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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
154/194

先鋒戦②

「……え?え?」

 何が起きたか理解できず大の字で寝そべるフレデリック。そんな彼の耳には……。

「1!……2!……」

 レフェリーのカウントダウンの声は届かなかった。

『立ち上がれないアカ・マナフ!!わたしの目からはちょっと小突かれてただけに見えたのですが、当たりどころが悪かったのでしょうか?』

『いえ、その見立てで正しいと思いますよ。スウェーの途中で顔を押されて、体勢を崩した……それだけです。ほとんどダメージはないと思われます』

『では、何故アカ・マナフは立たないのでしょうか?』

『驚いて、思考が停止してしまったんでしょう。肉体よりも精神的ダメージが大きい一撃だったということです』

『なるほど……などと言っている間にもカウントは進む!このまま一撃KOとなるか……』

「5!……6!……」

(ぼくは……一体……)

 未だ呆然自失のフレデリック、その視界の中に彼がこうなった原因の獣人が収まる。

「カモォォン」

「!!!」

 人差し指を上に向け、ちょいちょいと動かし、挑発するその仕草にフレデリックの脳は一気に覚醒!アカ・マナフは飛び起きる!

「この野郎……!!」

「8!」

「え?あっ!!ストップ!ストップ!!まだやれます!はい!!」

 ようやく自分が敗北寸前に追い込まれていることに気づいた情けない魔王様は慌ててファイティングポーズを取って、レフェリーに健在をアピールした。

『やはり肉体的ダメージは無さそうですね』

『はい。それにしてもリンジー選手はエンターテイナーですね。あのまま放置していたら勝てたかもしれないのに』

『地下格闘技の選手というただ暴れたいだけの荒くれ者ってイメージですが、このランビリズマではリンジー選手やチャンピオンのヤクザーン選手のように興行として盛り上げようとするプロ意識の高いファイターが多いですよね』

『そこがここのいいところです。支配人の目利きが優れているんでしょうね』



「ライバル褒められてるぞ」

「いちいち報告せんでいい」



「まだ戦えるな?」

「当然!!」

「そうでないと」

「ならば……ファイッ!!」

『試合再開ッ!!第一試合はまだまだ終わらない!!』

「いや……すぐに終わらせてやるよ!!」

 お次はこっちのターンと言わんばかりに、アカ・マナフは逆襲の拳を繰り出した!……が。


ヒュッ!!


 リンジーには当たらず。虚しく彼の顔の横を通り過ぎた。いや……。

「はっ!!」

 そこから突如の軌道修正!横顔を殴……。


ブゥン!!


 しかし、これもリンジーは顔を反らし回避!だが、まだアカ・マナフの攻撃は終わっていない!

「どりゃあ!!」

 さらに軌道修正!今度は裏拳が獣人を襲う!

「やっぱりな」


ブゥン!!


 けれども、またまた通じず。リンジーは一気にバックステップで距離を取り、裏拳はお手本のように空振りした。

『怒涛の攻撃もリンジー・マカパインに掠ることはできない!!』

『どうやらアカ・マナフ選手は先ほどの意趣返しとして、スウェー終わりを狙ったようですが、リンジー選手には読まれていたようですね』

「くそ!!」

「負けん気が強い奴は嫌いじゃないが、それを制御できない奴は軽蔑する!!」

『リンジー選手行ったぁぁぁ!!再び攻勢に転じる!!』

 獣人はまた真っ直ぐと拳を伸ばした。

 それをアカ・マナフの目はしっかりと捉えている。

(見えている!今度こそ避け――)


ガァン!!


「――らっ!?」

『ヒット!!リンジー選手の拳がまたアカ・マナフを捉えた!!』

(なんで当たるんだ!?)

「はっ!!」

 追撃のパンチ!それもまたアカ・マナフにはくっきり見えている。

(念のため、これはガードで!!)


ガァン!!


「――ッ!?」

 ガードのために腕を上げようとしたが間に合わず!肩に拳を捩じ込まれた!

(どうして!?今のタイミングなら、ガードは十分……!!)

「でりゃあ!!」


ガァン!ガァン!!


「――がっ!?」

『ローキック二連発!!このまま膝から崩れ落ちるかぁ!?』

「ぐっ!!」

 アカ・マナフは根性で耐えた……耐えたが。

「だからどうした」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐうぅ!?」

『攻める!攻める!攻める!!リンジー・マカパイン!一気呵成に攻め立てる!!』

 リンジーはパンチとキックを鮮やかに織り交ぜ、対してアカ・マナフはそれを身体を不細工に丸めてひたすら受けるしかできなかった。

『凄い!リンジー選手!一方的です!!アカ・マナフ選手は全く反応できません!!』

『いえ、反応はできています。だからこそ厄介というかタチが悪いというか……』

『それは巷で言われているブラッドビースト特有の性質のことでしょうか?』

『はい。ブラッドビーストはオリジンズ由来のバネのせいか、普通の人間やピースプレイヤーよりも攻撃にノビやキレがあると言われています』

『素人目から見ると、特段変わった動きをしているようには見えないんですけどね』

『ですけど対峙する相手からすると、違和感が凄いらしいです。特に場数を踏んだ熟練者ほど混乱する傾向にあると』

『身体に染み込んだタイミングで動いても防げず、防いだと思ったのに攻撃を食らってしまうから頭がパニックになってしまうわけですね』

『ええ。特にリンジー選手の場合は動き自体は非常にオーソドックスなタイプですから一際違和感を感じるのでしょう。資料はありませんが、動きからしてアカ・マナフ選手はきちんとした格闘訓練を受けているのは明白。だからこその苦戦……皮肉ですね』



