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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
140/194

隣にいる悪②

「……この辺りでいいか」

 デズモンドはガルーベルを装着し、再びスタジアム正門前の広場に戻って来た。

「さぁ、カーンズ刑事、わたしとの……」

「死ねぇ!!」


ブォン!!ドゴォン!!


「……せっかちな奴め」

「ちっ!?」

 有無を言わせぬ強襲!フレデリックガルーベルが飛び蹴りをかましてきた!しかし、デズモンドにはあっさりと回避されてしまう。

「そんなに血の気が多かったのか?」

「あんたのおかげでついさっきそうなったんだよ!!」


パンパンパンパンパンパンパン!!


 フレデリックは続けてパンチを連打した。

 けれど、それも悪徳署長の手で簡単にはたき落とされ、本体にダメージは与えられない。

「実技試験は優秀だと聞いていたが、わたしの思い違いか?」

「うるさい!上から目線でぼくを語るな!!」

「そうか……ならば、下から行こうか!!」


ガン!!


「!!?」

 フレデリックの視界の中のデズモンドガルーベルが突然横に倒れた!いや違う!フレデリックの方が今まさに倒れているのだ!

(足払いか……!!)

 足にジンジンと響く痛みと、全く感じられない地面の感触から、フレデリックは自分が攻撃を受け、ダウンをもらいそうになっていることを悟る。

「だったら!!」

 そしてすぐに最適解を導き出した!なんと彼はあえて身体の流れに逆らわず、むしろ勢いを増すように動いたのだ!

「喰らえ!!」


ガギィン!!


「――ッ!?なんだと!?」

 空中で逆さまになりながら、蹴りを放つ!これも腕でガードされてしまったが、予期せぬ攻撃にデズモンドの肉体と精神はほんの一瞬、硬直した。

「今だ!!」

 その一瞬でさらに半回転し、体勢を立て直したフレデリックは再度パンチを繰り出した!

「ちっ!いい気になるな!新人風情が!!」

 しかし、デズモンドも思考停止状態から回復し、ガードを固める。


ガシッ!!


「――な!?」

 けれど、そのガードこそフレデリックの待ち望んだものだった。パンチが当たる直前に、手を開き、デズモンドの腕を掴んだ!

「パンチはブラフか!?」

「騙すのは、あんたの専売特許じゃない!!」

 そのままもう一方の手で襟首を掴み、投げの体勢に流れるように移行する。

「くっ!させるか!!」


グルン!!


「ちっ!?」

 しかし、デズモンドは全力で身体を回転させ脱出!そのままできる限り素早く、フレデリックから離れた。

「あのまま地面に叩きつけられていればいいものを……!!」

「生憎、わたしはあと五十年は生きるつもりなんでね」

「五十年だと?あと五分で終わらせてやる!!」

 フレデリックはその燃え滾る怒りの赴くままに突進……。


バン!バン!バァン!!


「ちいっ!?」

 突進できなかった。デズモンドが拳銃を召喚し、牽制してきたのだ。

「君のことを甘く見ていたことを素直に謝罪しよう。悔しいが、どうやらデータ通り接近戦では君の方が遥かに上らしい。だが……銃撃戦ではわたしが上だ!!」


バン!バン!バァン!!


「くそ……!!」

 攻守逆転。デズモンドの銃撃は的確にフレデリックの動きを制限し、接近を許さなかった。

「それそれどうしたどうした!」

「近づけないなら、こっちも銃で!!」

 フレデリックも対抗して、拳銃を召喚した。けれど……。


バン!ヒュン!バン!ヒュン!!


「下手くそ」

 デズモンドには一発も当たらなかった。

「射撃は人並みだったというデータも正しかったようだな。その程度では、かつて一時的に狙撃部隊に所属していたわたしとの撃ち合いを制することはできない」


バン!チッ!バァン!!ガリッ!!


