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No Name's Fake  作者: 大道福丸
本編
13/194

オリジンズ駆除 その⑤

「戻る戻らないの話、全部無駄だったわね……奴さん、完全にお冠。ワタシ達二人を殺すためにどこまでもついて来る気よ……」

「はい……残念ながらそうみたいですね」

 さすがに二人とも場数を踏んでいるからか、キマティースの気配を感じた瞬間に即座に気持ちを切り替え、視界に入ると同時に戦闘態勢を取った。

「キリィ……」

 キマティースの方はというと先ほど痛い目を見たせいか、すぐには襲いかかって来なかった……とはいっても、ほんの数秒のことだが。

「キリィィィィィッ!!」

 痺れを切らした我慢弱い獣は大きく跳躍する!鎌を頭上に掲げながら二人に向かって落ちてきた!

「行くよ!ルシャットⅡ!!」

「ドレイク!続くぞ!!」

 もう一度愛機を纏ったフジミと飯山は左右に散開する。

 結果、キマティースの鎌は何もない地面に突き刺さった。

「キリィッ……!!」

 キマティースは鎌を抜き、右、左と頭を動かし、ターゲットの位置を確認する。できることなら二人まとめて自慢の鎌で叩き斬ってやりたいが、身体は一つだけ。ならばどちらかを選ばなければならない。先に殺したい相手を……。

 キマティースは本能に従い、それを選んだ。

「キリィィィィィッ!!」

「くっ!?」

「飯山!!」

 キマティースが選んだのは、彼女の外骨格と誇りを傷つけた黄色の竜だった。雄叫びと共に鎌を振り上げながら、六本の脚で一直線に憎いあんちくしょうの下へ走る。

「キリィィィィィッ!!」


ザンッ!!


「その程度なら!!」

 怒りと恨みを乗せた鎌はまた何もない空間を通過した。ドレイクはひらりと身を翻し、回避に成功したのだった。

(神代さんの言う通り、当たったらドレイクでもひとたまりもない一撃……が、避けること自体は大して難しくない……!)

「キリィィィィィッ!!」


ザン!ザン!ザン!ザンッ!!


 飯山の目の前を縦横無尽に何度も鎌が移動する。けれど、決して鮮やかな黄色の装甲に触れることはなかった。

(怪我している神代さんじゃなく、無傷の自分に集中してくれるなら好都合!さっきの作戦の逆、神代さんが応援を呼べば……いや!違うだろ!!)

 脳裏に浮かんだ計画を飯山は破棄した……しなければ駄目だと感じたからだ。

(何のために自分はここにいる!?何でシュヴァンツにいるんだ!?ここで戦わなければ!乗り越えなければ!お前が存在している意味がないだろ!飯山力!!)

 飯山の心には闘志の炎が燃え滾り、全身に力が込もっていく。

(やってやる!次の攻撃を避けたらカウンターを入れる!!)

 拳を強く握りしめ、タイミングを図る。

「キリィィィィィッ!!」


ザンッ!!


 眼前で鎌が上から下に振り下ろされた。そして、がら空きで隙だらけのキマティースの頭部が現れる。

「今だ!!」

 弾丸のように回転を加えたドレイクのナックルが白い霧を突き抜け、獣の顔面に……。


「痛い……!痛いよ!?」


「――ッ!?」

 拳はキマティースの頭蓋を砕く直前で動きを止めた。

「キリィィィィィッ!!」

「うっ!?」


ザンッ!!


「ちいっ!?」

 逆にキマティースの方がカウンターを発動させた。飯山もかろうじて反応するが、鎌は初めて黄色の装甲を捉え、ドレイクのボディーに一筋の傷を刻みつける。

「キイッ!?」

 このまま追撃……といきたいところだったが、キマティースには運悪く、飯山にとっては幸運にも鎌は木の根に突き刺さり、抜けなくなってしまった。

「くそッ!?やっぱり!やっぱり!自分は駄目なのか!?戦えないのか!?」

 キマティースから距離を取りながら、飯山は自分を軽蔑した。自分の愚かさを心の底から呪った。消えてしまいたい気分だった。悔しさから身体は小刻みに震えている。

「自分は……」

「だから!自分を卑下するな!飯山!!」

「――!?神代……さん?」

 キマティース越しに上司が叫んでいるのが見えた。仮面で表情は見えないはずだが、飯山はフジミがどんな顔をしているのかわかった。必死な顔で自分を叱咤していると。

「まずは力を使うことを怖がる自分を否定するんじゃなく、認めてやれ!その上で自分が何を目指して、ここにたどり着いたのか思い出せ!!」

「何を目指して……?」

「守りたかったんだろ!!」

「!!?」

「あんたは力無き人達を守りたかったから、野良オリジンズと闘う仕事に就いたんだろ!そして、今までそれをやってきた!さっきだって、ワタシを助けるためにタックルできたじゃないか!!」

