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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
119/194

飛翔する悪①

 表の世界でデズモンド・プロウライト署長とフリーダ・クラルヴァイン市長が、裏の世界で佐利羽組の芝とアルティーリョファミリーのプリニオが会談してから一週間後の夜、エルザシティの中心からはなれた山中で後者がお互いの組織の残党を引き連れ、別荘でくつろいでいる仇の奏月の武斉を殺すために進軍していた。

 それを本物の仇であるアーリマンことアンラ・マンユはフレデリックと共に遠くの木の上から見下ろしている。

「予想ばっちりでしたね。っていうか、ここまで来ると予言ですよ」

 双眼鏡を覗きながら、一週間前にこの光景を予期していた木原にフレデリックは感嘆の声を上げた。

「そこまでのものじゃない。私はあの時、内心五日で動くと思っていたからな。まだまだだよ」

 腕を組み、見た感じはとても偉そうな紫の悪魔だったが、その心は謙虚だった。

「たった二日のズレぐらいなら別に問題ないと思いますけどね。そもそも一週間以内に動くってのは間違ってなかったわけですし」

「まだ佐利羽秀樹にしてやられたことを引きずっているのかもな」

「過去より大切なのは今ですよ。で、預言者様は今回の仇討ちはどう見ますか?」

「どっちが勝つかって話か?」

「もちろん」

「そうだな……」

 アンラ・マンユは一瞬だけチンピラの列から目を離し、虚空を見て考えた。逆に言えば一瞬だけで答えが出るほど、彼にとってそれは簡単な質問だった。

「まぁ……奏月だろうな」

「戦闘能力では三大マフィア最強と噂されているからですか?」

「それもあるが佐利羽とアルティーリョは連合軍と言えば聞こえはいいが、実際は頭が潰された残党の寄せ集めだからな、統制が取れるとは思えない」

「いざ戦闘が始まったら、すぐに瓦解すると?」

「私はそう考える」

「ぼくの考えとは違いますね」

「君は残党連合が勝つと思っているのか?」

「はい。残党と言ってもかなりの数で、奏月を上回っていますし、この一週間、準備もして来てますから」

 フレデリックは双眼鏡をズームさせ、残党達が担いでいる武器を見ていった。

「古代には窮鼠猫を噛むっていう、追い詰められた奴が自分より強い奴をやっつけちゃう的なことわざもありますが、今回もそうなるんじゃないかと」

「自信ありげだな」

「賭けてもいいですよ」

 フレデリックは双眼鏡から顔を離すと、不敵な顔でアンラ・マンユの顔を見上げた。

「……エルザに賭博罪はないのか、警察官殿?」

「……すいません、ありますあります。今の言葉は忘れてください」

 一転、顔を青ざめさせて刑事は双眼鏡に顔を戻した。

「そろそろ別荘に到着しそうですよ」

「さぁ、どっちの予想が当たるかな……」



 巨大な別荘の前で残党連合は足を止めた。先頭にいる芝とプリニオはお互いの顔を見合わせると頷き合った。

「ここからは……」

「ノンストップだな!おい!!」

「へい!!」

 プリニオの言葉に応じ、巨大な箱を担いだ部下が彼らの前に。膝をつくと、箱が開き、中から弾頭が姿を現した。

「開始のゴングは派手にいかないとな。ロケットランチャーでドカンとね」

「あぁ、殺された組長や兄貴への弔いの花火だ!!ぶちかましたれ!!」

「うっす!!」


ドドオォォォン!!


 白煙で線を引きながら、ロケットが一斉に発射された!それはそのまま武斉の別荘に……。

「騒々しいぞ、ゴミどもが」


バシュン!バシュン!ドゴォォォォン!!


