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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
161/194

まさかのエキシビションマッチ

『なんと!なんとなんと!巷で噂のアーリマンとこの戦いの真の主役でもあるプリニオ氏がタッグを組んで電撃参戦んんッ!!』

「……そういうのいいから早くしろ」

『すいません……今すぐやります』

 アンラ・マンユが肩越しに睨み付け、バリアの解除を急かすと、実況のエミリアはスタッフと連絡を取り始めた。

『……ええと、カウント三秒後に同じく三秒だけバリアを解除します。その間にバトルフィールドに入ってください』

「了解した」

『あっ、古沢さんもその三秒で逃げてくださいね』

 白黒のピースプレイヤーはバリアのギリギリ前に立ち、両手で大きなマルを作った。

『どうやら皆さん準備万端ということで!では早速行きますよ!3!2!1!ゴー!!』

「よっしゃ!!」

「ふん!」

 バリアが解除!同時にドゥルジとアンラ・マンユがダッシュ!

「ザリュウゥゥゥゥゥゥッ!!」

 それを迎撃するように、暴走ザリチュが蔦を伸ばす!

『蔦を外に出さないでください!バリアが展開できなくなるかも――』

「フィンガービーム」

「不浄の弓」


バババババババババババッ!!


 指から放たれる光線と弾ける溶解液の矢が外に出ようとする蔦を全て迎撃、消し飛ばした。

『わざわざ注意する必要なかったみたいですね……って、言ってる間に時間終了!バリア再展開です!!』

 光の膜が再度バトルフィールドを包み込み、外の世界と戦士達を隔絶する。レフェリーがどさくさ紛れに脱出しているので、正真正銘今回は戦う者だけの空間だ。

『本来、仲間である三人が何の因果か向かい合う!!なんという悲劇!この世に神はいないのか!!』

「別に悲しむほどの仲じゃないけどな。そもそも本来は敵だし」

「つれないこと言うなよ……今は味方でしょ」

 プリニオはマスクの下でニコリと微笑みかけた。その笑みに隠された意図を木原は察する。

「芝を助けるつもりか?」

「今は味方だからね。そうするでしょ、当然」

「始末するより難易度が上がるぞ?」

「だろうね。でも、オレ達二人ならできる」

「楽観的だな」

「この状況で悲観的になっていたら、もう終わりだよ」

「そうかもな……味方じゃない塩谷はどうする?」

「塩谷ももちろん……え?」

 アンラ・マンユの言葉でそれを思い出したドゥルジはゆっくりと視線を動かす。

 塩谷はいまだバリアの中で伸びていた。

『おおっと!!すっかり忘れていた!!塩谷選手を誰も外に出すという発想がなかった!!』

「いや!アーリマンは気づいていたよね!外に蹴り出すくらいできたよね!!」

「敵であるそいつにそこまでしてやる義理はないかな……って」

「こいつは本当に……!!」

「文句は後にしてくれ……来るぞ」

「!!」

「ザリュウゥゥゥゥゥゥッ!!」

 アンラ・マンユ達を見定めていた暴走ザリチュだったが、ついに攻撃を再開した!さらに数を増やした蔦が、あらゆる方向から襲いかかる!

「ちっ!!もうちょい端に行ってくれ!!」


ドゴッ!


 ドゥルジは塩谷の方に跳躍し、勢いそのままに蹴り飛ばした!あくまで待避させるために……その割りに威力強めな気がするが。

「優しいな」

 そこに紫の悪魔が合流。自然と背中合わせにフォーメーションを取る。そして……。

「我ながらマフィアなんてやってるなんて信じられないね」

「なら足を洗ったらどうだ?」

「考えてみるよ……生きて戻れたら寝坊!!」


ザンザンザンッ!バシュッ!!ザンッ!!


 迫る蔦をアンラ・マンユは手刀とビームで、ドゥルジは矢と弓に装備された刃で次々と破壊していく!

「上ばかりに気を取られるなよ。ザリチュは地面から赤い根っこを生やせる」


ボコッ!!


