞ……!!」



「バリア展開!!」

『さぁ、今レフェリーを含めて三人だけの空間が作られました!ここで勝負を決めるか!アレッシオ軍!それとも食らい付くか!プリニオ軍!!』

「両者戦闘準備を」

「了解した」

 そう言うと、ヴラドレンは手を顔の前に翳した。そこにはキラリと光る指輪が……。

「熱せタルウィ」

 指輪は機械鎧に変化し、ヴラドレンの全身に装着される。

 本体は細身なのに末端はビッグ、両手と両足が巨大化している特徴的なピースプレイヤーが、この時まで日の目を見ることなかったマシンが大勢の観客の前に今、立つ!



「マジでタルウィと適合したのか……」

「驚きだよね。オレも報酬代わりに渡したつもりだったんだけどさ」

「前金扱いするにはもったいない。以前の使い手はくそだったがマシン自体はいいものだからな、あれ」

「ヴラドレンもそう言っていたよ」

「だが、今回は……」



「マシンだけは立派だな」

「ん?自分がアーリマン達を倒したというのを信じてないのか?」

「嘘か本当かなんてどうでもいい。誰であろうと僕の前に立つ者は……倒すだけ!!」

 イレールの気持ちに呼応するようにネックレスが輝き、その光が収まると純白のピースプレイヤーがタルウィの前に出現していた。

「ほう……そちらも中々いい趣味をしているな」

「褒めても手加減などせんぞ」

『イレール選手の愛機は新進気鋭のメーカー、ウィーデンのブランジェント。このマシンはカスタム性が良好でイレール選手も手を加えていることから、ここランビリズマではイレールカスタムの愛称で親しまれています』

『まんまですね。それはそれとして、若い選手が新しい会社の製品を使うのは、心が踊ります』

『それに対するは出所不明のタルウィ!果たしてどんなバトルになるのか……』

「皆さんお待ちかねのようだ。いい試合が続いてるから君達も……」

「それは相手次第だな」

「あぁ、雑魚を相手に観客を沸かせる試合をするなんて……生憎そこまで器用じゃない」

「気合は十分というわけか……では早速試合……」

 レフェリーが腕を上げると、相対していた二人は示し合わせたかのように腰を落とし、前のめりになった。

 観客のほとんどはその姿を見て、自然と正面からのぶつかり合いを期待してしまう。しかし……。

「始めええぇぇぇぇ!!!」

『両者後退!!開始と同時に距離を取ったぁぁぁ!!』

 両者まずは間合いを確保。

 タルウィはオーソドックスに両腕を上げ、小刻みにステップを踏む。

 一方、イレールカスタムは半身になり、前に出した右手に腰に装備されたものとは別の新たに召喚したサーベルを握った。

「腰のものを見た時から、もしやと思っていたが……フェンシングか?」

「イエス」

『イレール選手はこのランビリズマに来る前はフェンシング界で大暴れしていたそうです』

『格闘技や武術をかじっていた人達がピースプレイヤーやブラッドビーストと戦うこの地下闘技場に参加し続けると、今までのスタイルが見る影もなくなるほど大きく変容していく場合が多いんですが、イレール選手は参戦してから今日まで、フェンシングスタイルを貫き通しています』

『そういうストイックというか一途なところが人気の秘訣ですかね。まぁ、強いって前提があってのものでしょうけど』

『彼の実力は本物です。一方のヴラドレン選手は全くの未知数。どういう戦いになるのか見当がつきません』

「つくさ。僕の勝ちは揺るがない」

 そう言いながらイレールはジリジリとにじり寄った。対するタルウィはその場を動かず待ち受ける。

「逃げないのか?」

「今のところ逃げる理由が見当たらないからな」

「本当に耄碌しているんだな」

「なんとでも言え。それよりも一つだけ質問していいか?」

「いいよ。あまりに哀れなあなたにせめてもの慈悲だ」

「余計な文言を付け足さないと喋れんのか……まぁいいや。その腰の奴は飾りか?何でわざわざ新しいサーベルを召喚した?」

「僕が『エタンセル』を使うのは、本気になっただけだ」

「ほう……では、今は本気じゃないってことか?」

「あぁ……あんたなんか五割で十分だ!!」

 地面が震えんばかりの踏み込み!それと連動する突きが放たれた!


ヒュッ!!


