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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
135/194

畏怖される悪②

「教祖様!!」

「今の声は一体!?」

 ジーモンの悲鳴を聞いて、大講堂にさすまたを持った衛兵がなだれ込んで来て、あっという間に木原は囲まれてしまった。

「教祖様……自分が奴を通したせいで……!!」

「おお……なんということを……」

 その中には木原をボディーチェックをした警備の信徒とヤーナもおり、前者は怒りで目を血走らせ、後者は自責で顔を青ざめさせていた。

(うーん、フレデリックに散々戦闘狂じゃないと否定してきたが、また戦うことになりそうだな。そう思われるだけの理由が、私にあるってことか……まぁ、こうなってしまっては仕方ない、切り替えて、こいつらを効率良く殲滅する方法を考えよう)

 一方、木原は感情に身を任せた短絡的な行動を反省しながらも、冷静に周りを見回し、敵の戦力を確認する。

「貴様!!」

「ん?」

 一人の衛兵が声をかけてきたので、そちらに注意を向けた。

「なんだい?私に何か言いたいことでも?」

「あぁ!たくさんあるよ!!なんで教祖様にこんなことを!!」

 怒り狂う衛兵の後ろではジーモンが頬を撫でながら、ウンウンと頭を縦に動かしていた。それがまた木原には不快だった。

「その教祖様があまりにも人権を無視するようなことを要求してきたからですよ」 「人権無視?教祖様がそんなひどいことするわけないだろ!!」

「そうだそうだ!」

「ふざけたことを言うな!!」

「いや、私は確かに言われた……三回回ってワンと鳴けと」

「え……」

 衛兵達はきょとんとした顔でお互いの顔を見合わせた。そして……。

「あの神聖な儀式を侮辱するのか!!」

「人生を変えるチャンスを棒に振ったな、バカめ!!」

「あなたは何もわかっていない!あなたは何もわかっていない!!」

「これだから無知は!!」

 思い思いに激昂し、木原を絶え間なくそして口汚く罵った。

(……だから宗教とは絡みたくないんだ。平気な顔で理不尽を押し付け、理不尽な理由で勝手にキレてくる。それを悪意なくやるからタチが悪い)

 木原は衛兵達から目を逸らした。

 罵詈雑言に耐えられなくなったのではなく、彼にとってその光景は理解不能のおぞましいもので、とてもじゃないが見ていられるものではなかったからだ。その時……。

「神原力也ぁぁぁぁっ!!」

 ついに我慢の限界を迎えた木原をチェックした警備の男がさすまた片手に突っ込んできた!しかし……。

「自らの過ちは自分で正す!!」

「お前の過ちはこんなカルトに騙されたことだよ」


ヒョイ!ガシッ!!


「――な!?」

 さすまたを躱され、そして掴まれ……。


グイッ!!ゴォン!!


「――がっ!?」

 引っ張られたところに強烈パンチ!床に叩きつけられた!

「く、くそ!?」

 かろうじて意識を繋ぎ止めた警備の男は慌てて立ち上がろうとする……が。

「そんなに神の声を聞きたいなら、自分で会って来いよ」


ゴギャッ!!


「――!?」

 木原に首を踏みつけられ、へし折られ、絶命し、彼が二度と起き上がることはなかった。

「う……」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「こいつ、人をあんなに簡単に!?」

「奴は悪魔か!?人の振りをした悪魔か!?」

 同士を殺された信者達は一気に恐慌状態に陥り、悲鳴を上げ、腰を引いて、無様を晒した。

「所詮はただの信者、戦闘の素人の集まりか。この程度で狼狽するとは……これからもっと恐ろしいことになるというのに……!!」

 木原は顔の包帯に手をかけると、その中からキラキラと光る何かがこぼれ落ちてきた。

「あれは……まさか!?」

 それに反応したのは、教祖ジーモン・シュパーマーただ一人だけだった。彼はそれと似たものを今まさに指に嵌めているから。

「さぁ、パーティーの始まりだ」

 木原もそれをキャッチするや否や指に嵌める。そして……。

「君臨しろ、アンラ・マンユ」

 その指輪の真の名前を宣言する!

 主人の言葉に呼応して、指輪は光の粒子に分解、そしてすぐさま紫色の機械鎧に再構成、木原史生の全身に装着されていった。

 紫毒の魔王、混沌の元凶、アンラ・マンユ、グナーデ教会大講堂に降臨!

