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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
114/194

躍動する悪③

 それは前日のこと……。

「話はわかりましたけど……いえ、どうにも机上の空論というか、そんなにうまくいくのかなと」

「だな」

「だな……って!やっぱりこの計画成功させるつもりないんですか!!?」

「もちろんうまくいって、佐利羽秀樹を罠に嵌められる可能性もある。それが一番いい。だが、計画というのは、失敗した時のことも考えておかないと」

「では、一体どうするおつもりで」

「もしその場でお前に危害が加えられそうになったら、こちらもすぐに乱入して、バトル開始になる。けれど、そうはならないと踏んでいる」

「その心は?」

「最近、アングラな記者や佐利羽組に関係ありそうなチンピラに色々と訊いてみたんだが、奴らは裏切り者の制裁なんかに使う処刑場所を何個か持っているらしい」

「ぼくはそこに連れていかれると?」

「この時期、お前が接触する時間帯だと多分、港の倉庫になる」

「で、君はそこでボコられればいい……なんて人でなしなこと言いませんよね?」

「ボコられても、そうでなくてもいいが少しでもいいから時間を稼げ。私はその間に手薄になった佐利羽の家を調べたい」

「データカード探しですか」

「あぁ、話によると佐利羽秀樹は慎重な男らしいから、データカードを持っているなら、家の隠し金庫あたりに置いてある可能性が高い」

「それを見つけたら……」

「すぐに君を助けに行くさ、アーリマンがな」



 そして、現在……。

「お、遅いですよ~!!」

 フレデリックは涙目で非難した。何度も死を感じ、何度も心が折れそうになったのだから、当然だろう。

「悪い、少し手こずった。けれど、その甲斐があったぞ」

 アンラ・マンユはどこからともなくペンダントを取り出して見せた……二つ。

「そ、それは!!?」

 佐利羽秀樹の胡散臭い笑顔が崩れた!目を見開き、口も開き、お手本のような驚愕の表情を見せる。

「そういう顔もできるんだな。そっちの方が人間らしくていいと思うぞ。ほれほれ」

 紫の悪魔はその表情が気に入ったようで、さらにいい顔にしてやろうと、ペンダントをフリフリと振ってみせた。

「ふざけるな!!それをどこで……!?」

「そんなもん決まっているだろう?あんたの自室の隠し金庫だよ」

「何!?組長の部屋じゃと!!?家にはまだ警備に活きのいい奴らを残しておいたはずじゃぞ!?」

 ペンダントのことを知らず、当然何を話しているのかもわからないので、静観していた渡辺が声を荒げた!

 頭の中には最悪の予想が渦巻いているが……悲しいかな当たりである。

「察しが悪いな。それとも現実を認めるのが怖いのか?」

「お前、まさか……」

「確かに活きは良かったが……強くはなかったよ」

 佐利羽の邸宅は凄惨な有り様だった。

 整えられた庭の木はへし折れ、そこに赤黒い肉片が引っ掛かり、池は真っ赤に染まり、家の中も頭を力任せに砕かれた死体や、何かで心臓を撃ち抜かれた穴空きの死体で埋め尽くされていた。

「て、てめえ……!!」

「そう怒るな。急いでいたから、苦しめて殺す時間がなかった。本当は社会のゴミなど、生まれたことを後悔させてやらなければいけないのに。だから、奴らは幸せな方だぞ」

「さっきから黙って聞いていれば!!」

 組員の一人が耐えかねて、飛び出す!しかし……。


ビシュウッ!!


「……あ?」

「さ、佐山ぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 悪魔の人差し指から放たれた光線であっさり眉間を貫かれ、自分が何をされたのか理解できないまま、絶命した。

「まったく人の話を最後まで聞けよ。私は組長さんに返さなきゃいけないものがあるんだ」

「何?」


ブルン!ブルルン!!


 アンラ・マンユは手首をひねり、跨がっているバイクのエンジンを吹かした。

「そ、それは!!?ワシのコレクションの……!!」

 佐利羽秀樹はようやく気づいた。憎き敵が乗っているのは、自室に飾ってあった自分のバイクだと。

「何度も言うが、急いでいたんでな。借りさせてもらったよ。事後承諾で申し訳ない」

「お前はどこまでワシをこけにしたら気が済むんだ!!」

「カリカリするなよ。ちゃんとバイクは返すから……さ!!」


ブルルン!!ブオォォォォォン!!


「「「!!?」」」

 紫の悪魔はあろうことかバイクを無人で走らせ、チンピラの群れに突っ込ませた!

「逃げろ!!?」


ドゴドゴドゴッ!