 身体に電流が走った。そして、彼の心の奥底で眠っていた想いが溢れ出す。

「そうだ、思い出した……自分は子供のころから馬鹿力がコンプレックスで……それでも、その力で人を救えるならって……!!」

 血液と共にかつての情熱が全身を駆け巡る。両手のひらを眺めると震えは止まり、今までにないパワーがみなぎっていると感じた。

「飯山!!キマティースが来ているぞ!!!」

 飯山が心身の変化を噛み締めている間に、キマティースは万歳のように両腕の鎌を掲げ、ドレイクの目の前まで迫っていた。

「飯山!!」

「キリィィィィィッ!!」

 二つの鎌は一つの目標に向かって振り下ろされ……。


ガシッ


「キ!?」

 ドレイクは鎌の刃の部分ではなく柄の部分、つまりキマティースの腕を掴んだ。

「避けられるなら、捕らえることもできるさ」

「キ、キリィィィィィッ!?」

 キマティースはじたばたと腕だけでなく全身を動かして脱出を試みるが、飯山力は、ドレイクは全く動じず、離れることができない。

「力を使うことは怖い……けど、自分が力を使わないことで誰かが傷つくのはもっと怖い……だとしたら!自分はもう躊躇わない!!」


グシャアッ!!


「キリィィィィィィィィッ!!?」

 飯山ドレイクはそのまま力任せにキマティースの腕を握り潰した。

 砕ける外骨格の欠片、吹き出す血飛沫、ただの“物”になって鎌は地面に落ちた。

「この力で!みんなを守るんだぁぁぁぁっ!!!」


ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!!


「キ、キリィィッ……!!?」

 雨のようにキマティースの身体にドレイクの拳が降り注ぐ!いや、むしろ隕石だ!巨大で硬い岩石を猛スピードで何個もぶつけられているようだ!キマティースの身体はぼこぼことへこみ、ドレイクを見下ろす体躯がみるみる縮んでいく!

「この一撃で……終わらせる!」

 飯山は弓矢を射るかの如く、身体を開き、拳を引いた。そしてその拳に今までの想いとこれからの覚悟を乗せる。

「ぶちかませ!リキぃ!!」

「了解!ボスッ!!!」


グシャアァァン!!!


 矢の如く真っ直ぐ、砲弾のように力強く放たれた拳はキマティースの頭を跡形もなく、粉砕した。

 武器である腕と司令塔である頭を失った身体はピクピクと脈打っていたが、すぐに完全に動きを止めた。

「やったな、リキ」

「ボス」

 キマティースの撃破を確認したフジミがトラウマを乗り越えた部下の下へと歩み寄った。

「ほい」

 フジミはリキの隣まで来ると、右手を上げる。

「何ですか?いきなり……?」

「いや、わかるでしょ?ハイタッチよ、ハイタッチ」

 右手をぶらぶらさせて、催促する。

「ほれほれ早く。ハイタッチハラスメントだ」

「まったく……」


ガァン!


 金属同士がぶつかったような無機質な甲高い音が霧に包まれた森の中でこだました。そしてそれと共に心地良い衝撃が手のひらから二人の全身に広がる。

「………ん?」

 しみじみ感傷に浸っていたリキがあることに気づいた。彼がここまで頑張った理由の一つがいつの間にか消失していたのだ。

「ボス、右手……」

「あぁ、これ」

 フジミは右腕を何事もなかったようにブンブンと勢いよく回した。正確には何もなかったようにではなく、最初から正真正銘何もなかったのだ。

「まさか……」

「ふっ……大切な部下のためなら嘘つきの汚名を被るのも辞さないさ」

「……ボスには敵わないな……」

 二人はお互いの目を見て微笑み合う。

 この時、フジミとリキは正真正銘、本物のチームになったのだ。


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