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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の百花繚乱
151/194

五人目

「う……ううっ……!!」

「ほらな」

 アンラ・マンユ達が噂の男がいる山小屋に着くと、案の定浜野は傷だらけになって地面に這いつくばっていた。

「……浜野、お前って奴は……」

「期待を裏切らない男だね……裏切って欲しかったけど」

「かませ犬の中のかませ犬だな。いや、かませ犬にはある程度の強さが必要だから、最早ただの雑魚か」

「言っていいことと悪いことがあんぞ……事実だとしても言ってやるな、頼むから……」

「安易な慰めは時として、罵声よりも心を傷つける。こういう時はおもいっきり言ってやった方がいいんだ。なぁ浜野くん」

「夢か幻かわからんが……アーリマン、オレは慰めが欲しかった……」

「そうだったか。すまんすまん」

「踏んだり蹴ったりだな、今日……」

 その言葉を最後に浜野は気を失った。

「まぁ、雑魚の気持ちなどどうでもいい」

「本当、お前最低だな。でも、今気になるのは……」

「彼だよね……」

 山小屋をバックに立っている白髪頭の初老の拳にはべったりと浜野の血がついていた。

「そいつはあんたらの知り合いか?」

「恥ずかしながら」

「どうやら迷惑かけたみたいだね。謝るよ」

「謝罪など要らんから、とっととそいつを連れて帰ってくれ。そして二度と自分の前に現れるな」

「そうはいかない。実は諸事情で強い奴を探しているんだけど、どうにもワタシにはあなたがその条件に当てはまる気がするんだよね」

「自分などたかが知れている。世の中には自分より強いなんて……ごまんといるさ」

 初老の世捨て人はかつての大敗北を思い出し、目を細めた。

「そうかもしれないが、ワタシにはそいつらを探している時間がない。せめて話だけでも聞いてくれないか?」

「断る。自分は俗世とも戦場とも縁を切った」

「そこをなんとか!!」

「しつこい!」

 食い下がるプリニオを一瞥もせずに、男は自宅に戻ろうと踵を返した……が。


バシュン!!


「「「!!?」」」

 その瞬間、山に発砲音が響いた!アンラ・マンユが空中に向けて、フィンガービームを放ったのだ。

「……世間ではそうやって見送るのが、流行っているのか?」

「いいや。いつの時代も変わらん……俺はやる気満々だぜ、ビビってないならかかって来いよの合図だ」

「ほう……」

 初老の男の白い眉がピクピクと痙攣した。

「アーリマン、お前!!」

「こういう輩は言葉では動かせん。力も見たいし、これが一番手っ取り早い。わかったらそこの邪魔なデカブツをどけろ」

「本当、うちの浜野をなんだと思ってるんだ……」

 文句を言いながらも弟分が心配なので、芝は素直に従い、寝ている浜野を担ぎ上げ、火花をバチバチ散らしている二人の間から退避させた。

「状況は整った……さぁ、とっとと始めよう」

「自分は戦いから離れたと言ったろ。どれだけ挑発しようと、お前と拳を交える気はない」

「その割には浜野とやってるじゃないか」

「……そいつがしつこかったから仕方なくだ」

「なら私とも仕方なく戦えよ」

「………」

「ボロクソ言ったが、この浜野は簡単に倒せる男ではない。ましてや昔の貯金だけでどうにかなるような相手では決してない」

「……何が言いたい?」

「あんたは戦いから離れたなど嘯いているだけだって言ってるんだ。その体つきからして、実戦を想定したトレーニングを今も続けてる」

「昔の習慣が抜けてないだけだ」

「では、その腕で光っているものはなぜ捨てないんだ?」

「――ッ!?」

 指を差されると、思わず男はもう一方の手で腕輪を隠した。

「もう戦わないというなら、ピースプレイヤーなぞ真っ先に捨てるべきだろ?違うか?」

「それは……」

「もう嘘をつくのはやめろ。お前の中の闘争心はいまだに衰えていない。むしろ年を取って、さらに燃え上がっている。今もこの私と手合わせしたくて仕方ないんだろ?」

「自分は……」

 わかっていた……男は視界にその紫の悪魔を捉えた時から、激しく心臓が鼓動していた!自分を偽れないくらいに昂っていた!

