次鋒戦②
「どりゃ!どりゃ!どりゃあぁぁぁッ!!」
豪腕を振り上げては撃ち下ろし、振り上げては撃ち下ろす。
ザリチュは止まるどころかさらに回転率を上げて拳を叩きつけ続ける。
『滅多打ち!その表現が相応しい一方的な蹂躙です!!』
『塩谷選手は完全に不意を突かれましたね』
『というか若干フライング気味だったように見えたのですが……』
『私にもそう見えました』
「所詮反社だからな。フライングの一つや二つくらいするさ」
「反社だもんね、そりゃあしちゃうよね、フライングぐらい」
アンラ・マンユとプリニオはウンウンと納得したように頷いた。
『これは反則ということにはならないのでしょうか?』
『ルール的にはアウトなんですけど……レフェリーの古沢氏が止めてないですからね。間近で見た彼の中では、ギリギリセーフ、最高のスタートダッシュを決めたという判断なのでしょう』
『止めるにしても、続けるにしてもどちらも文句が出るなら下手に茶々を入れない方がいいですしね』
『ええ、反則の話は後回し。今はザリチュがこのまま押し切るのか注視しましょう』
「でりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
『そう言ってる間に更にスパートをかけるザリチュ!!本当にこのまま一人舞台の圧勝劇で終えるのかぁ!!?』
『いや、そう簡単には……』
「いかないよな……」
「はあッ!!」
ザリチュが何回目、いや何十回目の拳の振り上げを行った!その時!
ガシッ!!
「――何!!?」
「つ~かまえた……!」
ソルティースペシャルの足の鎖が背後から腕に絡みつく!そしてそのまま……。
「重いんだよ……ね!!」
ブゥン!!
「――くっ!?」
力任せに引っ張り、強引にザリチュを自分の上から退場させた!
『脱出!!ソルティースペシャルが鎖を巧みに操り、絶体絶命の状況から見事エスケープ!!』
『見事なのは同意しますが、絶体絶命と言われるほど追い詰められてませんよ、塩谷選手は』
「ふぅ……相変わらず情緒とか趣がないね、芝さん」
ゆっくりと土埃を落としながら、立ち上がるソルティースペシャル。その腕には先ほどまでだらりと垂れ下がっていた鎖がぐるぐると巻かれていた。
『倒される瞬間、ソルティースペシャルはあのように鎖を腕に巻き、それでザリチュの攻撃を全て防いでいました』
『わたし達が受けた印象よりも遥かにダメージが少なかった……いや、ダメージを受けていないと?』
『あの鎖の耐久力によりますが、見た感じ、試合が始まる前と変わった様子はない気がしますね』
「気がするじゃなくて、実際ないんだよ。このマシンを作るにあたって、鎖の強度が一番こだわったところだからな。あんたのへなちょこパンチじゃいくらやったところで、びくともしないぜ」
「ちっ!なら鎖以外のところをぶん殴ってやるよ!!」
『ザリチュ再度突撃!!闘志は衰えていないぞ!!』
「気持ちだけでどうにかできるほど……ソルティースペシャルは甘くねぇよ!!」
鎖をほどきながら腕を振るソルティー!大気を切り裂いて、鎖は鞭のようにザリチュに襲いかかる!
「そんなもん!!」
バギィ!!
けれどザリチュには当たらず。空振りした鎖は代わりに地面を抉り取った。
「まぁ、それくらいはやるでしょう……ね!!」
続けてソルティーは足を振り抜く!それに連動してまた鎖がザリチュに迫る!
ブゥン!!
しかし、これも回避……回避したが。
「それそれそれぇ!!」
ブンブンブンブンブンブンブンブン!!
