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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
137/194

畏怖される悪④

(背教の盾が!?いや!今はそれよりも、エネルギー消耗している奴を!!)

 ジーモン・シュパーマーは自分でも驚くほどにスムーズに気持ちを切り替え、今すべきことに全神経を集中させた。

(今なら殺れる!この斧を奴の脳天にぶちこめば!!)

 斧を振りかぶりタローマティは膝をついたアンラ・マンユに猛スピードで突撃した!

「天に召されろ!アーリマン!!」

 そして勢いそのままに斧を撃ち下ろ……。

「まだその時じゃない」


ガキィン!!


「さすまた!!?」

「イエス、さすまた……!」

 アンラ・マンユは近くに落ちていたさすまたを拾い上げると、それで斧の柄を挟み込んだ。さらに……。

「はあッ!!」


グリン!!ガキッ!!


「しまった!?」

 さすまたを器用に動かし、斧をタローマティの手から絡め取る!

「この……!」


ドゴォン!!


「――ッ!?」

 タローマティの視界一面が鈍い音と共に紫色に染まった……。

 アンラ・マンユが立ち上がると同時に飛び膝蹴りを繰り出し、それが見事に教祖様の顔面にヒットしたのだ!

「もう一丁!!」


ガァン!!


「ぐあっ!!?」

 そのまま紫の悪魔は空中で回転、矢継ぎ早に回し蹴りを放ち、タローマティを吹き飛ばした!

「くそッ!?だが、タローマティの装甲には……うっ!?」

 無様に尻餅をついたが、これまた素早く切り替え、顔を上げた。

 顔を上げると、アンラ・マンユが両目を真っ赤に爛々と光らせていた。

「ギリギリだが、あと一発……教祖様を神の下に送る分のエネルギーはまだ残っているぞ……!!」

「ひいっ!?」

 その悪魔としか、もしくは魔王としか形容できない恐ろしい姿を見たジーモンの闘争の炎は、アンラ・マンユの眼とは対照的に冷えきり、一瞬で鎮火された。

「ヒート……」

「タローマティ解除!からの、すいませんでした!!」

 ジーモンは武装を解くと、信者達の乾いた血がへばりついている床に額をこすりつける。

「……個人的には腹が立つが……賢明な判断だ」

 そのあまりにみっともない姿に毒気を抜かれたのか、単純に疲れただけなのか、アンラ・マンユの眼の輝きは収まっていった。

「ゆ、許してくれるのですね!?」

「許すというか……そもそも話しをして、あわよくば味方にするつもりだったしな、あんたのこと」

「えっ?わたくしのことを仲間に……」

「そうだ、そのつもりだった」

「だとしたらあまりにもこれは……」

 ジーモンは死屍累々、鮮血に染まった大講堂を見回した。

「言ってくれるな。自分でも今、少し冷静になって反省している。今日はさすがに色々と……熱くなり過ぎた」

 頭から熱を追い出すように、額に手を当て、小さく横に振った。

「左様ですか……で、わたくしはもう心情的にはあなたの僕なわけですけど」

「私的にはまだだ。お前が役に立つかどうか見極めてから判断する」

「何でもします!だから命だけは!!どうか!!」

 ジーモンは目を潤ませ、祈るように両手を合わせて、アンラ・マンユを見上げた。

「必死過ぎて気色悪い」

「ひどい!!」

「まっ、本音はさておき」

「本音だった!!」

「とりあえずお前のマシンと市長様からいただいたペンダントを寄越せ」

「あっ、クラルヴァイン市長のことをご存知なのですね。さすがです」

「そういうのいいから」

「はい!すいません!!」

 ジーモンは指輪とペンダントを外し、アンラ・マンユに手渡した。

「これで五つ……」

「あれ?五つ?」

「お前とマフィアの連中、そしてメルカドのだ」

「メルカドもすでに……わたくし以上の小物だったので、いなくなって寂しいです」

「お前らの中でもそんな感じの扱いなのか、あいつ……」

 アナクレト・メルカドについては散々バカにしてきたが、これにはちょっとだけ同情した。

「それではペンダントもピースプレイヤーも渡しましたし、これで命は助けてもらえるんですね?このことは誰にも言いませんし、この街からも出ていくんで、今日のところは帰ってもよろしいですか?」

