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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
115/194

躍動する悪④

 佐利羽秀樹の声に応じ、指輪が光の粒子に、そしてそれがさらに機械鎧になり、彼の全身に装着された。

 丸く、禍々しく、不気味な特級ピースプレイヤー、ザリチュの降臨である。

「いつぶりだろうか……こいつを装着するのは」

「ブランクがあるのか?勝負感を取り戻すのは骨が折れるぞ」

 アンラ・マンユは自虐的に言い放った。

「敵に心配されるとは……ワシも落ちるところまで落ちたものよ……」

「何を言ってる?ヤクザの親分なんて、考えるまでもなく、ドン底だろうが」

「違いない」

 ザリチュは肩を揺らして、自嘲した。

「……さて、では始めようか」

「では、先攻は……私がもらいますよ」


ビシュウッ!ビシュウッ!!


 アンラ・マンユは立て続けに、人差し指から光線を二発、発射した!しかし……。

「ふん」


バシュ!バシュ!!


 あっさりとザリチュの装甲に弾かれてしまった。

(やはりそれなりのレベルの相手には、フィンガービームは火力不足か。なら!!)

 地面を抉れるほど蹴り出し、紫の悪魔は一気にザリチュの懐に入り込んだ。

(格闘戦で!!)

 そして勢いそのままに渾身のストレートを放つ!


ブゥン!!


「!?」

 けれど、残念ながら見た目と違って軽やかにザリチュがあっさりと躱し、不発に終わる。

「お前が思ってるよりワシは素早いぞ!!」

 お返しのストレート!確かにそれは木原の想像を超えた速度であった。しかし……。


ブゥン!!


「らしいな………だから、どうした」


ガンガンガァン!!


「――ッ!?」

 回避と同時に電光石火の三連撃!これは見事にザリチュにヒットした。

「多少、予想を越えたくらいで粋がるなよ、みっともない」

「言って……くれるじゃないか!!」

 ザリチュは拳を開くと、アンラ・マンユに掴みかかった!しかしこれも……。


パシン!!


 紫の悪魔はあっさりはたき落とし……。


ガンガンドゴッ!!


「ぐうぅ……!?」

 逆にパンチとキックのコンビネーションを喰らわしてやった。

「私を組み伏せる気か?もし部下がフレデリックにやられたことを意趣返ししたいなら、お門違いだ」

「フレデリック?やっぱり奴は偽名だったか」

「あいつの本名さえ引き出せないのが、今の佐利羽組の現状だ」

「耳が……痛いな!!」

 ザリチュは姿勢を低くし、アンラ・マンユの足にタックルを仕掛けてきた!


ガァン!!


「――がっ!!?」

「小賢しいぞ、組長」

 だが、これも膝蹴りで迎撃されてしまう。

「もう十分だ。ここからは……一方的に蹂躙させてもらう!!」


ガンガンドゴッ!ガンガンガンドゴォン!


 アンラ・マンユはフットワークを駆使しながら、一定の距離を取って、ジャブに時折キックを挟みながら攻め立てた!

(腕力と防御力は奴が僅かに上、スピードとリーチはこちらが上。ならば私がやるべきことは安全圏から地道にダメージを与えていくこと……!)


ガンガンガァン!ガンドゴッガァン!!


 リズム良く、テンポ良く、暴力を振るっていく。ザリチュはただのサンドバッグに成り下がっていた。

(彼のようなバカ力があれば、こんなまどろっこしい真似をしなくてもいいのだが……無い物ねだりほど虚しいことはないな。私は私の持っている手札だけで地道に進むしかない……!!)

「もう十分だ」

「……え?」


ドスッ!!


 音が、感触が変わった。アンラ・マンユのパンチをザリチュは緑色の蔦のようなものが巻き付いた腕で受け止めたのだ。

「それは……」

「何かまだ手を隠していると思っていたが……殴る蹴ると、指からビームしかできないみたいだな」

 さらにもう一方の腕に蔦を巻きつけ、拳を巨大化していき……。

「ザリチュ大拳」


ドゴォォォォォォン!!


 おもいっきり振り下ろした!

 巨大化した腕が地面に衝突!まさに天地鳴動!その力は世界を揺らし、大きなクレーターを作った!

 だが、肝心のターゲットであるアンラ・マンユは攻撃をかろうじて躱し、全速力で射程外に離れて行っていた。

「さすがにただ大振りしただけじゃ当たらんか」

(な、なんという威力!?何がパワーは僅かに上だ!見当違いも甚だしい!!)

「だが、当たればそれで終わりだ……!!」

「――ッ!!?」

 本気になったザリチュの、佐利羽秀樹のオーラに木原史生は気圧された!久しぶりに恐怖という感情を思い出したのだ!

(くっ!?たかがマフィアのボス、されどマフィアのボスといったところか……!最近何もかもがうまくいき過ぎて、少し調子に乗っていたな……態勢を立て直す!!)

 アンラ・マンユは床に転がっていた刃風の刀を二本、拾い上げた。

(狭い場所は不利。外に出る!)

 反転し、出口に向かって走ろうとする……が。

「――!!?何!?」

 その出口は、地面を突き破り生えているザリチュの腕にまとわりついていたものと同じ緑色の蔦によって塞がれていた。

「いつの間に……!」

「驚くのはわかるが、ワシのことを放っておいていいのか?」

「――ッ!?」

 声のした方を振り返ると、そこには腰を下ろしたザリチュが拳を引いていた。

「くそ!!」

 紫の悪魔は反射的に刀で突きを放った!

「ハアァッ!!」

 ザリチュはそんなの関係ねぇと正拳突きで迎え撃った!


ガギッ!バキバキバキバキバキバキ!!


