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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
136/194

畏怖される悪③

 片手に巨大な盾、もう一方にこれまた巨大な斧、攻撃的でおどろおどろしいデザイン……タローマティという特級ピースプレイヤーは見ている者を不安にさせるマシンであった。

「聖職者が装着するのに似つかわしくないマシンだな、もちろん悪い意味で」

「うるさい!そもそも聖職者に戦うことを決断させるほど追い詰めるなよ!!」

「それは……ごもっともな意見」

「ずっとうまくやっていたのに!貴様のせいでわたくしの楽園が!!」

「楽園?私には地獄にしか見えなかったがな」

「だから黙れと言っておるだろうが!平和を弄ぶ者!PeacePlayerよ!!」

「自分は平和を祈る者、PeacePrayerだとでも言いたいのか?」

「貴様よりは、望んでいるさ!!」

 ジーモンの感情の昂りに呼応し、タローマティの目が輝き始めた!そして……。

「消えろ!不届き者!!」


ビシュウゥゥゥゥッ!!


 その光が収束し、破壊光線となって発射された!

「ふん」


ドゴォン!!


「ちっ!?」

 しかし、アンラ・マンユはそれをあっさりと回避。光線は代わりに大講堂の壁に穴を開けた。

「この!ちょこまかと!!大人しく殺されろよ!それがたくさん殺したお前がすべきことだろうが!!」


ビシュウゥゥゥゥッ!ビシュウゥゥゥゥッ!!


 自棄になったようにタローマティは目から光線を連射した。

「そんな道理などない」


ドゴォン!ドゴォン!!


 けれど、適当に放った攻撃など、歴戦の戦士であるアンラ・マンユには通じるわけもなく、ひらりひらりと容易く躱される。

(目から光線とはさすが安堂ヒナの父親が造ったマシンだな、発想が似ている。威力はフィンガービーム以上、ヒートアイ以下ってところか?当たることは避けたいが……)

 アンラ・マンユは腕を伸ばした、床に、正確には床に転がっている衛兵の死体に。

「というわけで、必殺!信者ガード!!」


ブゥン!ドゴオォォォォォン!!


「なんだと!!?」

 アンラ・マンユは死体を光線に向かって投げて防御する……だけでなく、光線を受け、死体が爆散したことでタローマティの視界を覆い、一瞬彼の認識から外れることにも成功する。

「くそ!?なんて酷いことを……奴は!?どこに!?」


ザッ!!


「!!?」

 横から物音が聞こえると視界の端にこちらに向かって跳躍する紫の悪魔が見えた。すると身体が自然に動き、反射的に盾を構えた。


ガアァァァン!!


「ちっ!?」

「危な!?」

 不意打ちになるはずのアンラ・マンユの飛び蹴りはすんでのところで巨大な盾によって防がれてしまった。

「思ったよりやるじゃないか、教祖様。だが!!」

(速ッ!?)

 悔しがりながらも着地すると、悪魔は華麗かつ軽快な足さばきで逆側に回り込む!そして……。

「はあッ!!」

 がら空きの脇腹に強烈なボディーブローを放つ!


ガアァン!!


「――ッ!?」

 けれどもこれも不発に終わる。タローマティのボディーもかなりの硬度を誇っていたのだ!

「残念だったな!こいつの硬さは『安堂クニヒロ』が造った六大特級ピースプレイヤーで一番!お前のショボいパンチではひび一つ入らんわ!」

 タローマティは怯んだアンラ・マンユに斧を撃ち下ろす!


ブゥン!


「パワーも中々だが、当たらなければ意味はない」

 しかし、最小限の動きで躱されてしまう。いや……。

「まだだ!!」


グイッ!


「何!!?」

 タローマティは手首を切り返すと、力任せに斧の軌道を方向転換!下から斜め上に斬り上げる!


ザンッ!!


「……くっ!?」

 アンラ・マンユに今日初めてのダメージ!回避が間に合わずに胸の装甲を抉られてしまった。

「崇められてるだけじゃない!日々鍛えているんだよ!!」

「らしいな」

「その鍛練の成果を見せてやる!このまま斬り刻んで!!」

「いや、仕切り直しだ」

 一気呵成に攻め立てようとしたタローマティだったが、アンラ・マンユの決断の方が早かった。先ほどとは逆に離れるために後ろに跳躍したのだった。

「臆病者めが!斬り刻まれるのがそんなに嫌なら、穴だらけにしてやる!!」


ビシュウゥゥゥゥッ!ビシュウゥゥゥゥッ!!


 再びビームの乱射!それを回避し続ける紫の悪魔!戦況はまた膠着状態に逆戻りした。

(あの防御力は厄介だな。フリーズブレスを浴びせれば多少脆くなるかな?だが、教祖様は意外と反射神経もいいし、戦闘慣れもしている……一度見た技を食らってくれるか……)

 光線が飛び交う中、悪魔はタローマティの攻略法を見つけられずにいた。

 そんな迷える子羊に天啓が。


『“ヒートアイ”解禁しました』


「!!?」

 毎度お馴染みとなった電子音声が流れると、木原はマスク裏のディスプレイに映る武装欄を確認した。

(ようやくか……これがあるなら話は簡単だ。防御ごと貫いて、終いだ!!)

「……なんだ?奴の目が……」

 アンラ・マンユの真っ赤な二つの眼が、これまた真っ赤な輝きを放つ。それが最高まで高まった時、悪魔の持つ最大火力の攻撃が繰り出される!

