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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
126/194

長かった夜

「……終わったか」

 白のアンラ・マンユは自らが作り上げた惨状を目の当たりにしながら、静かに呟いた。

「きっと苦しむ暇もなかったであろう。目障りになってきたマフィアどもを退治してくれたせめてもの礼だ。どうか安らかに眠れ」

 そう言い放つと、プカリと浮いてどこかに飛んで行ってしまった。


……………………


 あれだけ騒々しかった山が静寂に包まれる。

 まさに血で血で洗う熾烈な戦いだったが、山に残ったのは無数の魂の脱け殻、もはや生きている者は一人も……。

「……行ったか?」

 いた!生存者はいた!紫のアンラ・マンユは生きていた!どういうわけか全身を透明にして生き永らえていたのだ!

「ステルスケイル解除」

 瓦礫にもたれかかりながら、透明化を解除すると、肩や足先の装甲を焼け爛らせたアンラ・マンユが再び姿を現した。

「今度こそ……九死に一生を得たな。あのタイミングで新しい武装が解禁されなかったら……いや、それよりも俺自身を褒めるべきか……」



 それは白のアンラ・マンユの眼から熱線が発射される直前のこと……。

(くそ!?マジでここまでなのか……!!)

『“ステルスケイル”、“ヴェノムニードル”解禁しました』

(――な!!?このタイミングで!?いや、今はそんなことどうでもいい!ステルスってこと、姿を眩ませる武装……これなら奴の目を掻い潜れるかも。問題は……)

 アンラ・マンユは足に力を込めようとしたが、いまいち感覚が薄く、ぷるぷると震えるだけだった。

(まだかよ!?頼むから動いてくれ!三秒でいいんだ!たった三秒だけで……!!)

「ヒートアイ」

「動けぇぇぇぇッ!!」



「……本当によく応えてくれた。こうしてしゃべっていられるのもお前のおかげだ。ありがとう……」

 アンラ・マンユはそう言いながら、投げ出された自らの脚を労るように撫でる。

 だが、その手はすぐに止まり、マスクの下の顔には曇りがかった。

(……命が助かったのはいいが、これからどうすればいい……?奴の余裕の態度からペンダントはまだあるはず。そしてきっと奴自身も……)

 脳裏に先ほどまでのアンラ・マンユ同士のバトルが再生される。とてもじゃないが、希望を見出だせる内容ではなかった。

(仮に万全の状態でも、今のままじゃ奴を倒せる気がしない。正体もわからないなら、搦め手も使えないし……これだけ苦労した結果が、新たな、そして厄介極まりない障害との遭遇か……)

 紫の悪魔は天を仰いで、途方にくれた。今、見つめている夜空のように、彼の心は真っ暗だった……。


『ムージュン刑務所に捕らわれている安堂ヒナを救出してください』


「!!?」

 突然の電子音声!慌てて耳元に手を当て、問い質す!

「おい!今の言葉はどういう意味だ!『ムージュン刑務所』に行けと言っているのか!?」

『……………』

「『安堂ヒナ』とは何者だ!?なぜ助けなければならない!?アンラ・マンユとはどんな関係だ!?」

『……………』

「……また無視か!くそが!!」


ドン!!


 アンラ・マンユは行き場のない怒りを拳に乗せて、地面にぶつけた。

「あ、あの~、お取り込み中ですか?」

 そんな彼に一体のピースプレイヤーが、ガルーベルが恐る恐る話しかけてきた。

「……フレデリックか。似合ってるじゃないか、ガルーベル」

「あのロニー先輩のお古ってのが、ちょっと気になりますけど……じゃなくて、大丈夫なんですか!?」

「君をからかえるくらいには」

「まったく……これだけボロボロなんだから、少しは弱気になっていてくださいよ。可愛げがない」

 フレデリックガルーベルは文句を言いながら、アンラ・マンユに肩を貸し、立ち上がらせた。

「ありがとう」

「いえいえ。乗りかかった船ですし、むしろぼく個人的には奏月を壊滅させてくれたことに逆に感謝を述べたいくらいです。またこの街が平和になりました」

 フレデリックはところ狭しと散乱するマフィアの死骸を見て、満足そうに笑った。

「揺るぎないな、君は」

「へ?何のことです?」

「気にするな、こっちの話だ」

「そう言われると余計気になる……」

「気になるといえば、よく無事だったな。暴走したサルワの竜巻や白いアンラ・マンユの熱線なんかに巻き込まれてもおかしくなかったはずなのに」

「まぁ、気配を消して、回避に専念すればなんとかね」

「……警察よりスパイとかの方が向いているんじゃないか?」

「いやいや!ぼく、警察学校では射撃が平均で、それ以外の実技はトップクラスでしたからね!ぼく以上に警察に向いている人はいませんよ!」

「……いや、やっぱり他に適職があるよ、お前は」

 木原は心の中でドン引きした、フレデリックの馬鹿さ加減に。

「今はぼくのことはいいんですよ。人の心配より自分の心配してください」

「……だな。さすがに今日は疲れた……一日がこんなに長く感じたのは、初めてだ」

「濃密な時間でしたもんね」

「……あの夜の彼女もきっとこんな風に思ったのだろうな……」

「彼女?」

「……こっちの話だ」

 アンラ・マンユは重苦しい脚と心を引きずりながら、帰路につく。

 こうして木原史生の、名も無き悪の長かった夜は終わりを迎えた。




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