「くっ!?」

 フレデリックの射撃は当たらないが、デズモンドの射撃は確実に、着実に彼の命に近づいていた。

「このままでは……」

「このままでは、あと五分もしたら君は蜂の巣だな、カーンズ刑事」

「あぁ……このままガルーベル同士でやり合ったら、そうなるだろうね」

「そうガルーベル同士……えっ!?」

「界雷起動」

 フレデリックガルーベルが光に覆われたと思ったら、次の瞬間には長大なライフルを持った別のピースプレイヤーに姿を変えていた。それは界雷、佐利羽組が使用していたマシンだ。

「ぼく自身の力で勝てないなら、マシンスペックで凌駕させてもらう!!」


バシュウッ!バシュウッ!!ガリィン!!


 ガルーベルと比べものにならないほどのスピードと精度を持った界雷の弾丸が、デズモンド機の装甲を容赦なく抉り取った。

「くっ!?複数持ちだったか!!」

「悪の親玉と決戦になるかもしれないというのに、ガルーベルだけなはずないでしょうが!」

 そう言うと、界雷は再度光に包まれた。そして光の中から……。

「刃風!!」

 また別のピースプレイヤー、刀を持ったマシンが飛び出してきた!

「また佐利羽の!?」

「今度こそ……くたばれぇぇぇッ!!」


ザンッ!!


「――ぐあっ!?」

 踏み込み一閃!刃風の刀がガルーベルの拳銃を切り裂き、胴体に傷を刻みつける!しかし……。

(浅いか……!!)

 悪徳署長の命までは届かず。だが、フレデリックはすぐに気持ちを切り替え、追撃の体勢に入る!

「三度目の正直……!!」

 刀を切り上げ、デズモンドの首を……。

「偽り、腐らせろ……ドゥルジ」


ジュウ……!!


「――何!?」

 やられたらやり返す!今度はデズモンドがピースプレイヤーを乗り換えた!

 どこかアンラ・マンユに似た毒々しくおぞましく不気味なピースプレイヤーが刀に触れると、たちまち刃は腐食溶解し、武器としての殺傷能力を奪われてしまった。

「貴様もその刀のように……溶けてなくなれ、カーンズ刑事!!」


ブシュウゥゥゥッ!!


「ぐ!?これは……!?」

 ドゥルジはさらにもう一方の手のひらからガスを噴射し、吹きかける!そのガスに僅かに触れただけで装甲は煙を上げて溶けていった。たまらず刃風は敵から目を離し、後退する。

(ついに出たか、ドゥルジ!今の一撃でかなり溶かされた……刃風はもう無理か?なら、何を使えば……いや、それよりもまずは奴の能力を把握しないと……)

 気持ちを整理し、再び視線をドゥルジの方に向けるフレデリック。だがしかし……。

「――!?いない!!?」

 ほんの一瞬目を離した隙にドゥルジの姿は影も形もなくなっていた。

「一体どこに!?」


ジュッ……


「――ッ!?」


ガン!!


「いい反応だ」

 背後から肩に手を置かれそうになったが、指の先が触れた瞬間に察知し、刃風はドゥルジの腕を振り払った。

「くそ!機仙・乙!!」

 フレデリックはドゥルジから離れながら、またピースプレイヤーをチェンジした。機動力に定評のある機仙の乙タイプだ。

「奏月のマシンも持っているか……だからどうしたって感じだがな!!」


パンヒュッパンパンパンヒュッ!!


「このぉ!!」

 溶解液をだらだらと垂らしたドゥルジの両手が機仙・乙に襲いかかったが、持ち前のスピードを生かし、時に捌き、時に躱し、なんとかこらえ続けた。

「やるな、カーンズ刑事。本当にわたしの予想以上だ」

「本性を知る前のあなたに褒められたなら、嬉しかったんでしょうけど……今は不快なだけだ!!」

「ずいぶんと嫌われたもんだな。それよりもわたしの手にばっかり注目していていいのかね?」

「え?」

「腐食液を出せるのが、手だけだと思っているのかって訊いているんだよ……!」

「まさか!?」

 フレデリックの意識がドゥルジの両手から離れ、脚に移った。その瞬間……。

「バカが!!」


ブシュウゥゥゥッ!!


