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No Name's Fake  作者: 大道福丸
悪の華編
106/194

悪の再起戦

 毒々しい紫、どこか生物感を思わせる丸みを帯びた造形、それでいて所々世界を拒絶するように攻撃的に尖った刺が生えており、二つの眼は破壊衝動を凝縮したかのように血の色に、真っ赤に染まっていた。

 その得体のしれない禍々しいピースプレイヤーの出現にこの場にいる人間は言葉を失った。

「……リアクションが悪いな。何か感想とかないのか?フレデリック刑事」

「ぼ、ぼくですか?」

 フレデリックがきょとんとした顔を自ら指差すと、「そうに決まってるだろ」と紫の悪魔は頷いた。

「えーと……カッコいい、お似合いです」

「……何のひねりもないお世辞だな」

「お気に召しませんでしたか……?」

「いや……褒められて悪い気はしないよ」

 ほっと胸を撫で下ろすフレデリックを尻目に、アンラ・マンユはゆっくりとガルーベルに向かって歩み始めた。

「な、なんだ!!やる気かよ!!」

 敵に見とれていたロニーガルーベルは慌てて構えを取る。しかし、アンラ・マンユは気にすることもなく、足を止めることもない。

「必死に虚勢を張っているのか、ただ力量差がわからないバカなのか……まぁ、どちらにしてもブランクを埋めるための相手としてはちょうどいいか」

 アンラ・マンユはガルーベルの拳が届くか届かないかといったところに立ち止まると、左手の人差し指を上に向け、ちょいちょいと動かした。どこからどうみても紛うことなき挑発である。

「ハンデとして左手一本で相手をしてやる……かかって来い、ポリスマン」

「く……くそが!!」

 最大級の侮辱を受けて、遂にロニーの感情は噴火した!怒りが恐怖を塗り潰し、目の前の紫色に飛びかかる!

「俺に舐めた口を利いたことを後悔させてやる!いきりナルシスト野郎!!」

 ロニーガルーベルは後先考えず全力でコンビネーションを仕掛けた!


パン!パン!!


「……な?」

 けれども、それはあっさりと悪魔の左手にはたき落とされた。

「ナルシストは否定しないが、いきっているのは貴様の方だろ。この程度の実力で、どうしてそんなに強気でいられる?バカなのか?バカなんだな」

「こ……この野郎!!」

 ワンツーパンチでダメならと、今度はラッシュを繰り出す!しかしこれも……。


パンパンパンパンパンパンパン!!


 アンラ・マンユには通じず。宣言通り、全て左手一本で捌かれてしまった。

「こんなことが……!」

「別に不思議なことはない。そもそもパンチの打ち方が下手くそなんだよ、貴様は。よく見ておけ、パンチは……」


ゴォン!!


「――がっ!?」

「こう打つんだよ」

 開いていた左手が拳を握ったと思ったら、一瞬で視界一面を覆い、気づいたら吹っ飛んでいた。最小限の動きで最大限の威力を生むまさしく理想的なパンチであった。

「一つ勉強になったな、ポリスマン」

「お前から……」

「ん?」

「お前から学ぶことなんてないんだよ!!」

 怒り狂っているように見えて、ロニーは冷静だった。格闘戦では勝機がないと悟り、拳銃を召喚したのだ。

「喰らえ!!」


バン!バン!バァン!!


「おっと」

 発射された弾丸は憎きアンラ・マンユとその中身の木原史生を貫くことはなかった。紫の悪魔はまるでダンスステップを踏むように、優雅に回避したのだ。

「くそ!だが!この距離なら!!」


バン!バン!バァン!!


「ひえっ!?」

「旦那!危ないっすよ!!周りを見て!」

「そうお仲間は言っているが」

「知るかボケ!!」


バン!バン!バァン!!


 追撃の弾丸もアンラ・マンユを捉えることなく、流れ弾を恐れるフレデリックとひったくり犯をびびらせただけだった。だが、近づかれることは避けたいロニーにはとにかくがむしゃらに引き金を引くことしか選択肢はなかった。

「ふむ……こういう時はこちらも遠距離武器で反撃といきたいところだが……」

 装着者の意を汲んで紫のマスクの裏のディスプレイに武器の一覧が表示されるが、全て“現在使用不可能”と書かれていた。

(使用不可能ということは武装自体はあるってことだが……なぜ今は使えないんだ?完全適合したら解禁……だと、かなり面倒くさいな。先の計画では色々と我慢して準備したが、基本的には私の性分はせっかちなんだよな)

