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No Name's Fake  作者: 大道福丸
少年の贖罪編
100/194

魔姫星乱①

「舞え!パリカスター!!」

 降りしきる雪の中、漆黒の魔女の鋭利で強固、だが人間の拳大の小さな分身が縦横無尽に駆け巡った!

「くそ!邪魔くさい!?」

 それに翻弄されるのは白の女王、シュヴァンツの隊長機、シェヘラザード。一つでも多くのパリカスターと、それを操る本体、パリカーを視界の中に収めながら、雪を巻き上げ、猛スピードで後退する。

「一対一なのに数の不利を感じるなんて理不尽極まりないわね……」

「まずはあの小型メカを排除するのが、先決ですね」

「ええ……そのためにも!マロン!!」

「千夜、ドライブします」

 白いマスクの中に電子音声が流れると、手の中に銃が召喚される。そして直ぐ様、シェヘラザードはそれを飛び回るパリカスターに向けた。そして……。

「落ちろ!羽虫ども!!」


バン!バン!バァン!!


 立て続けに小気味よくトリガーを引く!発射された弾丸はそれぞれ別のパリカスターに向かう……が。


ヒュン!ヒュン!ヒュン!!


 あっさりと全て回避されてしまう。弾丸は全て夜の虚空の彼方に消えて行った。

「その程度でワタクシのかわいい子供たちを落とせるなんて……片腹痛いわ!」

 まるでおちょくるようにパリカースターが一斉に空中に弧を描いた。あからさまな挑発だ。

「この……!くそアマが……!!」

「マスター……」

 それにまんまと引っかかる神代藤美。仮面の下で眉と口を“へ”の字にして、ギリギリと歯ぎしりする。

「点で駄目なら面よ!!マロン!バーストモード!!」

「ですが……」

「いいから!バーストモード!!」

「……はい。了解しました」

 主人に言われ、渋々シェヘラザード搭載AIは千夜のモードを切り替えた。

「バーストモード……いけます」

「よし!では早速……発射!!」


バババババババババババババババッ!!


 先ほどと打って変わって引き金を一度引いただけで無数の弾丸が発射された!これには素早いパリカスターも回避することができない……する必要もないけど。


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 弾丸をいくら叩きつけようとも、漆黒の甲殻を貫くことができなかった。無事であることを、お前の攻撃は徒労に終わったことをアピールするように、また小虫はくるりと宙返りをする。

「こ、この……!!」

「マ、マスター、落ち着いて!」

「ワタシはクールよ……!めちゃくちゃ冷静……!!」

 フジミは完全にキレていた。シェヘラザード越しにも怒っていることがわかるほど、不機嫌オーラを全身から醸し出す。

「わかったでしょ?あなたじゃこのパリカーには勝てない。だから大人しくシェヘラザードを置いて、許しを乞いなさい」

「ええ……わかったわ……小虫じゃなくて本体を叩くべきだってね!!」


バン!バン!バァン!!


 闇夜に三度マズルフラッシュが明滅する!怒りに身を任せて、シェヘラザードはパリカーに銃を乱射した!

「感情的な女……みっともないったらありゃしない!!」

 パリカーは指揮者のように優雅に腕を振り、弾丸を防ぐために小さな分身を動かした。

「ワタシは冷静だって言ったでしょ、院長先生」


グン!グン!グンッ!!


「何!?」

 防御に入った小虫を銃弾は軌道を変え、避けて通った!

「ホーミング!!?」

「イエス。ホーミングモード」

「通常モードやバーストモードで分身さんを排除できないのは、ドレイク達の戦いを見ていて、理解できました」

「だから、本体であるあなたを叩く。怒りに我を忘れたように演技をして、パリカスターとやらのデータを集めつつあなたの油断を誘った……全てはこの瞬間のために」

「くっ!?」

「みっともないのは、あなただったようね、ダナ・モラティーノス」

 銃弾は蛇行しながら、漆黒の魔女に迫る!このまま行けば……。

「パリカーを!そしてパリカスターを舐めるな!!」

 主人の激昂に応えるように、今まで以上のスピードでパリカスターは彼女の前に集合!そして重なり合うと、ドロドロと溶け合い、一つの大きな盾の形に変化した!

「パリカスター!星壁の相!!」


キン!キン!キィン!!


 空中に浮かぶ巨大な盾は弾丸を全て弾き飛ばした!窮地を脱した黒の仮面の下のダナの口角が思わず緩む。

「その程度の浅知恵でワタクシを倒せるなんて勘違いも甚だしい……」


バァン!ガァン!!


「……え?」

 突然聞こえた発砲音と、金属同士がぶつかり合うような甲高い金属音。未だに混乱から抜け切れていないパリカーは反射的に音のした方を向く。するとそこには……。

「なぁにぃぃぃッ!?」

 シェヘラザードが持っていた鉈が高速回転しながら、凄まじいスピードでこちらに向かってきていた!

「舐めてなんていない。ホーミングだけでどうにかなるなんて更々思ってない。ワタシの本命は一夜の方、ザカライアを倒した時の策、使わせてもらったわ」

「神代藤美!!」


ガリィン!!