「奴が噂のアーリマンか!?ついにわたくしのところに……!!」

 紫の悪魔の存在を知っていたジーモンは、ここ数日自分を不眠に追いやった存在が目の前に現れ、恐怖で身震いした。

「ピ、ピースプレイヤーだと!?」

「警備の者は何をしていたんだ!?」

「さっき殺されました!!」

「え?そ、そんなことよりわたし達も武装を!!」

 教祖と同様、信者達も戦慄している。慌てふためき、ただその場で声を出すことしかできなかった。

 そうやってもたもたしていると……。

「判断が遅い」


ビシュウッ!!


「――ッ!?」

「ヤ、ヤーナ様!!?」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 紫の悪魔の人差し指から発射された一筋の光がヤーナの眉間に穴を開け、彼女の命をいとも簡単に奪った。

「すぐに動かないからこうなる。きちんと訓練を受けていれば、助かった命かもな」

「くっ!?」

「神の教えよりももっと学ぶべきことがあったってことだ」

「貴様ぁ!!?」

 怒りが頂点まで達した衛兵達はさすまたを投げ捨て、ブレスレットを着けた腕を突き出した!

「「「セイクリッドッグ!!」」」

 その言葉を合図に先ほどのアンラ・マンユのように、ブレスレットは光、そして機械鎧に変わり、衛兵達を覆っていく。

 瞬く間に槍と盾を装備した白と金の神々しいピースプレイヤーの集団ができあがった。

(知らないマシンだな。だが、ドッグという名前とデザインから老舗の『クリラ・テクノロジーズ』製かな。もし独自に改造技術をもっているとしたら、想像以上に厄介な存在だな……技術面に関しては)

 アンラ・マンユは完全武装状態になった衛兵達を見ても、動じることはなかった。先の目を覆いたくなるような惨めな彼らの言動を見て、自らの敵ではないと判断したのだ。

 その自分達を甘んじる空気感を衛兵達は敏感に感じ取った。

「貴様……我らを舐めているな!!」

「その考えが間違いだということを教えてやろうぞ!!」

「「「おおう!!」」」

 セイクリッドッグ軍団は一斉にアンラ・マンユに飛びかかった。しかし……。

「でやぁ!!」


ブゥン!!


「死ねや!!」


ブゥン!!


「不届き者が!!」


ブゥンブゥン!!


 どれだけ槍をついても、紫の悪魔を貫くことはできなかった。

「マシンは悪くないが、装着者は下の下だな」

「この!!」


ブゥン!!


 また槍の突きをバックステップで華麗に躱す。いや今回は……。

「フィンガービーム」


ビシュウッ!!


「――がっ!?」

 今回は回避だけに飽き足らずカウンターの光線で衛兵の胸を撃ち抜いた。

「槍はリーチの長さが武器。だが、こちらにはさらにその射程の外から撃ち抜ける武器がある」


ビシュウッ!ビシュウッ!!


「ぎっ!?」「ぐっ!?」

 アンラ・マンユは流れるような動きで、目についたセイクリッドッグを次々と撃破していく。

「くそ!?」

「数はこちらが勝っているんだ!!取り囲め!!背後から攻めろ!!」

「「おおう!!」」

 指示の通り、悪魔の後ろにいた二人の衛兵が襲いかか……。

「やらせんよ」

「!!?」

 襲いかかろうと足に力を込めようとした瞬間に、ターゲットであるアンラ・マンユが振り返り、一気に眼前まで接近してきた!

「逆に懐まで入られると、長くて使い辛いのも槍の欠点だな」


ザシュウッ!!


「……がはっ!!?」

 貫手一閃!セイクリッドッグの胴体を紫の腕が貫き、穴から溢れる鮮血で大講堂の床を真っ赤に汚した。

「貴様ぁぁぁぁっ!よくもっ!!」

 背後にいたもう一人の衛兵が血相を変えて、突進してきたが……。

「おっと」


ブゥン!!


 やはり回避され……。

「槍ってのはこう使うんだよ」


ズブシュッ!!


「ぐあっ!!?」

 殺したセイクリッドッグから奪い取った槍をすれ違い様に突き刺された。

「これだけいるんだ、もう少しまともな奴はおらんのか?」

「オレを呼んだか!!」


ブゥン!!


 強襲したのは、他より金色が多めのセイクリッドッグ!……まぁ、他と変わらず攻撃は避けられたが。

「腕に自信があるようだな」

「この『ラムリー』、グナーデ教会最強と自負している!!」

「こんな新興宗教の中での最強を誇るとはとは……井の中の蛙、身の程を知らないと公言しているようなもんだ。それは自信ではなく、過信と言うのだよ」

「黙れ!不信心者!!お前は何も……わかっていない!!」


ブゥン!ブゥン!ブゥン!ブゥン!!


