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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
111/194

パズルのピース

『昨夜、エルザシティで爆発がありました。その爆発の発生地点には、アルティーリョファミリーのボス、ヴァレリアーノ・ウンギア氏がおり、彼は死体となって発見されました。まずは現場の映像をご覧ください』

 自宅のテレビ画面では神妙そうな顔でキャスターがそう話していた。

 それをフレデリックはただただ虚ろな目でぼーっと眺めている。

「朝のニュースで散々やったのに昼もこれですか」

「昨日の今日だからな。仕方ないだろう」


ガチャガチャ


「まぁ、三大マフィアの一角が落ちたってことですからね。今度市警本部に『フリーダ・クラルヴァイン』市長が来て、署長と今後の治安維持やらなんやらを話し合うことが決まったらしいですよ」

「それは結構なことで」


ガチャガチャ


「そう言えば、爆発から生き残った構成員の口から“アーリマン”って名前が出てきたみたいですけど、いいんですか?」

「問題ない。あの場に生存者がいるのは気づいていた。広まって欲しくないなら殺していたよ」


ガチャガチャ


「つまり木原さんはアーリマンの名前をみんなに知ってもらいたかったんですか?」

「みんなというわけじゃないが、ヴァレリアーノを殺害した奴について、色々と噂が流れ、どう反応するか見たい奴らはいる」


ガチャ


「よし……これで直ったはず」

 木原はいじくり回していたディスプレイの割れたタブレットを優しくコンコンとノックした。

「……タブレット型の爆弾じゃないですよね」

 フレデリックはそれを訝しげに上から下に観察した。

「まさかまた私が花火を作るんじゃないかと思ったから、仮病を使って警察という重要な仕事を休んだのか?」

「そうですよ!刑事の自宅で爆弾が製造されていたなんて、笑えないですからね!!あんなものを作っていたとわかっていたら、全身全霊で止めてましたよ!!」

 言葉の通りフレデリックの笑みはなく、怒りと後悔がにじみ出ていた。

「悪かったよ。今度爆弾を作る時はきちんと報告する」

「もう二度と作らないでください!!」

「それはさておき……お宝の中身を確認しようじゃないか?」

「話を逸らそうと……お宝?」

「これのことさ」

 そう言うと木原は傍らにおいてあったヴァレリアーノから奪ったペンダントを持ち上げた。

「それ、高いんですか?」

「さあ?見たところ素材も下級オリジンズを加工したものらしいし、値段は大したことないんじゃないか?」

「えっ?じゃあお宝っていうのは……?」

「私が言っているのは……こいつのことさ」


パカッ


「あっ!開くんですか、それ。っていうか……」

 開いたペンダントの中にはデータカードが入っていた。

「マフィアのボスが肌身離さず持っていたペンダントに隠されていたデータカード……中身が気になるだろ?」

「はい……でも、それを見るために拾ったタブレットを修理していたんですか?」

「そうだが」

「ちゃんと説明してくれれば、ぼくのパソコン使ってくれて構わなかったのに」

 側にあったノートパソコンを手に取って、フレデリックはテーブルの上に置いた。

「本当にあれを使って良かったのか?」

「ちょっとパソコン貸すくらいで文句を言うほどケチじゃありませんよ」

「中に何が入っているのかもわからないのに?ウイルスとか入ってるかもしれないのに?その結果君の大切なパソコンが使い物にならなくなるかもしれないのに?」

「……前言撤回します。絶対にぼくのパソコンにそれを近づけないでください」

 フレデリックはノートパソコンを自分の背後に隠した。

「刑事として考えが浅すぎるぞ」

「返す言葉がないです。というかぼくのパソコンを気遣ってくれてたんですね」

「仮に本当にこのカードにウイルスが詰まっていて、それのせいでお前のパーソナルデータが流出したら、私にも危険が及ぶかもしれないからな」

「結局は自分のためですか……」

「人間なんてそんなものだ。それよりも早くこの中身を見てみようじゃないか」

 木原がスイッチを入れると、割れたディスプレイに光が灯った。

「本当に直ってる」

「正確にはネット機能以外はな。さっき言った通り、下手にオンラインに繋がられると色々と困ることになる可能性があるからそこはむしろ壊れたままにしておいた」

「へえ~。器用なんですね」

「昔、ちょっとこういう技術が必要なところで働いていた」

「機械にも戦闘にも強い……逆に何ができないんですか?」