「駄目に決まってるだろ」

「ですよね~」

 ジーモンは肩をがっくしと落とした。

「お前には聞きたいことが色々あるが……とりあえず何でクラルヴァインとつるんでいるんだ?お前の性格や能力を考えると、仲間にするメリットがない気がするんだが」

「これまた手厳しい……でも、事実です。あの人達の目的はわたくしのエヴォリストとしての力だけでした」

「……エヴォリストだと?」

 予想だにしなかった単語に、アンラ・マンユは再度警戒心を高めた。

「わたくし、子供の頃にオリジンズに殺されかけて、とある能力に目覚めたんです」

「神の声が聞こえるってのは嘘じゃなかったのか?」

「いえいえ、神の声なんて聞こえませんよ。わたくしの能力は、自分で言うのもなんですが、もっとショボい能力です。っていうか、ご存知だからビンタしたんじゃないですか?」

「……え?」

「わたくしが三回回ってワンって鳴かした人間を意志薄弱にし、どんな質問にも嘘をつけなくする能力のこと知っていたんですよね?」

「……え?」

「三回回ってワンって言わせた相手の嘘偽りない情報を、その者の口から喋らせる能力……ご存知なんですよね?」

「うん。知ってた」

(知らなかったー!!危な!怪しまれないために素直に従っていたら、全ての情報ぶっこ抜かれていたよ!ナイスビンタ!ファインプレイだ、私!!)

 背筋は凍り、マスクの下の顔は青ざめていた。それだけ今のジーモンの言葉は木原史生にとって戦慄すべき恐ろしいものだった。そして図らずも癇癪を起こしたことで、最悪の展開を回避できていたことに複雑な思いを抱きながらも安堵した。

「やはり知っていたんですね。でなければいきなりビンタなんかしませんもんね」

「あぁ、その通りだ……」

「では改めて言うまでもないですけど、その能力でわたくしは前市長の警備担当から情報を引き出したりなどして暗殺に協力しました。そしてその後、このグナーデ教会を隠れ蓑に、権力者から強制的に聞いた弱味や株取引に有利に働く情報を彼女に渡していたんです」

「なるほど……いや、思っていた通りだ」

 アンラ・マンユは知ってましたよと殊更アピールするように、ウンウンと力強く何度も頷いた。

「最初はこんなくそみたいな能力をありがたがってくれて嬉しかったんですけど、最近はわたくしを本当にこの世の救世主だと信じている信徒達を騙すのが、しんどくなって来て、どうにか足を洗えないかと考えていたところだったんです」

「つまり私の存在は渡りに船というわけか」

「はい!この状況から抜け出せるなら、あなた様に協力します!この言葉に嘘はないです!」

「そうか……君の気持ちはわかったよ」

 また祈るようなポーズを取る教祖様に、紫のマスクの奥で木原は優しく微笑みかけた。

「アーリマン様……!!」

 顔は見えなかったが、笑いかけていることは敏感に感じ取ったジーモンの顔も自然と綻んだ。

「ヴェノムニードル」


ぷすっ!!


「……へ?何で……」

 そんなジーモンの首筋に容赦なく睡眠針を撃ち込み、我らが教祖様は一瞬で夢の世界に旅立った。

「さらに深い話は場所を改めて。道を覚えられても困るからな。少し眠ってろ……よいしょ!」

 アンラ・マンユはジーモンを肩に担ぎ上げると周囲を見回した。

(これだけの騒ぎを起こしているんだ、外で信者達が待ち構えている可能性が高いが……ステルスケイルを使えば、尊敬する教祖様が飛んでるって、崇めて見送ってくれるかな?)

 アンラ・マンユは透明になりながら、ピョンピョンと二階席まで上がり、そのまま天窓を突き破って大講堂を出た!

「見ろ!」

「教祖様が!」

「飛んでる!?」

「なんと神々しい……!」

「ありがたやありがたや……」

(マジかよ、こいつら……)

 彼の狙い通り、信者達は歓喜の涙を流しながら、敬愛する教祖様が誘拐されるところを見送った。木原ドン引きである。

(とにかく今回も予定外のことばかりだったが、目的は達成できた。次なる一手は……)

 帰路につきながら、今後のことに思いを馳せる木原史生。しかし、彼の努力はとある人物の暴走によって徒労に終わる。



 それはアンラ・マンユとタローマティが激闘を繰り広げている真っ只中、エルザ市警本部の署長室でのことだった……。


コンコン!


「入りたまえ」

「失礼します」

「わたしにまた何か用かね、フレデリック・カーンズ刑事?」

「はい……あなたにどうしても訊かなければいけないことがあります、デズモンド・プロウライト署長……!」

 署長の悪行を知りながら対峙するフレデリックは今まで見せたことのない思い詰めた顔をしていた……。


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