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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
157/194

次鋒戦①

 スモークを突き破り、両手を高々と上げながら、その男は姿を現した。

『プリニオ陣営の次鋒はまさかまさかの佐利羽組暫定組長!芝武昭ぃッ!!まるですでに勝利したかのように拳を突き上げながら堂々見参!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

「芝さ~ん!!」

「勝ってください!!」

 観客、特に佐利羽の組員達は特に大きく沸き、思い思いに芝に声をかける。

「おうよ!!」

 それに応えながら芝はレフェリーの隣まで行き、立ち止まると一回転しながら、もう一度観客にアピールした。

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

「いいぞ!芝さん!!」



「大分はしゃいでるな。固くなるよりマシだが」

「オレにはむしろ緊張をほぐすためにあえてそうしているように見えるけど。案外真面目だから、自分が負けたら後がないとか気負っちゃうタイプでしょ、あれ」

「この程度のプレッシャーに押し潰されるなら、佐利羽をまとめるなんて到底無理だ。奴が無様に負けるようなら付き合いを考え直した方がいい」

「かもね。まぁ、そもそもそんなこと考える必要無くなる可能性もあるけどね」



『いやぁ~、今しがた言ったばかりですが、本当に佐利羽組が参戦してくるとは』

『驚きですよね。ですが解説として、いや、一人のバトルマニアとして、芝選手がどういう戦いをするのかとても楽しみです』

『会場の皆さんもきっと同じ気持ちでしょう!なので早速、対戦相手に入場していただきましょうか!!』

 その言葉を合図に反対側の入場口にもスモークが噴射!中から男が一人、芝とは対照的にポケットに手を入れながらふてぶてしく出て来た。

「あいつは……」

「何で!?」

 その男を見た瞬間、あれだけ騒いでいた佐利羽組が戸惑い、固まる。

「ビンゴ……!!」

 そして、芝も険しい顔へと一変した。

『アレッシオ陣営の次鋒もまさかまさかの佐利羽組!いえ!正確には“元”佐利羽組!!塩谷敦(しおたにあつし)!!同じ釜を食った者同士まさかの再会だあぁぁぁッ!!』

「ブッ……」

「「「ぶうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」」」

『凄いブーイングです!ですが塩谷選手は全く動じていません』

 実況の言葉通り塩谷は眉一つ動かさず所定の位置まで淡々と歩いた。

「塩谷……!」

「どうも……お久しぶりです、芝さん」

「ふざけやがって……!!」

『両者にらみ合う!!火花がバチバチ!今にもおっぱじめそうだ!!』



「元佐利羽組の奴なんているのか?」

「らしいね。オレも相手の出場選手一覧を芝ちゃんにも見せるまで知らなかった。そもそもあいつの存在自体、その時初めて認識したし。試合にも今まで出たことないのよ、彼」

「アレッシオ・クローチェの隠し玉か」

「正確には隠さざるを得なかったって感じじゃない。今はこんなことになってるけど、本来うちと佐利羽は敵対組織。そこを抜けた奴を雇うとなると、色々と面倒なことになる」

「確かに慎重そうな支配人様は絶対に避けたがる話に聞こえるが、だとしたら……」

「そんなリスクを背負って匿っていたってことは、実力は確かなんだろうね。全く……嫌になるよ」

 プリニオは額に手を当て、軽く頭を振った。

「まぁ、おかげで芝ちゃんの緊張がほぐれたのはいいことかね。彼の名前を見た時から戦うことを熱望していたから」

「因縁があるのか?」

「詳しくは聞いていない。だけど、あの態度からして……」

 プリニオの脳裏には目を見開き、わなわなと震えながら、塩谷の名前の書かれている紙を握り潰す芝の姿がフラッシュバックした。

「芝ちゃん的には絶対に負けられない相手なんだろうね。どこで出てくるか見当つかなかったけど、上手いことマッチアップできて良かった」

「いや、それが幸と出るか裏目に出るかは半々だ。気合が入り過ぎて空回りする可能性だってある」

「テンション下がること言うなよ、アーリマン」



 二人がVIP席でくっちゃべっている間も芝と塩谷は決して視線を外そうとせず、メンチを切り合い続けていた。

「そう目くじら立てないでくださいよ、芝さん。暫定とはいえ組を取り仕切っている人が過去のことなんていつまでも引きずってないで」

「てめえが組長との約束を守っていたなら、そうしたさ……何でエルザから出て行かなかった?そういう約束だったろうが……!!」

「いやぁ~、ボクもそのつもりだったですけどね~。でも、よくよく考えてみたらちょっと組の金をちょろまかしたくらいで何でそんなことしちゃいけないのかなって」

「てめえ!!」

「芝!!ブレイク!!」

 思わず殴りかかろうとした芝をレフェリーが身体を割り込ませて止めた。

『白熱していますね』

『まだゴングは鳴っていません。いけませんよ、芝選手』

「言われてるぜ、芝さん。上に立つにはもっとおおらかじゃないと……あん時の組長みたいに」

「勘違いするなよ、塩谷。組長は組の金に手をつけたからてめえを破門したんじゃねぇ。てめえが家出したガキども集めて、じいさんばあさん相手に盗みさせてたことが許せなかったんだ」