「ちっ!!」

 ロケットは別荘にたどり着く前に爆発した、爆発させられた。屋根の上からピースプレイヤーにライフルによって狙撃、迎撃されたのだ。

「やっぱり……そううまくはいかないよね……!」

 プリニオはやれやれと面倒くさそうに頭を掻いた。

 そんな彼の心をさらにストレスを与えるために、別荘からぞろぞろと二種類のピースプレイヤーが出てきた。

「ボスの言う通り、残りカスどもが徒党を組んで来たか」

「あぁ!?」

「まぁ、悲しいけど事実よね。今は情報通り『機仙』しかいないことを喜びましょうよ」

「下っぱが何を使おうと関係ねぇよ!俺達の狙いは頭の武斉とアーリマンだ!!お前ら!死んでも奴らのタマを獲るぞ!!」

「「「おおう!!」」」

 佐利羽の残党が数珠をつけた腕を高らかに掲げる!そして……。

「「「刃風!!」」」

「「「界雷!!」」」

 こちらも二種類の機械鎧を身に纏う!

「佐利羽にばっかりいい格好させられん!オレ達も行くぞ!!」

「「「おおう!!」」」

 アルティーリョも首のタグを握りしめ……。

「「「エラヴァクト!!」」」

 愛機の名を叫んだ!こちらは同じマシンで統一されている。



「ピースプレイヤーは事前の情報通り、隠し玉はないみたいですね」

「今のままだと、私の予想を覆すことにはならなさそうだな。奏月の勝ちだ」

「いや~、始まってみないとわかりませんよ」

「さっきからずいぶんと残党連合の肩を持つな」

「やっぱり仇討ちってなると、どうしても仇を討つ方に肩入れしちゃいますね」

「勘違いなんだけどな」

 木原は悪びれもせずに言い放った。

「……そう言われると、奏月にも頑張って欲しいような……」

「まぁ、すぐに結果はわかるさ。始まるぞ」



「お前ら!生きて帰ろうと思うな!!一人でも多く道連れにして、死ねぇ!!」

「「「おおう!!」」」

 先陣を切ったのは、佐利羽の刃風軍団だった!刀を思い思いに構え、突っ込んで行く!

「オレらはもうちょいクールに。とりあえず援護しときますか。界雷さんも一緒にね」

「「「了解!!」」」

「「「はっ!!」」」

 エラヴァクトは拳銃を、界雷は長い砲身を持ったライフルを機仙の群れに向けると、躊躇なく引き金を引いた。


バン!バン!バン!バァン!!


 静かな山奥に響く発砲音!そして流星のように降り注ぐ弾丸!

「ふん!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


「ありゃま」

「そんな豆鉄砲効かんわ!!」

 それは全てゴツい方の機仙の大盾で作られた壁に防がれてしまった。

「ちっ!『機仙・甲』には中途半端な攻撃は通じんか……!」

「でしたら芝の兄貴!!」

「おう!装甲の弱いところに刃風の斬撃をぶち込む!!」

 刃風二人一組になり、左右から挟み込むように、盾の横に回り込んだ!

「邪魔するな!木偶の棒が!!」

「邪魔なのはお前ら死に損ないの方だろ」

「「!!?」」


ザン!ガンッ!!


「ぐあっ!!?」

「くっ!?」

 スマートな方の機仙がカットイン!かろうじて芝刃風は防御したが、もう一方は湾曲した刀に斬り裂かれてしまった。

 他の機仙・甲に向かった刃風も同様で、迎撃され、吹き飛び、地面を無様に転がった。

「くそ!!鬱陶しい羽虫が!!」

「その羽虫に殺されるんだよ、ゴミ虫どもが」



「やはりこうなったか……」

 アンラ・マンユは予想が当たったというのにあまり嬉しそうじゃなく、残念がるように顎を撫でた。

「奏月は防御力重視の甲と、機動力重視の『機仙・乙』がお互いをうまくカバーし合っていますね」

「メーカーの『天握』の想定した動きだな。この連携を崩さないと残党連合に勝利はない」

「連携で言うなら六角重工業の刃風と界雷もです。遠近から攻め立てて確実一体ずつ倒していけば、数で勝っている連合がいずれは主導権を握れるはず」

「それは相手だって承知しているさ。その証拠に」

 アンラ・マンユが顎で別荘の屋根の上を指すと、タイミングを見計らったように、ぞろぞろとライフルを持った機仙・乙が出て来た。



「前に出れない臆病者どもを駆逐する!!」

「「「はっ!!」」」

 幹部と思われる者の声に合わせ、スナイパー軍団は一糸乱れぬ動きで、目下の敵、界雷に照準を合わせた。そして……。

「てぇっ!!」

 これまた一斉にトリガーを押し込んだ。


バシュン!バシュン!バシュン!!


