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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
130/194

忍び寄る悪②

「誰かが入って来たと思ったら、まさかというかやはりというか噂のアーリマンとは……」

 アナクレトはニヤニヤと不愉快な笑顔で、紫の悪魔を下から上へ、舐めるように観察した。

「……んで、どうやってここがわかった?」

「このマシンがナビゲートしてくれた」

 悪魔は額をトントンとノックしてみせた。

「マシンが……つーか、そのデザイン……安堂ヒナが作った奴か?」

「さぁな。それを知りたくてここに来たんだ」

「え?……ちょっとタンマ」

 アナクレトは手でTの字を作ったかと思えば、すぐに胸の前で組み直し、斜め上の虚空を見つめながら、ぶつくさと独り言を呟き始める。

「つまりあれか……こいつの目的は……」

「おい?急にどうした?」

「いや、だからちょっと待ってろって。すぐに考えを……直接聞いた方が早いか」

 若き刑務所長は改めて紫の悪魔の方を向き直すと、コホンと一回咳払いをし、口を開いた。

「えーと、もしやアーリマン様は安堂ヒナに会いに来たのかい?」

「そうだが」

「そっちか~!!」

 顔を覆い、天を仰ぐアナクレト。

 対して、アンラ・マンユは小首を傾げ、頭の上に?マークを浮かべた。

「私からもいいか?」

「ん?何だ?」

「さっきから君の話していることがさっぱりわからないのだが。そっちかとはどういう意味だ」

「あぁ~、いやね、オイラはてっきりあんたはこれを取りに来たのかと思ってね」

「……ッ!!?」

 アナクレトが懐から出したものは木原に衝撃を与えた!それは……マフィアのボス達が持っていたものと同じペンダントだった。

「……何でお前がそれを?」

「うわ……そのリアクション、マジで知らなかったのね」

「あぁ……正直面を食らっている……」

「オイラがこれを持っている理由については教えられないけど、ヴァレリアーノ・ウンギアと佐利羽秀樹が死んだ時点で、もしやと思い、ここに隠れていたんだよ、奴らの二の舞にならないようにね。で、恐れていたことが遂に来たと思ったら……」

「私はそもそもお前がペンダントを所持していることを知らなかった」

「なんか一人で張り切っちゃって、バカみたい」

 アナクレトは眉を八の字にし、口を尖らせ、自分に呆れながらペンダントを仕舞った。

「勘違いならそこを通してもらおうか?」

「いやいや!そんなこと言って、オイラのペンダントを奪うために隙をついてズドン!……ってするつもりでしょ?」

「バレていたか。不意に目の前に欲しかったものが現れれば、それはな……!」

 アンラ・マンユが欲望を解放し、戦闘態勢に入った!全身からおぞましいプレッシャーが噴き出す!

「ふーん……伊達にあの三人を倒してないってことね」

 アナクレトは怯まない!ただ淡々と、指輪を嵌めた手を顔の前に翳す。

「こうなったら仕方ない。お前を倒して、三人から奪ったペンダントを回収させてもらおうか。出番だ、『タルウィ』」

 主人の呼び掛けに応じ、指輪は光の粒子に、そしてその粒子が機械鎧に変わり、アナクレトの身体に装着されていく。

 全体的なデザインはマフィアのボス達が使っていたものと似ている。特徴的なのは本体は細身なのに末端はビッグ、両手と両足が巨大化していること。

 それがタルウィ!ムージュン刑務所所長アナクレト・メルカドの愛機である。

「お前のマシンも奴らと同じメーカーか?それとも私のを含めて、全部安堂ヒナが作ったのか?」

「なるほど……そこらへんは何もわかってない感じね」

「その様子だと、お前は私の知らないこともよく知っていそうだな」

「まぁ、あんたよりはね」

「では、お前を倒し、ペンダントを奪ってから、じっくりと尋問してやろう……!!」

「はっ!やれるもんなら……やってみろよ!!」

 先攻はタルウィ!猛スピードで突進……しない。

 タルウィはアンラ・マンユの周りを壁や天井を飛び跳ねながら縦横無尽に、ただひたすらに移動した。

「どういうつもりだ?」

「どうもこうも……タルウィのスピードを見て欲しくてね!!」

「攻めるつもりはないのか?」

「そんなもん!!」

 タルウィは天井を力いっぱい蹴り、アンラ・マンユに今度こそ突撃……。

「ない!!」

 突撃しなかった。アンラ・マンユの前まで来たが、すぐに後退し、また部屋の中をぴょんぴょんと跳び回り続けた。

「情けない奴め」

「挑発しても無駄だよ。こっちが仕掛けたら、カウンターで仕留めるつもりだろ?実際に今もあのまま突っ込んでいたら、渾身のパンチでダウンをもらっていたはず」

「……多少、頭は回るようだな」

「お褒めにいただき光栄です」

 空中でペコリと一回頭を下げると、またタルウィ天井や壁を……。

 アンラ・マンユはそれをただ見続けた。ただじっと敵の動きの全てを……。

(そんなに見て欲しいなら見てやろう。じっくりと……お前の動きを全て見切れるようになるまでな……!!)

 木原史生は全神経を研ぎ澄ました。タルウィの一挙一動を見逃さないように、ただじっと……。

(スピードを自慢するだけある。かなりの敏捷性だ。しかし……サルワや彼女ほどではない!!)