 タイミングを見計らったように、ドゥルジの前に赤い根が飛び出してきた……が。

「さっき見たから大丈夫!!」


ザンッ!!


 あっさりと斬り落とされてしまった。

『凄い!凄いぞ!このタッグ!!暴走ザリチュの攻撃をものともしない!!』

「まだこのレベルならな」

「時間が経てば、さらに強力になる可能性もある。そして逆に芝ちゃんが助かる可能性はどんどん低く……」

「色々気を使っている場合じゃないな。一気に勝負をつけよう」

 そう言うと、アンラ・マンユの真っ赤な目が燦然と輝き始めた。

「それ、大丈夫?バリア突き抜けて、観客に被害出すことにならない?つーか、芝ちゃんにとどめさしちゃわない?」

「蔦を焼き払うだけだ。これだけの量なら本体にもバリアにも届かない……多分」

「多分かよ!!」

「ごちゃごちゃ言ってないで準備しろ。障害を取り除いたら、奴を抑え込め!!」

「あぁ!!もう勝手なんだから!!」

「恨むんなら、私を仲間に引き込んだ自分を恨め!ヒートアイ発射する!!」


バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 両目から放出された熱線が宣言通り次々と蔦を焼き払う!

 結果、さっきまで視界一面を蠢いていた緑色は消失し、暴走ザリチュ本体までの道が一気に開けた!

「よし!!これなら!!」

『ドゥルジ疾走!!盟友を助けるために必死だぁぁぁッ!!』

「そこまでの熱い気持ちはないけど……オレが誘ったせいで命を落とす奴が出たら、さすがに寝覚めが悪い!!」

 ドゥルジは暴走ザリチュを抱き止めようとする……が。

「ザリュウゥゥゥッ!!」

 理性なき怪物はそれを拒絶!躊躇することなく拳を振り抜く!


ボゴッ!!


「!!?」

『な、なんと~!!ドゥルジを無情にもザリチュの拳が貫く!!こんなやるせないことがあっていいのかぁぁぁ!!?』

『いえ、あれは……』


バシュ……


『な、なんと~!!腹に穴を開けられたドゥルジが霧となって消えたぁぁぁ!!?』

「だから命を懸けるほどの仲じゃないんだ……って!!」


ガシッ!!


「ザリュウッ!!?」

 声と共に暴走ザリチュの動きが止まる!その背後から無傷のドゥルジが白いモヤを霧散させながら、姿を現した。

『羽交い締めにすること成功!!どうやったかよくわかりませんが、とにかく暴獣を拘束できました!やったね!!』

「分身とはいえ自分自身の腹に穴開けられるところを見せられたんだ……嫌な思いをした価値があったって思わせてくれよ!アーリマン!!」

「おう!!」

 暴走ザリチュに拳を引いたアンラ・マンユが突進!そして……。

「はあッ!!」


ドゴォ!!


「――ザッ!!?」

 渾身の正拳突き!からの……。

「頼むから効いてくれ……ヴェノムニードル!!」


ブシュ!ブシュ!ブシュ!!


 手の甲から毒針発射!ザリチュの装甲に刺さると、睡眠薬を浸透させ、中身の芝に伝える。

「……やったか?」

「アーリマン、それ失敗フラグ……まぁ、今回はうまくいったみたいだけど」

 しゃべり終えると同時にザリチュは光を放ち、指輪に戻り、眠っている芝がドゥルジの腕の中に残った。

「ミッションコンプリート……だな」

「したところで……だけどね。骨折り損のくたびれ儲けってこういうことを言うんだろうな……」

 ため息をつきながら、ドゥルジは気持ち良さそうにお眠り中の芝を肩に担いだ。

「いや、そうでもないみたいだぞ」

「芝さんを助けてありがとよ!!」

「やっぱアルティーリョはあんたが率いるべきだ!!」

「お前なんかにこんなこと言いたくないが……アーリマン!てめえもサンキューな!!」


パチパチパチパチパチパチパチパチ!!


