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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
153/194

先鋒戦①

 エミリアの声がスピーカーから会場に鳴り響くと、選手入場口の横からスモークが噴射される。白いカーテンに映る人影、それが徐々に大きくなり、中から大切な初戦を任された戦士が飛び出して来る!それは……。

『プリニオ陣営先鋒は……謎の戦士!アカ・マナフだあぁぁぁぁぁ!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 歓声の中、堂々と歩くアカ・マナフ……端からはそう見える。

(うわぁぁぁぁっ!本当にこんなところで戦うのか、ぼく!!?)

 しかし、鎧の下のフレデリックは冷や汗でびっしょり、滅茶苦茶緊張していた。

(こんなに人から注目されることなんて、人生であっただろうか?この人達全てが、ぼくがどう戦うのか楽しみにしている。特にアルティーリョの皆さんは……)

 観客席の一角、アルティーリョファミリーの連中達は他とは打って変わって静かだった。しかし、よく見ると目が血走り、貧乏揺すりをし、今にも飛び出して行きたいのを我慢しているように見える。

(ボスのマシンを使って不甲斐ない戦いをしたら、わかってんだろうなオーラが凄い……下手したら勝ってもブーイングされそうだ)

 フレデリックは小さくため息をつき、横目で恨めしそうにVIP席からこちらを見下ろしているアンラ・マンユを、木原史生を睨み返した。

(ひどい人だとは思ってましたけど、今回は酷すぎますよ、木原さん……!!)

 この戦いの数日前、フレデリックの自宅に突然木原と安堂ヒナが訪ねて来た。



「はぁ!?ぼくにアルティーリョのボスを決める戦いに参加して欲しい!?」

「うん」

「うん。じゃないでしょ!!何で警察官のぼくが取り締まるべき反社に与することなんて!!」

「そうは言っても、エルザ市警も署長の汚職がバレててんてこ舞いだろ?アルティーリョをどうこうできる状況じゃない」

「だからって力を貸すのは違うでしょ!」

「クローチェという男が新しいボスになると厄介だぞ。どういう行動するか読めない」

「手口がわかっていて、悪は悪としての線引きが出来てるプリニオがボスになった方が警察としても都合がいいのは、わかりますけど……」

「どうしても嫌か?」

「はい……」

「なら、お前の代わりに安堂ヒナに出場してもらおう」

「……え?」

 ヒナの方を見ると、指輪を着けた手を見せびらかして来た。

「それって……!?」

「実は言ってなかったんだけど、タローマティと適合したんだよね、アタシ。イエ〜イ!闇属性!闇属性!!」

 ヒナはムカつく顔でダブルピースした。

「無茶です!タローマティは強いマシンかもしれませんが、ヒナさんは戦いの素人ですよ!能力だって……活かせるルールでもない」

「だろうな。背教の盾で反射したいような攻撃は禁止されているから、まず間違いなく強みを出せずに負けるな」

「わかっているなら!!」

「わかっているならお前が出ろ、フレデリック・カーンズ……!!」

「……いくら何でも卑怯ですよ、木原さん……!お願いじゃなくて、脅しじゃないですか……!!」

「なんとでも言え。それだけお前の力を欲しているんだ、私達は」

「くうぅ……!」

「まぁ、お前自身気乗りしないなら、ただの数合わせだと割り切ってくれて構わない。むしろこの際、いずれアルティーリョを潰すために戦力や施設を調査する潜入捜査だと思えばいいんじゃないか?ん?」

「あなたって人は……」

 強張っていたフレデリックの表情から力が抜ける。諦めたのだ。

「わかりましたよ。あなたの言う通り潜入捜査だと思うことにします」

「そう来なくっちゃ!」

「ただ勝利は期待しないでくださいよ。死にもの狂いで頑張る気にはなりません」



(やっぱ断るべきだったかな……)

 だが、時すでに遅し。アカ・マナフはレフェリーの横に到着し、あとは相手が出てくるのを待つだけの状態になっていた。



「あんたのアドバイス通り、先鋒にさせてもらったぜ、我らがボスのマシンの後継者様は」

「後半は勝負が決する試合になるからな。プレッシャーのかからない初戦がベストだ、奴の場合はな」

「オレとしても顔も実力も知らない奴に、落とせない試合を任せられないからね、異論はないよ。ただ……」

「トップはトップでまた別のプレッシャーがかかる……か?」

「実際オレにはかなり緊張しているように見えるんだけど。つーか、やる気あるの、あいつ?」

「安心しろ。根が真面目で負けず嫌いな奴だから試合が始まったら、全力で戦うさ」



『では続いてアレッシオ陣営の先鋒!入場です!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 反対側の入場口も同じくスモークで包まれ、その中から引き締まった肉体を持った精悍な男が出て来た。

『表格闘界でも名を馳せ、このランビリズマでも目下連勝中の華麗なる戦士!リンジー・マカパイン!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