「ぐあっ!?」「ぎゃっ!?」「うがっ!!?」

 バイクは逃げ遅れたチンピラをボーリングのピンの如く次々と撥ね飛ばしていき……。


ガシャアァァァン!!ドゴォン!!


「ぎゃあッ!?」「あ、熱い!!?」

 勢いを無くして倒れると、爆発した!

 近くにいた者は爆風に吹き飛ばされ、衝撃で気絶、もしくは炎が引火し、地べたをのたうち回った。

「爆弾のおまけつきだ。気に入ってくれたかな?」

「この!!」

「ぼ、ぼくのこと忘れてるでしょ!!?」

 まさに阿鼻叫喚のカオス!

 そのどさくさ紛れに、巻き添えを食らわないようにフレデリックはその場から全速力で離れた。

「今のところ佐利羽組のカッコいいところも強いところも見ていないのだが……噂に尾ひれがついたのかな?」

「言わせておけば!!」

「兄貴!!」

「おう!!お前ら、ピースプレイヤー装着じゃ!!」

「「「へい!!」」」

 チンピラ達は一斉に数珠を取り出し、それを天にかがけた!

「「「刃風!!!」」」

「「「界雷!!!」」」

 そして怒りの咆哮と共に一斉に機械鎧を身に纏った!

「『六角重工業』のマシンか。いい趣味をしているじゃないか。問題はそれを使いこなせるだけの技量があるかどうか」

「すぐにわかる!その時がお前の最期だ!!」

 刃風の一体が刀を召喚、上段に構えながら突進してきた!

「死に晒せ!アーリマン!!」

 射程距離に入ると、今日一日のストレスをぶつけるように、おもいっきり撃ち下ろした!


ブゥン!!


「――な!?」

 しかし、いとも容易く回避。さらに後ろに回り込み……。

「攻撃とはこうやるんだよ」


ドゴォ!!


「――がっ!!?」

 延髄斬り炸裂!刃風は砕けたマスクの破片をばらまきながら倒れ、そのままもう二度と動くことはなかった。

「よくもやりやがったな!!」

 また別の刃風が不敵な悪魔を襲撃!今度は刀を地面と水平に構えている。

「ウオラァ!!」


ブゥン!!


「!!?」

 刀はまた空を切った。目の前から一瞬でアンラ・マンユが消えてしまったのだ!

「縦がダメなら横って……安直だな」

「おま!?」

 紫の悪魔はしゃがみ込んで斬撃を回避していた。

「この野郎!!」

「遅い」

 慌てて刀を返し、振り下ろそうとするが、それ以上のスピードでアンラ・マンユは足を伸ばし、その場で回転していた!


ガァン!!ドスン!!


「――ぐあっ!!?」

 足払いで刃風を無様に転ばせる。さらに……。


ドゴォ!


「――がはっ!!?」

 踏みつけて抑えつけ……。

「ギャルピースからのYou are dead」


ビシュウッ!!


「――ッ!?」

 下向きのピースサインから光線が発射され、仰向けの刃風の首を貫いた。

「さてお次は……」


バァン!!


「お前か……!」

 悪魔が頭を少し動かすと、目の前を弾丸が通過した。

 弾丸が来た方向に視線を向けると、界雷が銃を構えていた。

「今の奇襲はいいね」

「あ?」

 アンラ・マンユはビシッと親指を立てて敵を称えた。

 だが、当然というかなんというか奇襲を失敗させた界雷の目には挑発しているようにしか見えなかった。

「どこまでも舐め腐りやがって」


バァン!!


「そういうところだよ」

「――何!?」

 怒りの第二射!けれどこれまた回避され、さらにそのまま一気に間合いを詰められる!

「不意打ちで当たらないのに、視認されている状態で撃っても命中するわけないだろうが」

「くっ!?」

「今の君はバッドだ」


ザシュウッ!!


「――が、があぁぁぁぁっ!!?」

 紫の親指をカメラに捩じ込まれ、そのまま中身の眼球を潰す。さらにさらに……。

「フィンガービーム」


ビシュウッ!!ドパッ!!


「――!!?」

 界雷の後頭部に真紅の血と脳髄の花が咲いた!大切な部分を焼き貫かれたチンピラはヘロヘロとへたり込み、動かなくなる。

「くそ!!」

「だからといって今さら不意打ちを試みても無駄だけどな」


ビシュウッ!!ビシュウッ!!


「がっ!?」「ぎっ!?」「ぐっ!?」

 立て続けに界雷三体を発砲前に始末する。

「だいぶこの武器にも慣れてきたな。だが、まだ物足りない。もう少し骨のある奴と戦えると、ブランクを埋めるのにいいんだが」

「お前は土の中に埋まるんじゃ!!」


キン!!