「――がっ!!?」

 弾丸によって軌道を変えられた鉈は見事にパリカーに命中!のけ反って回避しようとした彼女の胸部と顔に大きな傷を刻みつけ、そこから鮮血を吹き出した!

 そのまま本体が倒れ込むと、分身であるパリカスターも呼応するように元の形に分離し、浮力を失って墜落する。

「ワ、ワタクシがこんなあっさり……」

 黒の仮面の半分が削り取られ、不気味な姿に成り果てたパリカーが自分に落ちて来る雪を眺めながら、ボソリと呟いた。その言葉に力はなく、現実をまだ受け入れられてないようだ。

「ずいぶんと自信があったみたいだけど、所詮は小さな子供達相手に威張り散らしていただけ……命懸けの戦場で洗練されたワタシとシェヘラザードの敵じゃないわ……望んでこうなったわけじゃないけど」

 自嘲しながらシェヘラザードは雪に突き刺さった鉈を拾い上げ、けだるそうに肩に担いだ。

「決着よ、ダナ・モラティーノス。諦めてお縄につきなさい」

「くうぅ……!!」

 物理的にも、精神的にも上から目線で話しかけられ、ダナは今までにない屈辱を感じた。

「ワタクシが、このダナ・モラティーノスがこんな脳ミソまで筋肉が詰まっているような野蛮で下品なくそ女に……!!」

「あ?」

「特級ピースプレイヤーであるパリカーが、口だけ達者なC級AIを積んだポンコツのゴミくずなんかに……!!」

「……負け惜しみと受け流すには、毒性が強すぎますね……」

「ええ……今度はマジでムカついたわ……!!」

 ダナの言葉にフジミとマロンは仲良く腹を立てた。

 だが、それ以上に怒り狂っているのは、憤怒の炎に身を焦がしているのはダナの方だ。

「ワタクシが……ワタクシがこれまで積み上げてきたものがこんなところで……こんな奴なんかに!!」

「「――ッ!!?」」

 パリカーの身体から今までにないプレッシャーが!どす黒い威圧感が溢れ出す!それに当てられ、パリカスターも再起動……するだけにとどまらず、その姿をより鋭く凶悪に変化させる。

「こ、これは一体……!!?」

 ゆっくりと立ち上がろうとするパリカーに気圧され、シェヘラザードはただたじろいだ。

「わたくしのデータにもない現象……ですが、推測できます。パリカーが特級だというなら……」

「ワタシ達にしてやられたことへの激しい怒りを力に変えている……」

「そういうことでしょうね……」

 理屈ではわかっていても、目の前の光景が信じられなかった。彼女達の目には手負いの魔女が圧力で巨大化しているように見えていた。

 一方、狼狽えるフジミとは対照的にダナ・モラティーノスは……。

「フフ……まさか……まさかこんな展開が待っているなんてね!!」

 大層ご満悦の様子だ。

「このハイテンション……!このハイエナジー……!今までワタクシが思っていたのは完全適合ではなかったのね……これがこれこそが完全適合!パリカーのマキシマム!!」


ブオォォォォン!!


「ぐっ!?」

 高揚するパリカーを中心に、一斉にパリカスターが衛星のように旋回すると強風が巻き起こった!

 精神だけでなく、現実にもシェヘラザードは後退りさせられてしまう。

「……さっきは取り乱して汚い言葉で罵ってしまったけど、全部撤回するわ」

「……それはどうも。で、だから仲良くしましょうって話じゃないんでしょ……?」

「あなたには、ワタクシとパリカーを至高の領域に連れて来てくれたあなたには感謝の気持ちしかない……だから!この目覚めた力の名誉ある最初の犠牲者にしてあげるわ!!」

 ダナの思いに鋭敏に反応し、パリカスターはシェヘラザードへと射出された!

「くっ!?また避けなきゃ駄目なの!!」

「いいえ!もうあなたのスピードじゃ躱し切れない!!」


ガリッ!ガリッ!!


「くっ!?」

 シェヘラザードの白い装甲が雪のように舞い散った!パリカーの宣言通り、魔女が操る衛星は白の姫を捉えたのだ!

「こうなったら……マロン!!」

「システム・ヤザタ、ドライブ」

 シェヘラザードの装甲が展開!これこそが彼女の真の姿!シュヴァンツに君臨する女王の最強戦闘形態だ!


シュン……シュン……


「ぐうぅ……!!」

 高性能AIがマシンを動かし、人間を超えた挙動を実現する!パリカスターは触れることもできずにシェヘラザードの横を通り過ぎる。

「この速度にも対応するか……だが!!」

 ダナの思考が身に纏うパリカーに伝達し、それが遠く離れたパリカスターに伝わる!すると衛星の動きが……。


シュン……


「よし……!フルドライブのシェヘラザードなら……」


ガリィン!!