「――くっ!?しまった!?」

 注意が外れた手から腐食ガスを噴射し、吹きかけられた!見事にガスを食らった機仙・乙の表面は瞬く間に腐り、爛れ、見るも無惨な姿に変わり果てる。

「乙まで……!ガルーベル再起動だ!!」

 ロニー先輩から受け継いだマシンの再登板。ガルーベルを纏ったフレデリックはまた全力で後退し、ドゥルジから離れようとする……が。

「機仙・乙で振りきれなかったのに、ガルーベルで逃げきれるわけないだろ!!」


パンパンパンパンパンパンパン!!


「ちいっ!!」

 またドゥルジの手をひたすら捌く膠着状態に逆戻り。いや、機仙・乙の時より回避ができてない分、先ほどよりも不利な状況か。

「ほれほれ!防戦一方じゃ勝てないぞ!」

「言われなくても……!」

 フレデリックにも痛いほど理解できていた……このままでは自分が敗北するということが。だが、どうすることもできなかった。

「さっきからの様子だと、どうやらドゥルジの能力を知らなかったようだな。もしや安堂ヒナやシュパーマーが何らかの方法で特定しているやもと、不安だったのだが……無用な心配だったみたいだな!」


パンパンパンパンパンジュウ!!


「くっ!?」

 ついにドゥルジの指がガルーベルを捉え始めた!溶解液がガルーベルの装甲を熱したバターのように、いとも簡単に溶かしていく。

(本当にこのままだと負ける……ここで勝負に出るか!!)

 まさに生と死の瀬戸際に立たされたフレデリックは決断を下した。今、ここで持てる力を全て出す決断を!

「機仙・甲!!」

 何度目かとなるマシンチェンジ!今度は防御力、耐久力が自慢の機仙・甲だ!しかし……。

「はっ!何をするかと思えば……その程度の装甲の厚さなど、ドゥルジには誤差でしかないんだよ!!」


ブシュウゥゥゥッ!!


 そう鼻で笑いながら、腐食ガスを噴射する!機仙・甲はそれに対して……。

「その誤差がぼくの勝機だ!!」

「何!?」

 機仙・甲はあろうことか腐食ガス目掛けて突っ込んできた!自慢の装甲がぐずぐずになろうとお構い無し!そしてそのまま……。


ガシッ!!


「くっ!?」

「捕まえた……!!」

 機仙・甲はドゥルジに抱きつき、羽交い締めにした!さらに……。

「甲、その状態で固定!!ぼくは……離脱!!」

 背部から装着者であるフレデリックが出ていく!中身のない空の機仙・甲は拘束具となってドゥルジをそのまま抑えつけ続ける!

「これがぼくのとっておき……バルランクス・オッキーニカスタム!!」

 フレデリックは後退しながら、銃を両手に装備した新たなピースプレイヤーに換装、二丁のうち右手の重厚な銃で機仙・甲とその奥に捕まっているドゥルジに狙いをつける。

「これで……終わりだぁ!!」


ドシュウゥゥゥゥゥン!!


 引き金を引くと、圧倒的なエネルギー量を誇る光の弾丸が発射された!それは大気を焼き焦がしながら、機仙・甲とドゥルジに迫り……。


ドシュウゥゥゥン!ドゴォン!!


 二体をまとめて貫いた!

「や、やった……!!」

 その様子を見て、フレデリックは自分が勝利したと、この街に巣食っていた悪の一角を討ち滅ぼすことができたと、歓喜に震えた。そう思うのは当然だろう。ドゥルジは必殺の弾丸によって胴体に大穴を開けられたのだから。

 しかし、それは残念ながら勘違い、ただの夢幻の儚い幻想でしかなかった。

「何をやったんだ?」

「――ッ!?」

 背後からさっきまで嫌というほど聞いていた声が聞こえ、慌てて振り返ると、そこには……。

「ドゥルジ!?」

「やぁ……よくもやってくれたな!!」


ジュウッ!!


「ちっ!?」

 ドゥルジは溶解液で濡れた手で、先ほど自身に大穴を開けた右手の銃を溶かし、破壊した!

「この!くそが!!」


バババババババババババババッ!!


 バルランクスは壊れた右手の銃を投げ捨てながら、左手の散弾銃をドゥルジに至近距離でぶち込んだ!