『避けたぁぁぁ!!タルウィ、イレールカスタムの突きを見事に回避した!!』

『いえ、残念ながらあれを回避とは……』

 ピョンピョンと飛び跳ねながら、再び距離を取るタルウィ。その胸の装甲には小さな穴が空き、パラパラと破片がこぼれ落ちていた。

『前言撤回!!タルウィ回避できず!!神速のサーベルからは逃れられなかったぁ!!』

『とはいえ、あれだけの被害で抑えたのは凄いですよ。普段の試合ではイレール選手の相手は、大抵初撃でやられていますからね』

『一撃必殺が彼の代名詞になってますもんね』

『ええ、あの突きを完璧に避けられるのは、ランビリズマでもリンジー選手とヤクザーン選手だけじゃないでしょうか』

『つまりやられなかっただけでも御の字!凄いぞタルウィ!!やったぞヴラドレン!!』

「エミリア嬢、少し判官贔屓が過ぎないか?確かに僕が負けた方が盛り上がるのは、間違いないけど」

「わかっているなら、負けてくれないか?」

「やだよ。そもそも僕はどっかのチャンピオンやブラッドビーストのように観客どうこうには興味ない。ただ……剣を極めて、頂きを目指すだけだ……!!」

(最初のはったりの時から気づいていたが、若いのにメンタルがしっかりしている……厄介だな)

 ヴラドレンは視線だけ落とし、胸の傷を確認した。

(一発目から完璧に避けられるとは思っていなかった……だがそれにしても予定よりも深く食らっちまったな。安定した体幹から繰り出される流麗な突き……切っ先が点のまま迫って来るもんだから、ギリギリまで動いているのを認識できなかった。モーションでタイミングを取るのは難しいか……)

「僕のモーションからタイミングを測ろうと思っても無駄だよ」

「……お見通しか」

「僕と戦う相手はみんな同じことを考えるから……ね!!」


バキッ!!


「――ッ!?」

 二度目の突きは先ほどの穴の隣に命中した。

『再びヒット!!タルウィ為す術無しかぁ!?』

(もう少し足掻いてみるさ)

 タルウィはイレールカスタムの側面に回り込んだ……が。

「縦は速くとも、それ以外はとか考えたか……浅はかな」

「!?」

 純白のマシンは今まで同様華麗な動きで旋回!またタルウィを正面に捉えた!

『全方位対応の実戦仕様のフェンシング、それがイレール選手の剣です』

『この天才剣士の前には逃げ場はないのか!?』

「ちっ!こうなったら……!」

『おおっと!タルウィ、なんと動きを止め、ガードを解いた!!諦めたのか!それとも何か考えがあってのことか!?』

「どちらでもいいさ。僕の突きを防ぐことなどできない!!」

 臆することなく放たれた突きは今までと何ら遜色ないスピードと軌道でタルウィに撃ち込まれた!……結論から言うと、それがいけなかった。

「残念、当たらないよ」

 タルウィは片腕を上げた!すると……。


ズッ!!


「!!?」

 何故か突きが勝手に逸れて、命中しなかったのである!

『は、外した!!?まさかのイレール選手が止まっている相手に、何もしていない相手に攻撃を外した!!』

(何もしてないだと!?そんなわけ……!!)

 瞬間、イレールはタルウィの大きな手と足に煌めくものを見た。細くて視認し難い煌めくものがピンと張っているのを……。

「糸……ワイヤーか!?」

「ご名答!!」


ガシッ!!


「しまった!?」

 戸惑うイレールの隙を突き、タルウィはサーベルを脇で挟み込んだ!そして……。

「はあっ!!」


バキィン!!


「――ッ!!?」

 もう一方の腕を叩き込んで、へし折った!

『折れたぁ!!イレールカスタムのサーベルが折られてしまった!!』

『タルウィは突きの瞬間、攻撃地点に罠を張りました……ワイヤーです』

『ええ、手と足の間にピンと張っていました』

『それが突きに当たり、サーベルの軌道を変えたのです。うまいこと逸らせましたね』

『ですが、あんな細いワイヤーを突きに当てるというか当たるのはかなり可能性が低いのでは?』

『他の相手だったら成功しなかったかもしれませんね。ですが、今彼が相手にしているのは若き天才イレール。先の二度のダメージから正確に同じ場所を狙っている、狙える技量があると判断したから、無謀にも思える策を迷いなく実行できたのでしょう』

『なるほど。イレール選手の高い実力と、それを誇示したい高いプライドが仇となったわけですね』

『はい、その通りです』

「……耳が痛いな」

 折れた剣を投げ捨てながら、イレールは自嘲した。

「これで本気を出さざるを得ないだろ?若き天才剣士さん」

「嫌味なジジイだ……だが、悔しいが、確かに全力を出すだけの価値がある」

 そう言うと、イレールカスタムは腰に差していたサーベルを抜いた。

 その刀身は剣にしてはどこか違和感を感じる。というかそれは……。

「……角か?オリジンズの角なのかそれ?」

「イエス。我がエタンセルは『カティローク』の角でできている。そしてこの角は……国際硬すぎて加工なんてムリムリ素材だ」


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