 思わず眉間にシワが寄る。幸先がいいと思った矢先のこれだから、失望も大きかった。

「……この状況でごちゃごちゃ考えても仕方ないか。今は基本スペックを確認することを優先しよう。武器に関しては後で調べればいい」

 なんとか気持ちを切り替えると、回避運動を続けながら、キョロキョロと周囲を確認した。

「多分、装着した感じだと、この程度の銃撃なら致命傷にならない程度の防御力は持っているだろうから、このまま強引に突っ込んでもいいんだが……もっといいことを思いついた!」

「……え?」

 アンラ・マンユは一気に加速し、手の届く場所まで接近した……ひったくり犯に。

「秘技ひったくり犯シールド」


バスッ!バスッ!バスッ!!


「――ぐはっ!?」

「な」

「にぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 アンラ・マンユはあろうことかひったくり犯を盾にして銃撃を防いだ!正確には弾丸は肉の塊など貫いたのだが、わずかに軌道が逸らされ、悪魔の肌には触れることはなかった。

 その鬼畜の諸行にフレデリックはもとよりロニーも戦慄する。しかもさらに……。

「続いて……ひったくり犯ミサイル!」


ブゥン!!


 それをおもいっきりガルーベルに投げつけた!赤い線を空中に引きながら、ただの肉塊に成り下がったひったくり犯は猛スピードで宙を飛んだ!

「くそ!!」


ガァン!!


 だが、ただの死体を投げられたところでピースプレイヤーには何ら問題はない。いとも簡単に腕で払いのける。ちょっと不快なだけ……そのはずだった。

「こんなことで敵から目を離しちゃいけないよ」

「しまった!!?」

 死体が目眩ましになっている間にアンラ・マンユはガルーベルの懐に潜り込んでいた。そして……。

「これがお前がバカを晒した代償だ」


ザシュ!!


「ぐっ……ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 左手をピンと伸ばし、手刀を作ると、それで銃ごとガルーベルの手を切り落とした!

「高い勉強代になったな」

「ひ、ひぃ……!?」

 最早自分の一部ではなくなり、転がる手と、滴り落ちる血液と共に、ロニーの闘志も失われていった。こちらを悠々と見下ろす紫色の悪魔には決して勝てないと、心で理解してしまったのだ。

「ようやく自分の愚かさに気づいたようだな」

「ゆ、許してください……!!」

「ならば逃げればいい。わざわざ君とおいかけっこするほど私は物好きじゃない」

「ひっ!!」

 ロニーガルーベルは言われた通り、振り返り、そのまま全速力で逃走しようとした。しかし……。


ガシッ!!


「――な!?」

「但しここからは逃げられないと思うがな」

 アンラ・マンユは振り返ろうとしたガルーベルの首を左手でがっちり掴むと、右拳をこれ見よがしに振り上げた。

「み、右手は使わないって……!?」

「腐っても警察官ともあろう者が、こんな怪しい不審人物の言うことを鵜呑みにしていたのか?」

「な!?こ、この……悪党がぁぁぁぁっ!!」

「事実を言われたところで、ショックなんて受けない……よ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 アンラ・マンユはひたすら右のナックルをガルーベルの顔に撃ちつけた!ハンマーのように何度も何度も!紺色の破片をばらまきながら!


ガンガン!グシャ!ドシャ!ベチョ!!


 暫くすると音が変わった。飛び散るものも紺色ではなく赤や桃色のものに……。


グシャ!ドシャ!ベチョ!!


「木原さん……」


グシャ!ドシャ!ベチョ!!


「木原さん!!」


グシャ!ドシャ!ベチョ!!


「木原史生!!」


ピタッ!!


 フルネームを呼ばれて、ようやくアンラ・マンユの動きは止まった。

「その人は……ロニー先輩はもうとっくに……死んでいます……!!」

「……久しぶりの戦いで高揚し過ぎたか。この名前で呼ばれることにも早く慣れないとな」

 そう自分に呆れながら言い放つと、手に持っていた顔の判別ができないほどぐちゃぐちゃになったロニー・マクルーアだったものをポイ捨てするように雑に投げた。

「相手としてはかなり物足りないし、反省点は色々あるが、再起戦は勝つことが最重要だ。アンラ・マンユのデビュー戦としても最良の結果……やはり最近の私は幸運の女神に愛されてるな」

 血で汚れたアンラ・マンユを待機状態の指輪に戻すと、清々しい満面の笑みを浮かべた木原史生が出て来た。

 その笑顔を見て、自分の知らない不愉快極まりない生物を見て、フレデリック・カーンズは嘔吐した。


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