「今度こそ……!」


シュオッ……


「な、何だって!?」

 穴だらけになったドゥルジ。それはそのまま倒れる……のではなく、ガスとなって、空気中に霧散した。

「これは……!?じゃあ、さっきのも!?」

 思った通り、機仙甲に捕まっていたドゥルジもまた気体となって、夜の闇に溶け込み跡形もなく消えていた。

「ガスによる分身……いつの間に!?っていうか、だとしたら今までのぼくの戦いは……」

「とんだ茶番だったってことだな」

「!!?」

 フレデリックを嘲笑うかのように、新たなドゥルジが闇の中から姿を現した……ゾロゾロと何体も。

「そ、そんな……」

「さぁ、カーンズ刑事に問題です……わたしの本体はどれでしょうか!!」

 二体のドゥルジが縦一列になって、猛スピードで向かってきた!

「ふざけやがって!!」

 バルランクスは未だ混乱の中にいながらも、反射的に散弾銃を迎撃のために向けた。


バババババババババババババッ!!


 そして、発射!先頭のドゥルジは蜂の巣にされ、元のガスに分解される。

 しかし、後ろのドゥルジは……。

「よくもわたしを!!……なんてね。シャアッ!!」


ジュウッ……


「くっ!?」

 ドゥルジを盾にして、無傷のまま敵機の懐まで入り込んだドゥルジがまた溶解液で散弾銃を破壊!

 バルランクスは武器を失い、呆然と立ち尽くした。

「上等なマシンだが、銃が無くても戦えるか!!」

(くっ!?どうすればいいんだ……!?ぼくは一体どうすれば……)

 ドゥルジの手のひらが眼前まで迫る中、フレデリックの脳裏には一昨日、コンビニから帰って来た木原と安堂ヒナとの会話がフラッシュバックした。


「さぁ!お好きなのを選んで頂戴!!」

 ヒナはテーブルの上に五つの指輪を並べて、楽しげにそう言い放った。

「お好きなのって……これって、ヒナさんのお父さんが造った特級ピースプレイヤーですよね?」

「そう!アタシのダディの力作!」

「私がマフィア達から殺して奪ったマシンだな」

「そういう言い方やめてくださいよ。紛れもない事実ですけど」

「誰が造ったかとか、どう手に入れたかなんてどうでもいいだろ。大事なのは使えるかどうかだ」

「文字通り人によって使えるかどうか、起動さえできるかどうかわからないから、特級は普及しないんでしょ。お好きなのも何も、ぼくが使えるかなんて……」

「それを確かめるため一個ずつ着けて確認していこうって話だよ。わかったら口じゃなくて、手を動かす」

「ぼく的にはマフィアの構成員が使っていた奴を大量にもらっただけでもう十分なんですけど……ん?」

 ヒナに急かされ、フレデリックは指輪を一つずつ順番に観察していったのだが、そのうちの一つから何故か目が離せなくなった。

「……じゃあまずはこれで」

「なんでそれなんだ?」

「いや、なんとなくですけど……」

「そうか……なんとなくか……」

 木原は愉快そうに口角をニッと上げた。

「なんですか、気持ち悪い……」

「悪かったな、こんな笑い方しかできなくて。それよりも早く試してみろよ」

「いや試せって、これどれなんですか?まさか五体の名前を順番に言っていけって言うわけじゃないですよね?」

「あぁ、そっか。わからないよね、どれがどれだか」

「はい。だから教えてください」

「ならば教えよう。そいつの名は……」



「アカ・マナフ……!!」


ザンッ!!


「何!?」

 襲いかかるドゥルジを一刀両断!

 剣を振るったピースプレイヤーはおぞましい雰囲気、デザインラインはどこか紫の悪魔を彷彿とさせるものであり、それはまさにアンラ・マンユが初めて相対した安堂クニヒロ製のピースプレイヤーそのものであった。

 かつてアルティーリョファミリーのボス、ヴァレリアーノ・ウンギアのマシンが、あろうことか新人刑事フレデリック・カーンズの愛機となって再臨したのである!

「……できれば使いたくなかったんだけどな、これ……」



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