『惜しみない拍手!!アルティーリョも佐利羽もなく、会場が一体になっています!!』

「君の献身は皆の心に深く刻まれた。特に佐利羽はこの恩を忘れない。今後も協力を続けるなら、この一件はデカいぞ。まさしく怪我の功名だな」

「ここから三連勝決めたらって、厳しい前提があるけどね。つーか、オレは得したが、あんたには損をさせちまったな。知られていない手札を試合前に晒しちゃって」

「知られていないからできることもあるが、知られているからこそ取れる方法もある。なるようになるだろ」

「あんたほどの男がそう言うなら……とにかく芝ちゃんを医務室に運ぼう」

「あぁ」

『ええ、スタッフからの連絡です。バトルフィールドを整えるために、休憩時間を取らせていただきます。トイレに行くなら今のうちに』

『あと一応言っておくと、ザリチュがソルティースペシャルをKOしたのは、審判のコールが行われてからなので、勝敗は覆りません。アレッシオ陣営の二勝です』

「「「ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」」」

『ブーイングされても、そういうルールですから。どんなに不服でも結果は変わりませんよ』

『ええ!ですから、どうせやるなら拍手を!!もう一度二人のヒーローを称えて上げてください!』

「そうだ!!」

「よくやったぞ!!」


パチパチパチパチパチパチ!!


『ありがとう!アーリマン!ありがとう!ドゥルジ!!あなた達はわたし達の恩人です!!』

 実況に促されて起きた拍手と、熱い感謝の眼差しを背に受け、アンラ・マンユとドゥルジは選手入場口に消えていった。



 それを顔をしかめて見送る男が一人……。

「くそ!!やってることは自作自演みたいなもんだろ!!」

 アレッシオは不愉快さを全身で表現するように、ドスンと勢いよく高そうなソファーに腰を下ろした。

「プリニオ・オルバネスのああいうところが昔から嫌いなんだ!下らないパフォーマンスで組員達を惑わしおって……!今頃薄ら笑いを浮かべていると思うと……!!」

 思うと、自然に額で山脈のように血管が盛り上がった。

「……いや、落ち着けアレッシオ。状況は俄然こちらが有利なんだ。それに塩谷を排除できたのはラッキーだったかも。あいつがいると、佐利羽からは嫌な目で見られるし、今回勝ったことを延々と恩着せがましく言ってきそうだからな……たかられる可能性が減ったと思えば、むしろ最高の展開なんじゃないか、これ!!」

 打って変わって、口角がぐぐぐっと上がる。こういう切り替えの早いところは事務経理能力と並んで彼の長所と言えるかもしれない。

「何はともあれ次だ、次で決まる。相手がどんな奴かはわからんが、あいつなら大丈夫だろ。というか、次で決めてくれないと、“アレ”を出すことになるんだよな……」



『お待たせしました!フィールドの整備が終わり、試合再開です!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」



「これで決まるかそれとも……見てらんないよ、オレ」

 定位置のVIP席に戻って来たプリニオは思わず顔を覆った。

「君が見てやらないで誰が見るんだ、奴の戦いを。無理矢理巻き込んでおいて、よりによってこんな大一番を戦わせるなんて……ひどいことするな」

「あんた……あんたがそれを言うかね……」

 悪びれることもなく、責任をおっかぶせて来る紫の悪魔の姿にタッグで培った信頼関係は埃となって吹き飛んだ。

「責任転嫁するつもりはない。私達は共犯者だ。だからこの試合を目に焼き付けよう……どんな結果になろうともな」



『では中堅戦!選手入場です!!』

 もうお馴染みとなったスモーク!その中から出てきたのは……白髪頭のじいさんだった。

『経歴不明!強さも不明!どうしてこんなところにいるかも不明!わかっているのは、プリニオ・オルバネスのボス就任は彼次第であることと、その名前だけ!!多分歴戦の勇士!ヴラドレン・ルベンチェンコ入場だぁぁぁッ!!』

「年は食ってるけど……それが迫力に感じる」

「鬼気迫るってのは、ああいう顔を言うんだろうな……」

 迸るプレッシャー、ヴラドレンの威容に観客は息を飲んだ。

 だが実際は……。

(えらいことになったな……)

 ただ戸惑っているだけだった。


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