 記憶の中のサルワや憎きあの女と比べると、タルウィの動きなど止まって見えた。  これなら問題ないと、アンラ・マンユはわずかに前傾になる。

「中々いい見せ物だったが……もう飽きたよ!!」

「おっ?」

 狙われたのは着地直後!コンマ数秒だが、動きの止まったタルウィに向かって、アンラ・マンユは全速力で突進!拳を撃ち下ろす!そうなるはずだったのに……。


ビン……


「!!?」

 振りかぶった腕に何か弾力性のあるものが引っかかった。反射的に横目で確認すると何かが光って見えた。

「ワイヤーか!!?」

「正解」

「!!?」

 ほんの少し、コンマ数秒目を離しただけなのに、タルウィはいつの間にか眼前まで迫っていた。そして……。

「とりゃ!!」


ゴォン!!


「――ぐっ!?」

 パンチを繰り出し、命中させた!はからずも紫の悪魔がやろうとしたことを、逆にやられてしまったのである!

「くそ!?」

 アンラ・マンユは体勢を立て直すために、後ろに下がろうとした……が。


ビン……


「な!?」

 そこにもワイヤー!むしろ弾き返されて前に出る!そこにはもちろん……タルウィだ!

「もう一丁!!」


ガァン!!


「――ッ!?」

「ありゃま」

 今度はキック!しかし、首を刈り取ろうとせんばかりのハイキックが襲いかかったが、紫の悪魔はかろうじてガードして、事なきを得た。

「さすがに三大マフィアを潰しただけはある。一筋縄ではいかないか」

 タルウィは追撃を諦め、するするとワイヤーの網を掻い潜り、間合いを取った。

 おかげでとは言ってはなんだが、アンラ・マンユも体勢と呼吸を整えることができた。

 そうすると自分がまんまと敵の罠に嵌まってしまったことが、嫌というほどわかった。

「……お前がアホみたいに跳び回っていたのは、このふざけたワイヤーを仕掛けるためか……?」

「その通り。アホみたいは余計だけどね」

 アンラ・マンユの周辺にはところ狭しとワイヤーが張り巡らされていた。それはまさに蜘蛛の巣にかかった蝶の如く……。

「あんたタルウィがスピード重視のマシンだと思ったでしょ?」

「あぁ……」

「ノンノン」

 タルウィは人差し指をチッチッと横に振った。

「タルウィは相手のスピードを殺すマシンだよ。こうなってはまともに動けない、オイラ以外はね。わざわざここに隠れていたのも、見つかりにくいからだけではなく、仮に見つかっても、この場所なら返り討ちにできるから。ここに入った瞬間にあんたの敗北は決まっていたんだよ。ワイヤーの網にかかった時点でアーリマンと言えど、ただ刑の執行を待つ哀れな死刑囚でしかない」

 タルウィはすでに自身の勝利を確信していた。後はどう処分するか……それを考えるだけだと。

 対してアンラ・マンユの心は……。

「この程度で勝ったつもりか……!」

 まだ折れてはいない!むしろより熱く、屈辱をガソリンにして、怒りの炎を激しく燃やしている!

「確かにこのワイヤーを張ったバトルフィールドはお前の土俵なのだろう。ならば!その土俵を壊してしまえばいい!!」

 アンラ・マンユは自分に不利な環境を破壊するため、ワイヤーに手刀を振り下ろし……。


ピタッ!!


 いや、振り下ろさなかった。ギリギリで寸止めして攻撃を止めた。

 それを見ていたタルウィは……賢明な敵に拍手を送った。

「正解だよ、アーリマン。そのまま振り下ろしていたら、あんたは片腕を失っていた。でも、よくわかったね」

「……何もわかっていないさ。ただ……本能が間違っていると訴えてきた……」

「なるほど……修羅場をくぐり抜けてきた者にだけ備わる危機察知能力というわけか。いいものを見せてもらったおかげでオイラのテンションも爆上がりだよ」

「お前を喜ばせるつもりでやったわけじゃないんだがな……」

「まぁまぁ。オイラのテンションが上がればよりわかりやすくなるんだから……あんたの置かれている状況がどんなに絶望的かってね!!」


ジュウ……


「――!!何!?」

 アンラ・マンユは慌てて手を引っ込めた!突然ワイヤーが赤く輝き始め、そこから発する熱で紫の装甲を溶かした。

「この熱量……!!」

「驚くよね!こんな細い糸からピースプレイヤーの装甲をあっさり溶断するエネルギーを発しているんだから!ほら、気をつけないと、背中の方にもワイヤーがあるよ!」

「――ッ!?」

 言われて振り返ると、背後のワイヤーも見事に赤熱化していた。いや、背後のものだけではなく、部屋中にあるワイヤー全てが真っ赤に燃え滾っていた!

「これが特級ピースプレイヤー、タルウィの能力。相手は下手に動けず、スピードもくそもない。対して……」


ピョン!ストッ……


「なっ!?」

 タルウィはなんと真っ赤に燃えたワイヤーの上に乗った!ピースプレイヤーを簡単に溶断すると言ったワイヤーに!

「対してタルウィはこの灼熱の糸の上を自由に動ける。さっき色々と言ったが、あれは少し説明不足だった。正確にはタルウィは相手のスピードを殺した上で、自分のスピードを上げるフィールドを作れる……最強に意地悪なピースプレイヤーなんだよ!!」

 アナクレトは仮面の下で最高に醜悪な笑みを浮かべた。


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