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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
122/194

飛翔する悪④

(お、落ち着け……落ち着くんだ、私。驚くのも、こんなふざけた仕様にした製作者に憤るのも、生き残りさえすれば後からいくらでもできる……!)

 足は止めずに、一瞬だけ上空のサルワから目を離し、チラリとマスク裏のディスプレイに表示された武装名を確認する。

(反重力浮遊装置……名前の通りだとするなら、アンラ・マンユも空を自由に動けるようになるってことだ。奴と同じ土俵に……)

 紫の悪魔は再び視線を上空に移……。


ザンッ!!


「――ッ!?」

 目の前を風の刃が通過した!まさに間一髪!後、一瞬でも遅れていたら頭が縦に割れて、全て終わっていた。

(くっ!?危うくキング・オブ・うっかりを襲名するところだった……!思考を巡らせている時間もないか……ならば毎度お馴染みのぶっつけ本番だ!)

 木原の決意に呼応するようにアンラ・マンユの周りの空間が、正確には重力の流れが歪んでいく。そして……。

「反重力浮遊装置起動!!」


プカッ……


「「「な!!?」」」

「アーリマンが……翔んだ!?」

「……何?」

 紫の悪魔は重さを失ったように宙に浮かび上がった!

 その予想外の光景には固唾を飲んで、ただの観客に徹していた残党連合や奏月の連中も思わず声を上げ、武斉も攻撃の手を止めた。

(よし浮いた!名前がわかりやすいのは、製作者グッジョブだ!これで……)

「お前を地べたに引きずり下ろせるぞ!武斉!!」

 アンラ・マンユは急加速、急上昇し、サルワに迫る!

「だからどうした」

「……え?」


ドゴッ!!ドゴオォォォン!!


「――がっ!?」

 カウンター一閃!サルワに顔面をぶん殴られたアンラ・マンユはあっという間に地上に逆戻りした。

 地面に叩きつけられながらも、闘志は衰えず。悪魔は傷ついた身体に鞭打ち、立ち上がった。

「最初から飛べるなら、もっと早くそうしていたはず。だとすれば、何故か突然飛べるようになったと考えるのが妥当」

(大正解だよ、ちくしょう……!)

「生憎、付け焼き刃で飛べるようになった程度で、どうにかできるサルワではない。空を駆けてきた年季が違うんだよ、年季が」

「それこそ……だからどうしただよ!!」

 再びの急加速、そして急上昇!悪魔は天に昇った!

「ここはお前のいるべき場所じゃない」


ザン!ザン!ザンッ!


「ぐうぅ……!!」

 サルワは風の刃を飛ばして迎撃するが、アンラ・マンユは身体を丸め、被弾面積を小さくすることでダメージを抑え、決して止まることはなかった。

(ザリチュと戦った時と同じだ!致命傷にさえならなければいい!こいつも痛みをなくして、勝てる相手ではない!)

 鬼気迫るアンラ・マンユはさらに傷だらけになりながらも、久しぶりにサルワに手の届く場所まで到達した。

「……直接、手を下さなければ止まらんか」

「そうだ!俺と殴り合おうぜ!武斉!!」

「はっ!!」

「はあっ!!」


スカッ!ガァン!!


「くっ!?」

 両者が放ったパンチはサルワのものだけが命中した。紫のマスクに拳がめり込む。

「スピードはやはり我の方が上のようだな」

「こっちだって……それは承知の上!」

 けれど、それは木原の狙い通り。彼は策があって、あえて攻撃を受けたのだ。

「直接触れているなら……風に流されはしないだろ?」

「――!?お前、まさか!?」

 武斉の脳裏に戦いの序盤に見た凍りついた地面が浮かび上がった。

「くそ!?」

「もう遅い!喰らえ!フリーズブレス!!」


……………………


「……え?」

「……え?」

「「え?」」

 本来凍るはずだったサルワの腕は凍らず、両者の間の空気だけが冷えに冷えた。

「……もしかして翔んでいる間は使えないのか冷却ガス?」

「……らしいな」

「そうか……驚かせやがって!!」


ガァン!!


「ぐっ!?」

 怒りのサルワパンチ炸裂!ガードこそしたアンラ・マンユだったが、威力を殺し切れずに空中をくるくると回った!

「空中で他の武装が使えんというなら、何も恐れることはない!むしろもう地上には戻さん!!」


ガァン!!


「――がはっ!?」

 サルワはアンラ・マンユの吹っ飛んだ先に回り込んで蹴り上げた!悪魔の高度は意図せず上昇する。

「この雄大な空で死ねることを喜ぶがいい!!」

「……ふ、ふざけるな!!」

 やられっぱなしは趣味じゃないと言わんばかりに、アンラ・マンユは向かって来るサルワにカウンターの回し蹴りを放った!しかし……。


パシッ……


「!!?」

 あっさりと片腕で防御されてしまった。

「腰が入っていない蹴りほど惨めなものはないな」

「まだ……まだ!!」

 売り言葉に買い言葉でもう一度蹴りを繰り出す!しかし……。

「これが本当の蹴りだ」


ドゴオォッ!!


「……がはっ!?」

 自分のキックが到達する前に、逆に脇腹に蹴りを入れられ、攻撃を中断、悪魔は悶絶した。

「分を弁えずに高みを目指すから、苦しい思いをすることになるんだ。もっと賢く生きるべきだったな、アーリマン」

 挑発というより諭すような言い方だった。

 だが、むしろその気取ったしゃべり方の方が木原史生には気に障った。

「……わかったような口を利きやがって……」

「ん?我は何か間違ったことを言ったか?」

「あぁ、間違いだらけだ」

「どこが?」

「全てだ。少なくとも俺は……俺という人間は上を目指さないと駄目なんだ……空っぽの俺は、名も無き存在である俺は、進み続けないと、手を伸ばしていないと、生きていることを証明できないんだよ……!!」

「――ッ!!?」

 武斉の全身に悪寒が走る。

 漏れ出した本音と共に、悪魔の姿がより得体の知れない存在に変わったように、彼には見えた。

(ただの驕り昂ったチンピラではない!こいつはもっと恐ろしい……この世界の歪みが生み出した怪物だ!ここで仕留めなくては、曲がりなりにも形を保っているエルザが根本から破壊されてしまうかもしれない!)