 威勢はいいが結果は変わらず。紫の悪魔はダンスを踊るように軽やかにラムリーの攻撃を全て回避した。

「どうした?教会最強」

「バカにしおって!!」

 しつこい挑発に我を失ったラムリーは槍を投げ捨てると、盾を振りかぶり、殴りかかってきた。けれど……。

「バカにされるようなことをするからだろ」


ザンッ!!


「――ぐがあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 盾を撃ち下ろす前に、逆に肘から下を手刀で斬り落とされてしまった。さらに……。

「これで最強も陥落……っと」


ザシュウッ!!


 貫手で胴体を穿つ!教会最強を謳ったラムリーは為す術なくアンラ・マンユに倒され……。


ガシッ!!


「ん?」

「捕まえたぞ、不信心者……!!」

 あろうことか今にも死にそうなラムリーは自らを突き刺す貫手を残った片手で掴んだ!

「怒り狂っているように見えたのは演技か」

「オレは至って冷静だよ……冷静にお前を倒すための最善の一手を打った」

「自らの命を犠牲にしての、まさしく一世一代の一手というわけか」

「オレの命はオレのものではない……怪我で夢を断たれた時にオレは死んだんだ。そして地獄のような日々を送っていた自分を救ってくれたのがこのグナーデ教会!その時から!その時からオレの血の一滴まで全ては神とその使いである教祖シュパーマー様のものだ!!」

 ラムリーは残った力を全て悪魔を掴んだ腕に込め、そして周りにいる同志達に叫んだ!

「グナーデ教会の栄光のために!オレごとやれぇぇぇっ!!」

「ラムリー……!!」

「それでこそグナーデ教徒!!」

「お前の気持ちは受け取った!!」

「いつか天で会おうぞ!!」

「「「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」」

 彼の決死の想いに応えるために、信者達は槍を構えて一斉に突撃し……。

「フリーズブレス」


ゴオォォォォォォォォッ!!ガチィン!!


「何!?」

「ラムリー!!?」

 アンラ・マンユの口から放射された冷凍ガスをもろに喰らい、ラムリーセイクリッドッグは氷像と化した。

 その変貌に恐れをなした信者達は示し合わせたかのように足を止めた。

「愚かな……そのまま攻撃を続けていれば、かすり傷の一つくらいはつけられたかもしれんのに……な!!」


バキィン!!


「ラムリー!!?」

 アンラ・マンユが力任せに拳を叩きつけると、かつてラムリーだった氷像は粉々に砕け散り、空中を舞い、キラキラと輝いた。

「神を信じることは否定しない。祈りを捧げるのもいいだろう。しかし、自らの意志と命の使い方まで他者に委ねるのは違う。生物として生まれた最低限にして、最上級の証であり権利を放棄するような愚か者には、私は負けるわけにはいかないのだよ」

 氷の欠片に彩られながら、穏やかに語るアンラ・マンユの姿は不敬な背教者にも、秩序を破壊する野蛮な怪物にも見えなかった。むしろ……。

「神様……」

 信者達の目には荒々しくも美しい神のように見えた。

 この瞬間、勝負は決した。

「私を神と崇めるか。いいだろう、ならばこの神の手で、天にその命を返してやろうぞ」

 そこからは一方的なものだった。

 自らを神と嘯く悪魔の手によって、敬虔な信者達の肉体と命は砕かれ、裂かれ、抉られ、貫かれ、捻り切られ、ありとあらゆる形で殺されたのである。

 そして血の海となった大講堂に残ったのは、この惨劇の元凶になった二人。

 実行犯のアンラ・マンユと、信者を勝ち目のない戦に駆り立てた教祖ジーモン・シュパーマーだけ……。

「さぁ、残るはあなた一人だ、教祖様」

「やれ……ろ……」

「ん?」

 アンラ・マンユに話しかけられたが、ジーモンは俯いたまま、ぼそぼそと口を動かすだけだった。

「やれば……だろ……」

「何を言っている?それがこの教会での祈りか?弔いか?」

「やればいいんだろって言ってるんだよ!!こうなったら、わたくしがやるしかないんでしょうが!!」

 涙目でキレながら、ジーモンは指輪を嵌めた手を翳した。

「どうかわたくしをお守りに……タローマティ!!」

 教祖の言葉に反応し、指輪は輝き、大講堂を光が包み込んだ。


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