「がっ!?」「ぎゃ!?」「ぐわっ!?」

 界雷は次々と腕や肩、ひどい奴だと額を撃ち抜かれ、援護射撃を中断させられた。



「奏月って勝手に力任せの脳筋のイメージがあったんですけど……意外と用意周到ですね」

「あのライフルは『スマイス・ファイアーアームズ』製のものだな。界雷備え付けの銃も悪くないが、僅かにあちらの方が射程も威力も上だ」

「ピースプレイヤーの武器と違って、自己修復もできないし、持ち運びも不便なんですから、それくらいしてもらわないと」

「これなら残党連合は下手に準備に時間をかけないで、組織壊滅から間髪入れずに奇襲をかけた方が良かったかもな」

「いや、そんなことないですよ」

「ん?」

「ついさっき奏月が使っていたライフルを見ました……アルティーリョが担いでいるのをね」



「所詮は同じ穴の狢、マフィア同士考えることは同じってことかね……」

 自嘲しながら、プリニオエラヴァクトが手を上げる。すると……。


ガチャリ……


 彼の後方で部下が自分達を襲うライフルと同型のものを構え、屋上の上に狙いを定めた。

「まっ、でも慣れないことをしてもうまくいかないよね」

 プリニオが手を振ると、それと連動するようにライフルが火を噴いた!


バシュン!バシュン!バシュン!!


「ぐあっ!?」「げっ!?」「がっ!?」

 放たれた弾丸は次々と屋根の上のスナイパー軍団に命中し、彼らを地面に撃ち落とした。



「機仙は近接格闘に重きを置いているマシン。対して『アルムストレーム』のエラヴァクトは……特に強みも特徴もない」

「安くてそれなり、無難なのがエラヴァクトですからね。でも、それは逆に考えれば穴もないということ」

「長所をぶつけられると負けるが、短所を突ければ勝てる。今がまさにその状態だ。射撃性能では機仙を上回っている」

「その証拠に高所を取って場所的に有利なはずの機仙の攻撃は結構外れているのに、エラヴァクトの射撃は致命傷を与えている率が高い」

「マシンだけでなく、装着者の練度の差もある。機仙を愛用しているってことは、本来は殴り合いが本職なんだろう」

「やっぱぼくのイメージ通り脳筋ですね。いや、むしろ変に頭を使う分、よりタチ悪いかな?」

「いや、それは結果論過ぎるだろう。さっきまで優勢だったのだから、彼らの判断は言うほど間違っちゃいない」

「……確かに。ここは更なる対抗策を用意していたアルティーリョファミリーを褒めるべきですね」

「あぁ、まとめている奴が優秀なんだろう。ボスが死んだ後、すぐに組織を立て直し、こうなることを予期し、準備をしていたんだ」

「その優秀な新リーダーがまた面白いことを始めそうですよ」



「プリニオさん」

「ご苦労さん……って重いな」

 プリニオエラヴァクトは部下からさらに長大で重厚な銃を受け取った。

「こいつ自体も弾の方も高かったからな……外すわけにはいかない……!!とは言っても、そんな心配要らなそうだけどな」

 そのライフルの銃口を向ける……大きく分厚い盾を構えた機仙・甲に。

「余裕ぶっていられるのも……今のうちだぜ……!!」


バシュウゥゥン!!ボゴォン!!