 勝ったのは蔦を巻きつけた正拳!刀を粉々に砕きながら、アンラ・マンユ本体に迫る!そして……。


ドゴォン!!バゴォン!!


 紫の悪魔は勢い良く吹き飛び、壁を突き破って、外に出された!

「……外に出れたから結果オーライ……とはこの様では思えんな……」

 よろよろと立ち上がるアンラ・マンユの身体には、正拳突きの破壊力を物語るように放射状に亀裂が入っていた。

(突きで僅かでも勢いと威力を落とし、さらに拳の動きに合わせて後ろに跳べていなかったら、今ので終わっていたな……)

 改めて思い返すと、あまりにギリギリ、紙一重過ぎて、マスクの下で冷や汗が止まらなくなった。

「やるな。今の一撃で決めるつもりだったのに。やはりブランクがあるようだ」

「くっ!?」

 ザリチュも悠然と自らの開けた穴から外に出て来た。その姿は木原には最初に見た時よりも大きく、恐ろしく見えた。

(あんな一撃があるんでは、迂闊に近づけないな。とは言え、フィンガービームではまともにダメージを与えられないし……よりヒットアンドアウェイを徹底しないと。外に出れたのはいい……俺のスピードとリーチを生かせる……!)

「もし拓けた外ならスピードとリーチを存分に生かせるから、自分に分があるとか思っているなら……とんだ勘違いだぞ」

「な!?」

 心を見透かされ、紫の悪魔は恐怖と驚きから、後退りした。

「図星だったか。どこまでもワシを舐め腐りおって……!!」

 ザリチュが腕を広げると、絡みついていた緑の蔦がほどけ、空中をうねうねと蠢いた。

「これは……」

「ザリチュはむしろ、距離を取った戦いの方が……得意なんだよ!!」

 腕を振るうと、それに連動してそこから生えている蔦がアンラ・マンユに襲いかかった!

「ちっ!!」


バチン!!


 けれど、紫の悪魔は撃ち下ろされた無数の鞭をタイミングを見計らい、回避する。

「まだまだ!!」

 だが、蔦は佐利羽秀樹の意識と連動し、縦横無尽に伸びると、アンラ・マンユを追いかけた。

「ちっ!!鬱陶しい……!!」

 紫の悪魔はジグザグと移動しながら、少しでも離れようとするが、一向に振り切れない。

(自由自在というわけか……!このまま逃げ続ければ、いずれはこちらの体力とエネルギーが底をつく……ならば!!)

 アンラ・マンユは逃げるのを止め、しっかりと地面を踏みしめる。そして……。

「これでどうだ!!」


ザン!ザン!ザン!ザン!ザンッ!!


 拾った刀と手刀で襲い来る蔦を手当たり次第斬り払った!

(やはり打撃よりも斬撃の方が効果的か。これが通じるなら、勝機はある。こちらがそうであるように、あちらにも限界があるのだから、このまま斬り続ければいつかはこの邪魔くさい植物を伸ばせなくなるはずだ……!!)


ザン!ザン!ザン!ザン!ザンッ!!


 アンラ・マンユはひたすら斬り続けた。前から右から左から、そして上から自分の命を狙う緑の鞭をひたすら……。

(少しずつだが、量が減り始めた……!この植物さえ出せなくなれば、どうにでもなる!あいつをまたサンドバッグに……)


ドゴッ!!


「!!?」

 足下から何かが砕ける音が聞こえた。

 紫の悪魔は自然と視線を落とすと、真っ赤な二つの眼は、地面を突き破る同じ色の、毒々しい赤色をした根っこを捉えた!

「やられた!!?」

「やってやったぜ!!」

「だが!!まだ間に合う!!」


ザン!ザン!ザン!ドシュッ!!


「くっ!?」

 アンラ・マンユはなんとか赤色の根っこを一本を除いて、刀で斬り払ったが、その残った一本が太腿に突き刺さった!

「このまま貫け!!」

「させるか!!」


ガシッ!!ビシュウッ!!


 その残った一本も中の木原の肉体に到達する前に強引に引き抜き、めり込ませた指からビームを放ち、粉砕した。

「……お前に勝っている俺のスピードを殺しに来たか……今のは正直、危なかったぞ……!!」

 ドクンドクンと自分の心臓の音がうるさかった。それほどまでに今の攻撃は木原の命を脅かした一手だったのだ。

「上に注意を向けさせて、下からの攻撃で仕留める……してやられたよ」

「そう言う割にあまり堪えてないようにみえるのだが?」

「同じ手を二度と食らうほどバカじゃない。今のがお前の渾身の策だとしたら、俺には勝ち目はない……!」

 アンラ・マンユは刀を構え直し、真っ直ぐとザリチュを見据えた。

(動じる必要はない。やることを変える必要などない。奴のエネルギーを削り取る!間違いなくそれが勝利への最短ルート!私は確実に勝利に近づいているはずだ……!!)

 その姿を見て、マスクの下で佐利羽秀樹は……心の底から満面の笑みを浮かべた。

「何もわかっていないな、アーリマン。我が策は……成功しているんだよ」

「……何を言うかと思ったら負け惜しみか?エルザ三大マフィアの長の一人ともあろう者が見苦しいぞ」

「見苦しいのはお前の方だ。今の自分の置かれている状況を正確に把握できない可哀想な脳みそのお前の方がよっぽど見苦しく、そして滑稽だ」

「……口だけは達者だな。その口すぐに利けなくしてや……」


ガクッ!!


「――るッ!!?」

 佐利羽の言葉の正しさを証明するように、アンラ・マンユは自らの意志に反して膝をついた……。

「ほらね。バカはお前だ、アーリマン……!!」


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