「じゃじゃ馬女をしつけることと、国を乗っ取ることはできなかったな」

「……もしかして冗談言ったんですか?」

「だと良かったんだがな」

 木原は苦味走った笑みを浮かべた。

「さてと、つらい思い出よりも、まだ見ぬ未来……だ」

 木原はタブレットの側面にあるストレージにデータカードを差し込んだ。すると……。

「……何ですか、この文字列?」

 画面はわけのわからない文字に塗り潰された。

「タブレット、まだ直ってないんじゃ……もしくはデータカードの方が壊れているのかも……どう思いますか?」

「………」

「木原さん……?」

 木原はじっとその文字列を見つめ続けていた。フレデリックの言葉が届かないほど集中して……。

「あの~、もしかして何でもできる木原さんはこの訳のわからない文字が読めるんでしょうか?」

「いや……ただ、これが不完全なものだということはわかる」

「不完全?」

「多分、これと同じようなデータカードがいくつかあって、それを全て集めると、読めるようになるんだと思う」

「えー、つまりこれはパズルのピースのようなもので、単体では何の意味もないと?」

「そういうことだな」

「そんな~」

 フレデリックは後ろに手をついて、天井を仰いだ。

「話しているうちに興味がすごい出てたのに~。いくつあるかもどこにあるかもわからないカードを集めなきゃ駄目なんて、無理ゲー過ぎるよ」

「……いや、これの中身と他のカードの在処は大体推測できる」

「そうです……え?マジで」

「マジで」

 フレデリックはまた前のめりの姿勢になった。

「ヴァレリアーノがこのデータカード、正確にはこれが入っていたペンダントを見てこう言っていた」


「まさか佐利羽組か、それとも奏月に雇われて、これを奪おうとしたのか?」


「佐利羽と奏月!?じゃあ、残りは奴らが!?」

「あぁ、そしてその推測が正しかったら、こいつの中身は奴らの弱み……悪事の証拠や資金の隠し場所かなんかじゃないか」

「それをお互いに握り合う……昔の偉い人が同盟結んだ相手に自分の子供を人質として預けるみたいなことですか?」

「エルザの三大マフィアとやらは、意外と仲良しだったみたいだな。犯罪都市の異名は伊達じゃないってことか」

 鼻で笑いながら、木原はタブレットのスイッチをオフにした。

「というわけで、佐利羽組と奏月のことを教えてくれないか?私はここに来たばかりであまり知らないんだ」

「人に教えを乞うのに、なんて偉そう……」

「殊勝な態度で私が頭下げたら、それはそれで怖いだろ」

「確かに……何か裏がありそう……」

「だから、ごちゃごちゃ言ってないで、マフィアのことをご教授願いますか?刑事殿」

「なんかあまり乗り気になりませんが、この街で暮らすのに知らないのは危険ですからね」

 そう言うと、背後に隠したノートパソコンを再びテーブルの上に置き、カチャカチャと操作し始めた。

「まずアルティーリョファミリー、佐利羽組、奏月が三大マフィアと呼ばれる所以ですが」

「単純にこの街の裏社会のスリートップってわけじゃないのか?」

「今はその通りなんですけど、そもそもこの三つが台頭したのが同時期、多少のズレはありますがおよそ十年前なんですよ」

「……だとしたら、その時から裏ではを手を組んでいたのかもな」

「木原さんの推測が正しいとしたら、そうなんでしょうね。きっとお互いの邪魔はしないっていう盟約があったから、今の体制ができあがったんでしょう」

 言葉を言い終わると同時にパチン!と勢いよくキーボードを叩くと、画面に一人の嘘臭い笑顔を顔に張り付けた髭面の男の写真が出てきた。

「この男が佐利羽組の組長、『佐利羽秀樹』です。これは若い時の写真ですから、今はもうちょっと老けていますし、太っています」

「私が言うのもなんだが、胡散臭い奴だな」

「佐利羽組は三大マフィアの中でも構成員の絆が強いと言われています。その代わり裏切り者には容赦しないと……」

「飴と鞭がしっかりしている男の飴を上げる時の顔ってわけか……他には?」

「確か趣味でバイクをコレクションしている……くらいしか、ぼくにはわかりません」

「じゃあ、次」

「せっかちだな、もう」

 口を尖らせながらフレデリックは再びキーボードを叩き、新しく眼光鋭いスキンヘッドの男の写真を映し出した。

「こちらが奏月のトップ、『武斉(ぶさい)』です。これは結構最近の写真っぽいですね」

「パッと見はいい人に思えなくもない佐利羽組長と違って、堅気には全く見えないな」

「奏月はゴリゴリの武闘派集団として有名です。人数こそ他の二つより少ないけど、正面から戦ったらここが勝つなんて言われてます。幸いにも、今のところそんなことにはなってませんけど」