 渡辺刃風の強襲!この攻撃には今日初めてアンラ・マンユは回避ではなく防御した。斬撃を弾いた紫の腕に僅かだが亀裂が入る。

「やはりまだ本調子には程遠いか。多少は骨のある相手のようだが、かつての私だったら、難なく避けられていた。こいつはそこまで丈夫でもないし、急いでトップフォームに戻さないと」

「だから、その前にお前は死ぬと言うとろうが!!なぁ!芝!!」

「へい!兄貴!!」

 芝刃風も合流!兄弟分二人が紫の悪魔を挟み込む。

「わしらの鍛え抜かれたコンビネーション!!」

「とくと味わえ!!」


ブンブンブンブンブンブンブゥン!!


「「!!?」」

「どうした?味わわせてくれよ」

 けれども、二人の刃は二度とアンラ・マンユに触れることはなかった。ただただ虚しく風切り音を鳴らすだけ……。

「何なんだ、こいつは……!?」

「急にエルザを荒らして!お前は一体何者じゃ!?何が目的なんじゃ!?」

「私は頼まれ事をしただけだ」

「頼まれ事?」

「今頃、山奥の別荘でこの状況をほくそ笑んでいるツルツル頭にな」

「!!?」

「武斉の、奏月の回し者か!?」

 一瞬、まさに刹那の時、渡辺と芝の意識が目の前の敵から外れた。

「戦いの最中に考え事をするもんじゃないぞ」


ガシッ!!


「――しまっ!?」

 その僅かな隙につけ込まれ、芝刃風は刀を握った腕を掴まれ……。

「刀っていうのはこう使うんだ」


ザシュウッ!!


「――がっ!?し……ば……!?」

「あ、兄貴ぃぃぃぃッ!!?」

 腕を掴み、強引に敬愛する兄貴の首に刀を突き刺させた!

「喧嘩するほど仲がいい、もしくは殺したいほど愛してる……か?ヤクザ者の絆とは苛烈で野蛮だな」

「アーリマンッ!!」

「うるさい」


ガギィン!!


「――ッ!!?」

「「ぐあっ!!?」」

 文字通り兄弟分を失ったばかりの芝を足蹴にして、吹き飛ばす!ついでに軌道上にいたチンピラを二人ほど巻き込んで、まとめてノックアウトする。

「残るは……」

「ひっ!!?」

 アンラ・マンユが周囲を見回すと殺気と闘志を漲らせた誇り高きマフィアはいなくなっていた。

 いるのは、マスク越しでも恐怖で顔をひきつらせているのがわかる哀れな生け贄達だけ……。

「折れたか……ここからは作業だな」

 木原の言葉通り、後は淡々とした繰り返し作業だった。

「こ、こいつには勝てない!?」

「嫌だ!おれはまだ死にたくない!!?」


ビシュウッ!!ビシュウッ!!


「ぐはっ!?」「ぎゃっ!!?」

「だったらヤクザなんてやらないで、真面目に生きるべきだったな」

 逃げ惑う者には後ろからフィンガービームでズドン。

「お、お前を倒して成り上がってやる!!」

「ナベさんの仇だ!!」


ドゴォン!!ドゴォン!!


「――がっ!?」「ぐあっ!?」

「お前らごとき雑魚の野望や仁義じゃ、私を止めることはできんよ」

 恐慌状態に陥り、錯乱しながら向かって来る者には、カウンターパンチでズドン。

 それをしばらく繰り返していると、いつの間にかかろうじて息をしているけど動けない奴と、呼吸さえも止めて完全に停止している奴の二種類が辺り一面に転がっていた。

 立っているのはアンラ・マンユと彼に倒された者達のトップ、佐利羽組組長、佐利羽秀樹だけだった。

「ずっと黙って観戦していたが、佐利羽組はアットホームな職場じゃなかったのか?組長さんよ」

「こいつらを尊重しているからこそ、生き死にが関わることは、できるだけ自分の好きにやらせてやることにしている。人に裏切られるより、自分を裏切る方が辛いからな」

 組長は悲しそうに目を伏せた。

「それがお前なりの美学か……だとしたら、大人しく言うことを聞けなんて言っても……無駄だろうな」

 アンラ・マンユは小さく肩を落とした。

「そういうわけだ。ワシもワシの好きなようにやらせてもらうぞ!この命が失われるその時までな!!」

 佐利羽秀樹は指輪を嵌めた手で拳を握り、力強く突き出した!

「さぁ!佐利羽組最期の祭りだ、『ザリチュ』!!」


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