「――な!?」

 シェヘラザードが回避した先にパリカスターが回り込んでいた!結果、むしろ突っ込むようにして、白の姫の装甲はまた黒の羽虫に削られる。

「ワタシの動きを……先読みした!?」

「AIによる最適な回避運動……逆に言えば、最適にしか動けない。ゆえに予測も簡単、うまく誘導してやればこの通り」

「わたくしの思考が……狙われた!?」

 AIは今まで感じたことのないデータ、虚無感と罪悪感を自らのうちから受信した。絶望に打ちひしがれるとは、こういうことなのだと……。

 けれども悲しいかな自分を責める時間さえ漆黒の魔女は与えてくれない。

「そもそも……感知できなければ、反応もくそもないでしょ!!」


バッ!!


「「!!?」」

 急に足元の雪が弾け飛んだかと思ったら、黒い衛星が地面から冠を被ったようなシェヘラザードの頭部に凄まじい勢いで飛び出して来た!

「地面に潜り込ませて!?」


ガギイィィィィィン!!


「――ぐ、ぐうぅ!?」

 かろうじて、本当にかろうじてギリギリの紙一重でシェヘラザードはパリカスターの奇襲で致命的なダメージを受けることは免れた。しかし、シュアリーで最も美しいとされるその顔は傷物にされてしまう。

「よくもシェヘラザードのビューティフルフェイスを……!?」

「これぐらいで怒ってちゃ身がもたないわよ……もっとひどいことになるんだから!!」

「くっ!?マロン!千夜バーストモード!!」

「……了解」


バババババババババババババババッ!!


 シェヘラザードは散弾をばらまきながら逃げ惑った。システム・ヤザタが破られた今、彼女にはそうすることしかできなかった。

「……すいません、マスター……わたくしが至らぬばかりに」

「一度の失敗くらいでくよくよしない!あなたにはこれまで何度も助けられているんだから、責めやしないわよ」

「マスター……」

「で、今回も助けてもらえることを期待しているんだけど……何かいい手はない?」

「……地道にパリカスターとやらを千夜のフルチャージシュートで一つずつ落としていく……というのは、どうでしょう?」

「悪くない案ね……でも……」

 フジミは目の前を今もぐんぐんと加速しているパリカスターの姿を見て、その策は通じないと悟った。

「却下よ。覚醒前ならともかく今のこいつらに当てるのは中々骨が折れるし、命中しても効果があるかどうか……それに院長先生はこっちの情報を持っているみたいだから、きっとエネルギーを溜める素振りを見せたら……」

「全力で妨害してくる……申し訳ありません、考えが浅かったです」

「だから、そういうのはいいって。それよりも……」

「千夜で雪を溶かし、水蒸気を発生させて、目眩まししてみるというのは?」

「うーん……」

 フジミは今度は衛星ではなく本体、パリカーを見つめた。こちらも先ほどよりも迫力を増しているように見え、堂々とした立ち姿をしている。

「さっきまでは指揮者みたいに腕を振って、小虫たちを操っていたけど、今は微動だにしていない。多分、繋がりが強化されて思念だけで十分な動きができるようになったのでしょうね。もし視覚や聴覚、五感まで共有しているレベルまで達していたら、むしろワタシ達にとっての目眩ましになってしまう」

「なるほど……これも却下ですか……では、わたくしが提案できる案は残り一つ……最も原始的でリスキーなものしかありませんね」

「……やっぱそれしかないか……」

 マロンの最後の作戦は、フジミにとっても最終作戦、できることなら避けて通りたい案であった。しかし、背に腹は変えられないと、脚部にエネルギーを集中し、ガードを固めた。

「本体が一歩も動かないのは、その必要がないから……ってだけじゃない」

「まだ先ほど一夜のダメージから回復しきれてないと思われます」

「なら、時間を与えるのは悪手!リスクはあっても……一気に攻めるのみ!!」

 エネルギーを解放!地面を持てる力の全てを使い押し出し、シェヘラザードは弾丸のようにパリカーに向かって猛進した!

「あら?破れかぶれの特攻?そんなに死にたいなら……死なせてあげるわ!!」

 パリカーはやはりそこから一歩も動くことなく、分身たちに命令を下す!パリカスターはシェヘラザード以上の速度で彼女に突撃した!

「死ぬ気なんて……毛頭ないわよ!!」


バァン!!ガッ!!ガリッ!!


「ぐっ!?だけど、これくらい!タフでこその神代藤美よ!!」

 シェヘラザードは向かってくるパリカスターを時に千夜で撃ち、時に一夜で払いのけ、そして時にその身を抉られながらも前進を止めなかった。そして……。

「……もらっ……たぁぁぁぁッ!!」

 ついに射程内にパリカーを捉えた!勢いそのままに一夜を突き出しながら、さらに加速……。

「残念。少し判断が遅かったわね」

「「!!?」」

 目の前にあったはずのパリカーの姿が一瞬で消え去った!ダメージから回復した魔女はフジミ達の覚悟を嘲笑うかのように跳躍したのだ。

 しかも回避するだけには飽き足らず、彼女は最悪の置き土産を残していた。

「――ッ!?置きスター!?」

「イエス。置きパリカスター」

 漆黒の魔女の背後には漆黒の分身が控えていた!形振り構わず全力で突撃していたシェヘラザードはその分身に最大速度で突っ込んでいく!

「自らギロチンにかけられて逝きなさい!女王陛下!!」


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