「そう言えば、そんなことしてたな。組長にお説教されたのも思い出したよ。ヤクザにもやっていいこと悪いことがあるって……何言ってんだ、こいつって思ったよ」

 薄ら笑いを浮かべる塩谷。

 対照的に芝の表情は冷たく沈んでいった……。

「……俺はこうなるから、どうせてめえは反省しないから、殺すべきだって提言したんだ」

「大正解だよ、芝さん。ボクをエルザ追放なんてぬるいことしなければ、心の底から蔑むクズに負けるなんて耐え難い屈辱を受けることもなかっただろうに」

「お前は不正解だ、何もかもな。素直にエルザから出て行って真面目にやり直していれば、俺に殺されずに済んだのによ……後悔してももう遅いぜ……!」

「バリア展開!!」

 二人の話が一段落したのを見計らったように光の膜が因縁の両者とレフェリーを外界から隔絶した。

「戦闘準備を」

「あぁ……」

「それは……!」

 飄々とした塩谷の表情が一気に引き締まる。

 芝が懐から見覚えのある指輪を取り出し、その手に嵌めたのを見たからだ。

「まさか……使えるのか?」

「見てのお楽しみ……ザリチュ」

 芝武昭の声に応じ、指輪が光の粒子に、そしてそれがさらに機械鎧になり、彼の全身に装着された。

 丸く、禍々しく、不気味な特級ピースプレイヤー、ザリチュの降臨である。

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

「芝さんが!芝さんが組長のピースプレイヤーを!!」

「やったんだな!芝さん!!」

『佐利羽組大興奮!いえ、かくいうわたしも興奮しています!!まさか噂のザリチュがこの目で見ることができるとは!!』

『ええ、てっきり佐利羽の組員が愛用している六角重工業の刃風か界雷を使うのかと』



「私もそう思っていた」

「渡しておいて使えると思ってなかったの?」

「あぁ、特級ピースプレイヤーを使えるかどうかは所詮相性だからな。どんだけ望もうとダメな時はダメだ」

「オレも素直にアカ・マナフ返されても使えなかっただろうしな」

「なんにせよこれでこちらの勝率が上がったのは確かだ。ザリチュは……強い」



「本当に使えんのかよ、ザリチュ……」

 塩谷は不機嫌そうに口を尖らせた。

「降参するなら今のうちだぞ……って、組長なら言うんだろうが、生憎俺はあの人ほどおおらかじゃないんでな。お前が泣きわめいて、地面に額を擦りつけても許すつもりはない」

「安心してよ……そもそもあんたごときに許しを乞うつもりなんてないからさ……!!」

 塩谷は手を顔の前に翳す。その手首にはブレスレットが輝いていた。

「『ソルティースペシャル』」

 一瞬で塩谷の全身が純白のピースプレイヤーに包まれた。だが、その色以上に気になるのは、両手両足から垂れ下がる太い鎖だ。

『あれは……ガナドールですかね?』

『正確にはバランス重視したガナドール・アサールトのカスタム機のようですね。あの鎖は何でしょうか?気になります』

「なんだそりゃ?罪人みたいだぞ」

「あれ?芝さんなら気に入ってくれると思ったのに。財布落とすの怖いから、ウォレットチェーン二重に着けてましたよね?」

「あぁ、てめえみたいなセコいスリが近くにいたからな」

「ひどいな……あなたからは盗る気はありませんでしたよ……あなたからはね」

「両者話はそこまで!決着は拳でつけなさい」

「言われなくとも」

「そのつもりだよ」

 レフェリーに促され、少しだけ距離を取らされる因縁の二人。けれど決して相手から目を離さず。

『さぁ!次鋒戦が始まろうとしてます!先鋒戦の勢いに乗ってソルティースペシャルが二勝目をもぎ取るか!?それとも亡き組長から受け継いだザリチュがイーブンに戻すか!?』

「では次鋒戦……」

 レフェリーが高々と手を振り上げた。そして……。

「始――」

「うおらあぁぁぁぁぁっ!!」

「え?」

「――めっ!!?」


ドサッ!!カーン!!


「ぐあっ!!?」

「しゃあッ!!」

 レフェリーの合図、試合開始のゴングと同時、いやその少し前にザリチュは動き出し、ソルティースペシャルにタックルをかます!そのまま倒すと馬乗りになり、そして……。

「塩谷ぃッ!!往生せいや!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 そのまま殴る!ひたすら!容赦なく殴る!

『な、なんと電光石火のテイクダウン!!マウントポジションからの拳の雨霰!!まさかこのまま決まってしまうのかぁぁぁッ!!?』


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