「くっ!?」
『先ほどまでとは真逆の展開!!ソルティースペシャルが操る縦横無尽の鎖攻撃にザリチュは手も足も出ない!!』
『まるで鎖の嵐です。これでは懐に入りようがない』
実況解説の言う通り、ザリチュは鎖から逃げることしかできなかった。芝にとっては屈辱でしかない状況だが、それ以上に彼の心を揺さぶっているのは……。
(この戦い方はまるで……)
芝の目にはソルティースペシャルの姿が在りし日の組長の姿に、彼が今自分が装着しているザリチュを纏い戦っている姿と重なって見えた。
「てめえ……!!」
「どうやら気づいたみたいだね。そうだよ、このソルティースペシャルはザリチュの戦い方にインスパイアされて作ったマシンだ!!」
「最強はザリチュだ……あくまでこのルールでの戦い限定で、個人的見解でしかないが」
「確か植物を操るんだよね?腕から蔦とかブワーッって大量に生やしたり」
「そうだ。視界を覆うほどの量をな」
「それはそれは……逃げ場のない閉鎖空間では、とてもじゃないが捌ききれそうにないね」
「実際そうだ。一番手っ取り早い対策である大火力でまとめて吹き飛ばす方法も反則になるから使えんからな。打つ手無しだ」
「じゃあ、それを模倣しているあのソルティースペシャルとかいうダサい名前の奴も無敵だってか?」
「いや、さすがにそれはない。肝心の物量が全然足りん。四本の鎖程度ならいくらでも対処する方法はある」
「なら……」
「ただ今の芝は……」
「とうっ!!」
ガァン!!
「――ぐっ!!?」
『ヒットォッ!!ついに鎖がザリチュを捉える!!脇腹にキレイにヒットしたぁッ!!』
「まだまだ!!」
ガァン!!
「――ぐあっ!?」
『続いて足!!塩谷選手!完全に動きを見切ったか!!』
『射程外からの攻撃……多少のダメージ覚悟で懐に踏み込むか、同じく射程のある武装で反撃しないと、敗色濃厚かと』
「言われてるぜ……芝さん!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「ぐうぅ……!!」
ザリチュは少しでも被弾面積を小さくしようと身体を丸めた。それしか芝には選択肢はなかった。
「さすがに硬いな。これは崩すのに時間がかかりそうだ」
「だったらもっと焦れよ……!!」
「そんな必要ないことくらいあんたにもわかっているだろ?単純そうに見えるが、頭が回らないわけではない……それが芝武昭。自分の現状を冷静に判断できているからの速攻だったんだろ?」
「………」
「沈黙……つまり反論できない大正解ってことだな!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「ぐっ!?」
『ソルティーの鎖が更に勢いを増していく!!まるで反撃がないと思っているような、攻め一辺倒!!』
『実際に塩谷選手は、芝選手には何もできないと思っているのでしょう、きっと』
「そうさ!あんたは何もできない!!もしザリチュの力を全て使えるなら、速攻なんて狙う必要ない!!このルールではそいつの能力は圧倒的なんだからな!!だけどそうしなかったってことは……使えないんだろ!!植物!!」
(大正解だよ、こんちくしょう……!!)
芝はアーリマンからザリチュを受け取ってから食事と睡眠以外の時間は全てこのマシンに全て捧げてきた……きたが、ついぞザリチュは彼の想いに応えてくれなかったのだ。
「植物を生成できないザリチュなどちょっと力が強くて丈夫なピースプレイヤーでしかない!!こうして距離を取ってしまえば何も怖くねぇんだよ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
『これは本当に本当、クローチェ陣営が二勝目を上げるか!!?』
(マジでこのままだと逆転する余力まで削り取られる……!あの解説のおっさんが言っていたように……覚悟を決めるか!!)
ザリチュは両腕を十字に構えながら、鎖の嵐に突撃した!
『行ったぁぁぁ!!ザリチュ勝負に出たぁぁぁっ!!!』
『ええ!これ以上耐えても、彼に勝機はないです!!この判断は間違ってません!!』
(そうだ!!俺の判断は――)
「間違ってないよ、芝さん」
「――!!?」
「あんたは頭が回るし、合理的な判断ができる人だ……だからこそ読み易い!!」
「何!?」
ソルティーは動きを止めると、鎖をついている方とは別の手に取ってピンと張り、そして……跳んだ!
『ソルティースペシャル、ザリチュの頭を飛び越し、後ろに回り込んだぁぁぁッ!!』
『いや、それだけじゃありません!!鎖を首に!!』
ガギッ!!ギュウッ!!
「――がっ!!?」
『鎖によるチョークスリーパー!!芝選手から酸素とチャンスを奪う会心の一手が決まったぁぁぁッ!!』