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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
116/194

躍動する悪⑤

「何が起きた……!?」

 木原史生はキョロキョロと忙しなく眼球を動かし、自分の身に起きた異変の原因を探った。そしてマスク裏のディスプレイの端に正解を見つける。

「エネルギーが急激に減少している……そういうことか……!!」

 全てを理解したアンラ・マンユは血走ったような真っ赤な目でザリチュを睨み付けながら立ち上がった。

「その赤い植物……ピースプレイヤーのエネルギーを吸収できるんだな?」

「答えてやる義理も義務もないが……正解」

 ザリチュは赤い根っこをさらに生やして、挑発するようにうねうねとこれ見よがしに動かした。

「お前の推測通り、このレッドウッドは敵からエネルギーを吸収できる。で、お前のマシンは急激なエネルギー減少で一時的に機能が停止した」

「……らしいな」

「植物を生成するザリチュの能力は燃費がよろしくないのでな。これでカバーしているのだよ」

「……今までのお前の行動は全て、この一撃のための布石だったわけか」

「正解」

「ブランクがあるってのも嘘なんだろ?こんな動き、普段から鍛えて、実戦形式の組み手をやってないとできないはずだ」

「それも大正解」

 指をパチンと鳴らして、劣勢の紫の悪魔を楽しげに指差すザリチュ。

 その行為がさらに木原を苛立たせたのは言うまでもない。

「この狸じじいが……!!」

「これくらいできないと、ヤクザの親分なんてやってられないんだよ。それにお前にだけには嘘つき呼ばわりされたくないね。部下に言っていた武斉の指示でワシを潰しに来たってのは嘘八百だろ?」

「……どうしてそう思う?」

「奴とは面識がある。あいつが何らかの理由でワシを殺したいと思ったなら、自ら乗り込んで来るなり、果たし状を叩きつけるなりしてくるはずだ。武斉という男は小細工をしない、できない」

 真っ直ぐとこちらを見つめる佐利羽の眼差しは確信に満ちていて、木原はこれ以上の方便は無駄だと悟った。

「……調べが甘かったな。その通り、私は別のお方の命令で動いている」

 言われた側から不敵にもまた嘘。しかし……。

「カマをかけているつもりか?武斉もそうだが、あのお方からペンダントの存在を知らされている者なら、ザリチュの能力だって知っているはずだ。お前がペンダント、正確にはその中身の存在を知ったのは、運良くアルティーリョを潰せた時だろ?好奇心だけで、ここまで暴れおって」

「……佐利羽秀樹には下らない心理戦は通じない……か!!」

 アンラ・マンユは肩を落とした……と見せかけて、突撃を敢行した!

(情けない!あの冷静沈着な副長さんだったら、こんなしょうもない手に引っかからないだろうな。残存エネルギー量が逆転された今、無茶を承知で攻めるしかない!!)

「焦る気持ちはわかるが……考え無しの特攻など、ザリチュには通じんぞ!!」


ボコッ!ボコッ!ボコッ!!


「くっ!?」

 ザリチュはさらにレッドウッドを生やして、アンラ・マンユに伸ばした。

 これにはたまらず紫の悪魔も後退する。

「ほれほれ!逃げてるだけじゃ、ワシには勝てんよ!」

(わかっているが、打開策が見当たらない……!!このまま逃げ続けても、こちらが先に限界が……)


ザン!ザン!ザン!!


(でも、まずはこいつの数を減らすのが先決か。スピードは緑色の方が速かった。不意を突かれなければ問題ない!植物を生やすのに、エネルギーを大きく消費するのは、真実だろう……どこで見切りをつけて攻勢に転じるかが勝負の分かれ目だな……)

 ひたすら赤い根っこを斬り払いながら、逃げ惑う……ふりをして、根っこの数を減らす悪魔。

 彼の思惑通り、しばらくその光景が続くかに思われたが……終わりは突然訪れる。


バッ!!


「!!?」

 突然、目の前でレッドウッドの群れが散開すると、奥に緑色の蔦が自らの出番を待ち構えていた。


シュル!シュル!シュル!!


「くそ!?速い!?」

 赤い根っこのスピードに慣れていた、慣れさせられていたアンラ・マンユはそれよりも機敏な緑の蔦にあっさりと捕まってしまった。

「こうして会ったのも何かの縁……もっと近うよれ!!」


グイッ!!


「――ぐっ!?」


 蔦は一気に収縮!アンラ・マンユを猛スピードで引っ張る!