「量より質の少数精鋭か」

「それのトップですから、武斉もめちゃくちゃ強いって噂です。彼がキレたらまず手がつけられない。だからヴァレリアーノも佐利羽秀樹もかなり気を使っているとかなんとか」

「その噂は嘘八百であって欲しいが、警察も迂闊に手を出せないところを見ると、それなりに信憑性がありそうだ」

「以上が、新人警官が知っているエルザ三大マフィアの残り二つの情報の全てです。お役に立ちました?」

「かなりな」

 木原は労うようにフレデリックの肩を優しく叩くと立ち上がり、玄関に歩き出した。

「……まさか、今から殴り込みに行く!……とか言いませんよね?」

「私がそんな野蛮な人間に見えるか?」

「見えるか見えないかで言ったら……見えますね」

 ウンウンと噛みしめるように頷くフレデリックを見て、靴を履いた木原は再び苦笑いを浮かべた。

「いつの間にかひどいイメージをもたれているようで」

「今までのあなたの行動を考えたら当然かと。で、結局何をしに行くんですか?」

「頭を使ったからリフレッシュに外の空気を吸いに行くだけだ。糖分も不足してるし、帰りにアイスでも買って来てやるよ」

「それならいいですけど……」

「あと確か明後日は君、仕事休みだったよな?」

「いえ、休みは明々後日です」

「三日後か……あまり急ぎ過ぎても仕方ないし、ちょうどいいか……」

 一人納得しながらドアノブに手をかけた木原。

 対してフレデリックは激しい悪寒に襲われていた。

「……休日のぼくに何かさせようとしています?」

「準備が整ったらな。なに簡単な頼み事だよ」

「断ることは?」

「……私は君の命の恩人だぞ?しかも二回も助けた」

「ですよね~。こりゃ三回目の命の危機ももうすぐかな~」

 フレデリックのこの自虐的な予言は悲しいかなばっちり当たることになる。

「心配することはない。最近の私も運がいいが、君もかなりのものだ」

 そう言い残すと、木原史生はフレデリック宅から出て行った。



 ちょうどその頃、佐利羽組長佐利羽秀樹は真っ暗な自室で空中に“Soundonly”と投影されたディスプレイと睨み合っていた。

「つまりアルティーリョの件にあなたは関係無いと」

「あぁ。ワタシは何も知らない」

 ディスプレイから流れる音声は加工されていて、男か女か子供かはたまた老人が喋っているのか判別できない。

「ワタシがこれまで尽くしてくれたキミ達を裏切るわけないだろう?」

(白々しい……!!)

 佐利羽秀樹は内心では声の主を疑っていたが、決して表情には出さず、胡散臭い笑顔を作り続けた。

「……その言葉を信じましょう。アーリマンとやらの情報を掴んだらお知らせします」

「こちらも調べている。何かわかったら、連絡する」

「では……」

「お互いの道に幸あらんことを」

 ディスプレイが消えると、入れ替わるように照明のスイッチが入り、コレクションのバイクが飾ってある部屋が明るく照らされた。

「しらばっくれているのか、それとも本当に知らないのか……武斉の奴が動いた可能性もあるしの……」

 眉間に深いシワを寄せた佐利羽は椅子をくるりと反転させると立ち上がった。そして、本棚の方へと歩き出す。

 そしておもむろに本を一冊手に取ると、本棚が移動し、重厚な箱が出現した。

「パスワードは……と」

 その箱についているボタンを操作し、鍵を開ける。

 すると中にはヴァレリアーノが持っていたものと同じペンダントが入っていた。

「よし、あるな。ここなら安全だろうて」

 ウンウンと満足そうに頷くと、顎髭を撫でながら、考え込んだ。

「何にせよアーリマンとかいう不届き者を捕まえるのが先決か。アルティーリョの間抜けどもと違って、ワシの優秀な部下達ならあっという間に見つけ出し、口を割らせることができるだろう。奴や武斉をどう潰すのかはその後考えればいい……!」

 彼は自分が狩人で、アーリマンが獲物だと……勘違いしていた。

 この時、すでにアーリマンこと木原史生が自分を狩るための策を思い浮かべていることも知らずに、都合のいい夢想の世界につかの間の間酔いしれる……。


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