「リンジー!今日も魅せてくれよ!!」

「応援してるぞ!」

 リンジーは慣れた手つきで、拳を振り上げ、観客の声援に応える。

 そしてアカ・マナフの前に……。

『先鋒両者出揃いました!!アルティーリョの運命を決める試合の中でも、特に大事な初戦を任せられた二人が今対峙します!!』

(煽らないでよ、実況さん……そういう仕事なんだろうけどさ……)

「お二人とも準備はよろしいか……」

「はい……」

「問題ない」

「では、バリア展開!!」

 レフェリーの合図でバトルフィールドは透明な力場に覆われ、外界から隔絶された。

「戦闘態勢に」

「ぼくは見ての通り大丈夫です」

「おれも……ふん!!」

 リンジーが気合を入れると、みるみる彼の肉体は変化していき、あっという間に別物に。

 その姿は古代にいたガゼルを彷彿とさせるものだった。

(ブラッドビーストだって!!?)



「ほう……ブラッドビーストか……」

「ほう……じゃないよ。アカ・マナフ、驚いてるじゃん。だからあれほど情報のある奴のことは頭に入れておけと……」

「今回の場合は下手に相手の力を想定し、明確なイメージをつけるとそれを逆に利用され裏をかかれる恐れがあると判断した。そういうセコい手を取ってくる男だろ?クローチェは」

「やるかやらないかでいうとやるタイプだけど、そもそも情報のない奴もメンバーにいたし、そういう提案しても一流の戦士が言う事を聞くとは思えんのだが……」

「何にせよ今更どうにもできん。じたばたするな。そもそも情報だけで対応できるもんでもない……ブラッドビーストの動きってのはな」



『漲るハイテンション!迸るハイエナジー!会場のボルテージはマキシマム!!さぁ!いよいよです!いよいよ!第一試合が始まろうとしています!!』

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 熱に浮かされる実況や観客とは対照的なレフェリーの古沢は静かにを振り上げた。そして……。

「始めぇぇぇぇぇッ!!」


カーン!!


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 ついにゴングが鳴り、先鋒戦が幕を開けた!

『さぁ、始まりました!始まってしまいました!両陣営の一番槍を任せられた二人が激しく……』

「………」

「………」

 アカ・マナフとリンジー獣人態は一定の間合いを取り、お互いを正面に捉えながら、ジリジリと円を描くようにゆっくり移動した。

『……思いのほか、静かな立ち上がりですね……何だかわたしが空回りしてるみたいで恥ずかしい……』

『そんなことないと思いますよ』

『と、冗談はさておきこれはまずは様子見ってことですかね?』

『でしょうね。気負いやすい第一試合で浮き足立たないのはさすがと言ったところです』

『なるほど。ただ緊張して、萎縮してるわけじゃないんですね』

(どうしよう!?ブラッドビーストを相手にするなんて、ちっとも考えもしなかった……!!)



「残念ながら……」

「うちらの先鋒はそっちっぽいね……ちくしょう!!」

「まぁ、一発打つなり、打たれるなりしたら緊張もほぐれるだろ……後者の場合はそのまま押しきられて負ける可能性も高いが」

「いけぇ!!アカ・マナフ!!とっとと手を出せぇ!!」



 プリニオの言葉は当然届かず。膠着状態は一分を経過しようとしていた。

(どうする!?先に仕掛けるか!?でも、相手が何も動かないのが気になる……ただ攻めあぐねてるわけはないよな。カウンターを狙っているのかも)

「来ないのか?」

「へっ!?」

 突然話しかけられ、フレデリックは突拍子もない声を上げてしまった。

「そ、そっちこそ来ないんですか?もしかして早くも戦意喪失しちゃったとか?」

「まさか。マフィアの跡目争いなど、おれはどうなろうと興味はない。おれが望むのは、強者との戦い、そして観客が喜ぶエキサイティングな試合」

「意外と……って言ったら何ですけど、サービス精神旺盛なんですね」

「そんな大したもんじゃないさ。地下とは言え、おれはプロの格闘家だと自負している。プロとして観客を盛り上げるのは当然のこと。だから動きが固い初心者の緊張を解すために、わざわざ先に打たせてやろうと待っていたのだが……」

「え……そうだったんですか!?」

「そうだったんですよ」

「なら、ちょっと待って!そのお気持ち受け取りますから!!」

「待たない!これ以上は観客からブーイングを貰う!!」

 横から縦へ。リンジーは一気に踏み込み、接近!同時にパンチを繰り出した!

(速い!!だけど、この程度なら……避けられる!!)

 相手が仕掛けたことが、結果として功を奏し、フレデリックの頭にこびりついていた余計な思考は削ぎ落とされ、身体の固さも消えた。

 自然と回避運動へと移行し、軽く後退、さらに顔を仰け反らせる。

(これで躱せる。そのままカウンターで――)


コン


「……え?」

 最初は顔面、遅れて背面に衝撃。

 フレデリックの想定を超え、リンジーのパンチは命中し、アカ・マナフを地面に倒したのだ。

『ダ、ダウーーーーン!!停滞状態から急転直下!華麗なる獣戦士リンジー・マカパインのファーストアタックが、アカ・マナフを倒したぁぁぁぁぁっ!!』


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