「………え?」

 発射された弾丸は盾を、そして機仙・甲本体をいとも容易く貫通し、絶命に至らしめた。

「反動がすごいな……でも、お値段に相応しい威力は素晴らしい」

「あ、あいつを潰せ!!二度とあれを撃たせるな!!」

「「「はっ!!」」」

 声を震わせながら、地上舞台のまとめ役が叫ぶと、機仙・乙の軍団が一斉にプリニオに……。

「ちょこまかとウザいから、捕まえちゃって」

「了解!!」

 またまた新装備!バズーカのようなものを担いだエラヴァクトが呼ばれるや否や、それを発射した!


バシュ……バサッ!!


「な!?」

「網だと!!?」

「くそ!!?」

 発射された砲弾は空中で割れると、中から網を広げ、機仙・乙の集団を絡め取り、自慢の動きを止めた。

「こうなったら、ただの的だ。蜂の巣にしてやりなさい」

「「「承知!!」」」


バン!バン!バン!バァン!!


「ぐがっ!?」「しまっ!?」「ちくしょう!!?」

 手持ちぶさただったエラヴァクトは拳銃を召喚すると、網にかかった敵に向かって、銃弾を浴びせるように撃ちまくった。

 為す術なく機仙・乙はスクラップに成り下がり、中身はただの屍へと姿を変えた。

「こんな感じでどんどん網で捕まえて、どんどん殺していこう!身動き取れないスピード自慢なんて恐れるに足らずだ!!」

「くそ!だったら機仙・甲の防御力でゴリ押しだ!!おれが盾になる!お前らついて来い!!」

 機仙・甲の一体が状況を打開しようと賭けに出る……つもりだったのだが。

「アルティーリョにばっか注目してんじゃねぇよ」

「!!?」

 いつの間にか芝刃風が目と鼻の先まで接近していた!

「この!お前らは及びじゃないんだよ!佐利羽!!」

 機仙・甲は慌てて鉄鞭を召喚し、振り上げるが……。

「こっちだって、てめえらの弱いところ調べ上げてんだよ!!」


ザンッ!!


「――ッ!?ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」

 その鉄鞭を持った腕を肘から切断された!装甲と装甲の間、関節部分を斬り裂いたのだ!

「ここも薄っぺらいんだろ!!」


ザンッ!!


「……がっ!?」

 さらに首を狙い、刀を突き立てる!見事に切っ先は喉を貫き、また一人奏月の数を減らした。

「……ちっ!嫌な感触だ……」

 兄貴分をその手で殺した時のことがフラッシュバックする。できることなら、もう刀なんて握りたくなんてなかったと、芝は思っていた。しかし……。

「……尊敬する兄貴や俺なんかに居場所をくれた組長の仇が取れない方がもっと嫌だ!!俺が刀を放すのは、お前ら全員斬り殺してからだ!!」

 芝刃風は修羅となって戦場を舞った。

「おれ達も芝さんに続け!!」

「「「おおう!!」」」

 その鬼気迫る姿が、さらに佐利羽組を勢いづけたのだった。



「……フッ、賭けは私の負けのようだな」

 言葉とは裏腹に、その声には嬉しさがにじみ出ていた。

「機仙対策はどちらも完璧でしたね」

「あぁ、あのバカみたいな威力の銃も網バズーカもスマイス製かな?なんにせよ、アルティーリョの冷静さと佐利羽の狂気が噛み合っている。その結果、元々不利な数の差がさらに広がった。奏月はここから逆転するのは難しいだろうな」

 木原の言葉を裏付けるように、今も機仙が数の暴力に晒され、次々と命を落としていっている。形勢逆転は不可能。

 普通に考えれば……。

「この状況でお前はどう出る……!」


ゾクッ……


「「「!!?」」」

 刹那、山中のオリジンズがにわかに騒ぎ始め、風が木々を揺らし、殺し合いをしているチンピラどもが、アンラ・マンユとフレデリックがピタリと動きを止めた。

 そして、彼らの視線は一点に集中する。別荘の玄関に……。

 扉が開くのが、皆にはゆっくりに見えた。

 中から出て来る男を視界に捉えると、思わず息を飲んだ。

「あ、あれが……!」

「想像を超えるプレッシャーじゃないか……武斉!!」


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