 その先にはこれまた緑色の蔦でぐるぐる巻きになったザリチュの豪腕が……。

「これで終いだ、アーリマン!!ザリチュ!仁義なきラリアット!!」


ドゴォォン!!


「……がはっ!!?」

 まるでトラック同士が全速力で正面衝突したような大きな音が鳴り響いた。

 圧倒的な破壊力を持つラリアットに強制的に突撃させられ、強制的にカウンターを食らった形。

 アンラ・マンユは刀を離し、紫色の破片を巻き散らしながら、宙を舞った。

(手応えはバッチリ……勝った!)

 佐利羽秀樹は勝利を確信する。それは何ら間違っていない。自身の最大の必殺技を見事にヒットさせたのだから、そう思うのは当然だ。

 おかしいのはアンラ・マンユの方だ。

「ぐ……ぐおぉぉぉぉぉっ!!」


ガン!ガリィィィッ!!


「な、なにぃぃぃぃぃっ!?」

 アンラ・マンユはあろうことか両足で着地、アスファルトを抉りながら吹き飛ばずに踏みとどまった。

(あり得ない……ワシの仁義なきラリアットをまともに受けて、意識を保っていられるなどあり得ない!!)

 その異様な光景は佐利羽秀樹の頭脳と肉体の動きを止めた。それだけ必殺技が耐えられたというのは、彼にとっては信じられないことであったのだ。

(……何で俺、耐えられたんだ……?)

 そして、それは木原史生も同じだった。

(……死んでいてもおかしくないだろ?何で今、俺は立っている?なぜ俺は生きている?)

 モヤがかかる頭で必死に答えを探すが、何もわからなかった。

(……いや、今はそんなことどうでもいいか……)

 これまたモヤがかかる視界の中で立ち尽くすザリチュを見つめる。

(あっちも予想外だったみたいだな。追撃していいものかどうか迷いが見える。ただ俺も……)

 足を動かそうとしたが、まるで言うことを聞かない。ただ小刻みにプルプルと震えるだけだ。

(回復にはもうしばらくかかるか……きっとあいつのことだから、そうなる前に覚悟を決めて仕掛けてくるだろうな。結局、ちょっと寿命が伸びただけか……)

 絶望の中、木原の頭を過ったのは、彼が木原になる前に愛用していたマシンのことだった。

(あれなら……あれだったら、こんな蔦や根っこなんて燃やすなり、凍らせるなりして一網打尽にできるのに……!今日は無い物ねだりがひどいな……)


『“フリーズブレス”解禁しました』


「……え?」

 またオッキーニ戦の時のように、耳元に電子音声が流れた。

「おい!どういうことだ!何でこのタイミングで?」

『…………』

「また無視か……」

 返事が返ってこないのも、相変わらず前と同様であった。

(ちっ!このマシンの作り手は何を考えているんだ?レベルアップの報酬を与えているつもりのゲーム脳か?それともピンチの後の逆転を演出する監督気取りか?何にせよ……会ったら、おもいっきり頬を張り倒してやる……!!)

 木原史生は密かに確固たる決意を固める。

(……当たりどころが僅かにずれただけか?何にせよ、これ以上回復の時間を与えるべきじゃないか……)

 そしてほぼ同時に佐利羽秀樹も意を決する。

「一撃で決まらないなら、決まるまで何度でもやればいい!もう一度、ザリチュ仁義なきラリアットだ!!」

(来た!!)

 ザリチュは再び緑色の蔦を紫の悪魔に伸ばして来た!

(足は……まだ動かない……!ならば!!)

 アンラ・マンユは回避は不可能だと判断し、一縷の望みにかけて、顔を蔦に向けた!

「ぶっつけ本番!フリーズブレス!!」


ブオォォォォォォォォォォォッ!!


 アンラ・マンユの口から白い冷気が放出される!それが蔦に触れると……。


ガチン!ゴチン!!


 一瞬で氷付けにしてしまった。

「何!?こんな切り札を隠し持っていたのか!?」

(だったら、とっくに使ってるつーの)

 冷めた目で、木原はディスプレイのエネルギーゲージを再び確認した。

(……消費がデカいな。本当、ほんのちょっとでいいから早く解禁して欲しかったよ。まぁ、今さら言ってもしょうがないか。今ある手札でなんとかやりくりする……それが人生だ)

 足にもう一度力を込める。すると、今度は思い通り動いてくれた。

「回復……完了。では……ラストアタックと行きますか!!」

 アンラ・マンユは渾身の力で地面を蹴り出し、ザリチュに突っ込んだ!途中で落とした刀を拾いあげる!

