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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
156/194

先鋒戦を終えて

「いい試合だったぞ!!」

「やっぱお前は最高だ!リンジー!!」

 観客からの割れんばかりの拍手にリンジーは拳を振り上げ応えた。

『絵になりますね、リンジー選手』

『ブラッドビーストの特性、優位性についてお話させてもらいましたが、やはり様々な武装、特に遠距離装備を追加できるピースプレイヤーの方がトータルでは勝っていると思います。観客もそれがわかっているから、自分の身一つで戦う生粋の格闘家、リンジー・マカパインに魅せられ、自然と応援してしまうのでしょう』

『特に今の試合はまさに手に汗握る素晴らしい試合でしたからね』

『ええ、ですが改めて振り返ると、終始リンジー選手ペースでしたね。あの打ち合い上等のカウンター攻撃も予想していたんだと思います』

『わたしも彼に対して、困った相手が似たようなことを試みて、何もできず完敗するところを何度も見てますから、実際に戦っていたリンジー選手からしたら驚くようなことではなかったのでしょうね』

『むしろ今日はあえてそうなるようにコントロールしていた節があります。追い詰め過ぎずに、相手が完全適合を使うのを躊躇するレベルの戦いをするために、自分を抑えていたような。そして打ち合いを続けることで、いざ完全適合しても動けなくなるほどのダメージを蓄積させた』

『彼もアルティーリョファミリーの所属ですから、アカ・マナフの強さについては聞いていたのでしょう。徹底的に対策を考え、それを見事に完遂させるとは……』

『ええ、感心するしかありません』

「そんなこと考えてたのか!!」

「凄いじゃないか!この野郎!!」

 実況と解説の総評が終わると、さらに拍手は大きくなった。

(少し違うな。プラン通りの試合運びをできたのは事実だが、それを考えたのはおれではない)

 リンジーはVIP席を見上げた。



 数日前、彼は支配人であり、この戦いの原因となった男、アレッシオ・クローチェに呼び出されていた。

「もし君がアカ・マナフと当たり、相手が最初から完全適合しているようだったら、全力で逃げろ。それが無理だと感じたなら、ギブアップしろ。続けたところで十中八九負けるからな」

「……おれを舐めているのか?」

「舐めていないさ。十中八九って言ったろ?わたしは君なら一割ぐらいは勝ち目があると思っているから、こうして話している」

「勝率一割……十分舐め腐っているように聞こえるのだが」

「それだけとんでもないマシンなんだよアカ・マナフは。あれの知覚、認知能力強化が発動したらまず攻撃は当たらない。逃げようにも僅かな動きの無駄を突かれ、追い詰められる」

「確かに凄まじい能力を持っているようだ」

「だが、それだけの力、負担も桁違いだろう。ずっと発揮できるとは思えん」

「だろうな」

「その制限時間が切れるまで逃げ続けられる可能性がお前とヤクザーンにはある。わたしはそう思っている……かなり願望強めだが」

「アカ・マナフとやらの能力が強いのはわかった。では、もし温存して最初から使わない、もしくは使えない場合は?」

「その時は足を潰せ。どんなに神経を過敏にしたところで、身体が動かなければ無意味。上手いこと関節辺りをいたぶって、身動きできないくらいのダメージを蓄積させろ」

「はい、わかりました……で、できるなら誰でもチャンピオンだ」

「わたしだって支配人として数々の試合を見て来た人間だ、口で言うほど簡単ではないことは重々承知している。しかし、それをやらなければ、勝ち目はないんだ。手加減して、この程度なら受けても大丈夫、耐えられると誤認させ、期を見て仕掛ける……奇跡を積み重ねなければ、君に勝利はない」



 VIP席のガラスの奥では力一杯拍手して、リンジーを称えるクローチェの姿が見えた。

(あんたがボスになろうとなるまいとおれはどうでもいい……だが、この戦いに誘ってくれたことと、あのアドバイスには感謝している。精々この一勝を噛み締めるんだな)

 リンジーがVIP席に拳を突き出すと、アレッシオはさらに興奮し、飛び上がった。

「リンジーさん……」

 後ろから声が聞こえ、振り返ると、目を覚ましたアカ・マナフが手を差し出していた。

「完敗でした。手加減していたのも、勝つための作戦だったなんて……ずっとあなたの手のひらの上だったんですね」

「そうでもないさ。玉砕上等の相討ち戦法を取る相手は今までもいくらでもいた。けれど、おれはそんな自棄になった攻撃を容易く捌き、返り討ちにしてやった……だが、君の攻撃はおれを捉えた」

「たまたまですよ」

「謙遜するな。あのタイミング、あの威力で反撃できる奴は早々いない。このままじゃヤバいと思って、予定よりも早く仕掛けざるを得なかった」

「結果が全て……途中がどれだけ良くても」

「だな。だが、この経験は君をより強くするはずだ」

「その言葉を糧に精進します」

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 二人ががっしりと握手すると、一際大きな歓声が上がり、地下闘技場が震えた。

『いやぁ~、爽やかでいいですね~』

『ええ、最後までとても気持ちのいい試合でした』

『では、退場する両者にもう一度惜しみない拍手を!!』

 反転し、入って来た場所に戻る二人。

 リンジーは胸を張り、堂々と。対してアカ・マナフは肩を落としているように見えた。

(完全適合しなきゃいけないような相手と戦うことなんてもう二度とないと思っていた。だけど……世の中は広いな……ちゃんとアカ・マナフと自分に向き合わないとダメだな、こりゃ)



「フッ、漸く火がついたか」

 アカ・マナフの、フレデリックの奥に静かに燃える炎を見て、木原は満足そうに口角を上げた。

「楽しそうで何より……オレはもう泣きそうだよ……」

 一方、宣言通りプリニオは目を潤ませている。

「すまん。奴をこの戦いに参加させたのは、腑抜けていた心に喝を入れるためだったんでな。リンジーという男はいい薬になった」

「それはよござんしたね。顔も知らない奴のリハビリのために大切な初戦を落としてオレは……」

「私だって、自分の出番が回ってくる可能性が上がって億劫だよ」

「やっぱり自分を大将に据えたのは、戦いたくないからか」

「勘違いされ易いが、別に私は戦闘狂ではないのでね。避けられる戦いは、できるだけ避けたい」

「でも、そのためにはここから三連勝しないと……」

「不幸中の幸いというわけではないが、士気の下がるような負け方ではなかった。勢いは勝ったあっち側にも負けていないさ」

「だといいんだけどね……」

 二人は視線を落とし、再びバトルフィールドを見下ろした。



『さあ!興奮も冷めやらぬ中、次の試合に行きましょう!!次鋒戦を戦うのは……こいつらだぁッ!!』


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