 男はアンラ・マンユと戦いたかった!

「……これ以上の言い訳はみっともないだけか……」

「そうだ、自分に素直になれ……」

「『ヴラドレン・ルベンチェンコ』だ」

「私は皆からアーリマンと呼ばれている」

「アーリマンか……名前はあまり強そうに感じないな」

「名前はな。浜野と同じく私は期待を裏切らない男だ」

「そうあって……欲しいな!!」

 ヴラドレンは腕輪を着けた手を高々と掲げた!そして……。

「『エクラタン・ソルダ改』!!」

 その真の名前を叫ぶ!

 瞬間、腕輪は光の粒子に分解され、それが直ぐ様青と黒に彩られた重装甲の機械鎧へと再構成、ヴラドレンの全身を包み込んだ。

「エクラタン……意外だな。確か指揮官用のマシンだろ、それ」

「昔はチームを率いていた」

「では、本来は集団戦がメインか?」

「安心しろ……タイマンも強い!!」

 エクラタンは地面を蹴り、一気に距離を詰めた!

「はっ!!」

 そしてナイフを召喚して……突く!


ヒュッ!


 けれど結果は空振り。アンラ・マンユは軽やかに身を翻し、回避した。

「我が初撃をこうも容易く躱すか」

「幸か不幸か、手練と戦うことが多かったのでな。ちょっとやそっとでは我が心も身体も崩せんよ」

「ならば!ギアを上げようか!!」


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!


 突きの連打!しかしこれも全て回避されてしまう。

「最初は距離を取って、銃で様子見してくると思っていたんだが……そんなに戦いに飢えていたか?」

「自宅の前でなきゃ、銃を使うさ。自分の流れ弾で雨漏りの穴が開けることになったら、たまったもんじゃない」

「そりゃそうか」


パンッ!!


 アンラ・マンユが突きを見切り、腕を払いのけた!そしてそのまま流れるようにミドルキック!


ガッ!!


 しかし、エクラタン改は足を上げてカット!さらに……。


ガシッ!グイッ!!


 その無礼極まりない足を掴んで引っ張った!そのまま強制的に近づいてくるアンラ・マンユに頭突きをお見舞いするつもりだ!


ガァン!!


 ぶつかり合う頭!押し負けたのは……。

「……ッ!?」

 仕掛けたエクラタン改!額から亀裂を入れながら、よろよろと後退する。

「石頭なんだよ、我が愛機は……それだけじゃないがな!!」

 容赦ない追撃!最短最速で放たれたストレートが青黒のマシンに迫る。

「……自分もこんなもんじゃない!!」


ガシッ!ブゥン!!


 エクラタン改はあろうことかアンラ・マンユの渾身のストレートを掴むと、その勢いを利用して空中にぶん投げた!

「そこなら流れ弾など気にせんでいい!!」

 さらにライフルを召喚!流れるような動きで狙いを定めると、躊躇することなく引き金を引いた!

「もらった!!」

「反重力浮遊装置」


バァン!!ヒュッ!!


 けれど、アンラ・マンユは重力を支配し、嘲笑うかのようにふわりと風に舞う綿毛の如く移動し、銃弾を回避した。そして……。

「悪いな……空中は私の庭だ!!」

 そのまま急降下!エクラタン改に踵落としを放つ!


ドゴオォォォォン!!


 山が揺れた……が、肝心のターゲットには傷一つつかず。エクラタン改はバックステップで回避……からの。

「はあっ!!」

 ライフルを投げ捨て、再びナイフ突き!

「ふん!!」


バシッ!!


 それをアンラ・マンユは軽く手刀ではたき落とす。さらに武器を失ったエクラタン改に拳を振り下ろ……。

「これで……何!?」

 嫌な気配を感じ、視線を落とすと、青黒の爪先にナイフが綺麗に乗っかっていた。

 刹那、木原は先ほどのナイフを落としたのがわざとだと、このための布石だと気づく。

 しかしほんの、本当にほんの一瞬だけ遅かった。

「喰らえ!!」

 蹴り上げられるナイフ!鋭い切っ先が悪魔の真紅の眼に迫る!このタイミング、この速度はさすがのアンラ・マンユも避けられない!