「ちっ!息を吹き返しおって!だが、まだ有利なのはワシの方だ!!」


ボコッ!ボコッ!!シュル!シュル!!


 ザリチュが手を振ると、それに連動して今までで最も多い蔦と根っこが、向かってくる悪魔を囲むように、伸びていった。

(フリーズブレスを使いたいところだが……無駄撃ちする余裕は今のアンラ・マンユにはない……だったら!!)


ザシュ!ザシュ!!ザンッ!ザシュ!!


「くっ!?」

 アンラ・マンユは致命傷となりうる、もしくは動きの邪魔になる攻撃だけに対処し、装甲を削られ、抉られながらも一直線に進み続けた。

(どうせこのアタックが失敗したら、俺の負けなんだ!あいつにぶち込むフリーズブレス一回分のエネルギーさえ残ればいい!!)

「肉を切らせて骨を断つという奴か。しかし見た目通り、ワシの肉は分厚いぞ!!」

 言葉通り、さらにザリチュは蔦と根っこを増量した。

(わかっているさ。あんたが一筋縄ではいかない男だってことは。結局、この勝負はさっきみたいに、あんたの想定を俺が超えられるかどうかにかかっている。そのためには……これだ!!)


ブゥン!!ザン!ザン!ザンッ!!


 アンラ・マンユは刀を投擲した!切っ先は障害となる植物を斬り裂きながら、ザリチュの顔面に迫る!

「……がっかりだよ、アーリマン……必死こいてひねり出した策がこれとはな」


ガァン!!


 刀はあっさりと叩き落とされ、無残に砕け散った……が。


ビシュウッ!!バァン!!


「――ッ!?」

 佐利羽秀樹の視界が突然、真っ白になり、衝撃で跳ね上がった!

 これこそが木原史生の本命である!

(指からのビームか!!刀を囮にザルチュの顔面にビームをぶち込まれた!!あのちんけな光線ではザリチュの装甲を抜けないと思って、注意を怠った!!カメラを潰されたわけではないから、いずれ視界は回復するが、きっと奴はその前に……!)

「フリーズブレス!!」

「ッ!!?」


ブオォォォォォォォォッ!!ガチン!!


 気配を感じ、咄嗟に右腕をあげる。その右腕は瞬く間に氷付けに、いやザリチュの右半身が氷に覆われてしまった。そして……。

「この状態なら!!」


ガギィィィィィィン!!


 アンラ・マンユ渾身のパンチが炸裂!脆くなった右腕を粉砕し、両者の間をキラキラと氷の粒が舞い散った。

「このまま一気に……」

「…………」

「!!?」

 更なる追撃を行おうとしたアンラ・マンユとザリチュ、木原史生と佐利羽秀樹の視線が交差する。

 エルザシティ三大マフィア一角、佐利羽組組長は怯むことなく、蔦を巻いた左腕を引き、今にも正拳突きを放とうとしていた。

「舐めるなよ、アーリマン。この佐利羽秀樹、右腕一本失ったくらいで動じやしない」

(こいつ!?ここまでの男だったのか!?)

「ザリチュ大拳!でりゃあぁぁぁッ!!」

 先ほどとは逆、予想を超えた佐利羽の姿に動揺し、動きを止めたアンラ・マンユに容赦なく必殺の拳が放たれた!

(駄目だ、こりゃ。これは……避けられないわ……)

 死を意識した木原の目には拳がゆっくりと大きくなっているように見えた。だが、身体は動かずにどうすることもできない……。

(佐利羽の器を見誤ったか……俺はまた……)

 瞬間、ノイズが走るように、木原の脳裏にあの憎き白と藤色のピースプレイヤーの姿が、自分の野望を打ち砕いてくれた女の顔が過った。

「負けて……負けてたまるかぁッ!!」


ブォン!!


「……何!!?」

 アンラ・マンユは限界まで仰け反り、正拳を回避した!

(タイミングは完璧だった!今の攻撃は避けられるはずがない!!だが、実際にはこうして避けられている……一体、何が……うっ!!?)

 極限の攻防で研ぎ澄まされた佐利羽の戦闘本能がそれを感じ取った。

 初めて会った時には纏っていなかったおぞましいオーラを……。

(ラリアットに耐えた時に気付くべきだった!!こいつは戦闘中に適合率を……)

「俺の勝ちだ!佐利羽ぁッ!!」


ザシュ!!


「…………がっ!?」

 アンラ・マンユは落ちていた刀の刀身を掴むと、それを凍っているザリチュの首の右側に突き立てた。

 それは図らずも彼の部下の渡辺の負け方と瓜二つであった。


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