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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
123/194

眠りにつく者、目覚めるモノ

「我は今……この世の頂点に立っている……!!」

 当時の武斉は驕り昂り、この世界に自分に手に入れられないものはないと心の底から信じていた。

「いずれヴァレリアーノ・ウンギアも佐利羽秀樹も我に跪くことになる。いや、奴らだけじゃなく、あいつも……!!いずれエルザシティ実権は我の、奏月のものに……!」

 更なる栄華を手に入れた自分の姿を夢想すると、自然と口角が上がってしまう。

 武斉は本当に驕り昂っていた。


ガタガタ……


「ん?」

 何かが揺れる音が聞こえる。その正体はすぐにわかった。なんと言っても自分の手なのだから。

「フッ、武者震いか。我もまだまだ青いな」

 呆れ返っているようで、どこか誇らしげな武斉はもう一方の手で震える手首を抑えた。

「興奮する気持ちもわかるが静まれ。まだ戦いの時じゃ……」


ガタガタガタ!!


「な!!?」

 収まるどころか、さらに震えが大きくなった!いや、むしろそれは震えていると呼べるレベルではなく、暴れていると言った方が適切だ!

「な、何が!?我の手に……違う……これは!?」

 武斉はようやく気付く。自分の手が震えているのではなく、その手に、指に嵌まっている指輪の中にいるものが外に出ようとしていることに……。

「まさか我を……!?」

 武斉は驕り昂り、この世界に自分に手に入れられないものはないと心の底から信じていた。

 この時までは……。



「ふん」

 アンラ・マンユが手を引き抜くと、穴の空いたサルワの胸からドバドバと真っ赤な液体が流れ出た。

「アーリマン……」

「……まだ何かあるのか?」

「邪険にするな……勝者に報酬を与えるだけだ……これが欲しかったのだろう……」

 サルワが弱々しく震える手を開くと、見慣れたペンダントが姿を現した。

「そう言えばそうだったな。途中から完全に頭の中から消えていたよ」

「そんなお前だからこそ……我に勝てたのだろうな……さぁ、受け取るがいい……」

 投げられたペンダントをアンラ・マンユは見事にキャッチした。

「では、遠慮なく」

「せっかく我を倒して手に入れたんだから、うまく活用してくれよ……」

「言われなくとも、そうするつもりだ」

「そうか……アーリマンよ……」

「まだ何かあるのか?」

「我は……我は力を欲した……暴力、権力、財力……力とつくもの全てを手に入れたかった……」

「……私も同じようなものだ」

「いや、違うよ……」

 武斉は小さくゆっくりと首を横に振った。

「お前は我と違う……どちらかというとヴァレリアーノや佐利羽秀樹に近い……」

「……私からしたら、あんたとその二人の違いがわからんのだが……」

「全然違うのさ……奴らは力を持ちながら、力を律していた……だから自然と人が集い、組織を任せる後継者と呼べるような奴にも恵まれた……それに比べ、我は自分のことだけで精一杯だった……我の周りにいるのは、ただ力を持て余した者、もしくは組織の名を利用したいだけの者……奏月は烏合の衆だった……」

「まぁ、結果としてあんたが出て来なければ、残党にこてんぱんにやられていただろうからな、奏月。そう評するのも納得だ」

「結局、我は器じゃなかったんだ……それでも高みに昇ろうと……そうしなければ自らの存在を確立できないと……必死にこの身を鍛え続けてきた……」

「……そこは私も同じだ」

「いや、お前のはポジティブなもので、我のはもっとネガティブ……切羽詰まる問題だ……」

「……さっきから要領を得ないのだが……」

「毎年……山籠りなんてして、必死だった……武斉として生きていくために……」

「結局、何が言いたいんだ、貴様は?」

「何が言いたいのか……我が言いたいことは一つだけ……」

 武斉は真っ直ぐとアーリマンを見つめ返した。

「我に勝った者よ……我に殺されるなよ……」

 その一言が武斉の遺言になった。

「……できることならお前の言葉を理解してやりたかったが……さっぱりだ。まぁ、こいつらに殺されずに頑張れってことかな」

 アンラ・マンユが周囲を見回すとプリニオ率いるアルティーリョファミリー、いつの間にか目を覚ましていた芝と佐利羽組、そして今まさにトップを失い、殺気立つ奏月が彼を逃がさないように、取り囲んでいた。

「お疲れのところ悪いけど、オレ達とも遊んでいってよ」

「アーリマン……!!組長や兄貴の命を奪った挙げ句、この俺を奏月攻略のために利用するとは……!!てめえだけは絶対に許さねぇぞ!!」

「武斉様の仇を取った者が、次の奏月のトップだ!」

「「「異議なし!!」」」

 三大マフィアとして敵対していたはずの組織はアーリマンという共通の敵を得て、はからずも一つになっていた。足並みを揃えて、ジリジリと包囲網を狭めていく。

(さてさてどうしたもんかね。ぶっちゃけこの数相手に戦うにしても逃げるにしても、体力もエネルギーももう残っていない……ならば残る手は一つ……!!)

 アンラ・マンユは両手のひらを上に向け、軽く首を傾げて見せた。

「えーと、色々と誤解があるようだが、私を含めて皆お疲れの様子。後日話し合いの場を設けることにして、今日はお開きってことで……どうだろう?」

「……て、てめえ!!?」

「いいわけねぇだろうが!!」

「ですよね~」

 木原の言葉は火に油をくべただけだった。怒りに支配されたマフィアが一斉に紫の悪魔に突撃する!いや……。

「――ッ!?」

「うっ!?」

「……ん?」

 突撃はすぐに停止した。先ほどまでの荒ぶり方はなんだったんだと言いたくなるほど、マフィアどもは静まり返り、その場で立ち尽くし、中には逆に後退りしていく者もいた。

「ううっ……」

「これは……こんなことが……!?」

(なんだ?何で急に攻撃を停止した?やはりいざ戦いが始まるとなったら、武斉を倒した私のことが恐ろしくなったのか?それとも……いや、そもそも……)

 木原はマフィア達の視線がターゲットである自分に向いてないことに気づいた。彼らが見ているのは彼の背後にあるもの……。

「何を見ているん……な!?」

 振り返り、それを見た瞬間、木原は全てを理解した。

 マフィア達の奇妙な行動の意味を……。

 武斉の最後の言葉の意味を……。

「ザルルゥゥゥゥッ……!!」

 武斉、いやサルワは異形の姿に変化し、身の毛もよだつ恐ろしい唸り声を上げていた。

「まさか……特級ピースプレイヤーの暴走か!?」


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