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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
159/194

次鋒戦③

「ぐっ!?ぐがぁっ!!」

 ザリチュは手で必死に鎖を引き剥がそうとし、足では背後のソルティーに蹴りを入れ、この最悪の状況から脱出を試みた……が。

『暴れる!!抗う!!しかし無情にも余計に鎖が食い込み、事態を悪化させているようにしか見えない!!』

『完全に極ってますからね。これはもう……』

「とっとと落ちちゃいな!!芝さぁん!!」

「ッ!!?」

 鎖により血流が滞り、脳ミソの活動に必要な酸素が足りなくなる。

 芝の意識は朦朧とし、闇の中に沈もうとしていた……。



 俺には才能がない。

 頭も別によくなければ、腕っぷしだって組の中には俺より強い奴なんてゴロゴロいた。

 それでもなんとか拾ってくれた組長の恩に報いるために必死に頑張った。

 そんな時、奴が現れた。

「どうも芝さん。塩谷敦です」

 そいつは俺より賢く、俺より強い、才能に溢れる奴だった。

 嫉妬がなかったわけじゃない……だけどそれ以上に期待していた。こいつなら俺にはできないことができると、俺なんかにはとてもできないやり方で組に貢献してくれると。

 塩谷は組の金に手をつけ、さらに子供を集めて盗みをさせていた。どちらも組にとってはご法度だ。

「あんな奴殺すべきです!!生かしておいてもろくなことにはなりませんよ!!」

 組長は俺の言葉に黙って首を横に振った。

 今思うと、きっと組長ならそうするだろうと思っていたから、そんな提案をしたんだろう。勝手に組の未来を背負わせていた塩谷に裏切られた怒りと同時に負い目も感じていたから。

 組長が死んだ。アーリマンとかいうわけのわからない奴に殺された。他の組員もたくさん死んだ。

 怒りでどうにかなりそうだった。組長からはヤクザなんてやっていて、畳の上で死ねると思ってない、自分が殺されても、それは因果応報だから、復讐なんてしないでいいとずっと言われていたが、とてもじゃないが従う気にはなれなかった。

 けれど、結局俺には復讐なんてできなかった。頭もよくないし、腕っぷしも強くないからだ。

 そんな時、ふと思ってしまった……塩谷がだったら、アーリマンに勝てたかもしれないと。そもそも奴が組に残っていたら、組長は死なずに済んだんじゃないかって。

 自分でも呆れるくらい情けない感情、だけどどうしても考えてしまう。何かが違ったら、もしかして……。

 ずっとそんなやりきれない感情を胸に秘めていた俺の前に、へらへら薄ら笑いを浮かべながら塩谷が敵として現れた。

 肝心な時にはいてくれなかったのにこいつは!いれば俺なんかより役に立ったはずなのにこいつは!

 俺はこいつにだけは負けたくない!



「ぐ……ぐおぉぉぉぉっ!!」

「な――」

『何ぃぃぃッ!!?ザリチュがなんと鎖を引き剥がしそうだ!!首に食い込む鎖を!強引に!力任せに!!』

『なんというパワーでしょう……けれど、脱出するためにはまだ足りない』

(そうだ!まだ全然だ!!火事場の馬鹿力で一時的に力が上がっただけ!!すぐにまた……)


シュルシュル……


「何!?がっ!?」

 ザリチュの腕から蔦が伸び、それが背後のソルティーの首に絡みついた!

『まさかの締め返し!!!ザリチュが噂の植物でソルティーの首を締め返す!!このままどっちが先に落ちるかのチキンレースをするつもりかぁぁぁ!!?』

『いえ、それだと先に技を極められていたザリチュが先に落ちます。やはりこの状況を崩すのが最優先』

「うおらっ!!」


ブゥン!!