「ヒートアイ」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 目から発射された熱線は、血のせいで湿った空気を蒸発させながら、タローマティへと迫る!

「奴も!?だが、タローマティにはこいつがある!!」

 タローマティは地面に盾を突き立て、その影に隠れた!そして……。


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「ぐうぅ……!?」

 ヒートアイを正面から受け止める!

「ふん!そんなデカいだけの盾など!貫いてみせるわ!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「この……!!」

 アンラ・マンユはさらに熱線を強める!その威力からタローマティは盾を真っ赤にしながら押し込まれ、ジリジリと後ろに下がっていく。

 逆に言えば下がっていくだけで、いつまで経っても盾を貫くことはできなかった……。

(……どういうことだ?これだけヒートアイを食らっても耐えられる盾など……私としたことが見誤ったか?)

 不思議に思ったアンラ・マンユは熱線を停止した。

「まさかここまでの耐久力とは……ん?」

 タローマティの盾は熱線を食らっていなくとも赤いままだった。いや、その赤さは盾の真ん中に集まっていき……。

「背教の盾」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 発射された!盾が先ほどまで受け止めていたヒートアイと同等の熱線を撃ち出した。いや、同等というよりこれは……。

(この攻撃……まさか……!!)

 迫る熱線を見つめる木原の脳裏に思い浮かんだのはかつての愛機の姿であった。


ドゴオォォォォォン!!


 熱線はそのまま大講堂の壁まで貫き、立ち上る白い煙でタローマティは視界を遮られた。

「やったか!?」

 思わず期待が口からこぼれた。だが、悲しいかな、それは裏切られることになる。

「なるほど……そういうことか……!」

「うっ!?」

 白煙が薄れ、アンラ・マンユが姿を現したが、特に新たなダメージを受けた様子はなかった。

 だが、その身に纏う威圧感は全くの別物になっていた。まるで怒りという概念が形になったように、見る者を戦慄させるおぞましいオーラを全身から放っていたのだ。

「な、何が……!?」

 ジーモンはただ狼狽えることしかできなかった。この状況で下手に手を出せば、それは恐ろしいことになると本能が訴えていた。

 そんな教祖様に悪魔は戦闘中だとは思えないほど穏やかで優しい口調で語りかける。

「……昔のことを思い出した」

「えっ!?昔!?」

「あぁ……かつての勝利の栄光と、敗北の屈辱をな……!!」

「ひっ!?」

 彼の者達との出会いと戦い……木原史生の中であの時感じた後悔と憎悪がフラッシュバックし、それがアンラ・マンユにも影響を与え、場の空気を支配するほどの覇気を迸らせた。

「お前を倒す方法はいくらでもある」

「えっ!?そう何ですか!?」

「だが、今俺はその中でも最も愚かで分の悪い方法を選ぼうとしている」

「な、何のために……?」

「過去と決別し、前に進むためだ!!」

 再びアンラ・マンユの目が真紅に光輝いた!そして……。

「ヒートッアイッ!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 再び、いや先ほど以上の熱線が発射された!

「くっ!?背教の盾!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「ぐっ!!?」

 それをタローマティはまた盾で受ける。凄まじい勢いで盾は真っ赤に染まっていく。

 それでもお構い無しにアンラ・マンユは熱線の照射を続けた。

(自棄になったのか?タローマティの力に気づいてないのか?なんにせよこのまま攻撃を続けてくれるなら、全て吸収し、今度こそ跳ね返して……!!)

「攻撃を吸収、反射する特級ピースプレイヤーが他にもいたとはな」

「な!?お前、タローマティの能力を知っていながら……!?」

「知っているさ、そいつの能力も……それの一番屈辱的な打ち破り方も!痛いほどにな!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「ぐあっ!?さらに威力を上げただと!?」

 背教の盾が吸収したエネルギーはすでに先の量を超えていた。全体はまるでマグマのように赤く輝き、ついには……。


ピキ……


「――な!!?」

 亀裂が走り始めた!

「バカな!?この攻撃は背教の盾のエネルギー許容量をオーバーしているのか!?」

「何事にも限界がある!それを超える力をぶつけて勝つ!その力が今の俺とアーリマンにはあると信じている!!」

「ふざけるな!!そんなもの作戦とは呼ばん!ただのギャンブル!ただの意地の張り合いだ!!」

「そうだ!これは俺とお前の意地の戦い!お前のマシンが限界を迎えるのが先か!アーリマンのエネルギーが底をつくのが先かのチキンレースだ!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!


「ぐあぁぁっ!!?」

 真紅の目からさらに勢いを増し、周囲の水分を蒸発させ、ついには発射口であるアンラ・マンユの眼の周りすらもドロリと溶かし、まるで涙を流しながら、攻撃しているようだった。

 それを受ける盾もまたさらに赤く、そしてさらにひび割れていく……。

「こんな……こんなバカな戦法で!わたくしが築き上げてものが全て崩されるのか!?」

「それだけの価値しかないってことなんだよ!貴様のやってきたことは!!」

「わかったような口を利くな!!」

「生憎俺にはわかるんだよ……長年かけて積み重ねる苦労も、それが結実する直前に横から他人に壊される悔しさも!!」

「アーリマン、お前は一体……!!?」

「俺はもう二度とあの時のような思いをしないために!!」


ビキッ……


「お前に勝って、過去の俺を乗り越える!!」


ビキッ……ガシャアァァァァン!!


「な……!!?」

「……く!?」

 背教の盾は砕け散ると同時にアンラ・マンユも限界を迎え、熱線の照射を止めた……。


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