「解説も実況も素晴らしいな。よくわかっている」

 アンラ・マンユは満足そうに頷いた。

「なんでそんなに余裕なのよ……」

 一方のプリニオは顔全面に不安が張り付いている。

「あの解説通りなら、為す術なくやられちまうってことだぞ?」

「このままだったらな」

「あのアカ・マナフはこのままでは終わらないって信じているのか?アーリマン」

「信じるなんてセンチメンタルな理由じゃない」

「なら……」

「この程度でやられるなら、あいつはとっくの昔に死んでるよ。これ以上の窮地をあいつは……アカ・マナフは天賦の才と歪んでいるが、確固たる意志で乗り越えて来た。それは紛れもない事実だ」



「はあッ!!」


ガンガン!!


『リンジー・マカパイン止まらない!!鞭のようにしなる足がアカ・マナフに襲いかかる!!』

「喰らえ!!」

 実況の言葉通り、リンジーの足は唸りを上げ、アカ・マナフの側頭部に……。


ガキン!!


「……何!?」

 ハイキックは新たに召喚された盾に防がれた。そして……。

「お返しです!!」


ゴッ!!


「――がっ!?」

『ボディーブロー!!この試合初めてアカ・マナフの拳がリンジーを捉えた!!』

「く……このぉ!!」


ガンガン!!


「ぐっ!?」

 腹部の痛みに動じず、獣人は倍返しだと、立て続けにボディーブローを放ち、それは見事に命中した……が。

「その程度……痛くないんだよ!!」


ゴッ!!


「くっ!?」

『ヒット!!またアカ・マナフの攻撃がリンジーの肩にカウンター気味に命中!命中!!』

 アカ・マナフもまた怯まずに反撃し、リンジーはそれをもろに食らってしまう。

「お前……いいだろう!受けて立つ!!」

「その覚悟!後悔させてやりますよ!!」


ガンガン!ゴッ!ガンガンガキ!ゴッ!!


『激しい!なんて激しい打ち合いなのでしょうか!!両者一歩も退かずに殴り合いの根性勝負!!』

『見ていてひやひやしますね』

『ですがダルトンさん、何故突然アカ・マナフ選手の攻撃が当たるようになったのでしょうか?』

『それは開き直ったからでしょうね』

『開き直った?』

『アカ・マナフ選手はこの試合中にリンジー選手の、ブラッドビーストの動きに対応できないと諦めた。だからこそ開き直って、致命的なダメージさえ受けなければいい、被弾を前提にカウンターを打っていこうと考えたのでしょう』

『確かに言われて見れば、一発KOになりかねない頭部への攻撃はきちんと防いでますね』

 そう言っている合間にも、アカ・マナフは顔面狙いのストレートを盾で防いでいた。

『狙いさえ絞れれば、彼の実力なら完璧ではないにせよかなりの確率で防御回避できます』

『ですが、致命的なものは貰わなくともそれ以外は被弾しているわけですよね?確実にダメージは蓄積していくと思いますが』

『きっとパワーでは自分の方が勝っているから、打ち合いの形にさえできればダメージレースでは有利だと踏んだのでしょう。実際に今日のリンジー選手は当てることを優先して、そこまで力のこもった打撃を繰り出してない印象ですし』

『なるほど。ちなみに盾を今になって召喚したのは何故でしょうか?』

『戦ったことはなくともブラッドビーストの敏捷性は知っていたはずですから、盾は重りにしかならないとか思っていたんでしょうか?それとも相手が素手だから、こちらも素手でいこう……なんて、お人好しなことを考えていたとか』

(お人好しで悪いか!!)


ガッ!!ゴン!!


「……がはっ!?」

 盾で防いで、ボディーブロー!この作業も大分こなれ始めていた。

(盾は使うが、剣は使わない!剣を見た瞬間、この人は戦法を切り替えるはず。剣では小回りが効かない超接近戦か射程外から機動力を生かしたヒット&アウェイに)

「オラァ!!」


ガン!ガァン!!


「ぐっ!?」

 肩へのパンチとローキックのコンビネーションが炸裂!けれどフレデリックは想定、いや覚悟済みだ。

(この程度ならまだ大丈夫。ぼくなら耐えられる。手数だけ見たら、あっちの方が上だけど押してるのはぼくの方だ!!)

「でりゃあ!!」

 再度顔面にハイキックを放つリンジー!しかし……。


ガキン!!


 結果は変わらず。再びアカ・マナフの盾によって攻撃は失敗に終わる。

(焦っているな!攻撃が雑に!一撃でノックアウトを狙う自棄になった攻撃など!)

「カウンターの格好の餌だあぁぁぁぁッ!!」


ゴォン!!


「……がはっ!?」

 宣言通りカウンター一閃!アカ・マナフの拳がリンジーの腹部に深々と突き刺さった!


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