「――ッ!?」

『投げた!!ザリチュが蔦でソルティーを投げ飛ばした!!解説のダルトンさんのアドバイスが届いたか!!?』

『私は関係ないと思いますが、いい判断、これで仕切り直しです』

 ザリチュとソルティーはほぼ試合開始前と同じくらいの距離を離れて、向かい合った。

「……ったく、大人しく落ちていればいいものを」

「その言葉……そっくりそのまま返すぜ。あのままお寝んねしてれば、ひどい目に合わなくて良かったのによぉッ!!」

『ザリチュ、蔦を伸ばした!!反撃開始となるかぁッ!!』

 実況の通りザリチュは両腕から三本ずつほどの蔦を、ソルティーを囲むように生やした!しかし……。

「よっと!!」

『ソルティー避ける避ける!!縦横無尽に動く蔦をいとも容易く回避する!!』

「縦横無尽?はっ!!」

 塩谷は実況を鼻で笑った。それくらい蔦の動きは……。

『蔦が拙いですね』

『……だじゃれですか?』

『ち、違いますよ!目の前の事実を言っただけで……ええと、ちゃんと真面目にいきましょう』

『はい、わたしもふざけ過ぎました。真面目な解説お願いします』

『解説も何も目にしたことを言葉にしただけです。皆さんの目から見てもあの蔦の動きは……鈍くないですか?』

『ええ、ソルティースペシャルの目で追うこともできなかった鎖に比べるとずいぶんとのんびりしてますね』

『植物を生成できる能力を最初から使えたなら、もっと早く使うべきタイミングがあった。きっと今しがたできるようになったのでしょう』

『追い詰められての覚醒……テンションの上がる展開ですね!!』

『漫画や映画だったら、そのまま見事な逆転劇が繰り広げられることになるんですが……どうやらなんとか蔦を生やせるようになっただけで、コントロールに関してはいまだコツを掴めてないみたいに見受けられます』

(くそ!?これどうすりゃいいんだ!?)

 芝は混乱していた。蔦一本動かすのもままならないのに、それが六本……とてもじゃないが初体験の彼に処理できるものではなかった。

『芝選手の感覚というものはわかりませんが、もし腕や足が増えたように感じているなら、今すぐやめた方がいいかと。集中力が持ちませんよ』

「やめだ……!!」

 空中を蠢いていた蔦が動きを制止し、地面にぶらりと垂れ下がった。

『またまたダルトンさんのアドバイスに従ったようですね』

『たまたまですよ。それに肝心なのはこれからどうするかです』

(さぁ、芝さん……あんたはいくつかある選択肢の中で正解を選べるかな?)

「うまく操れないなら……操らない!!」


ブゥン!!ブゥン!!


 ザリチュは腕から生えた蔦を手に取り、鞭のように振るった!

『おおっと!これは細かいコントロールを捨てて、単純な武器として扱うようだ!!その威力はいかほどか!!?』

『いや、多分当たりませんよ』

『え?』

『あれは数ある選択肢の中で……』

「最悪手だ!!」


ブゥン!ガァン!!


「な!?」

 ソルティーは足を振り抜き、付随する鎖でザリチュの右腕を弾いた。

「今度こそ……終わらせようか!!」

「くそ!!」


ブンブンブゥン!!


 もう一方の左腕で蔦の鞭を振るい、迎撃を試みるザリチュ。

 それを嘲笑うかのように、ソルティーはその全てを掻い潜り、突撃!あっという間に懐に潜り込んだ!

「くっ!!」

 ザリチュはコントロールが回復した右腕をカウンター気味に振り下ろ……。

「させねぇよ!!」


ガシッ!グイッ!!


「――ッ!?」

 ソルティーの方が僅かに速い!左腕の鎖をザリチュの右腕に巻きつけ、引っ張り、カウンターを阻止した!そして……。

「ザリチュ大拳……じゃなくてソルティー大拳だ!!」

 鎖を巻きつけた右拳を叩き込む!


ドゴォ!!


「――がっ!?」

『決まった!!ソルティーの右ストレートが綺麗にザリチュの顔面を撃ち抜いた!!このままダウンを……』

「起きろ!!」

「くっ!!?」

 ソルティーは再び左腕を引っ張り、ザリチュを無理矢理起き上がらせた!そしてまた……。

「うらぁ!!」


ドゴォ!!


「――ぐあっ!?」

 ソルティー大拳炸裂!ザリチュのマスクに亀裂が走り、破片が飛び散った!

「もう一丁……いやもう百丁だ!!」


ドゴドゴドゴドゴドゴドゴォ!!


『滅多打ち!!ソルティーがザリチュを殴る殴る殴る!!倒れそうになると無理矢理起こしてまた殴る!!』

『これはさすがに……』

「死に晒せ!!」


ブゥン!!


 渾身のソルティー大拳は空を切った。

 ザリチュがしゃかんで回避した……のではなく、意識を失い、膝から崩れ落ちたからだ。

『ダウーーン!!ついにザリチュ陥落!!レフェリーが慌てて割って入ります!!』

「1!2!」

『カウントが始まる!!戻ってこれるか!!?』

「5!6!」

「芝さん!!」

「立ってくれ!!」

『観客も声を振り絞る!!この悲痛な叫びにも似た懇願に芝選手は応えられるか!!?』



「いや……」

「こいつはちょっとね……」

 プリニオは腰に手を当て、天を仰ぐ。

 それは自分の我が儘に付き合ってくれた芝へのせめてもの配慮……自分なんかに負けるところを見られたくないだろうから。



「9………10!!」


カンカンカンカンカーン!!


『非情の10カウント!!勝者はアレッシオ陣営、塩谷敦とソルティースペシャル!!これで二連勝!!つまりプリニオ陣営は二連敗の崖っぷちだぁぁぁッ!!』


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