 サルワは身体中から風を噴き出し、紫の悪魔の周りを旋回し始めた!そして……。

「徹底的に、念入りに……叩き潰す!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐうぅ……!!」

 滅多打ち!前から右から後ろから左から、拳が蹴りが肘が膝が絶え間なくアンラ・マンユを叩き続けた。そこに微塵の躊躇もない。

(奴の動きは独特の浮遊感があった。きっとそれに奴自身が戸惑っている)

(この独特の浮遊感が厄介だ。今まで装着した飛行能力のあるピースプレイヤーとは勝手が違う……!これでは反撃など……いや……!!)

(奴の天賦の才をもってしても、あの状態で満足のいく打撃を撃つことは不可能!ならば奴の取る手は……)

(俺は……!!)

(いいだろう……最後の希望を打ち砕いてやる!!)

 サルワはまたパンチを放った。ただ今までと違うのは、とても大振りだったことだ。

(今だ!!)

 隙をついて、アンラ・マンユはサルワの背後に回り込む!そして……。


ガシッ!!


「獲った!!」

 アンラ・マンユが紫の腕と足をサルワに絡みつかせた。組技である。これなら空中でもあまり違いがないと判断したのだ。

「このまま……!!」

 悪魔はギリギリと万力を締めるように、サルワの首にかかる腕に力を込めていった。

 このままいけば、武斉の脳に酸素が行き渡らず、アンラ・マンユの大逆転勝利が決まる……はずだった。

「……やはり組んできたな」

「!!?」

「……だが、お前のパワーでは……サルワは落とせん!!」


ブオォォォ!!


「ぐあっ!!?」

「「「うわあぁぁぁっ!?」」」

「なんて風だ……!!?」

 今日、最大風速の暴風が吹き荒れた!

 サルワから放出されたそれは木々をしならせ、絡みつくアンラ・マンユを木の葉の如く吹き飛ばす!

「体勢を立て直す時間など与えん!!」

 制御不能に陥り、くるくると回る紫の悪魔にサルワは全速力で向かった!そして……。

「これで……我の勝ちだ!アーリマン!!」

 必殺の拳を撃ち出す!


スカッ……


「……なんだと……!?」

 アンラ・マンユはひらりと木の葉の如く軽やかな動きで躱し、サルワの頭上を取った。

「お前……!!」

「満足のいく打撃が打てないなら、撃てるようになればいいだけ……貴様に殴られながら、必死に空中戦に慣れたよ」

「我を……我の予想を上回るかぁ!!」

「これが本当の蹴りだぁぁぁッ!!」


ドゴッ!!ドゴオォォォン!!


「「「うあっ!!?」」」

「くっ!?」

 真上から蹴りを入れられたサルワは真っ直ぐと凄まじいスピードで墜落した!その破壊力を物語るように、一気に別荘周辺を土煙が覆う。

「まだだ!!」

 アンラ・マンユは久しぶりに地面に降り立つや否や、サルワの落下地点に向かって駆け出した!

(あれだけの一撃を食らったんだ……少なくとも奴は前後不覚になっているはず!回復する前に確実に息の根を止める!!)

 視界を土煙に覆われ、一寸先も見えなかったが、そんなことなど一切気にせずに悪魔は疾走した!そして、アンラ・マンユがついに薄茶色のカーテンを突き破る。

 そこには……悪夢のような光景が広がっていた。

「骸装通し!!?」

 サルワは前後不覚どころか、両足でしっかりと大地を踏みしめ、右の掌底を引き、必殺技の構えを、否、すでに必殺技を向かって来るアンラ・マンユに放っていた!

(最後に……最後にすがりつくのは、狂気の果てに会得したこの技しかない!!)

 一気に近づき、突如巨大化したように見える掌底を目視すると、木原史生の細胞の一つ一つが恐怖に侵され、逃げろと身体を後ろに引っ張る。

(本能が後退しろと訴えている……知ったことか!!名も無き悪である俺に……戻る場所などない!!)

 世界に抗い続けた男は、ついに自らの生存本能にも反逆した……。


………………


「……ダメージを受けた我では完璧な骸装通しを撃てない可能性は確かにあった」

「あぁ……」

「さらにあえて前進し、腕が伸びきる前に掌底を受けることができれば、失敗する確率は上がる……」

「あぁ……」

「理屈はわかるが、所詮はただの希望的観測に過ぎない。それを……本当に実行するか、普通?」

「狂気の果てに身につけた技を打ち破るには、こちらも狂気に身を委ねるしかない……俺にはそれしか選択肢が思いつかなかった」

「そうか……お前の方が我よりも僅かにイカれていたということか……」

「あぁ、そうだな。我ながら分の悪い博打を打ったもんだと思うよ」

「フッ……アーリマンよ……」

「……なんだ?」

「お主の勝ちだ……!!」

「……あぁ、そうだな」

 サルワの手は悪魔の胸に触れ、紫の装甲にひびを入れていた。それは中に衝撃を伝達できなかった証、必殺の骸装通しが失敗した証……。

 対してアンラ・マンユの貫手はサルワの装甲を、そして武斉の心臓を貫き、真っ赤に染まっていた……。


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