 通常の状態ならば……。

「完全適合」

 木原史生の感情が、意志が、祈りがアンラ・マンユに伝わり、膨大なエネルギーへと変換される。劇的に基礎スペックも向上、本来ピースプレイヤーではあり得ない反応速度を実現してみせた!


ガリッ!!


 ナイフは紫の仮面を僅かに削り、虚空に消えて行く……。

 一世一代のチャンスを逃し、ヴラドレンの敗北が決まった瞬間であった。

「ここまでか……」

「あぁ……ここまでだ!!」

 反撃のナックル!エクラタン改の顔面に……。


ブゥン!!


 炸裂せず。今日もまた寸止め。拳の起こした風だけが、エクラタン改の頬を撫でる。

「……撃たないのか?」

「勝敗は決した……必要ないだろ」

 そう言うとアンラ・マンユは拳を下ろし、観戦していたプリニオの方を向いた。

「決まりだ。彼が五人目だ」

「ずいぶんとお気に召したようだね」

「私は武装を使う気も完全適合する気も更々なかった……だが結果はこの軽くカスタマイズされただけの機体に使わざるを得ない状況まで追い込まれた。機体スペックが拮抗していたら、負けていたかもしれない」

「あんたにそこまで言わせるとは……オレとして文句はないね」

「ということだ」

 再び振り返ると、ヴラドレンは愛機を待機状態に戻し、素顔を晒していた。その顔は……。

「はあ……」

 困惑の色に染まっていた。

「なんか勝手に話を進めているが、自分からしたら何のことやら……そもそもあんた達は何者なんだ?」

「そう言えば何一つ説明していなかったな。プリニオ」

「へいへい、こうなった原因であるワタシ、プリニオ・オルバネスが順を追って説明させていただきますよ」

 プリニオは言葉通りこれまでの経緯を懇切丁寧にヴラドレンに話した。

「なるほど。あなたをボスにするための戦いに自分に参加して欲しいと」

「はい。あの雄々しくも優雅な戦いっぷりを見て、もうあなたしか考えられない!どうかワタシに力を貸してくれませんか?」

「ふむ……」

 ヴラドレンは顎に手を当てて、考える素振りを見せた……素振りだけ。

 実のところ、プリニオの話を聞いた瞬間、いや彼の心に再びアンラ・マンユが炎を灯してしまった時には、答えは決まっていたのだ。

「……いいだろう。その話お受けしよう」

「よっしゃ!!これでメンバーが揃った!!」

 プリニオは渾身のガッツポーズを繰り出した。

「マフィアの跡目争い……我が燻る闘争心を今度こそ跡形もなく燃やし尽くすには、ちょうどいい」

「オレとしては、そこまであなたが切羽詰まる状況に追い込まれて欲しくないけどね」

「そうだな。拍子抜けするなら、それもまた一興。ただ一つだけ約束して欲しいことがある」

「報酬か?」

「あぁ、だが金ではない。この戦いが終わったらアルティーリョと佐利羽には、組員に今日のように自分にちょっかいを出させないことを徹底させて欲しい。下らん度胸試しに使われては、たまらんからな」

「そんなことお安い御用だよ。アルティーリョはオレがボスになったら、配下にはあんたと不戦条約を結んだって、言い聞かせる」

「佐利羽もだ。つーか、言われなくても浜野の二の舞はもう見たくないからよ」

 プリニオと芝は力強く頷くと、ヴラドレンも首を上下し了承、契約は成立した。

「色々あったが、君の理想のメンバーが揃ったんじゃないか?プリニオ氏」

「だな。あとはおもいっきりぶちかますだけだ!……まぁ、オレは見物だけどね」

「ならばその目に焼き付ける準備をしておけ……我ら五人の輝かしい勝利をな!!」

 悲しいかなアルティーリョのボス決定戦は木原の言葉通り、余裕のある展開にはならなかった。

 彼らは想像以上の敵と、身も心を削る激闘を繰り広げることになるとは、まだこの時は誰も知らない……。


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